3話 英雄を探せ!
(マジでどこにいるのよあの英雄はっ!!)
転生してこの方、私は必死に百五十年前の英雄を探し続けていた。正確に言うと、探しているのは英雄の生まれ変わりだ。
私ことレクシア・ガルディエールは運よくガルディスタ王国の公爵令嬢なんかに生まれ変わっちゃったもんだから、あらゆる手段を使って胸元に痣のある少年を探し続けた。
(生まれた時代は誤差三年以内のはず……)
私は彼を追いかけて転生したのだ。それはもうがむしゃらにあらゆる魔術を使って。それだけでは足りず、師や仲間の力を借りて、なんとか記憶と魔術師としての能力を引き継いだまま今世を生きている。
「レクシア様……その、どのような痣を探せば?」
公爵令嬢の謎の”お願い”を実行する家臣達は戸惑いを隠せないようだった。
『国中から身体に妙な痣がある人を探してきて!!』
というお願いに。
「なんかこう……トゲトゲした……棘模様のはずなんだけど……」
この私の奇行はいつの間にか、全ての王国民が受けるべき福祉事業――健康診断として取り扱われるようになり、結果的にガルディスタ王国民に感謝され意図せず国民人気を得ることはできたのだが、
(いや本当にどこ!? どこにいるわけ!!?)
探せども探せども、英雄は出てこない。
【百五十年の時を経て 英雄は再び生まれ変わる ここ ガルディスタ王国内で】
呪いの因果からは逃れられない。当時の大神官と私の師である賢者グラディアが彼の魂の行方を導き出していた。その答えが間違ってたというのか……いいや、疑っていては始まらない。なんとしてでも見つけ出さなきゃ。
彼が誰かに恋する前に。
彼に掛けられた呪いの詳細はこうだ。
【愛する人と出会った瞬間 呪いは再び力を持つだろう 彼が人を救うたびに 死が彼の元へと訪れる】
なぜ人助け!? と私が焦ったかというと、彼は息をするように善行を積んでいたからだ。彼にとってはもしかしたら善行ではないのかもしれないが、多くの人が彼に助けられたと感じていた。つまり、非常にマズイ。
(魂の性質は引き継いでいる……因果によって……)
ということなので、これは不可避だと判断した。彼はきっと今世でも変わらないだろうと。
(愛する人ってのは、やっぱり愛する魔王を英雄が倒したからかなぁ)
王女側からすると、愛する人と永遠に報われない不幸を味わえッ! と言ったところか。しかしそうは言われても、魔王を倒さなければ人類が亡びていたわけで。
この愛だの恋だのに関しては、なんとも言い難いところだった。
(生まれ変わったくらいであの英雄に恋心なんて湧くのかな……?)
魔王討伐にあたり、道中、色仕掛けで私達を惑わそうとした人型魔獣もいたのだ。まんまと惑わされる仲間がいた一方、彼はほんの少しも引っかかる気配がなかった。魅惑的な言葉と肉体を前に、なんの感情も表すこともなく、むしろ味方である私達がその反応を心配したくらいだ。
(堅物という次元じゃないわよね~あれは)
一方彼は私達の反応が不満なようで、
『恋くらいしたことはある!』
と言っていたのも事実。いまだにこの発言に真偽は疑ってはいるのだが、もし本当ならやはり急がねばならない。私ももうすぐ二十歳。英雄の生まれ変わり探しをしていたらあっという間にこの歳だ。私との転生期間の誤差は三年以内ということは、英雄の生まれ変わりは十七歳から二十三歳。一度くらい恋をしたことがあるかもしれない。
(あ~もう二十年か……)
そろそろ私の周囲も煩い。結婚なんてしたら英雄探しの足枷になる。だが、王家に連なる(もはやほとんど血縁関係はないのだが)公爵家のご令嬢が結婚もしないなんて! と言われてしまう世の中だ。いつまで逃げ切れるか……。
そんな中、隣国デュカリア王国と若者向けの交流パーティが開かれることになった。我がガルディスタ王国とは長らく不仲が続いていたのだが、世界情勢を鑑みて、若い世代は仲良くしていこーぜ、といった趣旨で企画されたものだ。
……というのは建前で、実態は未婚の若者達のお見合いの場というのは暗黙の了解である。ちょうどあちらの国は前王が隠居し、新王になって国の雰囲気も変わったそうだ。
(デュカリア王国は魔王討伐後の混乱期に当時の王弟が作った国ってことだけど)
前世の私の死後に起こった出来事だったので、転生後これが一番驚いた。王弟には謁見したこともあるが、温厚で私達のことを随分と気にかけてくれた記憶が残っている。
当時のガルディスタ領土の一部もデュカリア側に併合されており、その辺りの地域を調べるのにずいぶん苦労することになったのだ。特に他国の貴族や金持ちの子息に対し、
『心臓のとこ痣ある~~~? ちょっと脱いでもらってもいい~?』
なんて聞けないので、金を回して情報を集めた。
「パーティかぁ~気はのらないけど、あっちの国の青年貴族が集まるなら念のため行っとかないとよねぇ」
漏れがある可能性も考えられる。なにより、私なら服も脱がさず直接呪いの有無を確認することができるのだ。
(あの魔術痕……忘れるもんですか……!)
◇◇◇
(い、いいいいいいいいたっ! いたいたいたいたいたっ!!)
念のためにと参加したパーティ。正直少しも期待していなかったのだが、私は始まって早々叫び声を上げないよう必死になっていた。息をするのも忘れてしまった。
(エイデン!? エイデン・デュカリエ……!?)
どうも~と愛想笑いしながら入った会場で、真っ先に目に飛び込んできたのだ。あの棘模様の痣を持つ人物に。その人物は壇上で至極真面目な顔をして挨拶をしていた、デュカリア王国の代表だったのだ。彼の胸元から感じるあの魔力。間違いなくあの呪いだ。
(って、王弟じゃない! 王族入りって……前世で叶わなかったからなぁ~……)
なんて、思わずしみじみとしてしまった。別に英雄は王族入りをこれっぽっちも望んでいなかったが、彼の苦労を思えばそのくらいの報酬を受け取ってもいいだろうというのが仲間内での話だったのだ。
しかし、デュカリアの王子……いや王弟とは私も考えなかった。彼の暮らす王都はガルディスタ王国とは縁のないエリアだ。
即座に(大金を使って)調べた所、どうやら王妃様がとある災害の慰問に訪れた際に体調を崩し、そのまま秘密裏に元ガルディスタ王国領土内にて第二王子を出産したらしい。
(そんなのあり!?)
流石に探すの難易度が高すぎない!? ややこしすぎでしょ!? なんてのはもういい。ついに英雄を見つけたのだ。しかも生きている。間に合った!
(呪いは……まだ発動してないわね)
よしよしよしよし。まだ恋はしていなかったか。
どうやら前世の性質を引き継いでいるのか、”恋愛”に興味はないようだった。顔を赤らめ王弟エイデンに突撃していく麗しの令嬢達が意気消沈して撤退していく姿をこのパーティ中数えきれないほどいた。
(しかし困ったわ……まさか公爵令嬢より格上の階級に転生しているなんて……)
正直相手が誰でも”公爵令嬢”の権力でどうとでもできると思っていた。私の側に置いておく理由すら必要ない。
『四の五の言わずに近くに居なさい』
で、いけるわけだ。職権乱用、公私混同、権力の私物化……なんとでも言うがいい!
今世をできるだけ楽しんで生きてもらうために呪いの件は伏せるとして、呪いを解くための期間限定ではあるが、私が守れる範囲の自由で我慢してもらう必要があった。
(死ぬよりはマシでしょう!)
なんせ、ダメならまた来世で! とはいかない。今世はもう私の師もかつての仲間もいないのだ。失敗は許されない。次こそ本当に彼を見つけられないかもしれない。
(見つけてしまえばこっちのものだと思ってたけど……。いや~関係の微妙な隣国の王子様にやりたい放題はできないわよね……)
さてどうしたものか……と、ひっきりなしに令嬢達に突撃されているエイデンをジッと見つめ続ける。それを勘違いした私のお付きが、
「エイデン様のような方と結ばれる方は本当に幸せでしょうね……!」
それから早口で、
「女遊びも一切なし! あの容姿でですよ? 王弟であられるなら地位はしっかりとしておりますし、すでに現王には王太子がいらっしゃいます。面倒ごとに巻き込まれることもないでしょうし。あの人気も頷けます」
さらに圧倒されている私に、
「平民にもお優しいそうですよ! 時々こっそり城下におりているという噂も聞きました。ほら、レクシア様もそういうのお好きでしょう!?」
気が合いますよ、と言ったところで本題だ。
「……レクシア様、私、本日のパーティでレクシア様の《《お相手》》を探すよう公爵様より承っております。この意味、おわかりですね?」
ギロリ、と鋭い目が私に向く。もう逃げられないのよ? と、暗に伝えられているようだった。
「あ、はい。いい加減結婚しろってことね……」
いやでも、私にはやるべきことが……と言いかけて気が付いた。
(結婚すればいいんだ!!)
そしたら一緒にいて問題ないじゃん! なら、善は急げだ。
「うん、するする! 結婚、する~~!!」
この話は予想以上にとんとん拍子に進んだ。
あっちこっちの偉い人に頼み込もうかと思っていたが、どうやらアチラ――デュカリア王国側もエイデンの結婚問題に直撃していたらしく、
『両国の友好のため!』
という大義名分を持って、彼を説得した。
(説得ってのがちょっと引っかかるけど……)
まあいい。結婚したらこっちのもんだ。
私はデュカリア王国で行われた婚約式の後、
「もう夫婦みたいなもんですよね!!」
と、ゴリ押してそのまま居座った。
幸い、ギリギリまでごねていたらしいエイデンの退路を塞ぎたくてしかたがなかったデュカリア王国側との利害も一致し、無事に我々は結婚したのだ。




