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キャラ文芸短編集  作者: 倉木元貴


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まほろば便利屋 第7話

「何でこうなった」


 真琴は遠い目で呟いた。


 三日後。商店街の広場。

 真琴は巨大なたぬきの着ぐるみを着せられていた。

 暑いし重いし、視界が悪い。最悪である。


「似合ってる似合ってる」


 ひよりが爆笑しながら写真を撮る。


「撮るな!」


「商店街広報用です」


「絶対違う!」


 蒼士は机でチラシを束ねていた。


「祭りの宣伝頼むぞ」


「何で俺だけ着ぐるみなんだよ!」


「ジャンケン」


「絶対仕組んだだろ!」


 ちなみに蒼士は普通の服。ひよりは浴衣。

 納得いかない。


 福ノ守神社の小さな祭りは、急遽開催が決まった。


 目的は、『神社に人を呼ぶこと』そして、『しろの飯確保』である。


「神様の死活問題だからな」


「生々しい!」


 真琴は重い足取りで商店街を歩く。

 子供たちが集まってきた。


「たぬきだー!」

「かわいいー!」

「写真撮ってー!」


 囲まれた。


「うわっ、近い近い!」


 だが意外にも人気だった。

 子供たちは楽しそうだ。商店街のおばちゃんたちも笑っている。


「若いっていいねぇ」


「汗だくだけどな!」


 その頃。神社では、しろが準備を手伝っていた。……普通の人には見えない状態で。

 蒼士だけは普通に会話している。


「提灯そっち頼む」


「はい!」


「何で普通に馴染んでんだあの神様」


 真琴が呟く。

 ひよりは焼きそばをつまみ食いしていた。


「しろちゃん可愛いし」


「お前もう完全に保護者目線だな」


 夕方になる頃には、神社に結構な人が集まっていた。

 子供連れ。学生。近所のお年寄り。小さい祭りだが、賑やかだ。

 しろは境内を走り回っていた。嬉しそうだった。


「……よかったな」


 真琴は思わず笑う。

 その時、蒼士が空を見上げた。


「ん?」


「どうした」


「いや……」


 風が吹く。

 境内の提灯が揺れた。


 そして、社の奥から、低い唸り声が聞こえた。


 ──グルルル。


「…………」


 真琴は固まる。


「今の何?」


 しろの顔色が変わった。


「……まずい」


「え?」


「お腹空かせてる」


「誰が!?」


 次の瞬間、社の屋根を、巨大な影が飛び越えた。


「うわぁぁぁ!?」


 ドォン!


 境内が揺れる。

 現れたのは、真っ黒な巨大狐だった。

 普通にデカい。トラックくらいある。


「何あれぇぇぇ!?」


 子供たちは大歓声だった。


「すごーい!」


「本物だー!」


「祭りの出し物!?」


「違う違う違う!!」


 真琴だけが必死だった。

 黒狐は供え台をじっと見ている。


 そして一言。


「飯は?」


 低く渋い声だった。


「喋ったぁ!?」


 蒼士は頭を抱えた。


「……面倒なの来たな」


「飯は?」


 巨大黒狐はもう一度言った。

 圧がすごい。


 神社の境内が静まり返る。普通なら悲鳴が上がる場面だ。だが。


「すげー!」

「本当に動いてる!」

「クオリティ高っ!」


 祭りの客たちは完全にイベントだと思っていた。


「助かったような助かってないような……」


 真琴は汗を拭う。着ぐるみの中が地獄みたいに暑い。

 しろは黒狐を見上げていた。


「くろ兄……」


「兄!?」


 真琴が叫ぶ。

 黒狐は鼻を鳴らした。


「久しぶりだな、しろ」


「ど、どうして来たんですか」


「腹が減った」


「理由が一貫してるな!」


 蒼士がため息をつく。


「黒狐の神使か」


「知り合い?」


「昔この辺にいた土地神系」


「系って何だよ」


 くろ──と呼ばれた黒狐は、供え台をじっと見つめる。

 だが祭りのせいで、供え物はもうほとんど残っていなかった。焼きそばの切れ端しかない。


 黒狐の目が細くなる。


「……少ない」


「いやアンタのサイズで食われたら破産する」


 真琴が即答した。


 ぐるるるる。


 黒狐の腹が鳴った。しかも雷みたいな音だった。


「うわ音でかっ」


 しろが慌てる。


「くろ兄、お供えはみんなの気持ちだから、食べ過ぎちゃダメです!」


「だが空腹はつらい」


「そこは分かるけど!」


 その時だった。屋台の焼きそばの匂いが風に流れる。

 黒狐の耳がぴくりと動いた。


「あ」


 真琴は察した。だが遅かった。

 次の瞬間、黒狐が屋台へ突進した。


「焼きそばぁぁぁ!!」


「待てぇぇぇ!?」


 祭り会場が大混乱になる。

 屋台のおじさん絶叫。


「うおっ!? 本物!?」


 黒狐は巨大な顔を鉄板へ近づける。


「いい匂い」


「感想言ってる場合か!」


 真琴は慌てて追いかけた。

 だが、着ぐるみの足がもつれる。


「うわっ」


 どんがらがっしゃーん!

 盛大に転んだ。


「たぬきさーん!」


「頑張れー!」


 子供たちの声援だけが温かい。


「今それどころじゃねえ!」


 一方、蒼士は冷静だった。


「ひより」


「了解」


 ひよりは屋台から何かを持ってくる。

 巨大紙皿。その上には、山盛りのいなり寿司。

 黒狐の動きが止まった。


「…………」


「供え物だ」


 蒼士が言う。


「祭り成功祝い。食うか?」


 数秒の沈黙。

 そして、黒狐の尻尾がぶわっと揺れた。


「食う」


 即答だった。


 ちょろい。


 黒狐はその場へ伏せると、巨大ないなり寿司を器用に食べ始めた。


「うまい」


「よかったねぇ」


 ひよりが完全に大型犬を見る顔になっている。

 真琴は転んだまま呆然とした。


「……何だこれ」


「平和解決」


 蒼士が言う。

 祭り客たちも拍手していた。


「演出すごーい!」


「最近の祭り進化してんな!」


「誤解がすごい!」


 だが、しろは少し安心したように笑っていた。


「……よかった」


 黒狐は食べながら言う。


「最近、お前の神社の気配が弱かった」


「え?」


「消えかけてるのかと思った」


 しろは目を丸くする。

 蒼士は静かに聞いていた。


「神社って、人が忘れると弱るからな」


「……そんなものなんだ」


 真琴が呟く。

 しろは境内を見回した。笑っている人たち。走り回る子供。賑やかな屋台。

 その光景を見て、小さく笑う。


「今日は……いっぱい来てくれました」


 風が吹く。提灯の灯りが優しく揺れた。

 そして、真琴の着ぐるみの中は限界だった。


「……暑い……死ぬ……」


「新人が溶けてる」


「水ぅぅぅ……」


 ひよりは写真を撮った。


「遺影用?」


「やめろ!」


 祭りの夜は、まだまだ続く。

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