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異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


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第七話 信頼の芽生え ― 支払われた誠意 ―

それはギルド併設の酒場《獅子の喉笛》で起きた、

ほんの小さな出来事だった――


冒険者になってまもなく一年。


新米冒険者ジルは、

木製の長椅子に腰を下ろし、深いため息をついた。


「はぁ……今日は、あんまり儲からなかったな……」


彼の前に置かれているのは、

この酒場でいちばん安く、いちばんよく出る干し肉サンド。


香ばしい匂いはするが、

エールは付いていない。


銀貨を一枚でも浮かせたい、

そんな日の食事だ。


(――早く食べて、早く寝てしまおう――)


大きな口でパンをかじる少年。


その少年の背後から不意に、


「――ちょっと、ジルくん!」


張りつめた声が飛んだ。


びくりと肩を震わせ、ジルは振り返る。


「君は、なにをしているんですか!?」


そこに立っていたのは、仕立ての良い外套を纏った男

クロード・ジャン・アルヴェインだった。


周囲の冒険者たちも「なんだ?」「どうした?」と一斉に視線を向ける。


「えっ……?」


訳が分からず間の抜けた声を上げたジルに、

クロードは鋭い視線を向けたまま続けた。


「“えっ”じゃありません!」

「きみ、武器屋のホークさんのところで、剣を新調しましたね?」


「あ、はい……」


思い当たった様子でうなずくと、

クロードは額に手を当て、深く息を吐いた。


「――通知義務を、忘れていませんか?」


「……あっ……」


酒場の空気が、わずかに張りつめた。


「……武器の変更は、危険度が変わる重要事項です。

必ず通知するよう、説明したはずですよ」


ジルは言葉を失ったまま立ち尽くす。


クロードは懐から静かに財布を取り出し、

帳面を一度確認すると、淡々と続けた。


「きみは武器を新調してから、三回討伐依頼に出て、保険に加入しています。

本来なら、より安い掛け金で済んだはずです」


そう言って、クロードはジル少年の手のひらに、

銀貨と、銅貨を数枚――そっと置いた。


「これは、その差額分の返戻金です。

今回は通知忘れから一か月以内だったための特別対応です。次からは――」


クロードは、きっぱりと言った。


「気をつけてください」


ぽかんとするジルを置き去りに、

クロードは顔を上げると、周囲の冒険者たちを一睨みした。


「あなた方も同じです」

「通知義務を怠れば、保険金不支給もありえますよ!」


そう言い残し、クロードは酒場を後にした。


扉が閉まったあと、酒場にしばしの静寂が流れる。


やがて、ぽつりと誰かが言った。


「……あいつ、金を取りに来たんじゃなくて……」

「払うために来たのか?」


「黙ってりゃ、誰も気づかねぇのになぁ……」


くすぶるような声の中で、誰かがつぶやいた。


「――思ってたより、いい奴なのかもな――」


再び訪れる静寂。


その中心で、

ジルはまだ状況を飲み込めずにいた。


だが――

手のひらに残る貨幣の重みだけが、これは夢じゃないと教えてくれる。


少年は意を決したように顔を上げ、

酒場の主に声をかけた。


「あの……肉串を一つ」

「――それと、エールもお願いします」


その夜の味を、ジルはきっと忘れない。


新米冒険者の――

記憶に残る一日だった。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、

今日は一瞬の輝きのみで休息を楽しんだ。


――【S.O.M.P.O. ジャン】


剣と魔法の世界に、


ほんの少しだけ、信頼された一日だった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白いと感じていただけたら、評価やブックマークをいただけると励みになります。


次回更新:4/11(土)20:00予定です。

※以降毎週土曜日20:00に更新予定です

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