↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/56

第五十話 手にしたもの - 仲間と希望 -

草むらをかき分けながら森を進むアイラは、

木々の隙間から、一筋の光が差し込む場所を見つけた。


その光に照らされた草が小さく揺れたのを感知し、

姿を見ることなく、アイラは弓を構え矢を放つ。


――ピィッ!


姿よりも先に悲鳴が響き、

アイラは周囲を警戒しながら仕留めた獲物を確認する。


「――凄い!」


後方でその姿を見ていたクレインが感嘆の声を上げた。


声こそ上げなかったが、ルーカス、ジルも同様の表情を見せていた。


「……わたしの狩りはいつもこんな感じだけど、これで良かったのかい?」


あの会議の翌日、クロードの提案通り【リターンライン】に同行し、

ルーカスの願いで普段の狩りの様子を見せることとなった。


「はい、ありがとうございました」


結果は、午前中だけで角ウサギ五匹。

そのうち二匹は、姿を確認する前に仕留めていた。


予想以上の察知能力に、ルーカスの戦略の幅が無限に広がっていく。


「午後はぼくたち三人が動きます。アイラさんはぼくたちの動きを確認してください」


ルーカスの言葉に頷くと、

アイラは手に持った角ウサギの解体を始めようとナイフを取り出す。


それを見たクレインが、


「あっ、アイラさん、俺やりますよ」


申し出て、アイラから角ウサギを受け取る。


「えっ……ああ、すまないね……」


純粋な心の申し出に、慣れないアイラは空返事をする。


そして、クレインの解体作業を無意識に目で追った。


「……ずいぶん丁寧なんだな」


想像していない丁寧な手さばきに、

思わず声が出た。


「ぼくたち三人とも、クロードさんの提案で、解体屋で勉強させてもらったことがあるんです」


解体する手は止めず、


「それに、どうせなら高く買い取ってもらいたいじゃないですか」


顔だけを向けて笑った。


「そうか……いや、そうだな……」


アイラも笑顔を返し、いつまでもクレインの作業を見つめていた。




その日の夕方。


解散し、アイラはクロードのもとを訪れた。


「お待ちしていました。こちらへどうぞ」


【S.O.M.P.O. ジャン】控室へ案内し、

クロードは飲み物を手渡すと席へ着いた。


「――それで、彼らはどうでした?」


単刀直入に聞くと、


「……いろいろと驚かされた」


アイラの言葉と表情に、クロードの顔が緩む。


「わたしが女性であることを気にはかけてくれても、軽視する子は一人もいなかった」


クロードは静かに聞いている。


「解体も丁寧だし、戦略も緻密だった。とにかく連携が凄い」


その言葉に、だんだんと熱が入る。


「中でも、あのルーカスという少年だ。あの子が敵をうまく誘導しつつ、二人のいいところを引き出していた」


アイラの答えに、クロードは次の言葉を決めた。


「それでは、このまま【リターンライン】に正式加入なさいますか?」


その問いに、熱の入っていたアイラの体が、一瞬にして凍り付く。


「……わたしなんかが入ったら、足を引っ張るだけじゃないか?」


【リターンライン】にはクレインという弓の使い手がいる。


それに、あれだけ連携が取れているパーティーに、自分が入って崩れてしまうのは惜しい気がする。


――自分には圧倒的に筋力が足りない。

だから、威力がなくても狩れる、角ウサギのような小さな魔物を狙っていた。


あの素晴らしいパーティーのお荷物になることだけは、

自分が許せない。


その心情を読み取り、クロードが口を開く。


「あなたは、自分を過小評価しすぎです」


その一言に、アイラの意識が揺らぐ。


「【リターンライン】に、あなたは絶対に必要な人材です」


断言し、続ける。


「彼らは純粋で努力を惜しまず、優秀なパーティーです。しかし、あらゆることの経験が足りない」


そこに異論はなかった。


「他者の悪意を感じ取る経験も乏しく、危険察知能力が身についていません」


確かに、森の中で自分が感じ取った魔物に、気づいていないケースが多かった。


「それに引き換え、あなたはそういう経験を多くしてきたはずです」


身に覚えのある指摘に、アイラは顔を歪める。


「……この世界の冒険者は、まだまだ男社会です」


その言葉に耳を傾け、


「少数派で非力な女性は、どうしても軽んじられたり、奇異の目で見られやすい」


アイラは自身の経験と重ね合わせる。


「けれど――」


クロードがそこで言葉を区切ると、アイラは顔を上げた。


「工夫と仲間次第で、女性でも十分やっていけるのだと、あなたに証明してほしい。そして、女性冒険者の希望になっていただきたい」


それはクロードの、心からの願い。


「そのための援助は惜しみません」


その言葉と共に、クロードはアイラにあるものを手渡す。


「……これは?」


布にくるまれた大きなそれを聞くと、


「わたしの考える、あなたに最も相応しい武器です」


答えと共に、布の中から見たこともない形の武器が姿を現した。


短い弓を横向きにしたような、不思議な構造。


その緻密な構造に、美しさと共に、怖さも感じた。


「この世界にはまだ存在しない、新しい武器です。名は――【クロスボウ】」


「クロス……ボウ……」


名を反芻し、

不思議な形をしたそれを、いろいろな方向から眺める。


「その武器は弓のようにすばやい連射はできません。装填に時間がかかるからです。けれど、それを補って余りある威力を発揮します」


“威力”という言葉に、アイラが反応する。


「あなたが最も自分に足りないと感じていたものは、この武器が解消してくれます」


見抜いていたクロードの言葉に、アイラの中へ希望の光が差し込んだ。


「あとは、あなたの危機察知能力と経験を、【リターンライン】で活かせばいい。連携など、ルーカスがきっと今以上に素晴らしいものにしてくれます」


微笑み、断言した。


「その武器は、ホークに作ってもらった試作品です。使用感を教えていただくことと、女性冒険者の希望になっていただきたいという、わたしからの支援を兼ねて、今回は無料でお渡しします」


「えっ!?」


驚き、思わず声が出る。

が、クロードの言葉は止まらない。


「丁寧な扱いをすれば数年は持つと思いますが、値段をつけるならば金貨三十六枚だそうです。それとは別に、弦は数カ月から一年程度で張り替えが必要です」


「……金貨……三十六枚」


今の自分にはかなり難しい金額。


だが、今まで狩れなかった大型の魔物を倒せるようになるのならば、決して無理でもない額。


「もう一度言いますが、あなたは【リターンライン】にとって必要な人材です。まずはこの武器を使い、あなたが自分の価値を自分で確認することをお勧めします」


クロードの言葉に、アイラは真剣な目で頷いた。




翌日。

昨日と同じ場所に狩りに来た【リターンライン】。


「――しっ!」


嫌な気配を感じ取ったアイラが仲間を制す。


そして風上から流れる風に、敵の正体を知る。


「……まだ見えないが……〈突牙の藪荒らし猪(Cランク・ボア=ランベル)〉だと思う」


アイラの言葉に、


「”藪猪”か……Cランクなら回避だな」


ジルの言葉に、


「いや、待ってくれ」


アイラが懐から一枚の紙を取り出す。


「クロードさんからこの武器をもらった時に、一緒に渡されたんだ」


そこに書かれていたのは、条件付きの許可証だった。


「上位の魔物でも、条件付きで討伐が認められてる。”藪猪”なら強襲が条件だ」


それを見たルーカスが一瞬考え、即座に決断する。


「やろう。クロードさんが許可するってことは、“できる”と判断したからだ」


その言葉に全員が頷き、作戦を練る。


強襲をアイラ。

第二射をクレイン。

突撃してきたら薙刀で脚を狙い、

敵の状態に応じて、ジルが剣で斬るか盾で防御。


それぞれの役割を確認し、対象へと近づく。


その距離、約二十メートル。


姿を確認し、対象の右斜め前あたりへと移動する。


狙うは左前脚の付け根から、拳一つ後方。

心臓や肺を貫くイメージ。


指でクレインに合図を出すと、アイラは【クロスボウ】を構え――撃った。




――ブギャアァッ!




矢は狙い通り、左前脚の付け根の後方へ深々と突き刺さった。


巨体が大きくのけぞり、”藪猪”が絶叫する。


森が震えるような悲鳴だった。


それでも、見えない敵を探して数歩踏み出す。


だが、その脚はもつれ、

巨体が大きく揺らいだ。


顔を背け視界に入らないタイミングで、クレインの第二射が入る。


今度は小さな悲鳴が聞こえ、さらに数歩進んだところで倒れこんだ。


口から血の混じった息を漏らし、戦闘不能なのは明らか。


「……ジル、とどめを頼む」


せめて苦痛の時を短くしようと、アイラが懇願する。

ジルは頷き、矢が刺さった近く、心臓を一突きした。


大量の血が溢れると、やがて、その動きが止まった。


「……凄い威力だな」


心臓に刺さった矢を見て、クレインがつぶやく。


自分の二射目よりも、アイラの一撃の方が深く入り込んでいた。


その言葉に、


「確かに凄い威力だけど……次を撃てるようになるまで時間がかかるんだ」


一拍置き、


「弓のように連射はできないから、一人じゃ、とても扱いきれない」


アイラは現状を正直に伝えた。


「なら、このまま正式にパーティーに入ればいいんじゃない?」


ジルが不思議そうに提案する。


まるで、そんなことは悩みにすらなってないと言わんばかりだった。


「――わたしなんかで、本当にいいのかい?」


あまりに簡単な答えに、クレインとルーカスを見る。


ジルだけでなく、クレインとルーカスも笑顔で迎え、


「アイラさんが入ってくれれば、ぼくたちも心強いです。よろしくお願いします」


言葉と共に、ルーカスは右手を差し出した。


女だからと、何度もパーティー加入を断られてきた。


仲間になれても、待っていたのは雑用と下卑た視線ばかり。


だからこそ――差し出されたこの手が、信じられなかった。


その手を、アイラは万感の思いで握る。

さらにその手に、ジルとクレインの手が重なった。


もうそこに――自分を卑下する女性冒険者の姿はなかった。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、重なるその手に希望を見た。


――S.O.M.P.O. ジャン


剣と魔法の世界に、静かに芽吹く、新たな可能性。


足りないものを補い合い、


未熟な冒険者たちは今、互いを信じ、未来への一歩を踏み出した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


少しでも面白いと感じていただけたら、

評価やブックマークをいただけると励みになります。


※毎週水曜日21:00更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。