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婚約者がまた幼馴染を連れてきました――「一玉くらい」?メロンはただではありません  作者: さんけい


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第五話 一枚足りません

 翌朝、シェリルは四枚の感想用紙を持って、屋敷裏の選果室へ向かった。

 戸を開けると、甘い香りがした。

 長卓には、昨日届いたメロンが一列に並んでいる。蔓の切り口が新しいもの、香りの上がってきたもの、皮を押すとわずかに弾力のあるもの。状態ごとに置く場所が分けられ、今日使う三玉には白い紐が結ばれていた。


「こちらの二玉は、明日の朝でしょう」


 ベルナルド・ロンダールは、メロンの尻を確かめてから隣へ移した。


「今夜の気温が高ければ、少し早まります。厨房へ運ぶ前に、もう一度呼んでください」

「分かりました」


 選果を手伝っていた使用人が返事をし、木箱の蓋へ日付を書き込んだ。

 ロンダール男爵家は、代々果樹園を営んでいる。ベルナルドはその次男で、数年前から栽培と出荷の大半を任されていた。

 果物の育ち方を話し始めれば長い。愛想のよい売り文句は不得手だが、どの木の実が何日で食べ頃になるかは、驚くほど正確に当てた。


「ベルナルド様」


 呼びかけると、彼はすぐに手袋を外した。


「昨日の試食の感想をお持ちしました」

「ありがとうございます。皆様のお口に合いましたか」

「ええ。今年のメロンは、妹たちにも好評でした。香りがよく、皮に近いところまで甘かったです」

「それはよかった」


 シェリルは用紙を差し出しかけ、先に頭を下げた。


「申し訳ありません。一枚、足りません」


 ベルナルドの手が止まった。

 用紙は四枚。シェリルと、三人の妹の分だけだった。


「昨日は、アレック殿も参加なさると伺っていましたが」

「その予定でした」

「急なお仕事でも?」

「招いていない方をお連れになりました。その方に、ご自分の分を渡してしまわれたのです」


 ベルナルドは四枚を受け取り、一番上の紙へ目を通した。


「その方の感想は、こちらに?」

「余白へ書きました。甘い、おいしい、もう少し欲しい。以上です」

「食べ終えるまで三分、とありますね」

「サミュールが測っていました」

「冷やした時間のほうが、ずいぶん長い」


 傍らにいた使用人が、日付を書き損ねた。慌てて布で墨を吸い取っている。


「わたくしたちは、そのあとも試食を続けました。形が崩れるまでの時間も測っています。四枚しかありませんけれど、次の試作には――」

「十分です」


 ベルナルドは用紙を揃えた。


「これだけ細かく見ていただければ、持ってきた甲斐があります。シェリル嬢からお詫びまでいただいては、こちらが困ります」

「ですが、五人分をお願いしておきながら」

「果物は召し上がっていただけたのでしょう。感想を集める役目は、私たち二人だけで決めたことです。アレック殿は御存じなかったのかもしれません」

「朝のお手紙に書きました」

「では、読んでいただけなかったのでしょう」


 ベルナルドはそれ以上、アレックを評さなかった。

 昔からそういう人だった。

 二人が初めて会ったのは、シェリルが九歳、ベルナルドが十一歳の頃だった。果樹園を訪れたシェリルが、まだ固い梨を勝手にもいでしまい、ベルナルドが半日かけて食べ頃の見分け方を教えた。

 それからも収穫のたびに顔を合わせた。

 手紙を交わすようになったのは、ベルナルドが領地の仕事へ入ってからだ。最初は果物の注文だけだった。やがて、領地で咲いた花や、王都で評判の菓子、読んだ本の話が加わった。

 シェリルは次の手紙で、彼が将来どんな家を持ちたいのか尋ねるつもりだった。

 ベルナルドも、次に会った時には伝えるつもりでいた。

 先に届いたのは、エンコード家との婚約話だった。

 婚約が決まった日、ベルナルドは「おめでとうございます」と言った。シェリルも「ありがとうございます」と返した。

 そのあとの手紙から、花と本の話が消えた。


「アレック様は、同じものをもう一つ作れば済むとおっしゃっていました」


 シェリルが伝えると、ベルナルドは並んだメロンへ目を向けた。


「昨日と同じ熟れ具合のものは、今日の三玉で終わりです。次は五日ほど空きます」

「やはり、そうなりますね」

「今日の分は、焼いた場合の香りを試すのでしょう?」

「ええ。生で使うものと比べます。ですから、アレック様一人のために回すつもりはありません」

「そのほうが助かります。焼く温度によって香りがどこまで残るか、こちらも知りたい」


 ベルナルドは四枚の用紙を開き、一番上を指した。


「これはシェリル嬢の字ですね」

「よく分かりましたね」

「昔から見ていますから」


 彼は用紙を一枚ずつ卓へ並べた。


「エリール嬢は果肉を花の形に。マリル嬢は限定品として値段を上げる。サミュール嬢は重さを片側へ寄せない。四人とも、見るところが違いますね」

「ええ。ですから四人分でも、役には立つと思います」

「まず、厨房へ持っていく三玉を決めましょう。焼くなら、少し固いものも混ぜたい」


 ベルナルドが一玉を持ち上げ、シェリルは残りのメロンから同じ大きさのものを探した。

 選果室の長卓に、四枚の感想用紙が順番に並んだ。



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