↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のことが嫌いらしい英雄に恩返しを!(とはいえ毎日死にかけるのやめてもらっていいですか!?)  作者: 桃月 とと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/24

21話 記憶を取り戻すために

「レクシア、起きているか?」

「もちろん! エイデン様は今からお休みですか?」


 寝室の壊れた続き扉をノックして声だけかけると、元気よくレクシアの声が返って来た。彼女が寝てしまうとこの離宮に掛けられている防護魔術が弱まってしまうため、同室内で睡眠を取ることで俺の安全をこれまで守ってくれていたのだ。


「遅くなってすまなかった。もう寝るよ。寝室からは出ない」

「わかりました! 私はまだ隣でブツブツ言ってますけどごゆっくり」


 こちらが返事をするより前に、なにかを小声で唱える声が聞こえてきた。


(詠唱か)


 大掛かりな魔術の発動させるには、大掛かりな仕(・)込(・)み(・)が必要なのだと聞いたことがある。

 レクシアは王女の墓所へ行く前に、昨夜から出来るだけ準備をすると言っていた。


『時間がある時は、勝てる! ってところまで準備してから戦いに向かうんですよ。ぶっつけ本番一発大逆転なんて狙ったらダメです』


 これで英雄パーティは魔王を倒したのだから説得力はある。


『ここまで準備したのに思った通りにならないなんてことも多いですけどね。相手が一発逆転狙って来ることも多々ありますし……まあそれでも勝ちましたけど~!!』


 フフフと不敵笑っていた。


「……レクシア?」


 深夜、詠唱がやんだのを確認して声をかけてみる。


「まだ起きてたんですか!? あ! うるさかった!? ごめんなさい! 区切りついたんで今から寝ます!」


 慌てて寝支度を始めたのかトタトタとした可愛い音が聞こえてきた。


「大丈夫だ。色々と考えてしまって……」


 するとヒョコっとレクシアが扉から顔を覗かせる。


「エイデン様にとっては寝耳に水なことばっかで……でももうすぐ日常が戻ってきますから!」


 気遣うような笑みだった。


「……日常が戻ったらレクシアはガルディスタ王国に帰ってしまうんだろう?」

「もちろん! お約束します!」


 力強い答えが返って来る。求めてはいない言葉だが。


「俺の日常にはもう君がいるんだ」


 つらつらと、日中考えていた俺達が婚姻を続ける利点を伝える。だがレクシアはうーんと難しい顔をして腕を組み始めた。


「私に配慮してくれるのはありがたいんですけど、目的を遂げた後はエイデン様は自由になった方がいいと思いますよ。そもそもここまで状況が悪くなければ私だって黙ってるつもりでしたし」


 それからレクシアはなぜか安心させるような……いや、励ますようにギュッと両方の拳を握り締め、


「なにより今の恋が報われなくとも、次の恋もありますから!」


 何で今の恋が報われない前提なんだ! というのは置いておき、これだけお互いにメリットがあるのに何故拒否するのか理解できない。


「俺のことはいいといってるじゃないか。レクシアが故郷に戻りたいというのならわかるが、そうではないんだろう?」

「そうですね~別にガルディスタにこだわりはないです」

「ならっ」


 言葉をかぶせようとすると、ちょっと待ったと手で制されてしまった。


「エイデン様、あなたは英雄エイダンの生まれ変わりではありますが、私みたいに記憶があるわけではありません。呪いによる因果で、とっても似てますけどね。けど、あなたはあなた。エイダンはエイダン。だから、このままあなたの人生を生きてください」


 その人生に自分は不要だと言い切った。真面目な表情から見るに、本心からそう言っている。


「じゃあ記憶があればいいのか」

「えっ?」


 反射的に出て来た言葉がこれだった。モヤモヤと腹立たしい気持ちがわいてくる。何故かはわからない。


「前世の記憶があれば俺はエイデンでエイダンということでいいのか?」

「え、いや、それはどうかな~……」


 レクシアはこの予想外の問答に思考が追い付いていないようだ。しどろもどろになってきたので追い打ちをかける。


「でも君はレクシアでありレクシーなのだろう?」

「でもほら、私は生まれた時からそうだったし……」


 積み重ねてきた時間が違うのだと主張するが、視線が合わない。彼女が自分の考えに自信がない時によくそうなる。


「呪いによる因果で俺は前世の俺と似ていると言ったばかりじゃないか! 記憶がないのにだぞ!」

「えぇ~……なんですか急に……」


 こだわりますね、と呟く。


(なんだこの胸に張り付いてる感覚は……)


 俺が想像していた彼女の反応と違うからだろうか。言葉は伝わっている。だが気持ちが伝わっていない。これは由々しき事態だ。


「レクシア、俺は……」  

「わかりました。もし、エイデン様が近いうちに前世の記憶が戻ることがあったらその時また話し合いましょう」


 そのまま、おやすみなさ~いと自分のベッドへと戻って行った。


(なっなっ……! 絶対に記憶が戻ることなんてないと思っているな!?)


 俺にだって打つ手がないわけじゃない!

 翌日、レクシアがまた魔術の仕込みを始めた後、俺はすぐにキシュケルに声をかける。


「いかがされましたエイデン様……そのお顔……初めて見る類の……怒ってます? いや、悔しがってます……?」


 何事ですかと従者は戸惑い、困惑の表情を浮かべていた。


「いや、いつも通りだが?」

「えええ! 鏡見てくださいっ!」


 呪いもどうにかしないといけないが、この件も早急に解決したい。


「キシュケル。俺は前世の記憶を取り戻したい。なんでもする。力を貸してくれ」


 すでに混乱気味のキシュケルがいよいよ衝撃のあまり体をのけぞらしていた。


(なにがなんでも、記憶を取り戻してみせる)


 このもどかしくよくわからない気持ちをハッキリさせるために。

  

◇◇◇


(ビックリしたな~)


 エイデンが婚姻継続について打診してきたこと自体驚きではあったが、彼の合理性の塊のような思考を思えばわからなくもない。

 恋心もまだ無自覚のようだし、前世のトラウマなのか結婚前から女性関係は極端に潔癖なところもある。慣れた私が隣にいた方が周囲のやかましさも減って気も楽なのだろう。私にとっても(というか隣国の公爵令嬢という立場的に)この結婚にメリットがあることも彼は理解している。この辺に関しては納得できる。だが、


(まさかどうにもなりようもない『前世の記憶』を持ち出すなんてねぇ)


 いつもの彼らしくない。不確定要素が多すぎる内容で勝負を仕掛けてくるなんて。それだけ切羽詰まっているとも考えられるが……。


(そこまでしてこの結婚にこだわることもないでしょ)


 ごちゃごちゃ考えず、自分の幸せだけ考えればいいのに。


 私は望んでこの記憶を引き継いだが、彼はそうではないのだ。

 前世の記憶はなにも楽しくて便利なことだけではない。誰かを失った記憶も悲しみも、そのまま引き継ぐ。エイダンだって多くを失った人だった。その悲しみをひた隠しにして魔王へと向かって行ったことも知っている。

 だからさっさと話を切り上げた。だいたい前世を思い出すなんてそう簡単にできることではない。私だって黒魔術を使ったからこそ可能だった。この方法に再現性はない。私達がこの件でまた話し合うことは絶対にないのだ。


(けど……ちょっと嬉しかったかも)


 記憶がなくとも私といることを選んでくれたことが。

 これだけでこれからの人生、私は寂しさを感じずに生きていける。


(先に呪いを無事に解かなきゃだけどね)


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。