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【完結】魔力最底辺の魔石研究者ですが、余裕あふれる完璧公爵様に実は溺愛されていました ~気づけば私から逆プロポーズ!?~  作者: 藤田さち


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24. 好きでもない人から政治利用のために結婚したいなんて言われても知りません



 守護魔石の実用化検討の結果と課題についてまとめた資料を手に、騎士団の隊舎へ向かう。


 ――正直、会いたくない。

 今の私が一体何を口走るかなんてわかったものじゃないもの。


 簡素なドレスの襟の内側に隠したペンダントが、歩調に合わせてころり転がって、存在を主張した。

 だって、あんな姿を見て堂々とつけていられなかったのだもの。


 だけど、これは仕事。自分の気持ちで投げ出していいものじゃない。

 わかっているのに足が重たい。


 ……テオドール様に会わないかな。


(往生際が悪すぎるわね)


 廊下から見える騎士団の演習場に差し掛かった。

 

(……ルシアン様)


 うう、すぐに見つけてしまうこの目が憎い!

 探していたわけでもないのに。

 

 模擬戦でもしているのか、副団長自ら剣を振って隊士を相手している。


(忙しそうだわ)


 ちょっと安心した気持ちになったのは、往生際が悪すぎるので秘密だ。

 

 ん? 演習場の隅でなにやら、手を振る人影……。

 あ、テオドール様だ!


 ルシアン様は手が離せそうにないし、このままテオドール様に資料を預けて、さっさと帰る。

 うん、これが一番いいわ。完璧。


 テオドール様の方へ足を向けたとき、急いだ足音が迫り、荒い息とともに腕をがしっと掴まれた。


「ぎゃ」


 淑女らしからぬ声。

 というか淑女の腕を急に掴むなんて一体どういう了見なの? 非常識もいいところだ。


 その顔、しかと確かめてやる。

 睨めつける心意気で振り返った。


 歳は少し上に見える。栗色の髪を一つに結んだ端正な男性だ。

 

 …………どちら様?


 爵位が上の場合私から尋ねるのは不敬。私は子爵家、黙っているのが吉だ。表情が不敬なのは、この方が先に失礼をかましているので大目に見てもらおう。


「フォード嬢だな。ついてきてくれ」

「……え? あの、私仕事中でして」

「そんなに時間は取らせない」

「そう言われましても……」


 私の返答に興味はないらしい。ぐいっと腕を引かれてたたらを踏む。

 

「あの、困ります! 離してください」


 腕を振り払うように思いっきり動かしているのに、びくともしない。ぐう、この非力な腕め。


 というか痛い。女性の腕をなんだと思っている。


 引きずられ始めた身体にぐぐぐと力をいれて、目的地を目指す。目的地であるテオドール様と目が合った気がした。


 しかし抵抗もそこまで。結局ずるずると人気のない廊下の隅に連れて行かれた。

 

(なんなの!?)


 キッと睨むように見ると、男性はにへらと笑った。


「俺のことは知っていると思うが、ウィリアム・ハーヴィンだ」


(知りませんけど!?)


 自分の知名度に大層自信がおありのようだが、私は夜会にそう参加しない引きこもりなのだ。侮ってもらったら困る。

 

 まあでも、ハーヴィンということは、伯爵家のご子息ね。とはいえ、彼の人となりは知らない。


「失礼ですが、存知上げません」


「はあ? ……ちっ、これもルシアンのせいだ。あいつがいなければ俺が社交界の華だったはずなのに」


 ああ……、彼に嫉妬する方ですか? 確かに、公爵夫人の座を巡って日々血で血を洗う争いが起きているとか言いますものね。

 

 ――さすがに大げさだとしても、ルシアン様が人気なのは本当だ。


 人を見て実感するが、嫉妬は醜いものだ。……ちなみに盛大なブーメランである。


「まあいい。お前、俺と結婚しろ」

「……」


 はあ。

 最近この手の人が多すぎる。王太子殿下派に混ざりたい者が私を取り込もうとするのだ。

 

 それでもさすがに求婚なので、最初は苦いものを食べるような気まずさもあったが、慣れてきたな。

 どんどん図太くなっている自分がいる。


「お断りします」 


「まあまず、話を聞け」


 聞くまでもない。どんな好条件だろうとあなたとは結婚しない。……好きじゃないからしない。


 だってそもそも結婚願望なんてなかったし、両親も期待していない。なら自由にしたっていいはずだもの。


「申し訳ありませんが、お話も結構です」

「たかだか子爵家の魔力なしが生意気な」


 耳の横の髪を強く引っ張られる。


(いだだだだ)

 

 ぷちぷち、と頭皮が鳴る。

 これが曲りなりにでも求婚する態度か? 信じられない。


「いいか? お前に研究以外の価値はない。誰がお前のような欠陥品を愛すというのだ。この俺が、お前を妻としてやると言うのだから光栄だろう?」


 不意にサイラス・ボードンの脂下がった笑みを思い出した。

 

 ――こんなのばっかり。こんなのばっかり!!

 もううんざりだ。


「それで? 妻とする代わりに研究の成果でもって、王太子殿下の覚えをめでたくしろと?」


「よくわかっているじゃないか」


「お話になりません。私に何一つ利点がありません。この手を離してくださいませんか?」


「俺の妻という肩書きが手にはいるのに利点がないだと!?」


 この人はさっきから自分を高く見積もりすぎだ。

 熱くなっているところ悪いが、私はどんどん冷静になる。


「はい。まず肩書きの上の妻をあなたが愛すとは思えませんし、あなたの妻という立場になんら魅力を感じません」


 ウィリアム・ハーヴィンは顔を真っ赤にした。

 激昂のあまりツバがとんでくる。……汚い。

 

「この! 黙って聞いていればいい気になりやがって! はん、お前、誰かに愛されるとでも思っているのか? くだらない。脳内お花畑もいい加減にするんだな。そんな髪を隠しもせず晒して恥ずかしいやつだ。何度でも言ってやる、薄汚い髪の醜女め。

 ――お前に女の幸せは有り得ない」


 わかっている。

 でも、私のことを好きと言ってくれた人だっているのよ。


 ……そう言い返せたらどんなにいいか。


 言えるわけがない。

 だって、彼はどんなつもりで好きだなんて言ったんだろう。こんな魔力なしの、研究ばかりにのめり込む、爪弾き者。その上たいして美人でもない私を。

 

 痛いのは腕。腕だ。

 目頭が熱いのもそのせい。

 こんなやつに私は傷つけられない。


 肩を鷲掴みされて、壁にドンと乱暴に押し付けられる。


「――っ」

「わかったら、俺の言うことを聞け」


 ギリギリと力が込められる。

 振り払えないなんて、本当に嫌になる。


 ――もう、大声を出そう。

 

 こんなところ見られたら醜聞でしかないけど、私は痛くもかゆくもない。だって、私を愛してくれる人なんて……いない。それでこんなふうに変に言い寄られなくなるなら本望。


 変な女に言い寄ったと噂される、この人が不名誉を被るだけ。


 すうっと肺に息を吸い込んだところで、肩ががたがたと揺すられた。

 

「いいなっ!」


 大きな声につい肩をすくめた、そのとき。

 


「こんなところから怒鳴り声が聞こえてきたけれど、何事かな?」


 よく通る低い声が、その場を制した。

 決して荒げない、落ち着いた声なのに不思議だ。


 白い騎士服を着こなす高い背。先程まで演習に精を出していたはずなのに冷ややかなのは、彼の氷の魔力ゆえか。


 澄んだ青い瞳が、つうっと細まる。

 ウィリアム・ハーヴィンが、ギシリと固まった。


「これは……、痴話喧嘩のようなものです。彼女を想う余り、つい熱が入ってしまったようで。お恥ずかしい」


 はあ? 意味不明すぎるんですけど?


 あんまりな言い訳に思わず固まっていると、目線がすうっと寄越された。


「そうなの?」


 そんな訳あるか!

 そんな誤解、一ミリもしてほしくない。

 フルフルと小刻みに頭を振る。


「彼女は違うって言っているようだけど」


「お前っ!」

 

 ぐい、と肩に力がこめられた。


「――ぅっ」


 だから、痛い!

 先程から耐えていたのに、不覚にも呻いてしまったではないか。


「痛あっ!」


 ……この無様な声は、私の声じゃない。

 

 痛みから急に解放された。

 ウィリアム・ハーヴィンが手首を押さえている。

 

 優しく腕をとられて、背中が硬くて温かいものに寄りかかる。


 (……え?)


 ぱちぱちと瞬きだけしていた。


 ドレスの襟に隠していた鎖を、長い指がそっと引き出す。

 ペンダントトップの青い石が姿を現した。


 彼は私の頬に、その白皙の頬を寄せる。

 青い石を持ち上げて、まるで口付けするような仕草だ。


「君はお呼びじゃない。お引き取り願おうか、ウィリアム・ハーヴィン。今後一切彼女に関わらないこと。いいね?」

 

 ルシアン様がちらりと目線をウィリアム・ハーヴィンに投げた。私だってヒヤッとするほど、鋭い。


(こわっ。そうだ、ルシアン様ってお仕事中は怖いんだった……)


「はいいいぃぃぃ!」

 

 彼は逃げるように去っていった。


「ちょっとこっち来て」


 ルシアン様に腕を引かれる。

 なんだって今日はこんなことばかり。

 

 長い脚で繰り出される一歩についていくのが精一杯。彼と歩いていてほとんど小走りになるなんて初めてすぎて、目が白黒する。


「おい、あんな副団長初めてみたぞ」

「機嫌悪……! フォード博士、何やらかしたんだ……?」

 

 ちらりと高い位置にある顔を覗く。

 確かに険しい顔だ。怒っているようにも見える。


 なんで? 怒られるいわれなんかない。


 私の腕を掴む手はゾッとするほど冷たかった。


 

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