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異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


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第十八話 努力の証明 - 未来の英雄 -

「みんな、ありがとう!」


エリナの声が【S.O.M.P.O. ジャン】窓口前に響く。


感謝の言葉は【リターンライン】の三人に向けられたもの。


朝の道のりはレオンが付くため、

トーマス達は帰りのみ護衛に加わることとなった。


感謝の言葉に笑顔を返し、

【リターンライン】は日帰りの依頼を探しにギルドへ向かう。


「――レオン」


見送るエリナに気づかれない程小さく名を呼び、

クロードは控室に来るよう目で促す。


無言で頷き、クロードの後に続く。




「――で、どうでした?」


椅子に座るなり、

クロードが口を開いた。


「多分……すぐにでも動く」


昨日の自身の行動と目にしたことを、

すべてクロードに報告する。


「あんたに教わった通り、奴の右腕らしき男の後をつけた」


「右目の下に、ほくろのあった男ですね?」


レオンは頷き、続ける。


動いたのは夕方。

仕事が終わり、飲みに出かける男たちが増える時間。


多くが仲間と飲みに行くなか、

その男は一人酒場に入っていった。


少し遅れて入ったレオンは、

カウンターに座る男の斜め後方、離れたテーブル席に座った。


怪しまれないよう、座るなりエールを注文し、

運ばれてくるのと同時に、つまみに肉串を注文した。


――男が動いたのは、

レオンが二杯目のエールを飲み干したころ。


支払いに銀貨と銅貨をテーブルに置き、席を立つ。


貨幣の下に、

一枚の紙らしきものを残して。


「男が店を出る前に、店員がすぐその紙を持って行った」


レオンの説明に


「なるほど……そこが実行役、もしくは連絡所という訳ですか」


再度無言で頷く。


「ありがとうございます。大変助かりました」


クロードはそう言うと、レオンの前に金貨を三枚置く。


「――これは?」


レオンの視線が、金貨からクロードへ移る。


「無論、報酬です」


簡潔に答える。


それでも納得しない顔のレオンに


「あなたの本来の仕事は護衛です」


「今回は密偵のようなことをしていただいた上に、時間外まで働いていただきました」


「それに、そこでの飲食は必要経費です」

「その金額は妥当な金額ですよ」


言い終えるのと同時に、

強引にレオンの手に握らせる。


「……じゃ、ありがたく頂戴するよ」


「ええ」

「受け取っていただけないと、次から頼みづらくなりますので」


小さく笑うクロード。


そして――

すぐに真顔になる。


「それでは念のため、エリナ達の護衛を確実にします」


「今は善意で護衛してくださっていますが、あなたから【守護者の願い】に正式に依頼してください」

「条件は帰りの護衛のみ。報酬は、一人金貨一枚」


「わかった」


今ならまだ依頼に出かける前の可能性もある。

レオンはすぐに席を立ち、ギルドへ向かった。


(……さて、そろそろ頃合いですかね……)


その後ろ姿を見て、クロードは決意を固める。


激動の一日が今――

始まろうとしていた。




【S.O.M.P.O. ジャン】窓口に【リターンライン】が迎えに来る。


クロードは事情を説明し、

【守護者の願い】の到着を待ってもらう。


「そろそろ……ということですか」


ルーカスがクロードに尋ねる。


クロードは一瞬笑みを浮かべ、

小さく頷く。


その頷きに頷き返し、

ルーカスは仲間に声をかける。


と、すぐにクロードの元へ帰り、

こう提案した。


「相手の本命はクロードさん……ですよね」


「大した戦力にはなりませんが、ぼくだけクロードさんの護衛につきましょうか?」


クロードは一瞬思案し


「それは助かります。ぜひ、お願いします」


提案をのんだ。


やはり、聡い。


そうこうしている内に【守護者の願い】も到着し、

マール・リーリス・エリナが守られながら帰宅する。


「それでは、行きましょう」


クロードの言葉に頷くと、

レオンが先頭、ルーカスが殿を務めクロードを挟む。


昨日と同じく、

不自然ではない程度に人気のない道を歩く。


だんだんと街の喧騒が小さくなり、

空が、暗さを増していく――


廃屋のある横道から、

顔を隠した六人の男たちがでてきたのは――そんな時だった。


ルーカスはクロードのすぐ前に立ち、

レオンがさらに五歩前に出る。


周りに人はいない。


男たちは言葉もなく武器を構え、

たいして大きくもない道いっぱいに広がった。


「――必要なら、使って構いませんよ」


クロードがレオンにしかわからない言葉をかける。


「いや……多分、必要ない」


レオンは振り向きもせず答えると、さらに進む。


男たちが手にしているのは


こん棒や鉄棒の類。


短剣を持っているのが一人。


数と武器は十分に人を殺せるものだが、

動き自体は粗い。


油断はできないが、いけると踏んだ。


(……さて、行くか……)


これから進む先をイメージし――

レオンが、駆ける。


「――来るぞ!」


男の一人か叫び、武器を構える。


かまわず両腕を前方に出し顔をガードすると、

低い姿勢を保ちつつ、レオンは一番手前にいる男の懐に飛び込んだ。


振り下ろされるこん棒を上体の動きだけで軽くかわし、

その反動を利用して、横腹に左拳を叩きこむ。


「ぐぁっ!」


短い悲鳴を上げ、体をくの字に曲げる。


訓練の時とは違い、今日のレオンの拳には、

事前にクロードから渡された、籠手と同素材のナックルが装備されている。


威力は――段違い。


当たり所を間違えれば、命を奪いかねないほどに――


悶絶し動きを止めた男の武器をナックルで弾き飛ばし、

迫る敵の動きを一瞬止める。


同時にそれとは反対方向へ駆け出し、

迫るもう一人の懐に飛び込む。


横に薙ぎ払われるような攻撃を沈むようにかわすと、

またその反動を利用し下から顎を貫く。


今度は、

悲鳴すら上がらなかった。


膝から崩れるように倒れる男を盾として使い、

迫るもう一人の方へ蹴り飛ばす。


その反動を使い数歩下がると、

状況を一瞬で確認する。


再度ルートをイメージし、瞬時に動く。


レオンは動きを一瞬も止めない。


多対一の絶対法則――

囲まれない状況を作る。


教えられたそれを、

レオンは忠実にこなしていた。


「……すごい……」


ルーカスが賛辞の声を漏らす。


決して力を入れているようには見えない攻撃。


無駄のない、軽やかな動き。


一瞬たりとも止まらないその動きは、

まるで、踊り子のように優雅で、鮮烈。


「――あの動きは、剣でも応用できます」

「取り入れて損はないと思いますよ」


クロードがつぶやく。


「……もしかして、これをぼくに見せるために同行を許可してくれたんですか?」


その問いに返事はなかった。


しかしクロードの視線は、レオンではなく――

ルーカスに向けられていた。


そして返事の代わりに、

ルーカスの肩に手を置く。


「あなたは将来、きっと良い冒険者になる」

「それは、不幸を減らすことにつながります」


「私たちは手段こそ違えど、仲間です」

「協力できることは惜しみません」


クロードの言葉の間にも、

敵は一人、また一人と倒れていく。


最後の敵が突き出した短剣を、

レオンが籠手を利用し受け流す。


伸びきったその腕に沿わせるように拳を突き出し、

一瞬で――顎を砕いた。


完勝。


その姿は、

ルーカスにとって「英雄」そのものだった。


「これを」


全てが終わった瞬間、

クロードはレオンに袋を投げた。


中には、

拘束用のロープが入っている。


受け取ったレオンが男の一人を縛り上げていると、

ルーカスも持ち場を離れそれを手伝う。


「悪いな」


レオンの言葉に、

ルーカスが返事を返す。


「――凄かったです。とても」


本心を告げ、レオンの目を見る。

そして――


「……ぼくも、あなたのようになれるでしょうか……」


筋力不足の自分の体は、ルーカスの数少ない悩みの一つ。

それを解消する方法を今日、目の当たりにした。


クロードを目指す自分と重ね、

レオンは答える。


「なれるさ」


断言した。


「望むならいつでも来ていい」

「俺が教えられることは教えると、約束しよう」


その言葉に、ルーカスの知的な目が、

年相応の少年の目になった。


「ありがとうございます!」


その光景を見ていたクロードが、

小さく笑みを浮かべる。


今まさにルーカスの英雄となったレオン。


そして――

未来の英雄になるであろうルーカスの姿に。


同時に、

クロードは今後の展開を脳裏に描き出す。


(……やはり、頃合いですね……)




帳面の裏表紙に刻まれた名が、称賛の声に踊る。


――S.O.M.P.O. ジャン。


剣と魔法の世界に、


二人の英雄がまだ名も無きまま――


確かに、この日交差した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白いと感じていただけたら、評価やブックマークをいただけると励みになります。


次回は、

その力が「証明」を求められる舞台へ。

(描きたかったシーンがそこにあります。ぜひご覧ください!)


※コンテスト応募条件達成のため、

6月13日(土)までは下記の通り週2回更新となります。


毎週水曜日 21:00更新

毎週土曜日 20:00更新


※以降は毎週水曜日21:00更新予定です。

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