2一、 泥の味と「強欲」の囁き
第2章:飢餓と渇愛
ルミナスの白亜の床を追われ、若者は文字通り路頭に迷った。
集落にいた頃、食事は決まった時間に並び、衣服は常に清潔だった。しかし今、彼の喉を焼くのは乾きであり、胃を締め付けるのは耐えがたい飢えだった。
「品性など、腹の足しにもならぬ……」
彼は、かつて誇りを持って磨き上げた儀礼用の刀を眺めた。これを売れば、数ヶ月は贅沢ができるだろう。だが、それは父から、そして故郷から切り離された自分を繋ぎ止める、唯一の「残滓」だった。
彼は刀を売る代わりに、路地裏の荷運びや、泥にまみれた下水掃除に身を投じた。集落では見たこともないような卑俗な言葉が飛び交い、わずかな銅貨を巡って人々が殴り合う世界。
そこで彼は、第二の大罪**「強欲」**に出会う。
「坊ちゃん、その綺麗な手じゃ、一生かかってもパンの耳一つ買えねえよ。もっと効率よく『力』を手に入れたくないか?」
声をかけてきたのは、闇市場を仕切る「蛇の目」の異名を持つ商人だった。彼は若者に、情報の横流しや、力のない者からの徴収といった「知性を使った略奪」を教え込んだ。
「知性は、正義のためにあるんじゃない。他者から奪い、自分を肥やすためにあるんだ」
若者は飢えの恐怖から、その教えに飛びついた。彼は瞬く間に頭角を現した。集落で培った計算能力と観察眼は、他者の弱みを見つけるための鋭い「目」へと変貌した。懐には金貨が唸り、安物の酒が喉を潤す。
だが、金が溜まるほどに、心の中の「心金」は煤け、不純物が混じり始めていた。彼はかつて自分が軽蔑した「略奪者」そのものに成り下がっていた。




