↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/56

第四十六話 影の襲撃者 - 悪夢と救い -

草原で弓の練習をするクレイン。


狙うのは、五十メートル先の山鳥。


教えられた通りに足を開き獲物を見据える。


心を落ち着かせるために深呼吸をし、まだ弓を構えない。


一段高い崖の上。


辛うじて姿を確認できるほど遠い場所から、

オーリはそんなクレインを見つめていた。


その視線の端に、

濃い影を作る木々の下で佇む、人型の影が動いた。


(……なんだ、あいつは?……)


ゆっくりと、だがよどみない静かな動き。


その動きが、クレインと繋がった。


(……まさか……)


山鳥を狙うクレインの、さらに後方に位置する人型の影。


山鳥を狙うには、あまりに遠い位置。


――だが、人を狙うには十分すぎる距離。


「逃げろ、クレイン!」


オーリが力の限り叫ぶ。


だが、あまりの遠さにその声は届かない。


代わりに、人型の影が笑ったように見えた。


「――逃げろぉぉおお!!」


オーリの叫びに呼応するように、クレインの弓から矢が放たれる。


そして、

その矢が山鳥に命中すると同時に――




音もなく……崩れ落ちるクレイン。




その首に――刺さる、一本の矢。


その光景を見たオーリがその場で力なく膝をつく。


ほぼ同時に、人型の影が振り向き、オーリに向かい歩みを進める。


少しずつ日差しに近づき、薄くなる影。


とうとう、影が日差しの中へ一歩踏み出す。


そこにあったのは、

醜悪な笑みを浮かべた男の顔だった。


「おまえは――!」


見間違えるはずがない。


血に濡れ、

狂ったように笑っていた、

あの男。


そしてオーリの喉から、絶望の叫びが漏れた。




――ヒューリ!!




「――はっ!……」


大量の汗と共に上半身を起こし、オーリは両手を眺める。


「……大丈夫かい……ぼうや?」


隣で眠るアルシアが、心配そうに声をかける。


「はっ……はは……」


自虐的な笑みを漏らし、震える手をいつまでも見つめる。


そんなオーリを、アルシアは無言で抱きしめた。


(……ああ……)


その温かさが、震えるオーリの呼吸を整える。


数十秒のその幸せが、オーリに生きる理由を思い出させた。


「……すまない……もう、大丈夫だ……」


オーリのつぶやきに、アルシアが抱擁を解く。


「これが……保険屋の言っていた“罰”か……」


大切なものができた喜びと、引き換えに知る、自らの罪。


「確かに……きついな」


そして突き刺さる、罪悪感と恐怖。


その様子を見ていたアルシアが声をかける。


「オーリ。ギルドの近くに蒸し湯というのがあるらしいじゃないか」


「汗もかいたことだし、気晴らしに行っておいでよ」


優しく微笑み、銀貨を渡す。


「……いや……」


遠慮するオーリに、それでもアルシアは無理やり握らせる。


その笑顔に負け、


「……すまない」


礼を言い、オーリはひとり蒸し湯に向かう。




初めて入った蒸し湯は、なかなかに刺激的な体験だった。


「ぼうず、苦しかったら無理するんじゃねえぞ」


隣に座った男に声を掛けられ、


「へいきだよ、ありがとう」


説明する気力もなく、こどものふりをしてごまかした。


だが、にこやかだった男の顔が一変する。


「――って、おまえ、なんだその傷!?」


指摘され、自身の体を見る。

傷のことなど、気にする余裕もなかった。


「それは矢傷か!?」


問われ、答えに困っていると、


「三か所も……大変だったな、ぼうず」


野盗にでも襲われたと勘違いしたのか、男の声が沈む。


が、オーリはその言葉にふと気づく。


(……三か所?……)


自身の体を確認すると、確かに三か所だった。

最初に受けたはずの、左胸付近の傷がない。


その様子に何かを思い出させたと勘違いしたのか、

男は一度出ていくと、その手にジョッキに入った果実水を二つ持ち込み、


「――飲め、ぼうず……負けるなよ」


一つをオーリに手渡し、自身のジョッキを傾けた。


「……ありがとう」


その心遣いに感謝し礼を言うと、


「おう……何か困ったことがあればギルドに来い」

「俺はCランク冒険者のオルテスだ」


ニッと笑った。


「……わかった。ぼくはオーリ。本当にありがとう」


笑顔で返すと、オルテスは自身の果実水を飲み干し出ていった。


知らない男との他愛のない会話。


それだけのことが、不思議と胸を軽くした。


(……来て……良かったな……)


思わぬ出会いに感謝し、同じくらいアルシアにも感謝した。




孤児院に帰りオルテスとの出会いをアルシアに話すと、

オーリは左胸の傷が無いことについて尋ねてみた。


もしかしたら、あまりの痛みに記憶がおかしいのかと思ったからだ。


「いや、間違いなく四か所だったよ」


忘れるはずもない記憶。


が、ふと気づく。


「そう言えば……あの時“彼”も倒れてた」


「彼?」


アルシアの言葉を反芻し、それがクロードだと知る。


「……なぜ保険屋が……」


答えの出ない問いに、オーリが頭を悩ませる。




その様子を見たアルシアが、答えを求めギルドへと足を運んだ。


「あれ、アルシアさん」


その姿を見たケイティ―が手を振る。


あの時の顔ぶれの中で、一番聞きやすいケイティ―に気づいてもらい胸をなでおろすと、


「そろそろお昼休みなので、少し待っててもらえますか?」


ケイティ―のその言葉に、


「すまないね。待たせてもらうよ」


感謝し、窓際でその時を待った。


「――お待たせしました!」


元気なケイティ―の声に安堵しながら、

アルシアは早速ケイティ―に尋ねた。


「左胸の傷ですか……」


その傷が無いことを聞き、ケイティ―はハッと思い出す。


「――そうだ。クロードさんの矢尻が埋め込まれていた傷の位置だ……」


そのつぶやきに、


「なんだって!?矢尻が埋め込まれてた!?」


あまりのことに驚き声を上げると、対照的にケイティ―は真顔になった。


「……もしかしたらクロードさん、最初からその傷を引き受けるつもりだったんじゃないでしょうか?」


しずかにつぶやき、


「だからその位置だけミドルポーションを使って、他は普通のポーションにしたんだと思います」


アルシアを見る。


「……なんでそう思うんだい?」


その問いに、


「……クロードさん、自分のその傷にポーションを使わなかったんです」


ケイティ―が少し悲しそうに答えた。


「気を失う寸前に……“一般治療をお願いします”って、ポーションを拒否したんです」


最後まで伝えたケイティ―の目に涙が浮かぶ。


「そうかい……そうだったんだね」


あの日のことを思い出し、涙を浮かべたケイティ―を抱きしめ、

アルシアは感謝の言葉を伝えた。


「お役に立てて何よりです!」


少しして元気を取り戻したケイティ―。


あの日のアルシアの姿と覚悟は、

ケイティ―の心に強く残っていた。


だから、少しでも役に立てたことが本当に嬉しかった。


「今度わたしも、孤児院に顔をだしますね!」


手を振るケイティ―に笑顔を返し、アルシアは孤児院へと戻っていった。




その出来事をオーリに伝えると、


「俺の傷を保険屋が……」


思いもしない事実に、オーリの胸が熱くなる。


それほどの覚悟で新しい名を用意してくれていたことに、心から感謝した。


そしてその夜――


オーリは再び夢を見る。


両足をだらりと伸ばし、動かずに座る体。


獲物を狙うクレインに、やはり背後から弓を構える影。


(……だめだ、動け!……)


念じると、傷の無い左腕だけが何故か動いた。


弓を持ち、影を狙う。


だが、矢を番えることができない。


(……あきらめてたまるか!……)


そう念じると、そこに笑顔のアルシアが現れ、矢を持ち、弦を引いた。


(……よし、放ってくれ!……)


願うと、その矢が影を射抜く。


だが、倒れない。


影がその標的をアルシアに変える。


(……やらせない!……)


左腕でアルシアを自身の後方に隠し、身を盾とした。


その時、影のさらに向こうで何かが動いた。


(……クレイン!……)


それは、弓を構え影を狙うクレインの姿。


影よりも早くクレインの弓から矢が放たれ、影が今度こそ消滅した。


(……ああ……俺はこんなにも多くの人間に支えてもらっているのか……)


その事実に気がつき、オーリは悪夢の中に安らぎを見つけた。


(……これからも悪夢は見続けるだろう……)


それは、きっと正しい未来。


(……それでも、俺は生きていける……)


胸はいまも痛む。

後悔もある。


それでも――

あの日のように、ただ壊れるだけでは終わらない。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、影の束縛を解き放つ。


――S.O.M.P.O. ジャン


剣と魔法の世界に、思いやりと感謝の心。


差し伸べられた手は傷を消せずとも、


その痛みと共に、確かに生きていく力を与えてくれた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


少しでも面白いと感じていただけたら、

評価やブックマークをいただけると励みになります。


※毎週水曜日21:00更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。