第四十三話 剣と灯火②
「岡さん、今日も徹夜ですか!」
ミサコは、また編集室のドアをノックもせずに開けた。
「そうだよ」
仮眠をしたあとだったのか、岡倉は椅子の上で首を回していた。
作業台の上には食べ終えたカップ焼きそば、おにぎりの袋、チョコレートの小箱、そして数本のコーヒー。
アゴの周りの不精ヒゲが徐々に目立ち始めてきていた。
「こんなに早いっていうことは、また今日も彗星を確かめたのか?」
「もちろんです! バッチリ映っていました!」
「そりゃあ、よかったな」
まだ眠い様子の岡倉があくび混じりに適当に答える間にも、ミサコは編集機の前までやってきた。
「もう一つのナントカ作戦のほうは?」
「まだ成果なしです!」
「そりゃあ、残念だな」
「でも、ちょっと胸にジーンとくることが………」
「どうした? 何かあったのか?」
「岡さん、連続おさらば事件って知っていますか?」
「………」
それを聞くや、口でユラユラさせていた岡倉の電子タバコがピタっととまった。
「確か、岡さんの亡くなった奥さんも新聞記者だったんですよね? ひょっとしたら、何かの折にそんな話が出たこともあるんじゃないですか? だから、予言のことにいろいろと興味を持っているのかなって」
ミサコはそう言うと、編集機の隣に隠すように押し込まれている小さな書棚を見た。
そこには、予言や予言書に関連する書籍が二十冊ほどあった。
さらには、書棚の上にはフォトケースが置かれており、写真には若かりし頃の岡倉と亡き妻の和枝が睦まじそうに肩を寄せ合って写っていた。
「いや、聞いたことがないな………」
岡倉は、ひとまず素知らぬ風に返事をしてみせた。
「で、それがどうかしたのか?」
「実は予言者というキーワードで調べようと思っていたんですけど、間違って予言書と入力してしまったんです。そうしたら、たまたま一件だけ情報が出てきたんです。すぐに削除されてしまいましたけど………」
ミサコが読んだ内容を伝えると、岡倉は電子タバコを動かすことなくじっと聞いていた。
そして、最後にミサコは感想を述べた。
「病気で亡くなってしまった岡さんの奥さんがもしまだ生きていて元気だったら、きっと勇気あるその女性新聞記者と同じことをしたんじゃないかって思ったんです。だって岡さんは、準京都の人たちのために新江戸政府と戦っている私の仲間も同然だからです。正義という剣で道を拓き、真実という灯火で明日を照らす。その言葉は、まさに私の道しるべそのものです!」
「………」
感動気味に話を締めくくったミサコとは対照的に、岡倉は表情を硬くし、やや目を細めていた。
岡さん、ひょっとして、眠ってしまったのかしら………?
それを見たミサコは、岡倉が半眼のまま寝ているのかと思ったが、そうではないようだった。
その様子は、眠気とは違う印象だった。
ともすれば、自分の内面を見つめている風にも感じられた。
と、そんな岡倉が、おもむろにつぶやくように吐露した。
「正義も真実も、命あっての物種だ。そして、実際に道を拓き、明日を照らしてくれるのは臆病者根性だ。それが、穴熊さながらに生きる俺が学んだ処世術だ………」
「えっ………?」
ミサコは正確に聞き取れなかったので問い返した。
すると岡倉は、今度は違うことを言った。
「お前も物好きだなって言ったんだ。俺のところに来ても、何の得もないんだからな」
「そんなことないです! 今も言いましたけど、岡さんは私の仲間なんです! 共に予言者アゲハを信じる同志です! だから、ここに来ると私は元気になれるんです!」
「………」
ミサコの返事に対して岡倉は何か答えかけたが、その言葉を飲み込むとまた別のことを口にした。
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