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異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


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第三十九話 未来に進む者たち - 託された想い -

「酷いと思いませんか!?クロードさん!!」

「楽しみにしていたご飯だったんですよ!?」


憤慨した様子でケイティ―が叫んだ。


その様子を、隣にいるエリナが呆れ半分に見守っていた。


「あなたは本当に感情が豊かですね、ケイティ―」


苦笑いで答えるクロード。


昨日落ち込み涙を流していたのが嘘のように、

ケイティ―は怒りを隠そうともせず、ことの顛末をクロードに語っていた。


「要するに、楽しみにしていた食事処が、冒険者の乱闘でめちゃくちゃにされていた――ということですね?」


「そうです!」


思い出し、余計に腹が立ってくる。


「しかも、その冒険者たちはそのまま逃げちゃったんです!」

「女将さんなんて泣いていましたよ!!」


「……なるほど」


ケイティ―の叫びに、クロードは少し考えると視線を移し、


「――エリナ、あなたはどう思います?」


突然話を振られ困惑するも、


「……気の毒だなと思います」


気持ちを正直に答えた。


「そうですね。わたしもそう思います」


感想を述べ、


「――ですから、保険で救いませんか?」


エリナに提案した。


「保険で……救う!?」


言われた瞬間、冒険者を救うことしか考えていなかったエリナの中で、

保険の可能性がどこまでも広がる。


その様子を、クロードは見逃さなかった。


「――今あなたが感じた通り、保険の可能性は無限です」

「その気になれば、どんなものにも対応できるほどに」


伝え、目を見る。


「まずはその一歩目として、店の財物が意図しない損害を受けた場合に補償する、新しい保険を作りましょう」


「そしてこの保険――」

「あなたが設計してみませんか?」


唐突なその提案に、一瞬エリナの思考が止まる。

同時に、心が大きく揺さぶられる。


エリナの決断よりも早く、ケイティ―が反応した。


「それいいです!」

「ぜひ作ってください、エリナさん!」


さっきまで憤慨していたケイティ―が笑顔で迫る。

その喜ぶ顔が、エリナに決断をさせる。


「――わかりました」

「自信はありませんが……やってみます」


その返事に満足そうにうなずき、クロードは続ける。


「最初から完璧なものなどできはしません」

「まずはあなたが考えたものをそのまま見せてください。それから少しずつ形にしていきましょう」


「――はい!」


返事をし、早速行動に移り部屋を出ようとするエリナに、


「完成したら、わたしにも見せてくださいね!」


ケイティーが期待の眼差しを向けると、

大きく頷いたエリナが、待ちきれないように部屋を飛び出した。


一人残されたケイティ―に、


「そう言えば……あなたも本格的に窓口に立ち始めたそうですね?」


入れ違いに来ていたマールからの報告。


「……窓口に立っているだけで、ずっと補助してもらってるだけですよ」


正直に伝えると、


「みんな最初はそんなものですよ」


やさしく微笑んだ。


「……で、どうですか?」

「【S.O.M.P.O. ジャン】で働き、何か得るものはありましたか?」


その質問に、

ケイティ―の顔が真顔になった。


「――何度か、保険金の支払いの場面に立ち会わせてもらいました……」

「泣きながらお金を受け取る人の姿を見て……はじめてこの仕事の大切さを実感しました」


その告白に、


「――そうですか……それは何よりです」


初めて会った時からの顔つきの変化に、クロードは満足そうに笑みを浮かべる。


「それでは、引き続きお願いします」


クロードの言葉に頷き、ケイティ―も部屋を出た。


先ほどまでの怒りも忘れ、ケイティ―は今、前だけを見ていた。




――三日後。


エリナの設計した保険の全容が、クロードの手の中にあった。


「この金額の調査は良くできています」

「この内容であれば、この保険料も妥当ですね」


一つ一つの内容を精査する。


「ただこの内容だと、計算されているのは実損についてのみです」

「営業できないせいで本来得るはずだった利益が計算されていません」


エリナがハッと顔をあげる。


「片づけに必要だった人件費など、付随する費用も加えて計算してみましょう」


修正点を指摘し、より良いものを目指していく。


助言を受け、エリナの思考が止まらない。


「……だとしたら、ここを……」


「でも、そうすると保険料が……」


複雑な計算に顔が紅潮する。


だが、その顔が喜びに満ちる。


「――エリナ」


名を呼び、エリナが顔を上げるのを待って、


「楽しいですか?」


微笑むクロードの言葉に、

自分が喜びを感じ設計していたことに気づく。


「――はい!」


その気持ちのまま返事を返した。


この保険ができれば、誰かを救えるかもしれない。

その思いが、どうしようもなく止まらない。


だからクロードの体調が万全でないと知りつつ、エリナは頼る。


「どうしても保険料が高額になってしまうんです……」

「何か……良い方法はありませんか!?」


真摯な問いに、クロードも惜しみなく知恵を貸す。


「……それでは、保険金の支払い条件に債権の譲渡を盛り込みましょう」


「債権?……なんですか、それは?」


聞いたことのない言葉に、エリナが首をひねる。


「責任を負うべき者に、請求する権利です」


短く説明したあとに、今回の発端で説明する。


「今回の食事処を例にすれば、本来支払うべきは乱闘騒ぎを起こした冒険者達です」


エリナは耳を傾ける。


「ただその力関係から、その場で取り押さえることは難しい」


確かに、一般人が冒険者に敵うはずもない。


「常連でなければ、名前も分からず訴えることも難しい」


そこにも同意する。


だから泣き寝入りをするしかない。

それが――女将の涙の理由。


「ですが――」

「わたし達ならいかがです?」


言われて、気付く。


「……女将さんは力では勝てないけど……」


つぶやくと同時に、仲間たちの顔が頭に浮かんだ。


「レオンなら……容易に回収できます」


「そしてわたしやケイティ―なら、ギルド経由で冒険者を追うこともできます」


希望を見つけ、エリナの顔に笑みが浮かぶ。


「なにより――」

「【S.O.M.P.O. ジャン】には【真贋の宝玉】があります!」


嘘を許さぬ、断罪の剣。


壊した本人から賠償金が取れるなら、保険料をかなり抑えられる。


「もちろん全ての回収は難しいでしょうが、三回に一回程度の回収を見込んで計算してみましょうか」


「はい!」


返事をし、エリナは部屋を出る。


その後ろ姿を見送り、クロードは両手をゆっくりと握る。


(……わたしも、いつまでもゆっくりしていられませんね……)


これから始まるであろう激動の日々に備え、

心身の休息は十分。


明日の道筋を描き出し、クロードは最後の休息の眠りについた。




――翌朝。


完全に体調を戻したクロードは、

その足でバルドゥスの元を訪れた。


「――ご迷惑をお掛けしました」


頭を下げ詫びる。


「……細かいことは聞かねえ――」


一拍。


「二つだけ答えろ」


その全てを許し、代わりに尋ねる。


「あの見えない壁は……」


言ってクロードの目を見る。


「――結界魔法……だな?」


その問いに、


「はい」


クロードは一切迷うことなく肯定した。


「……もちろん、わかって返事をしてるんだよな?」


バルドゥスの言葉に、クロードはゆっくりと頷いた。


「【失われた魔法】――ですね」


静かに答えるクロードに、


さすがのバルドゥスも眼前の男に畏怖を覚える。


「……おまえを詮索するのはやめようと思っていたが、さすがに無理だ」


存在を知る者さえ少ない、古代の魔法。


千年以上の時を超え使い手のいない、もはや伝説。


その使い手が、眼前に存在する。


「……おまえは――」


「何者なんだ、クロード……」


わかっていた質問。


それでも、

その問いに答えるには時間がかかった。


「……まだ、すべてをお答えすることはできません」


「……」


言葉を挟まず、バルドゥスは次の言葉を待つ。


「けれど……」


一拍おき、


「あなたにだけは、一つの答えをお知らせします」


そういうと、懐から取り出したそれを顔に着ける。


「何の真似……」


言いかけた言葉が止まる。


何かに気づきかけたバルドゥスに、


クロードはさらに、一枚のカードを取り出した。


「――手を」


短く一言。


「……」


ゆっくりと、震えるその手を差し出すバルドゥスに、


「いまあなたに伝えられるのは――ここまでです」


そう言い、伏せたそのカードをバルドゥスの手の上に置いた。


すでに確信に近い予感を抱きながら、


バルドゥスはそのカードを――裏返す。




「――――!!」




バルドゥスの瞳が大きく見開かれた。


あまりの驚きに、声が出るまで数秒――。


「……“仮面”…の……そうか……お前が……」


クロードとの出会いからずっと抱えていた謎の一部。

それを悟り、バルドゥスの手から震えが消えた。


しばらく静寂が続き、思考がまわる。


そして、思う。


「――“いまは”、と言ったな……」


「はい」


クロードは目をそらさない。


「その時が来れば……お話します」


一拍おき。


「……正直に言いますが、真実を話さずに済むなら話したいとは思いません」


クロードの言葉を、バルドゥスは静かに聞いている。


「ただ……もし告げるべきと判断した時には――」


そこまで言うと、バルドゥスを見る目に敬意を込め、


「必ず、最初にあなたに告げるとお約束します」


誓った。


瞬間、バルドゥスの心も決まる。


「……俺の二つの問いは終わった」


言って椅子をゆっくり半回転させ背を向ける。


「――あまり……無茶はするなよ」


ささやくように、想いを乗せる。


クロードは深く一礼すると、それ以上何も言わず部屋を出た。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、踏み出した足に敬意を払う。


――S.O.M.P.O. ジャン


剣と魔法の世界に、人を動かす思いと決意。


弱きものの涙は力ある者を動かし、


強き者の想いは、また、誰かの未来へと受け継がれていく。

★☆★☆★☆★☆【緊急告知】★☆★☆★☆★☆


本日、8月12日(水)より8月16日(日)まで、

毎日21時更新いたします!


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


ここまで読んでいただきありがとうございます。


少しでも面白いと感じていただけたら、

評価やブックマークをいただけると励みになります。


※8月19日(水)より毎週水曜日21:00更新予定です。

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