第四十八話 称される者達 - 英雄と勇者 -
メルが孤児院で暮らすようになり、一週間が過ぎた。
「リーねえちゃん!」
笑顔で駆け寄るメルを抱きしめ、
「元気にしてたか、メル!」
リーリスが笑顔を返す。
そこに集まる、リーリスを慕う孤児たち。
「おー、みんなも元気そうだな!」
賑やかになった部屋の片隅で、ケイティーとレオンが佇んでいると、
「おや、今日は三人もお客さんかい」
アルシアが笑顔で飲み物を運んできた。
「アルシアさん!」
アルシアに会いたかったケイティーが駆け寄り、
「本当に来てくれたんだね」
アルシアが嬉しそうに応えた。
「これは、クレインからの頼まれものだ」
その二人に近づき、レオンが大きな革袋を渡す。
「練習で山鳥が獲れたから食べてくれだとさ」
「クレイン?ああ、オーリの弟子の子かい。あの子も頑張ってるんだね」
すぐに思い出し、
「“ありがとう”と伝えておくれ。オーリにも話しておくよ」
「わかった」
簡単に返事をし、レオンはまた部屋の隅へと移動した。
昼休みと特別許可を利用した三人の来訪目的は、メルの状況確認。
その懸念は完全に払しょくされた。
部屋中に溢れる、笑顔と笑い声。
(……ああ、こんなにも変わるものなのか……)
リーリスが加入して間もない頃、レオンは一度、ここを訪れたことがある。
そのときは静かな、少し重たい空気が漂っていた。
(……少しの善意の積み重ねが、こんなにも人を幸せにできる……)
その事実が、レオンの心を打つ。
同じことをやる必要はない。
リーリスは頻繁に顔を出すことで安心を与え、
クロードは寄付という形で土台を支え、
クレインは食料を渡し生活を支えている。
(……俺にできることは、そんなみんなを守ることだ……)
新たな目的を付け加え、レオンはこの幸せな空間を心に焼き付けた。
【S.O.M.P.O. ジャン】への帰り道。
そろそろ到着しようかという頃、
「あっ、レオンだ!」
十二、三歳ぐらいの少年がレオンを指さす。
街の英雄となったレオンにとって、それは日常茶飯事と言ってもいい出来事。
「おい、馬鹿。指をさすな」
それを窘める、父親らしき冒険者。
「それに、レオンじゃねえ、レオンさんだ!」
子供の頭を軽く叩く。
「いってえなあ!」
その様子を微笑ましく思い、
「レオンで構わないぜ。なあ、坊主」
子供の方を向き、ニッと笑った。
「かっこいい!――やっぱり英雄は違うよな!」
その姿に目を輝かせ、少年はレオンと父親を見比べる。
「それにひきかえ、父ちゃんなんて万年Dランクだもんな」
打って変わって落胆の表情を見せると、父親はバツが悪そうに頭を掻いた。
「ぼくぅ、Dランクの冒険者だって凄いのよ」
ケイティーが助け舟を出すが、
「え――っ、父ちゃんなんか凄くなんかないよ――」
「いっつもおどおどしちゃってさ――」
年頃の少年には通用しなかった。
「ねえ、握手してよ!おれ、ハンズ!」
父親のことなど気にもかけず、ハンズが右手を差し出す。
「ああ、いいぜ。よろしくな、ハンズ」
笑顔で応え、頭を下げて遠のく親子の姿を見送った。
「英雄も大変ですね」
本気なのか、それともからかいなのか。
どちらともとれる表情でケイティーがつぶやくと、
「なに、悪い気はしないさ」
「それに……その姿に見合う人間になろうと、俺も頑張れる」
本音だった。
人を作るのは、人だ。
ルーカスが、オーリが、そしてなにより自分自身が。
【S.O.M.P.O. ジャン】と、クロードと出会い、それを証明している。
「……そういうものなんですね……」
思い当たる節のあるケイティーが、少し納得した顔で返事をした。
【S.O.M.P.O. ジャン】窓口まで戻ると、マールが冷たい飲み物を用意してくれた。
ケイティーがそれをゆっくりと楽しみ、いよいよギルドへ戻ろうとしたそのとき――
「レオン!」
息を切らせた少年――ハンズがその名を叫んだ。
ただならぬ声と表情に、レオンだけでなくクロードも顔を出す。
「街の近くに、〈裂爪の洞狼(Bランク・フェン=グラディオ)〉が出たって!」
「それも――二匹も!」
その叫びに、
「洞狼だと!?馬鹿言ってんじゃねえ!奴はこんなとこまで来たことねえぞ!」
近くにいた冒険者の一人が叫び返す。
「でも、街の出入口辺りじゃもう、見たって人がたくさんいて大騒ぎになってるんだ!」
その言葉にざわめきが走る。
「レオン!父ちゃんを助けて!」
「なに!?一緒じゃないのか!」
洞狼の出現以上に驚いた。
「最後に逃げ込んできた人が、小さい女の子が乗ってる馬車が狙われてたって言ったら、父ちゃんが俺にギルドへ報告しろって言って、助けに行っちゃったんだ!」
それを聞いていた近くの冒険者が、
「あいつの父親って、ベルゼンだろ……」
「あいつDランクじゃないか。絶対に勝てっこない」
絶望の声を上げた。
それを聞いたハンズが涙目になる。
「――くそっ!」
救出に向かおうとするレオンを、
「待ちなさい!」
クロードが止める。
「言うまでもありませんが、あなたの戦いは対人間に特化したものです」
「おそらく、鞭もあまり役には立ちません……それでも、行きますか?」
それは、命を懸けた選択。
エリナの表情に、濃い不安の色が浮かぶ。
「……行く。ここで行かなかったら、必ず俺は後悔する――」
レオンのその覚悟に、
「……わかりました。少しだけ待ちなさい」
クロードが折れる。
そして控室から持ってきたそれをレオンに渡す。
「これは――!?」
受け取ったのは、籠手と拳を覆う武器が一体化したかのようなもの。
拳の部分に、半球状の突起物が正方形を形作るように四か所並べられており、
薄く硬い金属が何層も重なり、腕から指先一本一本までを覆いつくしている。
「……本当はずっと先に渡す予定でしたが、対魔物用の装備です」
クロードの話を聞きながら、レオンはそれを装着する。
「時間がないので簡潔に話します」
「狙うのは鼻先、目、喉、関節です。力では敵わないので、一撃で倒そうとせず、避けながら重ねなさい」
必要最低限の助言を行い、最後に一言。
「――必ず、生きて帰りなさい」
「わかった!」
返事をし、レオンが飛び出す。
それを見たケイティーが、
「わたしはギルドに報告して、冒険者を派遣します!」
簡潔に告げ出ていった。
「わたしは治療院に声をかけてくるよ!」
ケイティーを見送り、マールも続く。
「エリナ、リーリス。窓口をお願いします。わたしはハンズを連れて、出入口まで行ってみます」
「わかりました、お願いします!」
心配を呑み込んで、エリナが気丈に返事をする。
全員が、今できる最善を尽くそうと動き出した。
「――状況は!」
街の出入口まで辿り着き、レオンが叫ぶ。
「冒険者が単独で向かった後、五分ほど遅れて【守護者の願い】が出ていった!」
「それからもう十分以上経ってる!」
応える門兵に、
「方向と距離は!?」
知りたい情報だけを聞き、
「目撃されたのは馬車で十分ほど走った、腰かけ石の交差点を左に曲がったあたりだ!」
指さされた方向を確認する。
「行くなら、この馬を使ってくれ!」
追跡用に常備させ始めた馬を、門兵の一人がレオンに託す。
「――すまん!俺たちじゃ助けられない!」
その無念の言葉に、
「任せろ!」
一言応え、レオンは馬を走らせる。
馬車なら十分ほどかかる距離を、三分ほどで駆け抜け、腰かけ石の交差点に差し掛かる。
情報通り左に曲がり馬を走らせると、
(……いた!……)
レオンが見たのは、洞狼と向かい合う【守護者の願い】の姿。
「トーマス!」
レオンが叫ぶと、トーマスは振り返らずに、
「レオンか!?」
声だけで確認した。
洞狼は油断のできない相手。
とても目をそらすことなどできなかった。
「加勢する!」
レオンのその言葉に、
「いや、先に行ってくれ!」
「小さい女の子が逃げ出し、ベルゼンという冒険者が単独で保護に向かった!」
「少ししてその後を、別の洞狼が現れて追いかけていきやがった!」
悔しさをにじませるトーマスの言葉に、
「――死ぬなよ!」
一声かけ、レオンは馬を走らせる。
「おまえもな!」
背中から聞こえる声に、
「おう!」
短く返し、進む。
(……どこだ!……)
相手は洞狼。
ただでさえDランク冒険者が一人で勝てる相手ではないのに、小さな女の子までいるという絶望的な状況。
焦る気持ちを必死に抑え、レオンはクロードを思い浮かべる。
(……こんな時、クロードなら……)
その考えに至り、それまで洞狼の姿だけを探していたレオンが、ハッと気づき周りを見渡す。
(……これだ!……)
クロードなら、いろいろな方面から探し当てる。
レオンは地面の荒れ具合を確認し、ある一点の違和感に気づいた。
それまであった足跡のようなものが、急に途絶えていた。
レオンは馬を降りると、道を逸れ森に入る。
駆けること、ほんの一分ほど。
「――なっ!」
レオンの目に映ったものは――
血まみれのベルゼンの姿。
そして――
その眼前で事切れている、洞狼の姿だった。
「ベルゼン!」
駆け寄り、生死を確かめる。
「……レ……オン……」
辛うじて息のあることを確認すると、レオンは手持ちのミドルポーションを迷わず使う。
「しっかりしろ!」
ミドルポーションの効果で傷は塞がったはずだが、ベルゼンの意識は混濁したまま。
「――ハンズを連れてくる!死ぬなよ!」
この状態での搬送はより危険と判断し、レオンは洞狼が間違いなく死んでいることを確認し、来た道を戻る。
最善の策は、馬車を使いクロードを連れてくること。
そのために、取るべき最善の策は――
「ゼンティス!ハンズとクロードを馬車で連れてきてくれ!」
「洞狼は死んでる!ベルゼンが倒したらしいが、重傷で死にかけてる!」
その言葉に、
「倒した!?Dランクが一人で!?」
トーマスが驚きを見せる。
「ああ……凄いやつだ!」
馬を降りゼンティスに託すと、
「こいつは、おまえが戻るまでに俺達が倒す!」
誓い、駆け出す。
「行け!」
レオンの言葉に頷き、ゼンティスが馬を走らせる。
同時に、レオンが鞭を振るう。
空を裂くその破裂音に、しかし、洞狼は怯まない。
(……やはり駄目か……)
何かに執着するようなその目が、恐れを感じさせない。
レオンはすぐに鞭でのダメージを諦め、クロードの教えを忠実に実行する。
「ジャミール!もしやつの体勢が大きく崩れたら、とどめを頼む!」
自身は洞狼に向かいながら、年若い剣士に声をかける。
「わかりました!」
背後から確認の言葉を受け取り、正面から襲い来る洞狼の攻撃を横に交わす。
(……なるほど、確かに――早い!……)
人とは比べ物にならないその突進力。
そして、迫力。
だが、“あの男”に比べれば、絶望的になるほどの相手ではない。
「トーマス、ルーウェン!やつがここから移動しないよう、前後を固めていてくれ!」
敵の逃げ道を塞ぎ、集中する。
返事すら確認することなく、
再度襲い来る、洞狼の右前足の攻撃をかわし、
「はっ!」
その足の付け根を打ち据える。
一見何のダメージもないように見えるが、
レオンの拳には確かな感触が残っている。
(……この突起に、力が集中しているのか……)
拳に付けられた四つの半球状の突起。
その役割を体験する。
(……ならば!……)
やることは一つ。
愚直なこの作業の繰り返し。
避けては殴る。
これを三度、同じ場所へ繰り返すと、洞狼の攻撃が右から左に変わる。
「――効いたんだな!」
それを避けると、レオンは攻撃を鼻先に変える。
――グァッ!!
短い悲鳴を上げ、天を向く。
明らかなその隙に、
レオンは横へ移動すると、重ねた洞狼の右肩に渾身の一撃を加える。
悲鳴と同時に、洞狼が右へ崩れる。
「ジャミール!」
叫ぶと同時に、洞狼の目に狙いをつけた一撃を加え、
ダメージと同時に完全に転ばせる。
「うぉぉおおお!」
そこへ、駆け寄ったジャミールの大きく振りかぶった長剣が、洞狼の首を切り裂いた。
大量の出血を確認し、やがて動かなくなる。
「――やった……」
確かな手ごたえに、ジャミールの手が震える。
Bランクの魔物にとどめを刺すのは初めてだった。
その気持ちを推し量りながら、それでもレオンは叫ぶ。
「トーマス!俺はベルゼンの元へ戻る!」
「ゼンティスがクロード達を連れて来たら誘導してくれ!」
そして、ルーウェンとジャミールを伴いベルゼンの元へ走る。
森へと逸れる場所にジャミールを残し、
ルーウェンと共にベルゼンの元へたどり着く。
「ベルゼン、しっかりしろ!」
ほぼ意識のない白い顔に、ルーウェンの顔が歪む。
「ハンズが来るぞ!」
レオンの言葉に、指先だけが反応した。
「死ぬんじゃねえぞ!」
その叫びは、願いだった。
助からないことは、レオンもわかっている。
辺り一面血の海の、それほどの出血量。
ポーションは傷を治しても、血液までは戻らない。
誰よりも、自分がそれを経験している。
そしてあの日、同じ状況でエリナに会えた喜びを、
意識のほとんどない中でも感じていた自分がいる。
だからこそベルゼンにも、
ハンズの温もりの中で逝かせてやりたかった。
「――向こうです!」
微かに聞こえたジャミールの声。
同時に近づく、複数の足跡。
トーマス、ゼンティスが先行し、
遅れてクロードとともにハンズが駆けてくる。
「父ちゃん!」
泣き顔のハンズが見たものは、
血まみれの父親と、横たわる洞狼の姿。
「ハンズ!手を握ってやれ!」
言いながら、レオンはクロードを見る。
一縷の希望に、しかし、クロードは首を振る。
わかっていた、その答え。
落胆する間もなく、父親の手を握るハンズの姿を見て、
「ベルゼン!ハンズだ!ハンズが来たぞ!」
レオンは叫び、ベルゼンの肩を掴む。
「父ちゃん!」
呼応するようにハンズがその名を呼ぶと、
「……ハ……ンズ……?」
うっすらとした意識の中でベルゼンが応える。
「……来て……くれた……のか……」
誰もいない虚空を見つめ、なんとか言葉を紡ぎだす。
「……おれ……は……しあわせ……だ……」
そう言って、涙を流す。
「……おまえも……しあわせ……に……なるんだ……ぞ……」
「わかった!わかったよ、父ちゃん!」
応え、握る手に力を込める。
その温もりに笑みを浮かべ、ベルゼンは動かなくなった。
「……あっ……あ……」
「父ちゃぁぁあああん!」
その叫びに、
大人たちは顔を歪め、時だけが無情に流れ続けた。
しばらくして唐突に、ルーウェンが気づく。
「――女の子は!?」
言われて、ほとんどの者の顔色が変わる。
「そうだ!女の子はどこだ!?」
トーマスが叫び、辺りを見渡す。
しかし、その影は見当たらない。
いまにも森へ駆け出しそうなトーマスに、
「――待ちなさい!」
クロードがベルゼンを見つめたまま声をかける。
無言のままベルゼンと洞狼を見比べ、
何かに気づき驚きの表情を見せる。
「……そういうことですか……」
その声は、畏敬の念に溢れていた。
「なんだ!?何がわかったんだ!?」
初めて見るクロードの表情に、トーマスが驚き、答えを求める。
だが、クロードはトーマスの問いには応えない。
かわりに、ハンズの両肩に手を置いた。
「……あなたのお父さんは、すばらしい冒険者です」
クロードのその言葉に、ハンズは首を振る。
「……父ちゃんは凄くなんかないよ……」
いつもおどおどしていて、万年Dランクの冒険者。
好きではあるけど、自慢の父親ではなかった。
だが、クロードはそれを否定する。
「いえ……あなたのお父さんは、勇者です」
その言葉に、ハンズは再度首を振る。
「勇者はレオンだ。父ちゃんじゃない」
その言葉に、三度クロードは否定する。
「いえ、レオンは確かに英雄です。勇気を持ち、すばらしい結果を残した、本物の英雄です」
「けれど――あなたのお父さんもまた、間違いなく勇者です」
繰り返される言葉に、ハンズがクロードの顔を見る。
「……勇者とは、勇気ある行動をする者です」
ようやく耳を傾け始めたハンズに、クロードは言葉を重ねる。
「街の出入口で洞狼の出現を聞き、女の子の馬車が狙われていると知って、大勢いる冒険者の中で、たった一人行動したのがあなたのお父さんです」
その言葉を、必死に理解しようとする。
「そして、その女の子を守るために、あなたのお父さんはたった一人でこの恐ろしい魔物に立ち向かいました」
洞狼の亡骸に視線を移し、ハンズが父親を見る。
「強い魔物を倒したから勇者なのではありません。自分よりも強い相手であっても、守るべきもののために立ち向かう勇気をもっていたから、あなたのお父さんは勇者なんです」
その言葉に、ハンズに別の涙が溢れる。
「さらにすばらしいのは――」
そこで言葉を区切り、クロードはベルゼンの元へ歩みを進める。
「……この縄が意味するものです」
言って、ベルゼンの体に巻き付いている一本の縄を手に取った。
「……なんなんだ、その縄は?」
わからずにトーマスが問うと、
「この縄は、ベルゼンの女の子を守ろうという意思そのものです」
クロードは縄の先を追う。
背後の石のさらに後ろにある木に、縄が結ばれていた。
その結び目をトーマスに解かせる。
「この縄は、自分が死んでもこの場所を離れないというベルゼンの意思です」
その言葉に、
「――まさか!」
ようやくルーウェンが気づく。
驚愕するルーウェンに頷き、クロードはベルゼンの体を丁重に移動させた。
「「「なっ!?」」」
その背後、石の隙間に、気を失っている女の子の姿が現れる。
「……彼は、たとえ自分が死んでも女の子を守ろうと、自分の体を固定したのです」
その覚悟に、その場の全員が息をのむ。
「しかも彼は、決して生を諦めたりしていません」
「洞狼の爪を受け、大量出血で動けない中、とどめを刺そうと噛みつきに来た瞬間、左手に持った短剣を口腔内に突き立て倒したのです」
もはや、クロードの言葉に異を唱えるものはいなかった。
「何度でも言います。あなたのお父さんは、本物の勇者です」
「誰が認めずとも、あなただけは――その真実を、認めてあげてください」
それは願いだった。
そして、確かにその願いは、ハンズの心に突き刺さった。
ベルゼンの活躍は、数日の間に辺境の街【オーダリー】に広まった。
ある者は悔やみ、ある者は訓練に励み、ある者は涙を流した。
そして、孤児院には二人の孤児が増えることとなる。
一人はハンズ、もう一人は、ベルゼンが救った女の子――ルルー。
レオンが訪れると、ハンズはレオンに誓いを立てた。
「……父ちゃんが守ったルルーを、今度はおれが守るよ」
その言葉に、レオンも誓いを立てる。
「なら、おまえたちは俺が守る。約束だ」
拳を合わせ、二人で笑った。
帳面の裏表紙に刻まれた名が、一人の勇気に敬意を捧げる。
――S.O.M.P.O. ジャン
剣と魔法の世界に、力ではなく、勇気によって成し遂げられるもの。
人は弱くとも、誰かを守るために立ち上がったその瞬間――
確かに、勇者となる。
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