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【完結】魔力最底辺の魔石研究者ですが、余裕あふれる完璧公爵様に実は溺愛されていました ~気づけば私から逆プロポーズ!?~  作者: 藤田さち


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20. 公爵様へのお披露目と、…褒章授与って何ですか?



 翌日、昨日眺めた魔法陣の構想を練り直していると、扉がノックされた。


(この、上品なノック音、まさか……)


 慌てて魔法陣を引き出しに隠そうとすると、肘が魔導書に当たり、バサバサッと大きな音が立った。


「ああっ!」


 最優先で魔法陣を仕舞う。次に魔導書……っあ! あの居た堪れない羊皮紙が出てきた。まずいまずい。


「すごい音がしたけれど、大丈夫!?」

「あーーーーー! 大丈夫、大丈夫です! そこにとまって!」


 シミュレーション、全く意味がない!

 何この、喜劇的な再会。

 グシャっと羊皮紙を握りつぶした手を背中に回した。


「ふふっ、前来た時も慌てていたね。……大丈夫、何も見ていないよ」


「そのいじわるな笑いをやめてください! ……絶対見たじゃないですか」


 恐る恐る背中に隠した手を見やると、はみ出た紙には彼の名前。名前だけ! 唐突に名前が書いてあるのは不気味だけど、不幸中の幸いとはまさに……!


 コホン、と咳払い一つ。淑女の仮面、もとい微笑を張り付けた。


「管理魔石の確認ですよね。準備します」

「うん、急で申し訳ないけどお願いね」


 羊皮紙はゴミ箱にさりげなく捨てた。やれやれ、証拠隠滅。

 管理魔石を取り出して机に並べる。 


「……連絡もできず、ごめんね」


 狭い研究室に密やかな声が落とされた。バックン、と心臓が大きく拍動する。


「い、いえ……」


 声が震えていない? 目が合わせられなくて、魔石を熱心に見つめる。もうほとんど準備が終わっているのに、きり出さない私はきっと確信犯。ちょっとだけでいいから、話していたいなんてバレてないよね。


「あの時発生した魔物討伐自体はやっと済んだのだけど、事後処理と原因究明に追われていてね」


「いえ、北の森のクマ型の魔物が集団で凶暴化したのですよね? あわや一村崩壊の危機と伺いました。ご無事で何よりです」


「うん、ありがとう。でもそれで今日は僕一人なんだ。確認したらすぐ戻らないといけない」 

 

 それは、いけない。私、ルシアン様を引き留めている。

 はっとして、顔をあげた。しっかりと彼を見つめて、つい眉を顰める。


「だから顔色が悪いのですね」

「そうかな? 特に変わらないよ」

「いいえ、すぐ確認しましょう。早く戻って休んでください」


 いつもは麗らかな微笑を湛える白皙が、真っ白だ。

 魔石を起動すると、地図上に赤い点が現れた。


 ちらりと正面の彼を見やると、青い瞳を大きく開いて、ほうと小さく息をついた。まるで感嘆の吐息のように聞こえる。

 頬がむずむずとこそばゆいので、頬を噛んだ。


「これは見事だね。距離が離れていても問題ない?」

「はい。各所の魔石から反応を返すことによって、ノイズにも強くなっています。実際に設置して最終確認は必要ですが、問題ないと思います」

「その確認はこちらでやろう。預かっても?」

「ありがとうございます。はい、お預けします。機密保持にだけお気をつけください」

「それはもちろん」

 

 ルシアン様は、魔石を大事にしまい込むと私にむきなおった。


「確認が終わったら王太子殿下に報告するね。……この短期間で目処が立つとは。彼もお喜びになるだろう。僕としても、改めて君に敬意を。お疲れ様」


 眩しいものをみるようにその青い瞳を細めている。

 心に温かいものが満ち、耐えきれずににっこりと笑った。


「いいえ、ルシアン様含め、騎士の方にもお力添え頂いたからです」


 口はお行儀のいいことを言っているが、足は今にも踊りだしそう。

 ルシアン様は、ふっと笑みこぼした。

 ああもう、だからそれはずるい。


「近いうちに会おう? 来週の休息日は何してる?」


 かあっと誤魔化せないほど顔が熱くなった。意味もなく指先をすり合わせてしまう。

 魅力的な低い声が鼓膜を震わせる度、背筋がそわそわする。


 けれど、残念。本当に残念。

 肩ががっくり落ちた。

  

「来週は、中央図書館で古書を読めるよう手続きしてあるんです……」


 貴重な古書は管理が別になっていて、ダメージ軽減のため入室制限がある。やっと予約が取れたので逃せない。


「そう、なら僕も図書館に行くよ。幸い、古書はいつでも読める立場でね」


 ――職権乱用では!?


 でもじわじわと喜びを噛み締める。


「では、悪いけどもう行くね。また、来週」

「はい、来週」


 ちょっと食い気味の返答だったかしら?

 彼を見送ると、手帳の該当の日付に赤で丸をつけた。目の高さまで持ち上げて、一回転。胸に抱きしめて、ふふふと笑った。



◆◆◆


 

 四日後。一通の手紙が届いた。赤い封蝋。王室からの通達だ。


 どくんどくんと鳴る心臓を必死になだめ、恐る恐る封を切る。


 『後世界を大きく変える社会貢献を見込んで守護魔石を研究したエマ・フォードに褒賞を与える』

 

「――は……?」


 私は手紙を握りしめると駆け出した。おかしい、こんなのおかしい。


 所長室の扉を乱暴に叩く。入室許可が聞こえたと同時に飛び込んだ。


「所長! これはおかしいです! 撤回を要求します!」


  上がる息を整えるのもそこそこに、所長の仕事机に手紙をバンッと置く。はずみで山積みの書類が何枚か飛び散り、所長は豆鉄砲を食らったような顔でかるく仰け反った。


「守護魔石はまだ実用化が可能そうだと結論づいた段階で、統計的な効果が得られたわけではありません。些か時期尚早かと思います」


(これじゃダメなの。こんな中途半端は望んでない。私の髪を見て嘲笑ってきたやつらの度肝を抜かないと意味ないんだもの!)


 効果が実証されて、ぐうの音もいえないほど完璧な成果でもって、華々しく王に認められる。そう夢見てきたのに。


(じゃないとギャフンと言わせられないじゃない!)


 固く握りしめた拳がブルブルと震える。ペンを持っていなくてよかった。折っていたかもしれないから。



「……王室が君の『成果』ではなく『可能性』を評価したのでは不満か?」

 

 所長はたたきつけられた手紙を、腕を組みながらじっと眺める。たった二行の通達だ。とっくに読み終わっていることだろうに。


「……え?」

 

 所長は目頭を揉み、真剣な眼差しでまっすぐに私を見据えた。


「確かに実績が生まれる前で納得いかないのもわかる。けれどこれは君の研究の未来を評価してくださったということだ。王室の決定は覆されない。飲み込んで、誇れ。納得いかないのなら納得いくまで追求すればいい。研究者なんて、自己満足でなんぼじゃないか」


 彼は表情を少し和らげた。染み入るような声が、凝り固まった頭をほぐしていく。


 『未来』を評価する……。


 私は確かにこの髪でもやっていけると、認めてもらいたかった。


 でも所長の言うように、やってきたことは自己満足だ。大それた大義名分なんてなかった。


 ただ『運命だ』と思った気持ちのまま魔石を愛して、一番最初に認めてくれたルシアン様の助けになることが私にもできるって証明したかっただけ。


(本当にただのエゴだし、自己満足だわ)


 ギャフンと言わせたいなんて言ってみせて、なんて意気地のないこと。

 

 『未来』でもなんでも、魔力至上主義のこの国の王族に認めされるなんて栄誉でしかない。


(むしろ、これから実用化や効果について評価され続けることになるんだわ)


 これは、栄誉であって挑戦状とかわりない。


(女で、魔力最底辺の私がどれだけやるかお手並み拝見ってわけ?)


「……いいわ、やってやるわよ。自己満足の行く末、見せつけてやるわ!」


 思わず声に出ていた。所長がおかしげに眉を上げる。

 

 その顔をひたと見据えた。私は、根性だけはあるのだ。


 机に置いた手紙を奪うように胸に抱いた。

 

「上司としてはひとこと。おめでとう。君の努力は確かに実を結んだ。私は誇らしいよ」

 

 その言葉が脳に届くと、鼻の頭がつんと痛んだ気もした。だってこの人は私を拾った大恩ある人。

 けれど私は胸を張って顎を上げる。


「はい。絶対に後悔させません。見ててくださいね」

 

 心がメラメラと燃えたぎる。力強く扉を開けて、一歩踏み出した。


 廊下に出た途端、同僚たちの値踏みするような目線が突き刺さった。


(そうよね、こんな小娘が褒賞を賜るだなんて。しかも守護魔石の研究だものね)


 『建国神話に泥を塗る研究』だと、世間では呼ばれている。ただ分業を提案しただけなのに、大げさなことで。

 

(好きに見ればいいわ! やることは変わらないのだから)


 目線を前に、高くヒールを鳴らして研究室へ向かった。



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