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婚約者がまた幼馴染を連れてきました――「一玉くらい」?メロンはただではありません  作者: さんけい


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10/21

第十話 届いた荷物

 それから数日後、アレックが王都の屋敷へ戻ると、玄関を入ったところで家令に呼び止められた。


「若旦那様。旦那様が、あとでお話があるとのことです」

「父上が?」

「本日は、御用が済むまで屋敷でお待ちください」


 アレックは外套を脱ぎながら、階段の上を見た。


「今すぐではないのか?」

「お支度が整い次第、お呼びになるそうです」

「ずいぶん大げさだな」


 外套を家令へ渡し、帽子をその上へ重ねる。父に呼ばれる理由を考えたものの、すぐには思い当たらなかった。

 マンゴーの件なら、リシャールが騒いだのかもしれない。

 取引先へ回す予定の品を使ったところで、次の船便はいずれ来る。珍しい果物を気に入ってもらい、新しい客を増やすのも商売のうちだ。ネリアの母や友人が喜んだと聞けば、父も最後には納得するだろう。

 あるいは、シェリルとの結婚についてか。

 婚約してから長い。店の準備が進んだことで、ライエット家が日取りを決めたがっている可能性もある。


「父上は書斎か?」

「ただいま、執事と打ち合わせをなさっています」

「母上は?」

「奥様も御一緒です」


 両親が揃っているなら、やはり婚礼の話だろう。


「分かった。部屋にいる」

「お茶をお持ちいたします」


 自室へ向かいながら、アレックは今日のネリアを思い出していた。

 午後、二人で新しい菓子店へ寄った。ネリアは焼きたての小さな菓子を半分に割り、中の蜜が服へ落ちそうになって慌てていた。

 アレックが布を差し出すと、恥ずかしそうに笑った。

 今日は髪に白い花を挿していた。先日の赤い花もよく似合ったが、白もよかった。

 どちらが好きかと聞かれ、選べないと答えると、ネリアは次から左右に一本ずつ挿そうかしら、と笑った。

 シェリルなら、花の種類と値段を先に確認する。

 ネリアと過ごす時間には、果物の仕入れも、店の売り上げも、翌月の予定も出てこない。彼女はアレックが贈ったものを喜び、アレックの話を楽しそうに聞いた。

 結婚しても、こうして会えばよい。

 シェリルには家と店がある。やりたい仕事を任せれば満足するはずだ。ネリアも、シェリルの邪魔をしたいわけではない。二人が張り合う理由など、どこにもなかった。

 そのうちシェリルも、ネリアの素直なところを気に入るかもしれない。

 ネリアを屋敷へ招き、三人で茶を飲む。シェリルが新しい菓子を作り、ネリアが最初に味見をする。アレックが店へ客を連れていけば、シェリルも喜ぶ。

 そうなれば、今よりずっと上手くいく。

 部屋へ入ると、アレックは襟元を緩めた。茶を運んできた従僕へ、時刻を尋ねる。


「南方船の荷は、まだ来ていないか?」

「若旦那様宛てのお荷物でしょうか。今のところは」

「今日届く予定だ。来たらすぐ知らせてくれ」

「かしこまりました」

「いや、そのままネリアの屋敷へ届けてもいい。俺からの贈り物だと伝えるように」


 従僕は盆から手を離し、扉のそばで止まった。


「本日は、屋敷でお待ちになるよう旦那様から申しつかっておりますが」

「俺が出かけるわけじゃない。荷を届けるだけだ」

「では、届きましたら改めてお伺いいたします」


 従僕が出ていくと、アレックは茶を飲みながら、ネリアの喜ぶ様子を思い浮かべた。

 注文したのは、一玉だけだった。

 少し前、シェリルが南方の果物について話していた時に、珍味として名高く、熟したものは美味だと口にした。扱いが難しいとも言っていた気がするが、アレックが覚えているのは、美味というところだけだった。

 それほど珍しい果物なら、ネリアも食べたことがないだろう。

 菓子店でその話をすると、彼女はすぐに身を乗り出した。


「どんなお味なのでしょう」

「今日届く。夜には届けさせるよ」

「まあ。わたくしのために注文してくださったの?」

「ああ。お前に食べさせようと思ってね」


 ネリアは両手を合わせ、届いたらすぐ知らせてほしいと言った。

 あの顔をもう一度見られるなら、高い代金も惜しくない。

 アレックは二杯目の茶を注いだ。

 窓から見える前庭には、出入りの馬車が一台もない。婚礼の話なら、ライエット家の者も来るはずだ。父が先にアレックの考えを聞きたいのかもしれない。

 日取りは、秋の終わりで構わない。

 シェリルも店の準備を終えたいだろうし、アレックにもネリアと相談しておきたいことがある。結婚後にどのくらい会えるのか、先に決めておけば彼女を不安にさせずに済む。

 住む屋敷についても考えておこう。

 シェリルはライエット家の店に近い場所を望むだろう。アレックが王都へ出やすく、ネリアの屋敷からも遠くない場所なら、どちらにも都合がよい。

 頭の中で王都の地図を広げていると、窓の下から車輪の音が聞こえた。

 幌を張った荷車が門を入り、玄関脇の荷受け口へ回っていく。荷台には、二人がかりで運ぶほどの木箱が一つ載っていた。

 アレックはカップを置き、窓を開けた。


「バルテ商会か?」


 荷車の男が帽子を上げた。


「エンコード家のアレック様へ、南方からのお品です!」

「今行く」


 階段を降りると、木箱はすでに荷受け口へ下ろされていた。

 箱全体を厚い布が覆い、その上から何重にも縄が巻かれている。隙間には乾いた藁が詰められ、蓋の四隅には鉄の留め具まで打たれていた。


「ずいぶん厳重だな」

「船から降ろした時のまま、お持ちしました」


 商会の男が受取状を差し出した。


「食べ頃を迎えております。こちらの札に、扱い方が――」

「届け先を変える。ネリア・オルコット嬢の屋敷へ運んでくれ」

「このままですか?」

「贈り物だ。俺からだと言えば分かる」


 商会の男は木箱を見下ろした。


「先方には、開ける場所を――」

「若旦那様」


 家令の声に遮られ、アレックは振り返った。


「旦那様からの御指示です。そのお荷物は、屋敷から動かさないようにと」

「父上が?」

「若旦那様には、西の応接室へお越しいただきます」

「話なら、もう始めるのか」

「皆様がお揃いになりました」

「皆様?」


 問い返しても、家令は応接室の方角を手で示すだけだった。

 アレックは従僕へ木箱を預けた。


「荷受け室へ入れておけ。話が終わったら、俺が届ける」


 木箱が二人がかりで運ばれていく。

 縄の下に挟まれた小さな札には、赤い字で注意書きが並んでいた。最後の一行だけが、歩くたびに布の端から出たり隠れたりしている。

 本日中に開封のこと。



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