表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者がまた幼馴染を連れてきました――「一玉くらい」?メロンはただではありません  作者: さんけい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/21

第三話 サイテーですわ

 扉が閉まるなり、エリールが匙を置いた。


「サイテー!」

「ええ、最低ね」


 マリルは記録用紙の端へ、ネリアの感想を小さくまとめた。


「婚約者の家へほかの娘を連れてきて、婚約者が用意した菓子を食べさせて、自分はその娘を送っていく。どこを取っても最低だわ」

「呼ばれたのはアレック様です」


 サミュールは傾きかけた自分の硝子杯を見ていた。


「ネリア様が増えて、アレック様がいなくなりました。試食する人の数は同じですけれど、意味がありません」

「しかも、珍しい果物を好きなだけ食べられるって何ですの? うちは無料の菓子屋ではありませんわ!」


 エリールの声が廊下まで届きそうになり、シェリルは人差し指を唇へ当てた。


「扉の向こうに侍女がいるわよ」

「侍女だって、きっとサイテーだと思っていますわ」


 返事の代わりに、廊下で衣擦れの音がした。そこにいたらしい。


「それに、ネリア様はこれで三度目でしょう?」


 マリルが数え始める。


「春の苺の選別に一度。先月、王都の菓子店と打ち合わせたときにも一度。今日で三度目」

「市場の視察にも来ました」


 サミュールが加えた。


「では四度ね」

「毎回、どうしてあの方を連れてくるのかしら。幼馴染だからって、仕事の場へ入れていい理由にはなりませんわ」


 ネリアは、アレックが幼い頃を過ごしたエンコード領の町で一緒に育った娘だった。母親と二人暮らしていた当時から、二人は互いの屋敷を行き来していたという。

 その後、ネリアは伯爵の庶子として認知された。今では「伯爵家の娘」として王都の社交にも顔を出している。

 アレックはその身分をことあるごとに持ち出した。

 伯爵家の方なら流行を知っている。王都の令嬢の好みも分かる。意見を聞いて損はない。

 けれど先ほどの感想は、甘い、おいしい、もっと欲しい、で終わった。


「ねえ、お姉様とアレック様は、家の商売をつなぐために婚約したのでしょう?」


 エリールが頬を膨らませた。


「ええ、そうよ」


 ライエット家が育てた果物を選別し、菓子や加工品に仕立てる。エンコード家が保管場所と荷車を手配し、王都や大きな町へ運ぶ。

 両家が共同で扱う品が増えた頃、互いの跡取りを婚約させようと父親同士が決めた。

 シェリルも、家業を支える相手になると思って受け入れた。


「だったら、今日の試食こそアレック様のお仕事ですわ。なぜネリア様が食べて、アレック様がいなくなるの?」

「そこが分かっていたら、あんなことはしないでしょうね」


 マリルは用紙をシェリルへ返し、自分の杯を引き寄せた。


「さあ、わたくしたちは続きをしましょう。せっかくのメロンがぬるくなるわ」

「もう傾いています」


 サミュールが砂時計を起こした。


「十二分で、こちら側の焼き菓子が沈みました。ジュレも流れ込んでいます」

「果肉の置き方を変えたほうがよさそうね。丸いものを三つ載せると、片側へ重さが寄るわ」


 シェリルは匙を底まで差し入れた。果汁を吸った焼き菓子は、形こそ崩れかけていたものの、香ばしさを残している。冷たいジュレと混ざると口当たりもよかった。


「わたくし、崩れたあとのほうが好きですわ」


 エリールも底から大きくすくった。


「見た目は悪くなるけれど、メロンの果汁が全部染みていますもの」

「店で出して、すぐ食べていただくなら問題なさそうね。持ち帰り用には別の菓子を考えましょう」

「焼いたものなら運べます」

「熟れた果肉を使うなら、ジャムかしら。値段を考えると贅沢だけれど」

「皮に近いところを使えば?」


 話しながら食べ進めるうちに、四つの杯も底が見えてきた。

 侍女が冷えた銀皿を運んできた。今朝切ったメロンの残りが、細い舟形に切って並べてある。クリームもジュレも添えていない、果肉だけの味を見るための皿だった。

 シェリルは種に近い部分を一口食べた。

 やわらかな果肉から、たっぷりと果汁が出る。甘さは強いが、喉に残らない。皮に近い部分にも青臭さが少なく、最後まで香りが続いた。


「こちらも甘いですわ!」


 エリールが二切れ目へ手を伸ばす。


「端まで使えるなら、取れる量も増えるわね」


 マリルは果肉の厚みを確かめ、サミュールは皿に残った果汁の量を見ている。

 取引先の農園から届いた、今年最初のメロンだった。今日切った一玉だけで決めるつもりはなかったが、厨房では朝から三玉を確かめている。どれも熟れ方が揃い、傷んだ部分もほとんどなかった。


「やっぱり、今年のメロンはいいわね」


 シェリルが言うと、三人の妹がそろってうなずいた。


「次は焼いたお菓子も作るの?」

「明日、厨房で試してもらうわ」

「わたくしも試食します!」

「値段を先に出してね」

「焼く時間も測ります」


 三人の声が重なる。

 シェリルは新しい用紙を一枚出し、アレックのために空けてあった欄へ、次の試作品を書き込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ