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異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


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第四十一話 【S.O.M.P.O. ジャン】 - 掲げられた理念 -

交換留学を終え、【S.O.M.P.O. ジャン】の窓口へ戻ったエリナは、

以前から進めていた新保険の最後の調整をクロードと行っていた。


「では、再確認です」


クロードが切り出した。


「今回の食事処【銀龍亭】での乱闘騒ぎですが、食器や椅子等の実損がおよそ金貨三枚」

「営業できなくなったことによる逸失利益や人件費等がおよそ金貨七枚」


「ここまで、間違いないですね?」


「はい」


エリナが頷く。


「こうした騒ぎが、一年に一回程度あるみたいです」


その報告に、


「そうすると、一年に支払う保険金はおよそ金貨十枚ですね」


再度、エリナが頷いた。


「では、年間保険料をいくらに設定しますか?」


クロードの問いに、


「初年度は、年間保険料を金貨九枚にします」

「これは、債権譲渡によって、損害を起こした者からの回収を三件に一件程度見込んだ数字です」


エリナの答えに、クロードは笑みを浮かべ頷いた。

計算上、回収後の【S.O.M.P.O. ジャン】の期待損害は金貨七枚弱。金貨二枚と銀貨三枚程度の利益が見込める。

実際には回収のための人件費もかかるが、それでも薄利ながら黒字を見込める数字。


クロードの表情を見て、エリナは続ける。


「翌年以降ですが、無事故なら保険料は大きく下げます」

「逆に、問題を何度も起こす店ほど高くします」


「――なるほど。安全な店ほど得をする仕組みですか」


その増減額を確認し、


「良い提案だと思います」


しっかりと利益を確保しつつ、治安維持にも貢献する設計。


「このままで進めて問題ないでしょう」


クロードがお墨付きを与えた。


瞬間、エリナの笑顔がはじける。


「――よく、頑張りましたね」


クロードの労いに、


「ありがとうございます!」


初めての保険の設計に、報われた喜びが涙となって溢れ出した。


そんなエリナに、


「わたしからも、提案があります」


クロードは一枚の紙をエリナに手渡した。


「これは……?」


そこに描かれているのは、文字ではなかった。


「【S.O.M.P.O. ジャン】の紋章です」


言って、説明を始める。


「これからこの紋章を、【S.O.M.P.O. ジャン】窓口の目立つところに貼り付けます」


エリナは黙ってクロードの言葉を待つ。


「そうすることで、たとえ文字の読めない者であろうとも、この紋章の絵を見ただけで【S.O.M.P.O. ジャン】だとわかるようになります」


その説明に小さく頷く。


「そこで――」

「この紋章を、あなたの新保険に加入した店に貼り付けるのはいかがでしょう?」


その効果を、エリナはすぐに理解した。


「もしそのお店に迷惑をかけたら【S.O.M.P.O. ジャン】を敵に回すと周知できます!」


それは抑止力となって事故を減らし、支払保険金を抑え、

結果として保険料の割引にもつながる。


「ぜひ、お願いします!」


制度や金額の設定以外でも、

保険料を安くするための方法があることを、エリナは学んだ。


「……でも、本当にこんなことまで考えるんですね」


「保険というのは、“払わない未来”を作る方が重要なんですよ」


「これを――未然予防と言います」


事故が起きてから救うのではない。

事故そのものを減らす。


「それもまた、保険を扱う者の務めです」


エリナはあらためて、保険の奥深さを感じ取った。


そして、もう一度紋章をしっかりと見る。


大きな盾の中に、盾よりも少し小さい円があり、その円の下部には握手の絵。

その握手の絵の上、円の中心には大木が描かれている。


【S.O.M.P.O. ジャン】の名前も入っているが、その名前は盾の最下部で盾を支える土台となっていた。


「この紋章は、何を表しているんですか?」


その問いに、クロードが細かく説明をする。


「握手は【契約】と【信頼】。円は【循環】。大木は【成長】と【支える力】です」


一つ一つを指し示しながら、クロードは続ける。


「ですが――すべてを支えるのが、この盾です」


一拍置き、


「【S.O.M.P.O. ジャン】は魔物を討つ【剣】ではありません」

「人々を【死】から【貧困】から【理不尽】から守る――【盾】です」


最後に、その指を盾の最下部に動かす。


「【S.O.M.P.O. ジャン】の名前がここにあるのは、

これらすべての土台が【S.O.M.P.O. ジャン】であることを意味しています」


「我々が揺らげば、全てが揺らぎます」

「だからこそ――我々自身が、揺らいではいけない。それが、この紋章に込めた【覚悟】です」


すべての説明を聞き終えたエリナの顔が、

いっそう引き締まる。


「――これ……みんなにも見せてきていいですか」


「もちろんです。皆さんの分も用意してあります。持って行ってください」


全員分を差し出すと、エリナはそれを抱え窓口へと速足で歩みを進めた。


その目に映っていたのは――

いつか、この街の誰もが【S.O.M.P.O. ジャン】の紋章を知る未来だった。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、新たな印を仲間に加える。


――S.O.M.P.O. ジャン


剣と魔法の世界に、掲げる理念と覚悟。


その紋章は、人々を導くと共に、自らの歩む道を照らす道しるべとなった。

★☆★☆★☆【緊急告知】★☆★☆★☆


8月12日(水)より8月16日(日)まで、

毎日21時更新中!


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


ここまで読んでいただきありがとうございます。


少しでも面白いと感じていただけたら、

評価やブックマークをいただけると励みになります。


※8月19日(水)より毎週水曜日21:00更新予定です。

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