17話 子孫
グラント城では私達がここを訪れることを知っていたかのような最高級のもてなしを受けた。
そもそもお忍び旅行で、尚且つグラント領に立ち寄る予定はなかったというのに。
「ようこそ! 英雄達よ!!」
城の入口のホールで大歓迎してくれたのは、ノエラ・グラント侯爵。確かに見た目もオグマによく似ている。大柄で筋肉質。違うのは髪の長さくらいか。年齢はエイデンに近く、二人はそれなりに面識があるようだった。
(ていうか……英雄達って……)
このタイミングでそんな風に私達を呼ぶなんて。
(この人、何か知ってるわね)
今世の特技である外向けスマイルを向けて反応を誤魔化していると、相手は遠慮なくドンドン距離を詰めてくる。
「あぁなんとお美しい方だ! もっと早くに出会っていれば、今レクシア様の隣にいたのは私だったというのにっ!」
そうして私の手を取り、ちゅっと軽く口づけをした。
「うわぁあ!?」
同時にエイデンがの腰をぐいっと引っ張り、グラント侯爵を引き離す。
「俺をおちょくるために妻にちょっかいを出すのはやめてもらおうか」
「あははそんな! 今のは本心だよ。まあ、おちょくる気持ちがないとは言わないが」
片や仏頂面、片や満面の笑みという奇妙な組み合わせだった。こちらの護衛は不敬だと言わんばかりに鋭い目になっているが、あちらの家臣や兵達はまたか……と、どうも呆れ慣れている。
「あなた方が聞きたい話は後ほど……まずはゆっくりとこの夜を楽しまなければ……!」
含みのある言い方をする。何をどこまで知っているのかは知らないが、思わせぶりな態度をとる程度の何かはあるのだろう。少なくとも、あの刻まれたメッセージの答えはもらえそうだ。
「……どういうご関係で?」
こそこそとエイデンに尋ねる。思っていたより仲が良さそうに見えた。王弟である彼に軽口を叩けるのは、英雄パーティの一員であるオグマの子孫だからなのかと思ったが、それだけではないような……。
「ローワンのもとで共に学んでいたんだ……十年近く一緒に……」
「思ったより長いっ!」
なるほど、兄弟弟子ということか。
「ああ! ここに王妃もいらっしゃれば英雄パーティの血を受け継ぐ者達が揃うというのに」
晩餐の席で上機嫌にワインを口に含み、グラント侯爵が高揚しているのがわかる。
「グラント侯爵。もてなしには感謝するが、あまりに準備が良すぎる。我々が訪ねてくるのがわかっていたのか?」
「相変わらずの合理主義者ときたもんだ! 散々ロマンについては語って聞かせたつもりだったのですが……少しは旧友との会話を楽しもうという気持ちはないものですかねぇ! 愛する妻の自慢話でもしてみたらどうです?」
「妻は見ての通り素晴らしい女性だ。それで、質問の答えは?」
相手の目を見て答えを急かすようハッキリと言い放った。
(うぉいっ!)
なんだその適当な褒め言葉は! な~んて怒ってもいいのかもしれないが、エイデンがあれほどまっすぐ相手の目を見ているということは本心を言っている。『妻』という点は置いておき、私のことを素晴らしい女性だとは思っているのは嘘ではない。
(まったく……こういうとこあるんだから)
照れたいところだが、なんとなくオグマに似ている相手を前にそういう姿を見られたくなくて、当たり前ですが? といった態度を私は取っていた。
グラント侯爵もエイデンが本心を言っている時のクセを知っているのか、面食らったようにこれまでベラベラ動いていた口がついに止まる。
「ふむ。面白い……」
しばらくの間の後小さく呟き、やっと本題に入ることができた。
グラント侯爵はエイデンのような真面目な顔になり、人払いをする。大きな晩餐室に三人だけ。
「私は待っていたのです。あなた方がこの城にくることを。我が先祖、オグマ・グラントの残した伝言を見て」
「では……」
「ええ。お探しのものはこの城の地下に……魔王の遺品です」
静かな笑顔が浮かんでいた。
(よかった! あった!)
これで呪いを解くことができる!! エイデンと顔を見合わせて喜んだ。一歩ずつだが確実に進んでいる。
(それにしても何をどこまで知っているんだこの人)
そう考えた直後だった。
「お渡しする前に。ほんの少しだけ話を聞いていただきたいのです」
一体何を? と、グラント侯爵の方に向き直った直後だった。
私の心臓が……おそらくエイデンの心臓もドキリと跳ね上がった。
「レクシー・アスメリア。あなたにオグマからの言伝があるのです」




