第二十五話 首元の刃 - 打ち破る確信の矢 -
――違和感は、確信へと変わった。
「ギルドから【守護者の願い】に指名依頼だ!」
「必ず――見つけ出せっ!!」
トーマスからの報告を受け、
バルドゥスは即座に動いた。
「――任せろ!」
応え、
トーマスは飛び出した。
仲間を集め、
【レイピアの男】を捜索する。
「大量虐殺を企てる一団が、街に入り込んでいる」
「……油断するな」
【誘引花】については話せないため、
トーマスは仲間にそう伝えてある。
「……まだ、近くにいるかもしれん……」
ホークの店を出てから、
まだ一時間を少し過ぎた程度。
決して一人で行動しないよう言い含め、
ホークの店周辺を探し回る。
「……トーマスさん」
なかなか見つからない【レイピアの男】に、
トーマスに焦りが出始めた頃、
ルーウェンが口を開いた。
「そろそろ、酒場に人が入ってもおかしくない時間です」
「もし、その男に仲間がいるなら、酒場で待ち合わせてもおかしくないかと」
見れば、
確かに日は沈みかけ、
歩く冒険者の数も増えてきた。
「……だとしたら、どこだ?」
トーマスのつぶやきに、
「情報収集に来ているなら、ギルドの【獅子の喉笛】じゃないですか?」
ゼンティスが答え、
ジャミールも頷く。
「……いや……」
ルーウェンがつぶやき、
続ける。
「口封じをするくらい慎重な相手なら、
さすがにギルド併設の酒場には来ないと思う」
「なるほど……そうなると――」
トーマスは一瞬思案し、
答えを導き出す。
心に刻まれた、あの場所を。
「……【鳳凰の羽ばたき】か」
「――おそらく」
四人が顔を見合わせ頷く。
「……トーマスさん」
「二対二に、分かれましょう」
ルーウェンが覚悟を決めて提案する。
「トーマスさんとジャミールが【鳳凰の羽ばたき】」
「ぼくとゼンティスは、一時間ほど酒場周辺を見回った後に合流します」
「わかった。無茶はするなよ」
「はい。それらしい風貌の男を見つけたら、
僕は監視を続け、ゼンティスに報告させます」
「絶対に、接触はしません」
ゼンティスが頷く。
「――よし、頼んだぞ」
言って、
トーマスは不器用だが優しい笑顔を浮かべた。
「――立派になったな、ルーウェン」
「今のお前は……」
「あの頃のレオンよりも頼もしいよ」
ルーウェンの肩を一度叩き、
トーマスはジャミールを伴い、
【鳳凰の羽ばたき】へと向かった。
ルーウェンはその言葉に、
うっすらと涙を浮かべる。
だが、
すぐに切り替え、前を見る。
「――ゼンティス、行こう」
【鳳凰の羽ばたき】の前までたどり着いたトーマスは、
軽く辺りを見回した。
「……さすがに、少し早いか……」
トーマスのつぶやきに
「そうですね……少し、離れて待ちますか?」
ジャミールが提案し、トーマスは頷いた。
【鳳凰の羽ばたき】から歩いて一分ほどの所にある出店までいき、
怪しまれないよう、干し肉サンドを二つ買う。
近くにある大石に腰かけ、
時間をかけてゆっくり食べながら【レイピアの男】を待つこと三十分ほど――
「――奴だ!」
酒場へ向かう四人組。
その中央。
歳は、ほぼ自分と同じ。
自信を持ち、ややにやけた顔つき。
だが何より印象に残っているのは、
その目。
見下すような冷たいその目が、
他のどんな特徴よりも、印象に残っていたそれと同じ。
「……ジャミール」
「ギルドへ報告だ。場所は【鳳凰の羽ばたき】。四人」
トーマスの言葉に頷き、
ジャミールはギルドへ向かい歩き出す。
(……よし、ジャミールも冷静だな……)
もしかしたら、
離れたところに敵がいるかもしれない。
焦った動きを見せることなく、
事前に決めた通りの行動ができている。
トーマスは内心で喜びを感じつつ、
【レイピアの男】の後ろ姿を追う。
(……ひとりで入るよりは、ルーウェン達を待つか……)
【鳳凰の羽ばたき】へ入店する【レイピアの男】を見て、
すぐに後を追いたい衝動を抑え、そのまま監視を続ける。
ほんの数分、数十分が、
何時間にも感じられた。
そんなトーマスの背を叩いたのは、
ルーウェンではなく、バルドゥスだった。
「――よくやった」
小さく一言。
その瞬間、
体中から一気に汗が噴き出す。
張りつめていた緊張がほぐれ、
「ふぅ……」と息を吐いた。
「行きましょう」
バルドゥスの横にいたクロードが言い、
さらにその後方にいるレオンが頷いた。
「――ジャミール」
「あなた方は奴らに顔を見られないよう、ここで待機してください」
そういうと、
クロードはジャミールに金貨を三枚手渡した。
「おそらく、まだ二・三時間は出てこないでしょう」
「ルーウェン達と合流したら、近くの【炎龍亭】で食事をとってください」
「万一早く店を出るようなら、私が声を掛けに行きます」
クロードの提案に頷き、
ジャミールはトーマスの後を引き継いだ。
「それでは、私たちは店に入りましょう」
クロードが言うと、
全員が頷いた。
「トーマス、先頭を」
「……できれば、斜め後方の少し離れた席で」
「わかった」
トーマスが扉を開ける。
幸い、まだそれほど混んではいない。
「エールを四つ頼む」
座るなりトーマスが注文し、メニューを開く。
正方形のテーブルで、
トーマスは振り返らないと【レイピアの男】を確認できない位置に座った。
その位置は、
【レイピアの男】からも、トーマスの顔や行動は見えない。
だからトーマスは、
【レイピアの男】の特徴を書いておいたメモを、メニューにそっと乗せた。
(……あれがそうですか……)
クロードの感想は、
バルドゥスとレオンも同様だった。
トーマスから、あらかじめ特徴は聞いていた。
そしてメモに書かれた今日の服装と装備をした男は、
確かに聞いていた特徴のとおり、表情と、特に目の印象が強い。
弱者を見下ろす、
冷たい目。
「……あなたの仕事はここまでです」
「あとは、ゆっくり楽しんでください」
小声で話すクロードの言葉に、
ようやくトーマスに笑みがこぼれる。
「そうさせてもらう。俺には向かん仕事のようだ」
同じように小さな声でそう言うと、
届いたエールを半分ほど飲み干した。
「目的は果たしました。私たちも、怪しまれない程度に飲みましょう」
クロードもジョッキを傾け、
レオンとバルドゥスが続く。
「注文を頼む」
トーマスが店員を呼び
メニューから適当に選ぶと、エールも追加する。
「……それで、この後どうする?」
バルドゥスの疑問に
「彼らが情報収集目的なら、そう遠くない内に残留組と報告組に分かれるでしょう」
「その報告組を、追跡します」
クロードが答える。
「わかった」
「……で、誰に追跡させる?」
その問いに、クロードが即答する。
「ルーウェンです」
その言葉に、
驚いた表情を見せるトーマス。
その心情を察し、説明する。
「彼は非常に慎重な性格です」
「悪く言えば地味ですが、それは無駄のない合理的な行動とも言えます」
「目立たず、けれども頭の回転の速い彼は――」
「最も信頼できる冒険者の一人です」
自分の信頼する男にここまで言わせるほど成長したルーウェンに、
トーマスが涙をにじませる。
「……ほら、飲めよ」
レオンが笑い、互いのジョッキを打ち付ける。
その光景に笑みを浮かべ、クロードが続ける。
「――バルドゥス」
「ルーウェンとゼンティス、ジャミールの三名には、その日に備えて休息と訓練場での待機を提案します」
「それまでの監視は、引退した信頼できる冒険者をギルドで雇ってください」
「わかった」
「いつでも追跡できるよう【オーダリー】の出入り口に馬も用意させておく」
「頼みます」
そう言うと、やわらかい表情でいままで話していたクロードが、
やや真顔になる。
「追跡が成功し、敵の拠点が判明したら――」
一拍。
「【彼】を捉えましょう」
視線だけを、瞬間動かす。
「……吐かせるのか?」
バルドゥスが問い、クロードが頷く。
「ええ」
「拠点さえわかれば、これ以上【シャドウ】に情報を与えるのは得策ではありません」
全員が頷く。
「あとは彼らが帰る前に店を出て、ルーウェン達に彼らの宿を突き止めてもらいましょう」
再度頷いた。
ちょうど頼んだメニューも届き始め
口にしたレオンが笑顔でトーマスに語る。
「なあ、トーマス……」
「嬉しいもんだな、後輩の成長ってやつは」
「ああ、そうだな」
トーマスも笑顔で返す。
そして、思い出した。
「なあ、レオン。今度、二人でゆっくり飲まないか?」
「いいな!久々にやろう!」
すっかり幼馴染に戻った二人に、
バルドゥスが豪快に笑った。
――時は過ぎ【レイピアの男】たちに微かな動き。
「……出ましょう」
彼らより早く店をでるため、
クロードはそう言うと、支払いを済ませる。
その間に残りの三人は店をでて、
ルーウェンたちに計画を伝える。
クロードが出て数分後、
【レイピアの男】たちが姿を現す。
「――頼むぞ」
トーマスの言葉に頷き、
ルーウェンはゼンティスとジャミールを伴い、後をつけた。
――翌朝のギルド長控室。
「【レイピアの男】達の拠点は――【銀の鍵亭】です」
ルーウェンの報告に
「でかした!」
バルドゥスがルーウェンの両肩を叩く。
「後の監視はこっちでやる」
「【その日】まで、待機していてくれ」
「わかりました」
言って帰ろうとするルーウェンを引きとめ、
「忘れもんだ!」
小さな布袋を投げる。
中を開くと、金貨が十六枚入っていた。
「急なことで前もって依頼書が作れなかったが、今回の成功報酬だ」
「……多くないですか?」
ルーウェンの問いに
「その金額に見合うことを、お前らはやった」
「それが――今のお前らの価値だ」
バルドゥスがまっすぐ答える。
「……必ず、次の追跡も成功させます」
それは、
評価してくれたギルド長への誓い。
同時に――
自分への誓いだった。
その五日後、
【レイピアの男】たちの一人が、朝の【オーダリー】から一人旅立つ。
連絡を受けたルーウェン達は、
何度も確認しあった方法で追跡を開始。
そのさらに三日後の朝。
ギルドにゼンティスからの一報が入る。
「【レイピアの男】たちの拠点は、南方の街【ガーラン】です!」
「よくやった!!」
その仕事を称え、へとへとのゼンティスを休ませるよう職員に命じると、
自身は【S.O.M.P.O. ジャン】へ向かう。
「クロード!」
「【ガーラン】だ!」
前置き無く告げ、クロードはレオンを呼ぶ。
「拠点はわかりました」
「【レイピアの男】の捕獲――頼めますか?」
クロードの言葉に
「当然」
簡潔に答えた。
「レオン、ギルドで八人の冒険者を用意した」
「連行用に連れていけ」
「了解」
言ってレオンは【S.O.M.P.O. ジャン】を出る。
その後ろ姿を見送るクロードが、
渋い表情を見せた。
「……どうした、クロード?」
気になったバルドゥスが問うと
「……【弓使い】が気になっています」
「【弓使い】?」
「ええ」
「【レイピアの男】はマダガスほどではありませんが、やや軽率です」
「【弓使い】よりも立場が上だとは考えづらい……」
一呼吸つき
「あの男たちの中に【弓使い】がいるとは思えません」
「……確かにな」
バルドゥスも同意する。
「【弓使い】は慎重です」
「あの【レイピアの男】に全てを任せるとは考えられません」
「……必ず、この街のどこかにいます」
言い終えた時、
クロードの目に希望が映る。
「――ルーカス!」
ギルドへ向かう【リターンライン】を呼び止め
「【リターンライン】に依頼を出します」
そう言うと、依頼内容を細かく伝える。
ルーカスはジルとクレインの顔を見て、
その依頼を承諾し、レオンの元へ向かった。
「ルーウェンといい、ルーカスといい、お前が選ぶ奴はあまり強くねえんだよな」
バルドゥスが苦笑いする。
「確かに、彼らは力だけを見れば標準かそれ以下かもしれません」
「けれど、頭脳や判断力をランクの根拠に入れたなら、彼らは間違いなくAランクですよ」
――ギルドに控えていたパーティーを引きつれ、
レオンは【銀の鍵亭】が見える場所で待機していた。
「レオンさん!」
そこに、【リターンライン】が加わる。
ちょうど、その時だった。
「……奴らだ」
レオンが小さく言い、
全員がその顔を確認する。
「俺と【リターンライン】が先行する」
「お前らは、少し離れて着いてきてくれ」
頷き、距離をとる。
レオンは【レイピアの男】の後をつけ、
捕獲のタイミングを見計らう。
「人気のない所へ行ったら捕らえるぞ」
レオンの言葉に【リターンライン】が頷く。
そして、
少し歩いていると、ルーカスがあることに気付く。
「……レオンさん」
「この方向で奴らが向かいそうなところだと、マダガスの殺害現場じゃないでしょうか?」
ルーカスが言う。
「なるほど……そうかもな」
あそこなら街から街へ移動してくるものを除けば、
それほど人は通らない。
街中で捕えるよりも、安全に拘束できる。
「なら、そこで捕えよう」
「わかりました」
「それでは僕たちは先行して隠れています」
「頼む」
会話は簡潔に終わり、
【リターンライン】が言葉通り先行する。
少しすると曲がり角があった。
(……ここだな……)
【レイピアの男】からレオン達の姿が見えなくなるこのポイントで、
【リターンライン】はゆっくりと走り始める。
そして自身は、
【レイピアの男】たちから離れた反対側を、
「急がないと、採取間に合わないぜ」
「悪い、俺が遅れたせいで!」
ほんの二言。
聞こえるかどうかわからない程度の声。
会話しながら通り過ぎた。
意識されすぎない程度に存在を意識付け、
後ろへの注意をそらし、自分たちも怪しまれず先行する。
その目的は果たされ、
【リターンライン】はマダガス殺害現場のさらに奥へと身を潜めることに成功した。
――待つこと十数分。
【レイピアの男】が、マダガス殺害現場で何かを探すように動き始める。
その様子を確認すると、
「――よう、探し物かい?」
レオンが、その姿を見せた。
同時に、後方にいた冒険者たちが、
【レイピアの男】たちを取り囲むように大きく広がる。
正面にレオンと一人。
左右に間隔をあけて二人ずつ。
後方に三人。
「……別に、大したもんじゃねえよ」
【レイピアの男】はそう言いながら、
広がる冒険者たちを確認する。
「そうか……」
「――だが、俺たちはお前らに聞きたいことがある」
レオンが一歩踏み出した、その時――
かすかに、場の空気が揺れた。
「かあさん!!」
予想もしない声が、
レオンと右横に配置した冒険者の間から発せられた。
(――こども!?)
(……なぜこんなところに……)
レオンが驚きの表情で振り返ると、
十歳前後のこどもが、
【レイピアの男】たちの近くを通り抜けようとしていた。
瞬間――
【レイピアの男】の口元が崩れる。
「――ツイてるぜ!」
自身でこどもを捕まえ、
右斜め前に押さえつける。
そして、
喉元にショートソードをあてがった。
「こいつらをどけろ!」
レオンを責任者とみて、
【レイピアの男】が叫ぶ。
刺激しないよう、
レオンは要求をのみ、
包囲していた冒険者を自身の後方へ下げる。
「……なぜ俺たちを捕まえようとした?」
すっかり余裕を取り戻した【レイピアの男】が、
レオンに問う。
「――あやしい奴らがいると通報があったんでな……」
「おまえら……何をやってる?」
わざと曖昧な返事をし、
レオンはチャンスをうかがう。
「そうか……」
「だが、別に俺たちは何もやっちゃいねえぜ」
言いながら後ずさる。
近づくな――
と、その目が言う。
しばらく動かなかったレオンだが――
突如、
歩き出した。
「――てめえ!」
【レイピアの男】が、
ショートソードを持つ腕に力を込める。
しかし、それを無視し、
レオンは【鞭】を握り、
最速の一撃を空に放つ。
――パァンッ!!
空気を裂く、
甲高い破裂音。
否応なしに視線が集まり、
【レイピアの男】たちは肩をすくめ、
驚愕の表情を浮かべる。
お構いなしに、
レオンは届かないその一撃を、
歩きながら打ち鳴らす。
「近づくなって言ってんだろ!」
自分の右側にいたこどもを、
盾代わりのように前へ移動させ、
【レイピアの男】が叫ぶ。
――それと、ほぼ同時に。
確信の矢が放たれた。
「――ぐぁっ!」
右肩の下――
肩甲骨辺りに刺さった矢。
【レイピアの男】は、
痛みにうずくまり武器を落とす。
レオンの視線の先には、
【レイピアの男】の後方七メートルほどに立ち、
弓を持つクレインの姿。
部下と思われる二人が、
何が起きたのかと振り返ると同時に、
「「――せっ!」」
ルーカスとジルの投石。
「がぁっ!」
「ぐぅっ!」
重なる、
二つの悲鳴。
そして、
痛みに体勢を崩した男たちへ、
ルーカスとジルが体当たりする。
同時に、
すでに駆け出していたクレインが、
人質のこどもを抱え、
レオンの元へたどり着く。
「ここは危ない、逃げろ!」
クレインが叫ぶ。
「――よくやった!」
叫ぶと同時に、
レオンの一撃が振り下ろされる。
パァンッ!
パァンッ!
「――っぁあ!」
転がった武器を取ろうとする男たちの手の甲を打ち据え、
すかさず、その武器を鞭で振り払った。
ほんの数秒の決着。
けれど、
そこに至るまでの【リターンライン】の功績は大きい。
「よくやった、お前たち!」
【リターンライン】に右腕を差し出すレオン。
三人は顔を見合わせ、
レオンの拳に拳を重ねた。
「……いい顔してるぜ、お前ら」
その言葉に、
照れるように再度顔を見合わせる。
顔つきはいつもの笑顔だが、
どこか、誇らしさが滲み出ていた。
「――さあ、こいつらを連れて帰るまでが俺たちの仕事だ」
レオンはそう言うと、
【レイピアの男】のすぐ左斜め前に立つ。
【リターンライン】の三人も、
他の倒れた男たちの元へ駆け出す。
すでに他の冒険者たちが、
倒れている男たちの腕を後ろ手に縛りあげていた。
全員を立たせ、歩かせようとしたその時――
「レオンさん!」
遠くから、
一瞬光る何かを見たルーカスが叫んだ。
すべてを聞き終える前に振り向き、
視界にとらえたそれを、レオンが左腕の籠手を使って振り払う。
キィンッ!
一瞬甲高い音と火花を散らし、
【レイピアの男】の首にめがけて飛んできた矢は、その頭上を通り過ぎた。
同時に、
冒険者のうち四名が、その方向へ駆け出す。
「……マダガスの時も首だった」
「立って狙えるようになったこの瞬間に、同じ場所を狙ってくると思っていたよ……」
すでに見えない敵に向かい、
レオンがつぶやく。
「――やっぱりすげえ……」
その姿を見たクレインが感嘆の声をあげた。
自分もルーカスの勧めで最近になって弓矢を使うようになり、
それを籠手で振り払うのがどれほど困難か判る。
ジルとルーカスも、憧れの目を見せる。
そんな少年たちの表情をみて我に返り、
レオンが声を上げる。
「さあ、こいつらをギルドまで生きたまま連れ帰るのが俺たちの仕事だ!」
「おうっ!」
「はいっ!」
野太い声と少年の声が重なり、
男たちにさるぐつわが噛ませられた。
その様子を確認し、
レオンはギルドの方向へと顔を向けた。
――見上げた空は、
もうだいぶ日が昇っていた。
――無事ギルドへたどり着いたレオンの元へ、
バルドゥスが歩み寄る。
「よくやってくれた!」
レオンの背中を叩き、
バルドゥスが笑う。
「お前ら全員、今日の夜は【獅子の喉笛】へ来い!」
「ギルド持ちで飲み放題だ!」
「本当かよっ!?」
「やったぜ!!」
口々に上がる歓声。
だが、レオンとルーカスに笑みはない。
「……で、【弓使い】はどうだった?」
バルドゥスに問うが
「……見つけられなかったそうだ」
「……やっぱりそうか……」
ため息をつくレオン。
その視界の端に、
何かを考えるルーカスの姿。
「……どうした?」
レオンが問うと、
「いえ……あのこどもが気になって」
「こどもってのは、人質になったってやつか?」
バルドゥス聞くと、ルーカスは頷いた。
「なぜ、あの場所で母親を探していたのか」
「なぜ、あの怪しい雰囲気の中で、囲まれている男たちの近くを通り抜けようとしたのか」
その言葉に、
バルドゥスが推論を口にした。
「母親を見失い、動揺していて正常な判断ができなかったってことはないのか?」
「考えられなくはありませんが、僕には十歳前後に見えました」
「個人差はあるでしょうが……少し、判断が甘すぎる気がします」
ルーカスの言葉に、
「――わかった」
「クロードにも、俺から伝えておこう」
尊敬するレオンに受け入れられ、
ルーカスの顔が年相応に輝いた。
「――何にせよ、今日はゆっくり休んで、夜は楽しんで来い!」
バルドゥスに促され、
二人にも笑みがこぼれた。
――その夜【獅子の喉笛】
「みんな、今日はありがとう!」
レオンが乾杯の音頭をとる。
「【リターンライン】!今日はお手柄だった!」
レオンが称えると、
他の冒険者たちから拍手が起こる。
「よくやったぞ、お前ら!」
ベテランらしい冒険者からも、
褒めたたえる言葉が溢れた。
嬉しそうに笑顔を浮かべる少年たちを見た後、
レオンが他の冒険者たちに視線を向ける。
「――あんた達もだ」
言って、一呼吸置く。
「年下の俺の指示に、よく従ってくれた」
「本当に、ありがとう」
小さく、
頭を下げた。
今や英雄となったレオンからの謝辞と行動に、
冒険者たちが言葉を失う。
「……おまえ、変わったな――レオン」
レオンを良く知る冒険者の一人が、
感慨深そうにつぶやいた。
「――追い付きたい奴が、いるんでね」
この場にいない男を思い浮かべ、
レオンはジョッキを目線まで上げる。
「――この街は、俺たちで守るぞ」
その言葉に、全員が「おう!」と叫び、
同じようにジョッキを掲げる。
「乾杯!」
「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」
その声は誓いとなり、
どこまでも響き渡った。
帳面の裏表紙に刻まれた名が、男たちの声に呼応した。
――S.O.M.P.O. ジャン
剣と魔法の世界に、
新たな団結がうまれ、
新たな英雄が頭角を現した――
だがその裏で、
見えない影はすでに――次の矢を番えていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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