第十二話 記憶の中の少女③
年季の入った木造アパートの二階にあるノボルの部屋はごく普通の六畳一間で、玄関とキッチンの間がうなぎの寝床のように狭かった。
その隅にくすんだ汚れのこびりついた洗濯機と中古の冷蔵庫。
室内にあるのは使い古したベッド、テーブル、テレビぐらいで、あとは床に積まれて置いてある蝶に関する数冊の本。
壁のクロスは至るところが剥げかけており、フローリングの変色も目立つ。
質素で貧相ではあったが、ノボルにはそれで十分だった。
生活がままならずにホームレスになる友人も多数いたからだ。
それが社会の現実だった。
だから、屋根があって、雨風がしのげて、横になれる場所があるだけでも御の字だった。
ふーっ。
部屋に入ったノボルは、まず一息ついたあと、抱えていた二つのケースを床に置いて壁に寄せた。
次に、エコバックを下ろし、お弁当をテーブルの上に乗せる。
最後に背負っていたリュックを肩からずり落ろすと、とりあえず座り、もう一度大きく深呼吸をする。
それから、テレビの横に立てられている三つのフォトカードケースを見た。
その一つには写真が入っていて、端のほうには若干シワが寄り、全体的に色褪せている。
写っているのは幼い頃のノボルと、同年代の女の子。
二人とも無邪気そうな笑顔をしていた。
また、もう二つには、それぞれに無地のポストカードに描かれた絵が入っていた。
まず、一つ目には、蝶。
白黄色の羽を広げて薄っすらと光っている姿。
しかも、絵の下のほうに、名前と特徴が書かれている。
【光の精】
役目:人を目覚めさせて約束の場所へと導くこと。
さらに、もう一つには、人。
まばゆい光に包まれているのでシルエットしか分からないが、大きな黄金色の翼がある。
【光の人】
役目:不明
そして、その二つの絵を眺めながら、ノボルはゆっくりと記憶の中の一場面を思い出していた………。
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