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【完結】魔力最底辺の魔石研究者ですが、余裕あふれる完璧公爵様に実は溺愛されていました ~気づけば私から逆プロポーズ!?~  作者: 藤田さち


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33. 【エピローグ】公爵様は私の愛に溺れていればいいんです!

本日3話目。最終話です。



 いつもの私の研究室。私の聖域。


 今日は心無しか机が片付いていて、心無しか足が軽い。だって今日は……。


「きゃあ! 先輩、先輩! 王子さまがいらっしゃいましたよ! 先輩の王子さま!」


「リネエエエエット!!」


 あんまりな言葉に研究室から勢いよく飛び出した。


「不敬よ! そしてそれは誤解! 何を大声で言っているの!」


「僕では君の王子様には物足りないかな?」


「なに言っているんですか!? ルシアン様もふざけないで!」


「いいなあ、密室で二人、愛の研究ですかあ〜。きゃー、先輩ったら破廉恥」


「――リネット?」


「もう、怒らないでくださいよお」


「……ルシアン様、彼女の言っていることは全て聞き流してくださいね。いいですか? すべて、ですよ」


 ルシアン様、その生暖かい顔をやめてください。


「とりあえず入ってください」


 ぶっきらぼうになったって、私は悪くない。



 ルシアン様が週に二度ほど訪れるから、大きな研究机の長辺に、椅子を二脚並べている。

 彼はそのうちの一つに慣れたように座るが、私はひと月たってもムズムズとした違和感が拭えない。


 なんとなく浮つく足取りで隣の椅子に腰掛け、あらかじめ用意していた魔石や羊皮紙を広げる。


「体調はいかがですか?」


 表向きは守護魔石に関する意見交換となっているが、増えすぎた魔力の中和とそれに関する研究が本題だ。


 王太子殿下から所長を通した正式な研究であるが、ルシアン様の様態を秘匿するためにこのような措置になっている。


「体調には影響はないけれど、魔力はまた増えてきたかな」

「そうですか。では、こちらを握って起動してみてください」


 魔法陣の効率化は着々と進んで、テラスのときのようや発光はしなくなった。けれど……


「まだ割れてしまいますね」


 魔石がルシアン様の負荷に耐えきれていない。

 今の魔石は親指の先くらい。価格や身につけやすさを考えるともう少し小さい魔石でもいいように改良したいところだ。


 うまくいったら、個人的にプレゼントしたいな。

 触れやすいところに身につけるのがいいから、耳飾りか、指輪も素敵かな……。


「でも、身体は楽になった。データは取れた?」


 いけない、思考が脱線していた。

 

「はい。発動中、不快な点はありませんでしたか?」

「ないよ。どちらかというと身体が暖まって心地良い」


 起動から割れるまでの時間、彼への悪い影響はなし、と。あとで割れた魔石を鑑定して、砕け方の規則性も評価しよう。


「……はい。今日は以上です。また三日後にお願いします」

「ありがとう」


 彼は微笑むと、さっと居住まいを正した。

  

「エマには話しておきたいのだけれど、メンフィス侯爵を逮捕したよ」


 ぱっと彼を見ると、凪いだ瞳がある。

 怒りや葛藤があったはずなのに、すでに飲み込んでいるように見える。


 (強い人だ……)


 今はそれがほんの少し苦しい。

 机の上に強く握られて置かれていた右の拳に、そっと指先を触れさせる。


 ルシアン様はふと目尻を和らげると、拳を開いて指先を絡めてくれた。


「彼を調べると、余罪がごろごろ見つかった。税の横領や、魔石を密輸して不当な利益を得たりしていてね。彼が襲撃を裏で糸引いていた証拠を見つけることはまだできていないが、それも時間の問題だろう」


「……よく、この短い期間でそれだけ調べがつきましたね」


「まあ、少し無茶な手は使ったけれどね」


 真実を語らせる魔法を使用したり、王室の諜報部などが暗躍したのかもしれない。深くは聞くまい。

 

「……隷属の印の入手も彼の仕業だった」

「え?」


 憎きサイラス・ボードンの顔が浮かんで、首筋がひやりとした。


「メンフィス侯爵は、魔力にコンプレックスがある者や、後ろ暗い野心のある者とうまくつながって思想をコントロールしていたようだ。……ボードンの手に渡らなければ、君を攫うという暴挙も犯さなかったかもしれない。だから……」


「それなら!」


 その続きを言わせてはならないと、防衛反応がいつになく俊敏に発揮された。


 だって、明らかに落ち込んだ表情だ。心無しか広い肩も落ちている。なんでもかんでも自分のせいにするのは悪い癖だと思う。

 

「えっと、それなら……」


 ……見切り発車は私の悪い癖だけどね。

 ああでも、そうそう。


「それなら、メンフィス侯爵は極刑になるのではないですか?」


 隷属の印は国家手配される禁忌の魔法具だったはずだ。


 すらりと見えたのに、私の指と比べると太い指が、指の間にするりと入ってぎゅっと握った。


「うん。少なくとも今後牢を出ることはない。ゆっくり暴いてやればいい」

「ヒエ」


 ヒョオオオ、っと冷気が吹くようだ。

 やっぱり、ま、魔王ですか……?

 

 でもこれで、彼を脅かす者はいなくなったんだ。

 こんなできた人を恨むなんて業腹ものだ。せいぜい法の裁きをもって生涯後悔するといい。


 ……私は一体どんな立場で言っているのかしら。


(――これを追求するのはやめよう。高負荷に耐えられる心臓を入手するのが先よ)


 繋がった手が温かい。私の甲に沿う指は、にぎにぎと私の手を確かめるように力を込めてきて、私の指が浮く。


 彼の体温。重なる手だけで分かる体格差。綺麗な爪の形。努力が滲む指先。


(――――ゔっ)


 強心臓を得る道程は長い。ちなみにその計画はまっさらである。

 

「ふふっ」

「……なんで笑うんですか?」


 その軽やかな、気を許したような笑いは、そこそこの負荷度ですよ? きゅんってしちゃったじゃないですか。そこのところわかってます?


「ん? うーん、君が傍にいてくれれば、何があっても大丈夫だなと思って」


「――何を言っているのですか……? 私にはそんな問題解決力はないですよ? そういうのを期待されるといつか失望されそうで遠慮したいのですが……」

 

「あれ? 伝わってない?」


 彼はやれやれと呆れた顔をする。

 繋がった手の反対の手で頬をびよんと伸ばされた。


 ……心外でしかない。


「そうじゃなくて、一緒にいるだけで心強いってこと。こうして手をつないでいるだけで、不安が溶けたり、気持ちが勇気付けられたり、愛しさが込み上げたり。……エマはそう感じない?」


 小首を傾げて、つい俯いた私の目を覗き込んでくる。

 逃げたはずの澄んだ青い瞳に視線が絡め取られて、今日も心臓が過剰労働だ。


「……卑怯者」


 なんて可愛げのない。

 こんなきつい顔をして、愛嬌の一つでもないと、好意なんてあっという間になくなっちゃう。


 思わず唇を噛むと、親指がそこをつうっとなぞり、顎を掬われる。


「かわいいなあ」


 ……ルシアン様は目が悪いに違いない。


(でも、そっか)


 こんな私を、そんなふうに慈しむようにしみじみと可愛いなんて思ってくれるんだ。


 ルシアン様は、こうやって、触れて、言葉にしてちゃんと伝えてくれる。なら、私もそうしないといけないわよね。


 そういう努力ならきっとできるはずだ。


 青い瞳と目を合わせて、恥ずかしさには目を瞑って、気合とともに口を開く。


「あ、あのね、ルーク。好きよ」

 

「あ゙――――――」

「ぶへっ」


 繋いだ手が強引に引かれて浮いた腰を、逞しい腕が攫って、硬い膝に着地した。と思ったら、ぎゅうぎゅうに抱きしめられている。


 どんな早業!?


「本当に罪深い。本当に勘弁してください」

「こちらの台詞ですが!?」


 首筋に額をぐりぐり押し当てられている。柔らかい金髪が大きなわんちゃんみたい。


「ふ、ふふふ。くすぐったいっ」


 額に額がごつりと合わせられて、普通に痛い。

 

「随分慣れたね?」


 そちらは随分意地悪なお顔だ。


「……ルークのせいなんじゃないですか?」


 なにせ会うたびに何かとくっついてくるのだもの。


「ふふ、そうだね。ねえ、この前の休息日にエマのご家族に会っただろう。だからそろそろ君に指輪を贈りたいな」


 そのときの両親の顔ときたら。指三本分は口がぱっかり空いて、今思いだしても笑っちゃう。


 生意気な弟といえば、『姉上は一体どんな研究をしているの? まさか黒魔術……』なんて、失礼も大概にしてほしい。私だけでなくルシアン様にも失礼だからね、本当に。


 そして恥ずかしげもなく情熱的に、私への想いを語ったこの人はもう本当に私をどうするつもりなのだろうか。大事に覚えているけど、心臓のために思い返すのはやめよう。

 

 でも、指輪かあ。

 

「まさか要らないなんて言わないよね?」


 ……たまに心を読まれているような気がする。


「だ、だって、研究の邪魔ですし」

「邪魔……」

「だって結構手を使う仕事なんですよ! どこかにぶつけないように細心の注意を払わないといけないし、つい眺めてニヤニヤしちゃったり、ルークのこと思い出しちゃったりしたらどうするんですか!?」


 切れ長の目が、大きく開いてぱち、ぱちと緩慢に瞬きしている。


「毎日つけてくれるの?」

「毎日つけないのですか!?」


 大きな身体がそれはそれは愉快そうに揺れる。


「ふふ、それは光栄だな。大丈夫、普段も付けられて夜会でも映えるとっておきの指輪を準備してあげる」

「……そんな指輪あります?」

「あるさ。いい宝石商を探してくるよ。僕これでもつてはたくさんあってね。得ようと思って得られない情報はないんだ」


 ……………………こわっ。


「そんなものに怖い権力使わないでください!」

「宝石は何がいいかな」

「話を聞いて!」

「エマこそ話を聞こうね。君の瞳と同じ琥珀もいいし、研究者のローブと同じ緑のエメラルドもいいよね。もちろん君の意志の強さを示すようなダイヤモンドも捨てがたいし……」

「…………」


 私を置いてけぼりにつらつらと宝石の名前が挙がってくる。……そろそろ私の知らない相当マニアックな宝石になってきた。


「あの」

「何?」

「サファイアは?」

「ペンダントも青い魔石だったし、青はさすがに自分を押し付け過ぎかなと思って」


 なんか急に謎の謙遜がされているぞ?


「バレッタだって青だったのに今更ではないですか?」

「ん? それは、君が青い花がいいと言ったから。安心して? 指輪と一緒に青い花のブーケをプレゼントするから」


 なんだろう。なんとなく噛み合わない感じがする。

 

「……私、『青い花』が好きなんじゃなくて、『青』が好きなんです! ルークの瞳の色だから!」


 あ、余計なことまで言ったな。

 青い花をねだったのは、まだ恋心を自覚する前。学生時代の頃だ。なんかとっても恥ずかしい暴露ではないだろうか。


 ほら、ルシアン様が見たこともないくらいふにゃけた顔をしている!

 あまっ、もう砂糖でどろどろになった紅茶みたいに、うっとうしいくらい甘い。

 

「僕、自惚れていいんだなあ」


 くうううぅ! 恥でしかない!


「そうですよ! ……私、もう勝手に誓ったんです。私があなたをきっと幸せにするから、ルークは私の愛に溺れていればいいんです!」

 


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

土日で1話ずつルシアン視点の番外編を投稿します。


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