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異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


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第二十話 果たされた願い - 愛縁の果て -

辺境の街【オーダリー】


いつも冒険者で賑わうこの街だが、

今日はいつにも増して活気に満ち溢れていた。


「見たか、昨日の!」

「見た見た!凄かったな!」


ざわめきの原因は、昨日のレオンの活躍。

あの熱狂が、いまだ街に残っていた。


冒険者たちはその強さにあこがれ、

女性たちは口づけをかわすシーンに、

自分もあんな風に口づけされてみたいと夢を見る。


(……たしかに、あれは強烈だったねぇ……)


街中をゆっくりと歩き、マールは思う。


レオンの異質なまでの強さ。

エリナとの口づけ。

レオンの生存証明。


まるで、演劇を見ているようだった。


(……いったい、どこまで計算しているのやら……)


それらすべてを演出したクロードに、

マールは感嘆のため息をつく。


同時に、

今日歩いている理由を思い出した。


(……そうそう、こいつを届けるんだったね……)


クロードから預かった革袋を右肩から下げ、

マールはいま武器屋のホークのところへ向かっていた。




――三十分前のクロードとの会話。


「マールさん」

「少し重くて申し訳ないんですが、これをホークさんのところに届けていただけませんか?」


「なんだい、これは?」


マールがクロードに問うと


「この前の戦いでレオンが使っていた、武器のお礼です」

「かなり面倒なものをお願いしましたので……」


やや申し訳なさそうな顔で答えた。


「……ああ、たしかにねぇ」


見たこともない武器だった。


あれを作らされたなら、その苦労もうかがい知れる。


「わかったよ」

「今すぐ行っていいのかい?」


「ええ、お願いします」


――そうして、マールは今ここにいる。


(……それにしても……)


小さい荷物なのにやけに重く感じる。


中身は一体何なんだろうと考えていると、

目的のホークの武器屋へと辿り着いた。


「なあ、ちょっとだけ……安くしてくんない?」

「馬鹿言ってんじゃねえ!嫌なら買うな!」


店に入るなり響く二つの声。


「わ、わかった!買うよ、買う!買わせてくれ!」


まだ若い冒険者があわてて叫ぶ。


「最初からそう言ってりゃいいんだ」

「ほら、持っていけ!」


武器を渡され、

若い冒険者は慌てて店から出ようとする。


「おいっ!」


マールの横を抜けて扉を開けようとした瞬間、

ホークの声が響いた。


何か言われるのではと怯えた表情の若い冒険者に


「通知義務、忘れるんじゃねえぞ!」


その声に、

とたんに表情が明るくなる。


「はい!」


いい返事を返し、店を出ていった。


「すまねえな」


二人だけになった店内で、

謝罪しながらホークが笑う。


「お前さんとこの店のおかげで、商売繁盛だぜ」


保険料の割引対象となっている武器の新調。


出来の良い店の武器は割引率も高い。


ホークの作る武器は【S.O.M.P.O. ジャン】の中でトップの割引率を誇るため、

今や冒険者に大人気の店となっている。


「それはなによりだね」


そう言いながら、


「でも、ありがたがってるのはこっちも同じだよ」


マールはクロードから預かった荷物を取り出すと、

包みのままホークに手渡した。


「なんでぇ、これは?」


「レオンの武器を作ってくれた礼だってさ」


そう言った瞬間、

ホークが一瞬固まった。


「……たいへんだったんだろ、あれ?」


マールの問いに、ホークが真顔になる。


「……ああ、大変なんてもんじゃなかった……」


その言葉を、マールはそのまま受け取った。

けれど――


「だけどな……今は、最高に感謝してるぜ」


その顔が、歓喜に満ちていた。


「俺も、見たぜ。レオンの戦い……」


両手を握りしめる。


「あの英雄の武器を……俺が、作った――この手で!」


同じ世代のはずの男の顔が――

少年のように輝く。


(……ああ、こいつもクロードにかかわっちまったんだね……)


マールが内心ため息をつく。


クロードに関わった人間は、

みんなこうだ。


「まぁ、なんにせよ受け取ってやっとくれ」

「そうじゃないと、次を頼みづらいんだろうよ」


「……そうか。なら、遠慮なくいただくぜ」


そう言って、中身を取り出す。


出てきたのは、

見慣れない大きめな石だった。


「なんだい、石が入っていたのかい」

「道理で重いわけだよ」


マールがぼやくと


「……」


呆然とするホーク。


「どうしたんだい?」


マールが聞くと


「……こいつを、ほんとうに貰っていいのか?」


ホークの声が震える。


「ああ、構いやしないよ」

「自分が持っていても役に立たないから使ってくれとさ」


真顔で聞くホークに答える。


「なんなんだい、その石は?」


マールが聞くと


「……こいつは……ミスリル鉱石だ」


一拍。


「買おうと思えば――」

「この大きさなら、金貨七十枚は下らねえ」


ホークの言葉に一瞬驚くが、

マールはすぐに切り替える。


「気にしないで受け取りな」

「その代わり……きっとまた面倒な仕事を持ってくるよ、あの男は」


にっと笑う。


「……そうか」

「……なら、いくらでも持ってこいと伝えてくれ」


「ああ、伝えとくよ」


ミスリル鉱石を眺め続けるホークに声をかけ、

マールは店を出た。


今は、一人にしてやるのが良いと思った。


(……さて、帰るとするかね……)


ちょっと良い気分になり帰るマール。


街は相変わらずざわめいている。


そろそろ中間地点かというその時、

小さな女の子が下を向き泣いている姿が目に入る。


「どうしたんだい?」


声をかけると、

びくっと肩を震わせ、顔を上げた。


(……ああ、これは迷子だね……)


内心マールはほっとした。


この世界、

捨て子は決して珍しくない。


けれどこの子は、

怪我や虐待の様子はなく、身なりも普通。


「ここへはお母さんと来たのかい?」


女の子は無言でうなずいた。


「よしわかった!あたしがお母さんを探してあげるよ!」


マールが満面の笑顔でそう言うと、

女の子は嬉しそうに顔を上げた。


「そうと決まれば」


マールはそういうと、女の子を肩車する。


「さあ、これでお母さんを探すよ!」


「うん!」


すっかり笑顔になった女の子に、


「あたしはマールだよ!」

「お嬢ちゃん、お名前は?」


ここで初めて名前を聞く。


まずは安心させること。

それがマールの経験からの選択だった。


「ミーナ!」


すっかり安心した女の子が元気よく答える。


「いい返事だね、ミーナ!」

「それじゃああたしも大きな声で探すから、びっくりしないでおくれよ!」


「わかった!」


元気よく返事する女の子に、

マールは両手で耳を塞ぐよう伝える


そして――


「ミーナのお母さーん! 」

「こどもはここだよーーっ!!」


通りにいる全員が振り向いたのではないかという大声。


「どうだい、ミーナ!」

「これならすぐにお母さん見つかるだろう!」


「うん!マールすごい!」


ミーナがそう言ったのと同時に、

遠くの交差点付近で、大きく手を振る何人もの男たち。


「ミーナ、行くよ!」


こちらに手招きする男たちと、

その向こう――交差点の先で、必死に手を振る一人の女性。


マールはそれが母親だと踏んで男たちの元へ向かう。


しだいに男たちの顔まで判別できる距離まで来ると、

息を切らして走る女性の顔が判別できるようになった。


「おかあさん!」


ミーナが叫んだ。


呼応するように女性が手を振る。


「ミーナ、よくがんばったね」

「走って転ぶとお母さんががっかりするから、ここでお母さんを待つんだよ」


マールが肩車から降ろしそういうと、

ミーナは「わかった」と言いながら涙をこぼし、

母親に向けて両手を広げた。


顔をほころばせ近づく母親の姿を確認し、

マールは満足そうな笑みを受かべると、その場から離れた。


(……さて、遅くなっちまったね……)


あの雇い主ならば何も言わないだろうが、今は――

無性にリーリスに会いたかった。




マールが【S.O.M.P.O. ジャン】窓口に戻ると、

エリナとリーリスが冒険者対応をしていた。


(……たいしたもんだねぇ……)


すっかり立派になったリーリスの姿に、

マールが目を細める。


クロードがいなくとも、

しっかりみんなのフォローができるエリナ。


持ち前の度胸と正義感で、

冒険者の心を掴むリーリス。


そして、英雄となったレオン。


頼もしい仲間に誇らしさを感じると共に、

いたって普通の自分の存在意義に自信を無くす。


(……ずっとここで働きたいけれども、あたしはここにいていいのかねぇ……)


そんな悩みを抱えながら控え室へいくと、


「お疲れさまでした、マールさん」


クロードが果実水をいれて迎え入れてくれた。


「ありがとうよ」


ありがたく頂戴し、喉を潤す。


笑顔をかえしたが、


「……なにか、ありましたか?」


クロードが見抜く。


「あー……」


まさか感づかれるとは思ってもいなかったマールは言葉に詰まり、

一瞬受付へ視線を逃がし、右手で軽く頭をかいた。


「――もしかして、自分の存在意義とかを考えていますか?」


核心を突かれ、マールが目を見開く。


「あんた、人の心が読めるのかい!?」


マールの言葉にクロードが笑みをこぼす。


「そんな大層なものじゃありません」

「昨日の今日ですし、先ほど受付に移した視線の温かさからそう感じただけです」


「……そうかい」


言ってため息をつく。


「あんたが見抜いた通りだよ」


「エリナもリーリスも凄い」

「レオンに至っては英雄ときたもんだ」


言ってマールは視線を下に落とす。


「あたしだけなにも取り柄がないとなると、考えちまうのさ……」


マールのその告白に、クロードは質問で返す。


「マールさん」

「あなたはいつも笑顔をたやしませんが、なにか理由があるのでは?」


急な質問に驚きつつ、マールは答える。


「……大した理由じゃないよ」

「夫の死の間際の言葉でね」


その言葉を、マールは伝える。


「俺はお前の笑顔に救われてきた」

「俺が死んでも、ずっとその笑顔でいてくれってね」


「でもあたしはあの時、笑って送り出せなかった」

「……それがずっと、心残りだったのさ」


だからその言葉を、

マールはずっと守ってきた。


不安な時も、苦しい時も、笑顔を作り続けてきた。


――泣きたい夜ほど、誰よりも明るく笑った。


それが、たとえ作り物の笑顔だったとしても。


その言葉を聞いて、クロードはマールに告げる。


「マールさん」

「あなたは気付いていますか?」


「何をだい?」


クロードの質問の意味が解らなかった。

素直に聞くと、


「一対一の時、わたしが唯一“さん”づけで呼んでいるのが、あなただけということをです」


クロードの言葉にハッとする。


「リーリスやエリナ、レオンだけではありません」

「わたしはバルドゥスやハ―サムですら、名前をそのまま呼んでいます」


言われてみればそうだった。

ならば、年齢が理由ではない。


「理由は単純です」

「あなたが唯一、わたしよりも優れたものを持っているからです」


その言葉にマールは驚きを見せる。


一番普通の自分が、彼らよりも優れているものなど思いつかなかった。


「はっきり断言しますが、私はレオンよりも強いです」


自信満々というより、

当然といった顔で言う。


「組織の長としての才覚や、医学の知識でも、彼らに劣るとは思っていません」


この男が言うと、

不思議と否定する気にはならなかった。


「……そんなことを真顔で言えるのは、世界中であんただけだろうね」


マールの言葉に、

クロードは小さく笑う。


「そうかもしれませんね」

「けれど――」


クロードが言葉を切ってマールを見る。


「そんな私でも、あなたには勝てないことがあります」


「……」


クロードの言葉に、

息をのむ。


「それは――笑顔です」


「笑顔?」


思ってもみない答えに、

マールは不思議そうな顔でクロードを見る。


「ええ、笑顔です」


「苦しい時、不安な時、どんな時でもあなたは笑顔を作り続けてきました」

「たとえそれが作りものだとしても、です」


「……」


「短期間ならそれをできるものもいるでしょう……」

「――けれど、十年以上もあなたはそれを実行し続けた」


一拍。


「それがどれほど凄いことなのか――あなたは気付いていない」


「……そんなものなのかねぇ」


まだ自信を持てないマールに


「この機会にはっきり言っておきますが、あなたを【S.O.M.P.O. ジャン】に勧誘したのは、リーリスの保護者としてだけではありませんよ」


クロードは断言した。


「冒険者は過酷な職業です」

「恵まれない環境で、生きるためにやっている者も多い」


そこには同意する。


「そんな彼らが求めるものは、安心や癒しです」


「あなたの笑顔は――

彼らに、安心して弱さを見せていい場所を与えられる」


「それに――」


クロードがそこまで言いかけた時、

エリナが顔を出した。


「マールさん、受付に来てください!」


その言葉に、

クロードとマールが顔を見合わせる。


うながされ窓口に行くと、

【S.O.M.P.O. ジャン】に似合わない客がいた。


「ミーナじゃないか!」


マールが声を上げると、

ミーナが嬉しそうに手を振った。


「突然すみません!」


同時に、母親が口を開いた。


「ミーナから聞いたんです」

「笑顔の素敵なマールという女性に助けてもらったと」


「近くの方々に聞いたら、すぐにこちらを教えてもらいお伺いしました」


「迷子のミーナを助けていただき、ありがとうございました!」


母親は深くお辞儀をすると、

お礼だと言ってミーナが選んだという、鳥の翼の形をした髪飾りを手渡した。


ミーナいわく、

肩車をしてもらって見た景色が、鳥になったような気分だったからだそうだ。


大きく手を振って帰るミーナに、

笑顔で手を振り返すマール。


その様子を見ていた冒険者の一人が声をかける。


「俺もあの場にいたけど、かっこよかったぜ、マールさん」


みんなに慕われる姿に嫉妬したのか、

リーリスがマールの腕を掴む。


「さすがマールさん!」


エリナも嬉しそうに声をかける。


「マールさん!」


いつの間に来ていたのか、

レオンがマールに声をかける。


「悪いけど、この包帯巻いてくれないか?」

「ハ―サムがこのくらい自分でやれってやってくれないんだよ」


レオンの言葉に


「ちょっと、そのくらい私がやるわよ」

「マールさんの手をわずらわせないで!」


エリナが怒ると、


「いや、マールさんじゃないとすぐズレちゃうんだって」


レオンが反論し、軽く言い合う。


その様子を見ていたクロードが、

軽くマールの肩を叩く。


「……もう、説明は不要ですね?」

「――これが、あなたの価値です」


その言葉にマールが振り向く。


「あなたほど人に頼られ、安心感を与えられる人はいません」


「その証明が今――ここにあります」


言われ、マールの目に涙が滲む。


「あっ!クロード、おまえマールをいじめたな!」


泣かせたと勘違いしたリーリスがクロードに凄む。


そんなリーリスを、

マールは後ろから優しく包み込んだ。


「……違うんだよ、リーリス」

「これは、うれし涙さ」


言って、その手に少しだけ力をこめる。


「マール?」


リーリスは動かなかった。

なんとなく、このままでいるのがいい気がした。


そこにクロードが言葉を続けた。


「この癖のある連中を包み込めるのは、あなただけです」

「これからも、よろしくお願いしますね」


「――ああ、まかせておきな」


涙はそのままに、マールは満面の笑みを浮かべた。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、笑顔の輪に酔いしれる。


――S.O.M.P.O. ジャン。


剣と魔法の世界に、


守り続けた願いが――


確かに、この場所で報われていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白いと感じていただけたら、評価やブックマークをいただけると励みになります。


※コンテスト応募条件達成のため、

6月13日(土)までは下記の通り週2回更新となります。


毎週水曜日 21:00更新

毎週土曜日 20:00更新


※以降は毎週水曜日21:00更新予定です。

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