表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界損保 ~命の値段を計る男は、冒険者を死なせない~  作者: ゆーぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

第十四話 それぞれの想い ― 救うための選択 ―

ギルド併設の酒場《獅子の喉笛》は、

噂に浮かれた冒険者たちで溢れ、今日は満席だった。


仕方がなく、

徒歩で五分ほど歩いた穴場の酒場《鳳凰の羽ばたき》へと向かう大柄な冒険者が一人。


(……よかった、ここは大丈夫そうだ……)


店員にカウンターか相席を促され、

冒険者――トーマスは店内を見渡した。


すると、そこに意外な男の姿があった。


「――相席、いいかい?」


トーマスが男――クロードに確認すると、


「どうぞ」


短い返事が返ってきた。


トーマスは座るなり、

小さな声でクロードに話しかける。


「――噂になっている『謎の冒険者』……あいつなんだろ?」


トーマスは確信していた。


今、三日前に訓練場で戦ったという『謎の冒険者』が、

冒険者達の間で噂になっている。


相手がEランクとはいえ、

見たこともない動きで、しかも、素手で一撃。


正体は誰だと、

好き勝手な推測で、絶好の酒のつまみにされていた。


それが今日の、

ギルド併設の酒場《獅子の喉笛》混雑の原因。


クロードは答える代わりに、

小さく笑顔で頷いた。


「――そうか――」


トーマスは軽く両手を握り、豪快な笑みを浮かべる。

親友の活躍が、心から嬉しかった。


「……助からないと思っていた……」


あの日のことを思い出し、

トーマスは小さくつぶやいた。


クロードは黙って聞いている。


(――レオンの意見を諫めていれば――)

(――もっと早く、魔物に攻撃を加えていれば――)

(――あの時、あと一歩踏み込んでいれば――)


何度そういった思いに駆られたことか……。


「それを、あんた達が救ってくれた――」


絶対に助からないと思っていた。

それなのに、奇跡はおきた。

彼らのおかげだ。


「せめて、今日は奢らせてくれ」


トーマスの言葉に、クロードが反応する。


店員を呼ぶと、

この店一番の人気メニューと、度の高い酒を注文する。


そして今度はまっすぐにトーマスを見ると、口を開く。


「――あなたは、何か勘違いをしています」


クロードの言葉の意味が、

トーマスには分からなかった。


返事に困っていると、

さらにクロードの言葉が続いた。


「治療院のベッドの上で死ぬ冒険者がどれくらいいるか……あなたは知っていますか?」


「……いや」


むろん、

トーマスがそんなことを知っているはずもない。


だからクロードは、間も置かずに話を続ける。


「……百人に一人――いるかいないかです」


言われ、

トーマスは納得した。


ほとんどの冒険者は、

魔物に襲われてその場で死ぬ。


重傷を負った冒険者を見逃してくれる魔物など、

存在しないからだ。


「だが、彼は生きて治療院にたどり着いた――

あなたが、命の危険を顧みず盾を捨て、彼を最速で運んだからです」


死者は蘇生できない。


だが――

生きてさえいれば、可能性はある。


「我々は持っていたものを提供しただけ」

「そして提供する気になったのも、あなたのような人が命を懸けて救おうとした人物ならば、提供する価値があると思ったからです」


思ってもみない言葉をかけられ、

トーマスは言葉を失った。


「本当の意味で彼を救ったのは――あなたですよ」


その言葉を、

クロードは淡々と置いた。


「だから――」


ちょうど届いた注文の品がテーブルに並ぶと、

クロードは席を立ち会計を済ませる。


「今日奢るのは、私の方です」


そう言い残して、店を出た。


目の前には、

温かい料理と高級酒。


トーマスは度の強いその酒を口に含むと、

顔をまっすぐ上へ向けた。


焼けるように喉が熱いが、

その目にはうっすらと涙が滲んでいる。


(……そうか……俺は、あいつを――助けられたのか……)


死の淵まで送ってしまったと、

そう思っていた。


だがクロードの言葉で、

助けられたのだと、胸を張っていいのだと気が付いた。




(……今度は奴と、飲みにこよう……)




その日は――

近いはずだ。


レオンが素顔で暮らすようになるその日を信じて、

今は一人で、祝杯をあげよう。


トーマスは最良の一日を、静かに、静かに噛みしめた。




帳面の裏表紙に刻まれた名が、友の涙を受け止める。


――S.O.M.P.O. ジャン。


剣と魔法の世界に、


友情は――


確かに、命を繋いでいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白いと感じていただけたら、評価やブックマークをいただけると励みになります。


※コンテスト応募条件達成のため、

6月13日(土)までは下記の通り週2回更新となります。


毎週水曜日 21:00更新

毎週土曜日 20:00更新


※以降は毎週土曜日20:00更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ