まほろば便利屋 第6話
夜光列車事件から三日後。
真琴は学校の机に突っ伏していた。
「眠……」
「お前、最近ずっと眠そうだな」
友人の西田が呆れた顔をする。
「深夜にゲーム?」
「まあそんな感じ」
幽霊列車に乗ったとは説明できない。言ったところで病院を勧められるだけだ。
昼休み。
真琴のスマホが震えた。
『至急。商店街集合』
蒼士からだった。
「雑な呼び出しだな……」
放課後。
真琴が商店街へ行くと、便利屋事務所の前に人だかりができていた。
「お、来た来た」
ひよりが手を振る。その横には、小柄なおばあさん。さらに神主姿の老人までいる。
「何このメンバー」
「依頼人」
蒼士が言った。
「今回は神社関係だ」
「うわ、嫌な予感」
真琴は即答した。
夜光列車の後である。もう怪談系は勘弁してほしい。だが依頼人のおばあさんは深刻そうだった。
「最近ねぇ、お供え物が消えるんですよ」
「お供え物?」
「商店街の裏にある福ノ守神社です」
神主の老人が説明を引き継ぐ。
「あそこは小さいながらも、昔から町を見守ってきた神社でして」
「でも最近、毎日供えた団子や果物がなくなるんです」
「猫じゃなくて?」
真琴が言う。
「最初はそう思ったんですが……」
老人は困った顔をした。
「監視カメラに何も映らないんです」
「はい?」
「なのに翌朝には消えている」
真琴はひよりを見る。
ひよりは肩をすくめた。
「来たね、不思議案件」
蒼士はこたつから立ち上がる。
「よし、現場行くか」
「軽いなあんた!」
三十分後。
三人は商店街裏の石段を登っていた。
福ノ守神社。小さな神社だった。古びた鳥居。石灯籠。赤い賽銭箱。
夕暮れの光で、どこか懐かしい雰囲気がある。
「……意外と普通」
「普通が一番怖い時もある」
蒼士がさらっと言う。
「やめろ」
境内には、小さな供え台があった。そこへ団子と油揚げが並べられている。
「油揚げ?」
「お稲荷さん系なのかな」
ひよりがしゃがみ込む。
「で、これが毎晩消えると」
「そういうこと」
蒼士は監視カメラを確認する。
古いが、ちゃんと動いているようだ。
「今日は張り込みだな」
「また夜?」
「こういうのは夜動く」
「便利屋って昼間何してる職業なんだ?」
「昼寝」
「最低だ!」
結局、三人は神社で待機することになった。
夜。虫の声が響く。
真琴は石段に座りながら欠伸をした。
「……平和だな」
「油断してると出るよ」
「その言い方やめろ」
ひよりはコンビニ袋を漁っている。
「ポテチ食べる?」
「神社で食うな」
「神様もポテチくらい好きかも」
「現代的すぎるだろ」
その時。
カサッ。
境内の奥で音がした。三人が同時に振り向く。
「……来た?」
真琴が小声で言う。
月明かりの下、社の裏から、何か白い影が覗いていた。
「猫か?」
だが、影は二本足で立っていた。
「…………」
「…………」
白い影は、こちらをじっと見ている。
やがて、ぺこりと頭を下げた。
「礼儀正しい!?」
白い影は、ぺこりと頭を下げたまま動かなかった。
「……え、何?」
真琴は困惑した。
怖い。でも礼儀正しい。感情が迷子である。
月明かりの下、その姿が少しずつ見えてくる。
白い髪。白い着物。小学生くらいの、小柄な女の子だった。
「こんばんは」
女の子は丁寧に言った。
「喋った!?」
真琴が飛び上がる。
「落ち着け」
蒼士は妙に平然としていた。
「人型なら大体喋る」
「基準が分からん!」
ひよりは興味津々で近づく。
「君、この神社の子?」
女の子はこくりと頷いた。
「福ノ守神社の、おつかいです」
「おつかい?」
「はい」
そう言って、供え台の団子をじっと見る。
目がきらきらしていた。
「あっ」
真琴は察した。
「お前、食べてたのか」
女の子は気まずそうに目を逸らす。
「……少しだけ」
「毎日全部なくなってたけど?」
「成長期なので」
「神様にも成長期あるんだ……」
妙な感心をしてしまった。
蒼士がしゃがみ込む。
「盗み食いはよくないぞ」
「う……」
「でも腹減るよな」
「九条さん!?」
甘い。圧倒的に甘い。
女の子はしゅんとしていた。
「最近、お供え減ったから……」
「減った?」
ひよりが首を傾げる。
女の子は小さく頷く。
「前はもっといっぱい来たんです。でも最近は誰も来なくて……」
神社を見回す。確かに古い。
商店街の人でも、普段ここへ来る人は少なそうだ。
「だからお腹空いてたのか」
真琴が言うと、女の子は恥ずかしそうに頷いた。
「……油揚げ好きです」
「完全に狐だこれ」
その時。
ぐうううう。
女の子のお腹が鳴った。
「…………」
「…………」
女の子は顔を真っ赤にした。
「き、聞かなかったことに……」
「無理だろ」
ひよりが吹き出した。
蒼士はため息をつく。
「真琴」
「何」
「コンビニ行って肉まん買ってこい」
「俺!?」
「新人だからな」
「便利な言葉にするな!」
二十分後。
神社の縁側で、白い女の子は肉まんを両手で持っていた。
「……おいしい」
幸せそうだった。
真琴は複雑な顔になる。
「何かもう普通の子供だな」
「神様って案外そんなもんかもよ」
ひよりがジュースを飲みながら言う。
女の子は小さく名乗った。
「私は、しろ」
「しろ?」
「はい」
「そのままだな」
「名付けた人がシンプル派だったんだろ」
蒼士が笑う。
しろは肉まんを食べ終えると、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます」
「今後は勝手に取る前に相談しろよ」
真琴が言うと、しろは困った顔をした。
「でも、最近神社に誰も来ないから……」
その声は寂しそうだった。
商店街も昔より人が減った。
大型スーパーができてから、客足はかなり流れたらしい。この神社も、その影響を受けているのだろう。
ひよりがふと思いついたように言う。
「じゃあさ、お祭りやれば?」
「祭り?」
「人呼べばいいじゃん」
しろの目がぱちくりする。
蒼士も少し考え込んだ。
「……ありかもな」
「え、本当に?」
「商店街活性化にもなるし」
真琴は嫌な予感がした。
「なあ」
「ん?」
「その顔、“便利屋総動員イベント発生”の顔してる」
蒼士はにやっと笑った。
「察しがいいな新人」
「うわぁ……」
しろは期待に満ちた目で真琴を見る。
「お祭り……やってくれるんですか?」
「……その顔ずるいな」
断りづらかった。
そして真琴はまだ知らない。
この祭り準備で、自分が着ぐるみを着て商店街を走り回る未来を。
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