第二話 一杯くらいいいだろう
「……また、ですか」
シェリルはアレックを見た。
「今日は新作の試食日です。何をするために五人集まったのか、朝のお手紙にも書いたはずですけれど」
「分かっているよ。だからネリアにも試食させようと思ったんだ」
「その五杯は、妹たちと、わたくしと、アレック様の分です」
「一杯くらい、いいだろう?」
アレックは銀盆から最後の杯を取った。
「女性が一人増えただけで、そこまで堅いことを言うな。ほら、ネリア」
「ありがとう、アレック」
ネリアは嬉しそうに受け取った。
侍女が新しい匙を用意する間にも、杯を光へかざし、上に載った果肉を眺めている。
「綺麗ね。メロンをこんなふうに出すなんて、王都でも珍しいわ」
「ライエット家は、菓子だけは凝っているからな」
シェリルの隣で、マリルの匙が皿へ触れた。
小さな音だった。
ネリアは届いた匙で、丸い果肉を一つすくった。
「甘い!」
続いてクリームとジュレを大きくすくう。二口目、三口目と休まず口にする。途中で水を飲むこともない。
四姉妹が半分ほどを残して話している間に、ネリアは硝子杯の底まで綺麗にさらってしまった。
最後に焼き菓子の欠片を匙の先で集め、口へ運ぶ。
「おいしかったわ」
それだけだった。
シェリルは、卓上に置いた記録用紙へ目を落とした。
甘さ、香り、量、見た目、食感……
どの年代へ勧めたいか。食べ終えるまでに形が保ったか。
尋ねる項目は、まだ一つも埋まっていない。
「ネリア様。クリームとジュレの割合はいかがでした?」
「ちょうどよかったと思うわ」
「果肉の熟れ具合は?」
「甘かったわよ」
「量は」
「もう少しあってもいいわね」
ネリアは空になった杯を侍女へ渡し、銀盆をのぞき込んだ。
「ねえ、これだけ?」
「今日は一種類の試食です」
「そうなの? アレックから珍しい果物をいろいろ食べられると聞いたから、楽しみにしていたのに」
「今日はメロンの試食だと言っただろう?」
「そこまで聞いていなかったもの」
ネリアは椅子から立った。
「では、わたくしは帰るわ。お母様に内緒で出てきたから、夕食までには戻らなくては」
「おい、もう帰るのか?」
「だって、試食は終わったのでしょう?」
アレックの袖へ手を添え、玄関まで送ってほしいとねだった。彼は仕方がないなと笑い、シェリルへ帽子を掲げる。
「すぐ戻る。俺の感想は、そのあとで聞けばいい」
「無理です。アレック様の分を、今ネリア様がお召し上がりになりました」
「同じものをもう一つ作らせれば済むだろう?」
アレックは返事も待たず、ネリアとともに客間を出ていった。
廊下を行く二人の話し声が遠ざかる。
サミュールは砂時計を横に倒し、ネリアの使った硝子杯を見た。
「食べ終えるまで、三分でした」
「形が保つか見る時間もありませんでしたわ」
エリールは自分の杯を両手で囲った。いつもなら真っ先に食べ終える末妹の皿にも、まだ半分近く残っている。
マリルが記録用紙を引き寄せた。
「甘い。おいしい。もう少し欲しい。三つも感想をいただけたわね!」
「……一行に収まるわ」
シェリルはそう答え、ネリアの欄へ書き込んだ。
それから、空いたままのアレックの欄をさっ、と一本の線で消した。




