第四十四話 一つの武器から生まれたもの - 確信と繋がり -
生い茂る木々の間を抜けて走る、三人の少年。
追い来る敵から逃げるように進むと、眼前の景色は一変し草原となった。
「よし、ここで迎え撃とう!」
少年――ルーカスの掛け声とともに、
反転し体勢を整える。
まず、
シュッ――!
クレインが矢を放った。
「――ギィッ!」
甲高く耳障りな悲鳴を上げ、
Dランクの魔物〈黒牙の石叩き猿(クラッグ=エイプ)〉が地面に落ちた。
「よし、残り三体だ!」
ジルが叫び一番前に出る。
草原へ出たことで、
木から降りざるを得なくなった【石叩き猿】が石を拾った。
「石の殴打と黒牙の噛みつきに注意を!」
前衛のジルと後衛のクレインに指示を出し、
ルーカス自身はその中間やや左側、どちらのフォローにも行きやすい場所で戦況を見つめる。
「来るよ!」
【石叩き猿】の位置取りを見て、ルーカスは自身の立ち位置を少しだけ右側に寄せた。
ほぼ縦一直線に近い陣形になると、
【石叩き猿】はジルのみに狙いを定め近づいてきた。
その時――
「――タァァァァアアツ!」
唐突なクレインの叫び。
同時に、ジルは右へ。ルーカスは左へと飛び――
クレインが矢を放った。
「――ギィッ!」
先頭には当たらなかったが、
右後方の【石叩き猿】の右胸に突き刺さった。
「いまだ!」
前後一匹ずつとなった【石叩き猿】に、
ルーカスは叫ぶと同時に突進した。
クレイン目がけて突き進む【石叩き猿】の足をひと薙ぎすると、
バランスを崩して倒れ込んだ。
「――ハァツ!」
そこをすかさずジルがとどめを刺し、ルーカスはもう一匹が近づかないよう薙刀の刃先を眼前に突きつけてけん制する。
「次、いける!」
クレインの声に、
「わかった!合図を!」
言ってジルがルーカスのやや右前に立つ。
基本の位置取りを確保し、
ジルとルーカスが【石叩き猿】を二人の中央に誘導する。
「――タァァァァアアツ!」
再び、クレインが叫んだ。
ジルとルーカスが同時に横に飛び、
シュッ――!
クレインの狙いすました一射が、
「――ギィッ!」
喉のやや下に突き刺さった。
「――よしっ!」
クレインが腕を直角に曲げ拳を握ると、
「やったな!クレイン!」
ジルが称え、左腕を突き出し、
「おう!」
クレインは右腕を突き出し、それに応えた。
その様子にルーカスも笑みを浮かべながら、
「――じゃあ、油断せずに確認しよう!」
全ての【石叩き猿】を倒し終え、
緊張が解けた仲間をルーカスが引き締めた。
「そうだな!」
クレインは答えると、短剣を構え慎重に近づき、討伐証明の【黒牙】を切り取る。
「こっちも終わった!」
ジルも同様に答えると、
「木から落ちた奴も採ってくる!」
そう言って駆け出そうとする。
「待った!」
短く制し、
「森の入口は襲撃に気づきづらいからみんなで行こう」
ルーカスが提案した。
「そうだな、みんなで行こうぜ!」
クレインが同意し、
「わかった!」
ジルも続いた。
「――それにしても、いつもより楽に倒せたよな」
クレインのつぶやきに、
「やっぱり敵の動きを操れるって凄いよね」
ジルも同調して答えた。
「――本当に」
ルーカスが薙刀を握る手に力を込め、
「クロードさんはぼくたちに、一番必要な武器をくれた」
心から感謝した。
くれたのは武器だけではない。
強くなるための気づきもだ。
「一人では無理でも、パーティーでなら工夫でいくらでも強くなれる」
ルーカスの言葉に、ジルとクレインの目も輝く。
「安全に、確実に強くなろう!」
「「おぉ――っ!」」
重なった声は、未来への道しるべ。
手に持つその武器は、希望となった。
そろそろ四の鐘が鳴ろうかという時間の、ギルド訓練場。
そこには、訓練に励むルーカスとジルの姿。
「くそっ!やっぱり入り込めない!」
お互い木剣で戦っていた時は互角だった。だが今日は、ジルはまだルーカスから一本も取れていない。
くやしそうに片膝をつくジル。
そんなジルの横まで一人の男が近づくと、
「面白そうな武器で訓練してるな、俺ともやらねえか?」
ルーカスに右腕を伸ばし木剣を向けた。
「俺はメービス。【灯】のリーダーでCランクだ……どうする?」
落ち着きと好奇心を同居させたメービスの言葉に、
「ぼくはルーカス。【リターンライン】のリーダーでDランクです」
「ぜひ、お願いします!」
ルーカスは一礼し薙刀を構えた。
「よし、じゃあやろうか、ルーカス」
メービスはどっしりと構えた待ちの姿勢。
明らかな誘いに、ルーカスは正面から応える。
「はぁっ!」
右上段からの袈裟斬り。
それを、
「ふん!」
落ち着いて剣で防ぐメービス。
だが――
「はっ!」
弾き返された反動すら利用し、石突を下段から振り上げる。
「うぉっ!」
のけ反り躱したメービスの眼前に石突を突きつけると、
「はっ!」
そこから一気に突き出す。
「なっ!?」
身動きすらできず、石突が顔の左側を通り過ぎた。
「……やばいな、その武器」
額から流れる汗をそのままに、メービスがつぶやく。
そのつぶやきに、
「……勝っ……た……?」
まだ実感が無く、自分でも信じられないその勝利に、
ルーカスの手は震えたまま。
なぞったのは、七日前に見せてもらったレオンに対するクロードの攻撃。
木剣同士で訓練しているときには、同ランクでも五分五分がやっと。
上位ランクとの手合わせで勝利したことなど一度もなかった。
「おい!もう一本、やろうぜ」
今度は口惜しさと好奇心を同居させたメービスの言葉に、
「はい!お願いします!」
ルーカスは応え、あの日見せてくれたいくつものクロードの動きをなぞり戦った。
さすがに回数を重ねるごとに少しずつ対応されるようにはなったが、
それでも一本をとられることはなかった。
「――やるな、ルーカス」
メービスに称賛され、
「ありがとうございます。とてもいい訓練になりました」
肩で息をしながら、ルーカスは心から感謝した。
その謙虚な姿勢を見て、
「……なぁ、これからも合同で訓練をやらないか?」
「今度は俺も、パーティーメンバーを連れてくる」
メービスが提案した。
「本当ですか!?」
「ぜひ、お願いします!」
ありがたい提案に心から感謝し、ルーカスは頭を下げた。
「よし!そうと決まればさっそく続きだな」
「そこの……ジルだったな。今度はお前だ、こい!」
「はい!お願いします!」
元気なジルが挑み、負けては挑むの繰り返し。
格上との剣士同士の訓練は、ジルにとって貴重な経験。
結局一度も勝つことはできなかったが、
それでも大きな充足感に包まれていた。
「「――ありがとうございました!」」
訓練が終わり礼をするルーカスとジルに、
軽く手を振って、その場を後にしたメービス。
「……やっぱり上位ランクの冒険者は強いな」
ジルのつぶやきに、
「でも、最後の方は結構対応してたじゃないか」
ルーカスが返すと、
「そうだった!?」
自分でもなんとなくそう思っていたジルが聞き返す。
「うん。大丈夫」
「きっと訓練を重ねていけば追いつけると思う」
その言葉に、ジルの顔がほころんだ。
――その日の酒場【獅子の喉笛】。
「なあ、さっきちょっと訓練場を覗いてたんだけどよ」
ジョッキを片手に、
「めずらしい武器で訓練してるDランクが、Cランクから一本も取られず勝ってたぜ」
その様子を語っていた。
「本当か!?」
一本とったくらいなら不思議ではないが、連勝となると話が違う。
「俺も見たかったなあ、それ」
残念がると、
「いや、これからも定期的に訓練するみたいだぜ」
言ってジョッキのエールを飲み干した。
「本当かよ!じゃあ、俺も訓練場に顔を出すかな」
肉串を頬張り、つぶやいた。
その様子を、カウンターで一人飲む男が静かに聞いていた。
(……どうやら、広がり始めたようですね……)
小さく口角を上げ、男は店主にエールの追加を告げる。
嬉しい広がりに、いつもは一杯のみと決めていた酒を、今日ばかりは自分に許した。
帳面の裏表紙に刻まれた名が、静かな広がりに胸を沸かせる。
――S.O.M.P.O. ジャン
剣と魔法の世界に、つながる、人と未来。
少年たちの活躍は波紋のように広がり、冒険者たちを少しずつ変え始めていた。
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