第十四話 それぞれの想い ― 救うための選択 ―
ギルド併設の酒場《獅子の喉笛》は、
噂に浮かれた冒険者たちで溢れ、今日は満席だった。
仕方がなく、
徒歩で五分ほど歩いた穴場の酒場《鳳凰の羽ばたき》へと向かう大柄な冒険者が一人。
(……よかった、ここは大丈夫そうだ……)
店員にカウンターか相席を促され、
冒険者――トーマスは店内を見渡した。
すると、そこに意外な男の姿があった。
「――相席、いいかい?」
トーマスが男――クロードに確認すると、
「どうぞ」
短い返事が返ってきた。
トーマスは座るなり、
小さな声でクロードに話しかける。
「――噂になっている『謎の冒険者』……あいつなんだろ?」
トーマスは確信していた。
今、三日前に訓練場で戦ったという『謎の冒険者』が、
冒険者達の間で噂になっている。
相手がEランクとはいえ、
見たこともない動きで、しかも、素手で一撃。
正体は誰だと、
好き勝手な推測で、絶好の酒のつまみにされていた。
それが今日の、
ギルド併設の酒場《獅子の喉笛》混雑の原因。
クロードは答える代わりに、
小さく笑顔で頷いた。
「――そうか――」
トーマスは軽く両手を握り、豪快な笑みを浮かべる。
親友の活躍が、心から嬉しかった。
「……助からないと思っていた……」
あの日のことを思い出し、
トーマスは小さくつぶやいた。
クロードは黙って聞いている。
(――レオンの意見を諫めていれば――)
(――もっと早く、魔物に攻撃を加えていれば――)
(――あの時、あと一歩踏み込んでいれば――)
何度そういった思いに駆られたことか……。
「それを、あんた達が救ってくれた――」
絶対に助からないと思っていた。
それなのに、奇跡はおきた。
彼らのおかげだ。
「せめて、今日は奢らせてくれ」
トーマスの言葉に、クロードが反応する。
店員を呼ぶと、
この店一番の人気メニューと、度の高い酒を注文する。
そして今度はまっすぐにトーマスを見ると、口を開く。
「――あなたは、何か勘違いをしています」
クロードの言葉の意味が、
トーマスには分からなかった。
返事に困っていると、
さらにクロードの言葉が続いた。
「治療院のベッドの上で死ぬ冒険者がどれくらいいるか……あなたは知っていますか?」
「……いや」
むろん、
トーマスがそんなことを知っているはずもない。
だからクロードは、間も置かずに話を続ける。
「……百人に一人――いるかいないかです」
言われ、
トーマスは納得した。
ほとんどの冒険者は、
魔物に襲われてその場で死ぬ。
重傷を負った冒険者を見逃してくれる魔物など、
存在しないからだ。
「だが、彼は生きて治療院にたどり着いた――
あなたが、命の危険を顧みず盾を捨て、彼を最速で運んだからです」
死者は蘇生できない。
だが――
生きてさえいれば、可能性はある。
「我々は持っていたものを提供しただけ」
「そして提供する気になったのも、あなたのような人が命を懸けて救おうとした人物ならば、提供する価値があると思ったからです」
思ってもみない言葉をかけられ、
トーマスは言葉を失った。
「本当の意味で彼を救ったのは――あなたですよ」
その言葉を、
クロードは淡々と置いた。
「だから――」
ちょうど届いた注文の品がテーブルに並ぶと、
クロードは席を立ち会計を済ませる。
「今日奢るのは、私の方です」
そう言い残して、店を出た。
目の前には、
温かい料理と高級酒。
トーマスは度の強いその酒を口に含むと、
顔をまっすぐ上へ向けた。
焼けるように喉が熱いが、
その目にはうっすらと涙が滲んでいる。
(……そうか……俺は、あいつを――助けられたのか……)
死の淵まで送ってしまったと、
そう思っていた。
だがクロードの言葉で、
助けられたのだと、胸を張っていいのだと気が付いた。
(……今度は奴と、飲みにこよう……)
その日は――
近いはずだ。
レオンが素顔で暮らすようになるその日を信じて、
今は一人で、祝杯をあげよう。
トーマスは最良の一日を、静かに、静かに噛みしめた。
帳面の裏表紙に刻まれた名が、友の涙を受け止める。
――S.O.M.P.O. ジャン。
剣と魔法の世界に、
友情は――
確かに、命を繋いでいた。
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