↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/56

第五十三話 告げられたもの - 悪意と覚悟 -

【ユーリス・フロイト】来訪の翌日。


早朝の【S.O.M.P.O. ジャン】控室で、その知らせは届いた。


「……御者の男は死んだ……」


バルドゥスの報告に、クロードの目から色が消える。


一緒に聞いていたレオンが、静かに問う。


「……死因は?」


「窒息死だ」


無念を滲ませ、バルドゥスが続ける。


「水に濡らした布を、木製スプーンを使って喉に押し込みやがった。おまけに、自分で戻せないよう両拳を破壊してな」


凄惨な死に様を思い浮かべ、クロードとレオンの顔が歪む。


「……狂信者の部下は狂信者か」


その異常な死に方に、レオンはそう吐き捨てた。


だが、クロードはそこに意味を求めた。


「……なぜ、わざわざこんな方法を選んだのでしょう?」


小さくつぶやく。


「死に方が気になるのか?」


レオンの問いに、


「はい、気になります。もしわたしなら、こんな苦しむ方法ではなく、折って尖らせたスプーンで喉を突きます」


言われ、


「そうだな、他にももう少し楽な死に方はいくつもあるだろう」


バルドゥスも同調した。


「俺たちに対する、最後の嫌がらせみたいなものじゃないのか?」


レオンの言葉に、


「……そうかもしれません。ただ、どうしても引っかかります」


答えながらも、クロードの思考は止まらなかった。


ミスを犯し、捕まった己への罰。

あるいは、内通者へ向けたメッセージ。


その様子を眺めつつ、


「結局……名前ひとつ聞きだせず、共同墓地に奴の遺体が増えただけだ」


バルドゥスが口を開く。


一歩前進したかと思えば、また道が閉ざされる。


その現実が、思考を重くする。


「朝から暗い話ですまなかったな。そろそろ営業時間だろう?」


バルドゥスは立ち上がり、


「まあ、何か気づいたなら報告してくれ」


いまだに思案し続けるクロードに声をかけ、ギルドへと戻っていった。




なんともすっきりとしない時間が続き、

一日があっという間に過ぎていく。


そろそろ営業を終了しようかというそのとき――




カン!カン!カン!カン!カン!カーン!

カン!カン!カン!カン!カン!カーン!

カン!カン!カン!カン!カン!カーン!



早鐘が六回ずつ、三度にわたって鳴り響いた。




「南門方向で魔物発生の合図です!」


クロードの言葉に、【S.O.M.P.O. ジャン】に緊張が走る。


「マールさん、リーリス! 重症者に備え、ミドルポーションを十本用意してください!」


二人は頷き、保管場所へ急ぐ。


その姿を確認すると視線を移し、


「エリナ、あなたにはこの場の指揮をお願いします」


その大役を託した。


「えっ……」


一瞬耳を疑う。


通常時ならばともかく、この非常時に指揮を任されるとは思っていなかった。


しかし、クロードは本気だった。


その証拠に、


「これを、あなたに託します」


手渡したのは、


「【真贋の宝玉】……」


まだ木箱の中、布に包まれた状態。

それでもその“重さ”に、心が悲鳴を上げる。


その心情を読み取り、クロードはエリナに語りかける。


「大丈夫ですよ」


一言。


優しく、絶対的な自信に満ちた眼差し。


見覚えのあるその顔とセリフに、“あの日”の記憶がよみがえる。

レオンが初めて鞭を手にし、英雄となった――あの日と同じ顔だった。


「あなたはもう、わたしなどいなくても【S.O.M.P.O. ジャン】をまとめられるだけの能力を持っています」


クロードの表情は、ずっと優しいまま。

エリナはそんなクロードの言葉を、一言も聞き逃さないよう耳を傾ける。


「通常業務も非常時も、やるべきことは変わりません。あなたが正しいと思ったことをやればいい」


だから、その言葉が素直に沁みる。


「――できますね?」


クロードの言葉に、


「――はいっ!」


エリナの目が、ようやく光を宿し、前を見た。


クロードは満足そうに頷き、言葉を続ける。


「二人が帰ってきたら、最悪の場合はここに泊まることも考えて、食料など必要なものを買い出してもらいましょう」


「負傷者が出たとしても、ここへ運ばれてくるまでには、まだ三十分ほどあるはずです」


そう言って、金貨を十枚手渡す。


「わかりました」


受け取り、クロードを見るエリナ。


「それで……クロードさんはどうするんですか?」


この非常時に、離れる理由が知りたかった。


「わたしはギルドに行って、バルドゥスと合流します。魔物発生の原因を調べ、再発を防ぎます。保険の責任者として、事故を未然に防ぐのがわたしの役目です」


「わかりました。わたしも、自分の務めを果たします!」


それぞれの戦いが今、始まった。




「クロードさん!」


ギルドの窓口に着くなり、ケイティーの声が響く。


「バルドゥスの居場所と状況は!?」


端的に聞くと、


「ギルド長はまだ控室にいます! 南の共同墓地に、魔物の群れが“発生中”です!」


“発生中”という言葉に違和感を覚えながらも、クロードは頷き、ギルド長控室へ向かった。


「来たか、クロード!」


ロングソードと帳面一式を携え、今にも部屋を出る勢いのバルドゥス。


「これから馬車で現場に行く! 来るか!?」


「もちろん!」


応え、後に続く。


馬車に乗り込むと、


「――やはり、例の遺体がらみだと思うか?」


バルドゥスが口を開き、


「間違いないでしょうね」


クロードが答え、続ける。


「わたしからもお聞きしたいのですが、ケイティーから魔物の群れが“発生中”と聞きました。“発生中”とはどういう意味でしょう?」


その問いに、


「言葉のとおりだ。最初は墓地に地鼠が二匹。それを見た一般人が通報するため街へ戻り、Dランクパーティーが派遣された」


淡々と答える。


「だが、到着したときには十匹を超え、さすがに手に負えないと引き返し、CランクとDランクのパーティーに応援を頼むが、戻ったときには他の魔物も入り乱れ、その数は二十をゆうに超えていたそうだ」


その異常な魔物の行動に、クロードの脳裏に“あの花”が浮かんだ。


「ちなみに、あの鐘が鳴ったときには、さらに倍の数が確認されている」


「そこまでですか……」


予想よりも多い数。


「それで、こちらの戦力は?」


「確認できている限り、Dが六、Cが三、Bが一。今もCランク以上のパーティーに応援要請を続けている」


増え続けることを考えると、いささか心もとない数。


「ちなみに……そのBとCランクに“彼ら”は?」


クロードの願いともとれる質問に、


「ああ、いるぞ。もちろんレオンもだ」


ようやくバルドゥスに笑みがこぼれる。


「そうですか」


なによりの朗報に、クロードも小さな笑みを浮かべる。


それでも、まだ油断できる状況ではない。


おもむろに立ち上がり、クロードは揺れる馬車の中で着替え始めた。


「急にどうし……た……」


突然の行動に、その理由を問いかけようとしたバルドゥスの口が、開いたまま止まる。


全身黒に統一されたその服には金の刺繍がちりばめられており、その顔にも同じ色の仮面がつけられる。


その意匠はまるで、黒龍が翼を広げたかのよう。


目元から鼻先までを仮面で覆い、雰囲気まで一変したその姿に、正体を知るバルドゥスでさえ、クロードとは思えなかった。


「必要と判断したときには――わたしも出ます」


すっかり別人のような存在感を放つクロードに、


「――いいのか? おまえは、直接手を出さないものと思っていたんだが……」


バルドゥスの言葉に、


「……たしかに、そのつもりでした。彼ら自身の力で無意味な死を防げるようになるために、わたしの力は妨げになると思ったからです」


その理由を説明し始める。


「けれど、“あの花”が絡むならば――わたしも遠慮はしません」


瞳に、決意を宿す。


「あってはならない力で攻めてくるならば、あるはずのない力を使うことを、もう、ためらいません」


バルドゥスに誓う。


「……そうか」


その誓いにバルドゥスも立ち上がり、動きの止まった馬車の扉を開け、再びクロードを見る。


「ならば、その力でやつらを……いや、この街を救ってくれ」


ギルド長として、そして領主代行としてその頭を下げた。


「――必ず」


返事と共に、クロードは馬車を降りる。

雄たけびと土煙の立つ大地に今――【仮面の英雄】が降り立った。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、鐘の音に導かれ、姿を現す。


――S.O.M.P.O. ジャン


剣と魔法の世界に、仮面の英雄が舞い降りる。


その一歩が、悪意との戦いを静かに告げた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


少しでも面白いと感じていただけたら、

評価やブックマークをいただけると励みになります。


※毎週水曜日21:00更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。