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異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


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第十七話 試される信念 ― 小さな英雄 ―

【S.O.M.P.O. ジャン】の一日は、過ぎるのが早い。


接客はもちろん、

空いた時間もデータの整理に追われる。


パーティーごとの事故率。

魔物と冒険者のランク対比表の更新。

純保険料と保険金のバランスチェック――


数え上げれば、キリがない。


そんな忙しい毎日を送る【S.O.M.P.O. ジャン】に、

嬉しい知らせが舞い込んだ。


新米三人組【リターンライン】の、

Dランクへの昇格が決まった。


気がつけば――

リーリスが加入し、半年が過ぎていた。


【S.O.M.P.O. ジャン】は順調に客数を伸ばし、

確実に冒険者の意識は変わり始めていた。


そしてその影響は――

とうとう冒険者以外にも広がり始めた。




「どういうことだ!」


【S.O.M.P.O. ジャン】窓口に怒声が響いた。


クロードの眼前には、

ガラの悪そうな五人の男たち。


先頭に立つ初老の男は、

辺境の街オーダリーに古くからある商会の会長マダガス。


「どうして同じ武器なのに、ホークのところとうちで割引額が違うんだ!」


――それは、

ある日の冒険者の言葉だった。


「確かにここの方が少し安いけど、保険料の割引考えると向こうの方が安いかな」

「そうだな、行ってみるか」


偶然耳にしたマダガスは、

その場では何も言わなかった。


だがその日のうちに、

店の帳簿と顧客の動きを洗わせていた。


そして【S.O.M.P.O. ジャン】の保険料の割引に、

武器の新調項目があることを知った。


さらに調査を継続し、同じ材質で作られた剣でも、

購入した店によって割引額が違うことも判明した。


今日マダガスがここに来た理由は、

その件に関する抗議だった。


しかしクロードは動じない。


「同じ武器ではないからですよ」


淡々と答える。


「あなたのところの武器はすべて鋳造」

「ホークさんのところは一本一本が丁寧な鍛造です」


クロードの言葉に、マダガスの眉が一瞬上がる。


「言うまでもなく、強度が違います」

「保険料が違うのは当然でしょう」


指摘に、それでもマダガスは引かない。


「――そんなことは知らねえ……」


言い切ったあと――

一瞬だけ、言葉が詰まった。


それでも、続ける


「ただ……安く提供しているだけだ」


「事実を伝えなくても問題が無いと?」


「嘘はついてねえよ」


「……なるほど。嘘をつかなければ問題ない、と」


クロードの返事を敗北宣言と受け取り、にんまり笑う。

しかし――


「では、問題ありませんね。私たちも嘘はついていません。お引き取りを」


「てめえ……」


クロードの返しに目が座る。


「とにかく……同じ材質で作られた武器なら平等に割引しろ」

「でなけりゃ、お前らのせいで落ちた売り上げは補償してもらうぞ」


凄んでみせるマダガス。


しかしそれでも、

クロードは表情一つ変えることはなかった。


代わりに、リーリスが立ち上がる。

我慢の――限界だった。


「そんな義務はねえよ!」

「売り上げが落ちたなら、買ってもらえるように努力しろ!」


「なんだとっ!?」


マダガスの怒声。

それでも、怯まない。


「私たちは保険屋だ、保険の価値で勝負してる」

「あんたも武器屋なら、武器の価値で勝負しな!」


「きさまっ……」


所詮は新参者の集まり――

軽く見ていたマダガスは、思いもよらない返事に怒り、目を血走らせた。


逆らうだけでも許しがたいというのに、

生意気な返事をしたのは――小娘。


「――申し訳ないがお待ちのお客様がいますので、そろそろお引き取りいただけますか?」


意に介さず、クロードが畳み込む。


さらに、リーリスがダメ押しをする。


「それとも――ここで騒ぎでも起こすかい?」


言ってリーリスは、わざと視線を外す。


その先にはあるのは、

騒ぎを聞きつけ覗き込む何人もの冒険者の姿と、ギルド受付。


「――くっ……」


その意図を読み取り、

マダガスは不承不承引き下がる。


その目に――

あきらかな敵意を宿しながら。


完全にその姿が消えると、

冒険者たちから、少女を称える大きな拍手が巻き起こった。


「いいぞ嬢ちゃん!」


「かっこよかったぜ!」


勇敢なリーリスの姿に起こる歓声。


その歓声の中、クロードが小さくつぶやく。


「――レオン」


クロードの声に


「――わかってる」


一言。


そして音もなく後を追う。


「――さて……」


その後ろ姿を見送りながらほんの数秒思案し、

クロードは口を開いた。


「マールさん」

「申し訳ありませんが、ギルド長へこの件をご報告いただけますか?」


「あいよ」


落ち着いた笑顔で答えるマール。

ゆっくり立ち上がると、ギルド受付へと歩いていく。


対照的に――

リーリスはふくれっ面を見せていた。


「……どうしました?」


「……あのおやじ……嫌いだ」


短く答えた。


ストレートな物言いに、

思わずクロードに笑みがこぼれた。


「――怖くはありませんでしたか?」


「ぜーんぜん」

「だって弱そうじゃん」


普段冒険者の相手をしているリーリスには、

そう見えるらしい。


「そうですね……」

「でも、彼らの強さは別の強さです。注意はしてくださいね」


「……わかった」


あまりわかってない口ぶりで頷いた。


そんなやりとりをしているうちに、

マールがバルドゥスを連れてきた。


「忙しいところ申し訳ありません」


クロードが声をかけると


「そういうのはいらん。中で話せるか」


「ええ。ぜひお願いします」


ごく簡単に言葉をかわし、

ふたりは控室へと移動する。




「――で、きたのはマダガスなんだな?」


バルドゥスの問いに、クロードは頷きで答える。


「そうか……」

「お前は、やつのことをどの程度知ってる?」


「そうですね。この街でもっとも古く、規模の大きな商会の会長」

「武器防具をメインに、冒険者ご用達のような品揃えの店で財を築き今に至る」

「評判はまあ、かなり悪い――ごろつきの親分、といったところですかね」


淡々と答えるクロード。


「……まあ、そんなとこだ」


一拍置き。


「で、どうするつもりだ?」


これから奴がどんな行動に出るかわかっているだろ――と

バルドゥスの目が語る。


「ギルドへ依頼を出します」


間髪いれずクロードが答える。


「依頼だと?――護衛依頼か?」


「はい」


頷き、続ける。


「護衛対象はマールとリーリス、そしてエリナ」


「常時か?」


「はい。“ことが終わるまで”の期間、自宅から【S.O.M.P.O. ジャン】までの、行きと帰りのみの護衛をお願いします」


「短けえな……往復でもせいぜい一時間だろ。報酬は?」


「片道の護衛で、冒険者一人銀貨五枚」


「……おいしいな。いいのか?」


行き帰りだけの護衛なら、通常の日帰り依頼を受けてもこなせる。


「もっと安くても、多分受けるぞ」


「構いません」


即答した。


「代わりに、可能であれば【緑の息吹】【守護者の願い】【リターンライン】のいずれかを希望します」

「無理な場合は、ギルドの推薦するBランク以上のパーティーにしてください」


「わかった」


返事をしたが、不安が一つ。


「だが、本当に【リターンライン】でいいのか?」


堅実なパーティーだが、ようやくDランクにあがったばかりの新米あがり。

護衛としては、やや不安が残る。


「大丈夫です」

「きっと【彼】なら、自分で力不足を補う方法に辿り着きます」


確信するクロードに、バルドゥスが笑う。


「――ルーカスか」


クロードも笑みを浮かべて頷く。


「わかった。そこまで考えているなら何も言わねえ」


バルドゥスはそこまで言うと――

今度は真顔になった。


「……で、護衛をつけている間に――何をやるつもりだ?」


護衛依頼の金額は、最低でも一日金貨三枚。

ひと月でおよそ金貨百枚の計算。


時間をかける気があるとは思えなかった。


「何も」

「ただ――」




その一瞬クロードの目から――

感情の色が、完全に消えた。




「ギルドの護衛のいない私は、私兵を一人だけ連れ、人通りのない道をゆっくりと歩くだけです」


クロードの顔に冷たい笑みがこぼれる。


「……やつらに……わざと襲わせる気か……」


クロードは答えなかった。

代わりに――

質問を一つ。


「こちらからもお伺いしますが――」


「仮にマダガスの商会がこの街から消えた場合――

あなたや冒険者は困りますか?」


真顔の質問に


「……おまえなぁ……」


言いつつ、答える。


「別に困りゃぁしねえよ。新しい商会なりが入ってくるだけだ」

「むしろ、今まで奴の嫌がらせで入れなかったまっとうな商会がはいりゃ、冒険者も喜ぶだろうよ」


もともとギルドとしても、頭の痛い商会だった。


装備の質の悪さは命に係わる。

だが見る目を持たない冒険者は、見た目の値段のみで選んでしまう。


しかし【S.O.M.P.O. ジャン】のおかげで

冒険者が質の良い装備を整えるようになった。


もはや、マダガスの商会は百害あって一利なし。


「安心しました。ならば【計画】を実行させていただきます」


クロードの言葉に、バルドゥスが反応する。


「【計画】?」


「ええ。【計画】です。正確には【計画】の一部、ですが」


一呼吸入れ、続ける。


「【S.O.M.P.O. ジャン】を始める前から……あの商会にはいなくなってもらおうと考えていました」


「なんだと!?」


クロードの告白に、

さすがに驚きを見せる。


「どういうことだ……?」


バルドゥスの問いに、

クロードは静かに答える。


「私は保険を広めるために【S.O.M.P.O. ジャン】を立ち上げたわけではありません」

「あくまでも、目的を叶える手段です」


そう言って腕を突き出し


「目的は二つ」


指で数を数える。


「無意味な死を無くすこと」


「そして――

不幸を、減らすことです」


それこそが――保険の意味。


そこに反するマダガスの商会は、

クロードの理念には受け入れられない存在だった。


「あの商会がある限り、不幸を増やす負の連鎖は止まりません」


「安いと勘違いした質の悪い装備を買い、早いサイクルでの新調を強いられ資金が溜まらない」


「結果、生活水準を落とし、本来体が資本の冒険者が、必要な食事や休息もとれず疲弊する」


バルドゥスは口を開かない。

代わりに苦い顔をする。


全くの同意見だった。


「私の目的を叶えるために、あの商会には消えてもらいます」


はっきりと断言した。


ここで、ようやくバルドゥスが口を開く。


「【計画】の一つ――そう言ったな」


「……おまえ、どこまで見ている?」


その問いは、冗談ではなかった。


あまりに遠くを見据える目。

その先を、自分も見てみたいと思った。


「そうですね……」

「まずはあなたに、ここの領主くらいにはなってもらいたいと思っています」


そういうと、クロードは席を立つ。


「な、なんだと――!?」


「やらんぞ!そんな面倒そうなこと!」


確かに、ここの領主はあてにならない。

マダガスの商会がのさばっている原因の一つだ。


この男なら――

本当にやりかねない。


歩き出すクロードに叫ぶが、

それでも振り向くことはなかった。


内心ため息をつきつつ、最後に一言。


「クロード」

「おまえ……本当に大丈夫なのか?」


無論――

これから襲い来るであろう暴漢に対して。


「ええ、ご心配なく」


呆れるほどの自然体と笑みで返す。


それを最後にクロードの姿が消え、

代わりに、マールが飲み物を手に入ってきた。


「――あんたも、大変な男に関わっちまったねえ」


にっこりと笑うマールに、

苦笑いを浮かべるバルドゥス。


「まったくだ」


受け取った飲み物を一気に飲み干し


「クロードに伝えてくれ。今日から護衛を派遣すると」


「あいよ」


返事を確認し、バルドゥスはギルドへ戻る。




その日の夜。


街道を歩くマールとリーリス、そしてエリナの近くには

五人の冒険者が寄り添っていた。


【リターンライン】のルーカス・ジル・クレイン。

【守護者の願い】のトーマス・ルーウェンだった。


「ありがとうございます、トーマスさん」


声をかけたのはルーカスだった。


「いや、声をかけてもらって良かった」


トーマスは答える。


ギルドから往復の護衛依頼を一日金貨三枚で受けた【リターンライン】は、

確実な依頼達成のため、金貨一枚を渡しトーマスに護衛の護衛を依頼した。


元仲間の妻がいる護衛依頼ならば、

きっと引き受けてくれるだろうとのルーカスの計算だった。


【リターンライン】にとっては、

金貨二枚を三人で分けても、十分に実のある仕事だった。


意外だったのは、ルーウェンの同行。


「依頼料は金貨一枚のままで構わない」


話を聞いていたルーウェンが、

無報酬での同行を強く嘆願した。


レオンは結果生き返ったが、

あの日の後悔が消えたわけではない。


その気持ちが、痛いほどわかった。


「――好きにさせてやってくれないか」


トーマスの言葉を、ルーカスは快諾した。


断る理由は、どこにもなかった。


【リターンライン】は道中、トーマスから冒険者としてのイロハを学び、

ルーウェンは心の重荷を解いていく。


そんな“意味”のある仕事だった。


無事自宅まで送り届けると、トーマスはレオンが戻るまでエリナの家へ。

ルーウェンはマールの家へと入る。


護衛依頼には無い、

トーマスとルーウェンの自発的な行動だった。


「それでは、僕たちはこれで失礼します」


【リターンライン】の三人は、

辺りを警戒しつつ帰路につく。




――その様子を木陰から覗く一人の男。


しばらく時間をおいてから何食わぬ顔で戻ると、

依頼主に結果を報告する。


ほぼ同時に別の一人が戻り、同じように報告をした。


「――そうか」

「女の方はギルドの護衛が五人……男の方は一人」


つぶやき、笑う。


「なら、男の方だな……潰せ」


一拍。


「殺すなよ」


「二度と――商売ができねえ程度でいい」


その言葉に無言で頷き、消えた。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、計略の炎に揺れる。


――S.O.M.P.O. ジャン。


剣と魔法の世界に、新たな風が吹いた。


それは、

誰かを救う風であり、


同時に――

誰かを切り捨てる風でもあった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白いと感じていただけたら、評価やブックマークをいただけると励みになります。


※コンテスト応募条件達成のため、

6月13日(土)までは下記の通り週2回更新となります。


毎週水曜日 21:00更新

毎週土曜日 20:00更新


※以降は毎週土曜日20:00更新予定です。

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