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私のことが嫌いらしい英雄に恩返しを!(とはいえ毎日死にかけるのやめてもらっていいですか!?)  作者: 桃月 とと


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16話 かつての決戦の地

 バログラは今は何もない。所々に崩れた建物の跡は残っているが、人は住んでおらず、そのせいか緑が深く野生の動物をよく見かける。瘴気はすでになくなっているが、いまだに魔獣の報告が一番多い地域でもあった。ごくごく最近までは。


(王都近郊が今は一番魔獣討伐の報告が多いんだよねぇ)


 エイデンの呪いの影響ではないはずなのだが……。

 魔獣は瘴気を好むので、それがなくなったバログラに留まる必要がなくなり、各地に散ったというのならまだわかるのだが、どうもどの魔獣も王都を目指しているような動きをしているのだ。

 さらに妙なことも。


「バログラ近郊は瘴気の消滅と共に作物の収穫が極端に増えたり、家畜の生育がうまくいっているんだ」


 近年この国全体としてその傾向はあるが、特にこの周辺は顕著、という話だった。


「へぇ……けど、他ではあまりそんな報告聞きませんよね?」

「ああ。もし瘴気に汚染されたとしても影響がなくなれば徐々に通常通りの収穫量に戻っていくだけ。ここまであからさまに増えるなど歴史上考えられない」


 彼はしっかり『新婚旅行兼調査旅行』を名前の通り実行するつもりなのだ。バログラは現在王領のため、現地にいる役人が役目を果たさんとつきっきりで案内してくれている。

 晴れ渡ったバログラの平原には静かに風が流れていた。私——レクシーが最期に見た時とは打って変わり、のどかな場所になっている。


「あっちが魔王城跡地ですよね」

「ええそうです! よくご存知で!」


 役人は声を弾ませてさらに説明を続けてくれた。

 

「あちらは魔王の実験場……ええそうです! あらゆる魔獣を黒魔術を用いて創り上げておりまして……その通り! 人型魔獣の古屋はこちらの……エリアにまとめて………」


 本当によく知ってるなぁー! と、キラキラとした瞳がこちらに向くが、


(そりゃあ知ってますとも)


 曖昧な笑顔で答える。


「案内感謝する。できればしばらく妻と二人で見て回りたいのだがかまわないだろうか?」


 サラリと尋ねるエイデン。魔王の痕跡を探すのに他の人間がいると少々厄介だ。大騒ぎの予感しかしない。


「えぇぇ!? しかし魔獣が……いやその、ええ……最近はかなり減っておりますが……」

「この視察は新婚旅行も兼ねていているんだ」


 だからなんだと言えないのがお役人の辛いところだろう。

 無表情な王弟の圧に負けたのか、少し離れたところから護衛達が見守るということで話はついた。


「……体調は大丈夫か?」

「んもうっ! 魔力は十分戻ってますし、傷跡も残ってません!」


 これで十五回目の確認だ。エイデンは私が怪我をしてからずーっとこの調子。常に叱られた大型犬のような瞳でこちらを見てくる。


(こっちが罪悪感湧いちゃうわよ!!)


 そんなにヤワに見えるのかしら。確かに今世であんな怪我をすることはなかったが、前世じゃ取り立て珍しいことでもなかった。まあもちろん、エイダンは仲間が傷つくのを嫌がったが、共に魔王を倒す仲間だと認めてくれていたからか、こんな風に落ち込むこともなかった。


(仲間か……)


 私は護衛達がかなり離れた場所にいるのを確認し、ちょっと大袈裟な身振り手振りで力説する。


「真実を知った今となっては、エイデン様もこの呪いを解く仲間なんですよ!」

「仲間……?」

「一緒に終わらせましょう! 魔王討伐の旅を! だから、なんとかなったことに対して謝り続けるのはナシですよ!」


 そう。この呪いを解いたらようやく終わるのだ。私達の長い旅が。


「わかった」


 安心したようにエイデンは小さく笑った。   


(それにしてもオグマの言った通りだったな~)


 彼の言う通り、エイダンは生まれ変わってもやる男だった。エイデンに真実を話してからとんとん拍子に事が進んでいる。


(けどやっぱり、エイデン一人じゃ無理だったわね!! この呪いの強襲を見ればオグマだって考えを改めるでしょっ)


 そういえば彼の子孫の領地がこの近くだ。帰りにお墓参りもでもできるだろうか。


◇◇◇


 私とエイデンはかつて死闘を繰り広げた場所をぐるぐると徘徊した。魔王の遺品を探して。遠目から見るとおそらく妙な行動だったに違いない。護衛達が何度か声をかけてきたので、なんでもないよと手を振って答えた。


「この辺でエイダンが魔王にトドメを刺して……で、魔王の肉体は消えちゃったけど身につけていた防具なんかは残ってたんですよね~」

「なるほど。資料通りだ」


 この資料はオグマの証言によって作られたもの。後世の人々はここを危険地帯の中心とし、近年に至るまで誰も近づくことはなかった。


「魔獣が持っていってしまったかもな」

「うーん……確かに……」


 考えが甘かったか。

 探索魔術は無機物には使えない。せめて魔力や瘴気を纏っていればなんとかなったかもしれないが、瘴気がすでにないのなら……。


(ここにきて手詰まりなんて)


 うーんうーんと考え込んでいる私をよそに、エイデンは私から離れすぎないよう気をつけながら、崩れた建物を見たり、岩を持ち上げたりと探索を続けていた。


「レクシアッ! 来てくれ!」


 エイデンは見つけたのだ。魔王の遺物の手がかりを。


「ここ……」


 崩れた煉瓦の破片に、くっきりと刻まれていた。


——レクシー・アスメリア 探し物はグラント城に。オグマ・グラント


 風化の度合いを見るに、随分前に掘られたのは間違いなさそうだが、なぜオグマがこんなところにメッセージを?


(噂をすれば影というか……)


 オグマは真実を隠したガルディスア王国を見限り、王弟が新たに起こしたデュカリア王国建国のために力を尽くしたと聞いている。私と同じく平民出身の彼はその後この国でグラント侯爵として余生を過ごしたのだ。ちなみに、我々の中で圧倒的に長生きしている。


「エイデン様!」

「ああ。グラント城へ行こう」


 慌てる必要はないのだが、どうしても早く答えを知りたくて、その日の夜にはグラント領へと到着した。


「そういえば、現在のグラント侯爵はどのような方なので?」

「え? ん? あぁ……」


 珍しくエイデンが言い淀んでいる。私達の結婚式は割と急だったのもあって不参加だった。ただ、立派なお祝いの品がたくさん届いていたので、私とのエイデンの婚姻に反対しているということはなさそうなのだが……。


「なんというか……ノエラ・グラント侯爵は、オグマ・グラントの生き写しと言われているんだ。主にその……異名の方で……」


 この、なんとも言い難い表情で私は察した。


「え!? ま、まさか……種馬オグマ!?」


 深刻そうな表情でエイデンが頷いた。


「相手が誰であれ口説くのが彼の信念なのだろう。ロイメイア王妃にすら声をかけていたからな……君もくれぐれも気をつけてくれ」

「あ、はい」


 なるほど……百五十年程度では彼の血は薄まらないようだ。

 その異名通り、彼の子孫だという人物が国のあっちこっちにいる。だが血縁は証明されていない。なんせ魔王討伐のためにかけ回っていた時はそんな時間があるわけもなく……。


(ただただ女の人とイチャコラするのが楽しー! って言ってたけど、妙なところで誠実だったからな……)


 平和な時代までお預け! と、自分自身で決めていたようだ。

 ただし! そんな時代でも隙を見て女性を口説けるだけ口説き、


『この戦いが終わったら、その時はまたこうやって会ってくれるか?』


 という決め台詞を使いまくっていたせいか、魔王討伐後は別の修羅場が待っていたと聞いている。 


「ふふっ! ちょっと楽しみー!」


 知り合いの子供(ではないが)を見るのはこれが初めてだ。なんせそんな暇なく前世は終わってしまったので……!

 オグマの子孫がいることはずっと知っていたが、残念ながら当時はデュカリア王国とは微妙な関係だったので、接触が難しかった。


「えぇぇ!? ど、どういう意味だ!? た、確かレクシー・アスメリアはオグマ・グラントとはそういった関係ではなかったと歴史書では読んだが!? いや確かに舞台によってはそんな演目があることは知っているがあれはただの創作だと……!」


 また急にエイデンは早口になる。なんだかあたふたと動いているが、何がそれほど彼を焦らせるのか。


「歴史書が正しいのでご安心を。オグマの子孫に惚れて~なんてことは万が一にもございませんっ」


 余計な面倒を起こしている場合じゃないっての!


「そ、そうか……」

「そうですよ! それより、気合い入れてください気合い!!」

「わかった……!」


 さあ、グラント城に乗り込むぞ!!

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