表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/33

第三十話 剥き出しの心 - 真実という罰 -

――治療院の一室。


薬草の匂いと、わずかな血の気配が混ざる空間で、

クロードはいつものように椅子に腰掛けていた。


【S.O.M.P.O. ジャン】では、

治療院との連携が欠かせない。


今日もクロードは、

ハーサムの元へ赴き、情報収集に余念がない。


「――どうかしましたか?」


無言で何かを探るように見つめてくるハーサムに問うと


「……クロード」


しばらく間を置いてから、ハーサムが口を開く。


「レオンの武器じゃが……」


さらに一拍。


「あれ……見た目ほどの威力は無いじゃろ?」


疑問をぶつける。


「ああ、そういうことですか」


言って笑みを浮かべ、


「――内緒ですよ」


口元に指を一本立てる。


そして続ける。


「お見立てのとおり、鞭は破壊力を誇示するような武器ではありません」


「威圧と制圧に向いた武器です」


クロードの説明に、


「やっぱりのぉ……」


「今まであやつらの治療をしてきたが、怪我自体は大したことなかったからのぉ」


合点がいった顔をし、


「――とはいえ……」

「昨日のあ奴の目は治らんじゃろうな」


言ってクロードを見る。


「あ奴とおなごの傷――新しい武器かの?」


「――ええ」


ハーサムの問いに短く答え、続ける。


「同じ鞭という武器ではありますが、用途が異なります」


クロードの目がすっと沈む。


「新しい鞭は、切り裂きと恐怖を目的にしています」


その説明に、


「たしかにの……」

「傷自体は深くは無かったが、きれいに切れておった」


不思議そうにつぶやく。


「新しい鞭は、ミスリル繊維で作った極細の鞭です」

「目にした敵は持ち手部分以外を視認することもできず、訳も分からないまま斬られたのだと思いますよ」


クロードの説明に、


「……恐ろしい話じゃの」


想像しただけで身が竦む。


「――で、これから行くのかの?」


「ええ、バルドゥスの依頼で尋問に立ち会います」


ハーサムは敵に同情する。


【真贋の宝玉】を持つクロード相手に、

嘘は一切通用しない。


「まぁ、武器のことは誰にも言わんから気にせずいってこい」


「ええ、信頼しています」


笑みを浮かべたままクロードは退席した。


(……とんでもない秘密じゃろうに簡単に打ち明けおって……)


自分で聞いておきながら、

あまりに簡単に答えるクロードに呆れるハーサム。


だが、

同時に信頼され誇らしい気持ちにもなる。


(……ああいうところなんじゃろうの……)


クロードの周りには優秀な人材が集まる。

いや、その能力が引き出されていると言ってもいい。


「院長、お願いします!」


治療師に呼ばれ、席を立つハーサム。


(……さて、わしも働こうかの……)


向かうハーサムの目は、

数分前よりも確かに、輝いていた。




「――名前は?」


尋問室での取り調べ。


バルドゥスの問いに、

【弓使い】は笑みを浮かべたまま答える。


「ヒューリだよ」


その答えに、クロードを見るバルドゥス。


クロードは静かに頷いた。


「目的は?」


「なんどもぼくたちの邪魔をしてくれたお兄さんへの嫌がらせかな?」


疑問形で答え、

思案するように人差し指を顎の上置く。


「だってさー、おかげで仕事なくなっちゃったんだよ?」

「仕返しされても当然でしょ?」


ここでも、

【真贋の宝玉】は濁らない。


「……で、デルムンドを殺したのは誰だ?」


不快な物言いにしびれを切らしたバルドゥスが確信をつく。


「えー、知らないよ?」


言って渋面になったかと思えば、

すぐに何かを思い出したように上を向く。


「……でも……そうだな」

「多分あんた達よりもずっと上の人間だと思うよ」


「……なぜだ?」


「だって、あのおじさんが黒幕側のおじさんと話しているときに“辺境のギルドごときどうとでもなる”とか聞こえたもん」


やはり、【真贋の宝玉】は濁らない。


ここで、今度はクロードが質問を始める。


「――あなた、歳は?」


一瞬、

ピクリとヒューリの体が固まる。


「……いくつに見える?」


すぐにおどけた口調で笑みを浮かべる。


「そうですね……」

「見た感じだと十歳前後に見えます」


一拍。


「けれど――」

「……実際は三十前後なのではありませんか?」


「なにを馬鹿な……」

言いかけたバルドゥスの言葉が止まる。


あきらかに、

ヒューリの顔に驚愕が浮かんでいた。


「……なぜわかった?」


その声は、

さきほどまでとは別人だった。


「そうですね……」

「まずは、その体です」


言って一呼吸置く。


「一朝一夕で身に付く肉体ではありません」

「日々修練に明け暮れた者が、長い時間をかけて辿り着く肉体です」


「……」


「それから、その話し方です」

「普段からの癖なのでしょうが、年下を見ている話し方をしている」


「……きみ、凄いね」


素直に称賛する。


「ぼくは三十一歳だよ」


その言葉に、バルドゥスが驚きの声を上げる。


「……ありえるのか、そんな事が?」


「ええ、稀にある事例です」


クロードの言葉に、

バルドゥスよりも早くヒューリが感心を持つ。


「……へぇ」

「ぼく以外にもいるんだ」


相変わらずこどもじみた言葉遣いだが、

あきらかに関心度が違う。


「ええ、いますよ」


淡々と続ける。


「成長ホルモンや性ホルモン……」


「いえ……」


言いかけて言葉を変える。


「成長に関わる機能が止まっている状態です」

「稀ですが、存在は確認されています」


「……ふーん」


ヒューリの言葉に、

クロードが何かを感じ取る。


「……あなた、虐待でも受けましたか?」


「なっ――!?」


一瞬、部屋の空気が止まった。


驚愕の表情を浮かべ、

見えない目でクロードを見る。


「……そんなに驚くことではありませんよ」


あきらかに動揺するヒューリに、

クロードがやや沈んだ声で答える。


「人は自分とは違うもの、自分の常識に合わないものを排除しようとしがちです」


「年を取らないあなたを見て、気味が悪いと虐待する者がいたとしても不思議ではありません」


ヒューリは口を開かない。

ただじっと聞いている。


「もう一つ当てるなら――」

「あなたを虐待したのは女性ですね?」


「……」


ヒューリはもう、

何も言わなかった。


「レオンとの戦いであなたが言った言葉が、それを示唆しています」

「覚えていますか?」


一拍置き、


「あなたはこう言ったんです」


――子供だと油断していた女が絶望する顔を見るのって最高でさあ――

――人って壊れる瞬間が一番綺麗なんだよ?――


「……下衆が」


聞いたバルドゥスが短く漏らす。


「……そうですね」

「言葉通り聞けば確かにその通りです」


「でも、私にはこう聞こえました」


――ああ、あの怖い女はもういない――

――これでもう、安心してきれいな世界で生きられる――


クロードの言葉を聞いたヒューリが体を震わせる。


「あなたは女性の悲鳴を楽しんでいるように自分で勘違いしていますが、実際は違う」


「ただ――」

「あの頃得られなかった安心を、なぞっているだけです」


現実を突きつける。


「……その境遇には同情しますが」

「あなたに殺された者たちにはもっと同情します」


「……」


「これからあなたは光のない世界を」


一拍。


「奴隷として生きることになるでしょう」


「それこそ、光も救いもないまま……」


「あなたが自分の安心のために殺した者たちへ、

ほんの少しでも詫びる気持ちを持つことを祈っていますよ」


ヒューリが口を開くことは、

もう無かった。


結局、

黒幕について明確な決め手を得ることはできなかった。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、隠され続けた傷を暴き出す。


――S.O.M.P.O. ジャン


剣と魔法の世界に、真実を突きつける言葉。


それはどんな刃より深く、


剥き出しになった心へと突き刺さった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白いと感じていただけたら、評価やブックマークをいただけると励みになります。


※※※ << 緊急告知 >> ※※※


6月19日まで、毎日21:00更新いたします!


※以降は毎週水曜日21:00更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ