↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ幸福へ至る世界  作者: 耳かき侍
第三章
PR
58/63

第五十七話 顛末

 

 あの後、色々とあった。


 俺達と別れたユリウスは、獣人と交戦していた騎士どもと合流すると割とすんなり兵を引いて森から出ていった。

 予想通り、若い獣人は追撃に出てきたのだが、驚いたことにユリウスは引き渡した武具に細工をしていたようで遠隔で武器を破壊したのだ。

 後になってその残骸を調べてみると、どうやら武器の内部に小さな爆発の魔道具が仕込んであったのだ。単純な魔術なだけに遠隔からスイッチ一つで起爆することを可能としていたようだ。

 使っていた武器が突然バラバラに砕けたことに警戒を強めた若い獣人は追撃をやめて急いで国へと引き返していった。

 

 ちなみに騎士どもは鉱山都市ではなく、帝都方面へ向かっていった。

 おそらく、もともとの狙いが獣国との交渉、もしくは制圧だったんだろう。

 用が済んだからお家に帰ったわけだ。


 双方兵を引いたのを見届けた俺は捕まえていた赤毛の女を『門』でラトガトへ送ってやった。

 本当なら帝都にまで送り届けてあげたかったのだが、まだ帝都には行ったことないから比較的交通が便利で整備されているラトガトにしたのだ。


 一人街に戻ると、その頃にはもうイザノバさんの戦闘も終了していて残ったのは無惨にも破壊された街並みだけだった。


 まぁ、しかしそれもごく一部だけ。

 借りていた宿は全然無事だったので、二日ほどベッドでゴロゴロしていた。

 

 していたんだが……フォレスタが部屋に押しかけてきたんだ。


「トーマさん!お父様、獣王があなたにお会いになりたいそうなんです!」


 突然、扉を開け放つもんだから驚いたよ。


「えぇ……やだ。めんどい、寝る」


 そういうのは俺じゃなくてクロウさんとかテレシアさんとか、そうだ!イザノバさんがいるじゃないか。

 リーダーが対応すべきではないだろうか!?


 心の中でボヤきながら俺とベッドを取り囲むように強固な土壁を生成して引きこもろうとしたのだが。


 それはとても、それはもうあっさりと砕かれ俺は引きずり出された。


 結構マジで作ったのに簡単にぶっ壊された。

 犯人など考えるまでもない。

 イザノバさんしかいない。この街にはな!


「……何するんですか」


「俺がまだ働いてるのに部下が先に休もうだなんて許さん」


「横暴だ。そんなこと言ってると信念ある若者は入ってきませんよ。時代はワークライフバランスなんです」


 俺はイザノバさんに言い返してやったんだ。でも無駄だった。万年人材不足のスレイズで鍛えられたこの人は休むことを忘れてしまっていた。


「黙れ。未来の新人の分もお前たちが働け。さぁ来い。あっ、こらベッドにしがみつくな!」


「こちとら戦闘続きでヘトヘトなんだ!長期休暇を要求する!」


 そうだ。

 ラトガトから帰還し一ヶ月。

 森の中を彷徨いそこで獣人に追いかけ回され筋肉兎と戦闘、街についたらエステラにハメられヒュドラと戦闘、その直後に街の冒険者どもと戦闘、またその後に二度目のユリウスとの戦い。

 もう疲れたのら!


 フォレスタが俺のことをなにか可哀想なものを見るような目で見ていたがそんなことは知らん。

 勝手に幻想を抱いて勝手に砕かれたんだろ、どうせ。


「こいつ、マジで抵抗してやがる……。ちっ、分かったよ。これが終わればお前が休めるようにクロウに言っておいてやるから大人しくついて来い」


 ピタリと動きを止めるトーマ。

 視線だけをイザノバに向け、


「……本当に?」


 この時、俺の心は大きく揺さぶられた。

 そうして抵抗を止めた俺はイザノバの後ろをついて行ったのだ。


 

 そして現在に至る。

 俺達が向かった先はもちろん獣国だ。


 木造の天井の高い王宮。

 謁見の間的な広い部屋に通されると正面。

 数段上がったところに多分獣王が俺達を見下ろして鎮座していた。

 俺達を取り囲むように若輩から壮齢までの獣人が並んでいる。


 念のためグレイの姿で来ておいてよかった。下手に姿を明かしてバレるわけにもいかないからな。


 フォレスタは王の前に着くと片膝をついて頭を下げた。


「客人を連れて参りました、お父様」


「うむ。下がってよいぞ」


 フォレスタの父親なだけあって、ちゃんと犬系の獣人が王様だった。

 フォレスタは王の言葉を受け、横によけて貴族の列に並んだ。


「よく来てくれたなイザノバ」


「あんたが呼びつけたんだろうが」


 旧知の仲って感じのやり取りだ。

 王に対しなんて口を聞くのだ!と激昂する奴がいないし見慣れた光景なのだろう。

 それでも、やはり反感のようなものはあるみたいで所々でヒソヒソしている。


「お主の隣の、灰色の男が例の『グレイ』とやらでいいのか?」


「ああ、期待の新人のグレイだ」


 紹介に与(あずか)った俺はペコリと会釈する。


「ふむ……あまり強そうには思えんな。線も細く魔力も薄い。こやつは本当にあの黒色兵器(こくしょくへいき)を退けた男なのか?」


 王は疑いの目を俺に向ける。

 呼びつけておいて失礼な奴だな。

 それに反応したのはイザノバだった。


「疑うのか王様?そもそも今回、騎士たちが退いたのもこいつが指揮官を倒したおかげだ。国の恩人に懐疑の目を向けるのはどうかと思うぜ?」


 よく言ったイザノバさん!

 ただ、なんでこんなに擁護してくれるのだろうか?

 

「確かにお主の言うとおりなのだが、協力するのなら、やはり実力はこの目で確かめぬとな」


 協力?

 なにそれ?どゆこと?


「仕方ない、では証明してやる。行けるな、グレイ?」


「はい?」


 困惑する俺などお構いなしに話が進んでいく。

 そして──


「かかれ、者共!」


 ──王の号令で観衆の中に身を潜めていた者たちが一斉に飛びかかってきた。


 驚きはしたが、なんとなく予想は出来ていた。

 瞬時に人数を把握。

 六人か。


 余裕だな。

 

 彼らの着地地点を予測し、そこに魔力で描いた刻印を設置。

 それを踏んだ彼らの体を聖樹結界(グレイト・ツリー)が拘束。


 はい終わり。

 

 一歩も動くことなく俺は決着を付けた。

 ユリウスやエステラの武器のような魔力や魔術を断ち切る力があれば、こんな術は簡単に解けるのだがな。

 なければ俺が解くまで縛られっぱなしだ。

 なんてったって、これは竜騎士ダリルすら千切れなかった超強力な代物だ。

 ただの獣人では一生自力脱出は不可能だろうよ。


「これでいいか?」


 俺は低く威圧的に尋ねた。

 印象は大事。

 舐められないためにもね。


 しかし、そんな俺の考えなど王には効いてなかった。

 というよりも他のことに驚いているような感じだった。


「こ、この匂い、気配!……混じっている!?き、貴様まさか───竜を宿しているのか!?」


 王は立ち上がり声を荒げた。


 バ、バレた!?

 魔力だけで?

 あり得ない。どんな嗅覚してるんだよ!?

 

 王は言葉を続ける。


「イザノバ!こんな逸材どこで拾ってきた!」


「クロウが連れてきたんだよ。面白い奴がいたって言ってな」


「ちっ、あの小僧、いい星の回りをしているな。イザノバ、グレイを我が獣国によこせ」


「ダメに決まってんだろ」


「……欲しいぞ!」


「知るかよ」


「ならばその血だけでいい。それで我慢してやる」


 ……血?

 何に使う気だ?

 飲むのか?


「……ったく、仕方ねぇな、お前もそれでいいよな」


「……血を分けてやればいいんですね?」


「そうだ」


 俺はため息をついて歯を食いしばると、槍の穂先で自分の腕を浅く斬りつけて、魔術で作ったコップの中に血を垂らした。


「はい……これどうぞ……」


 なみなみ注がれた血はゆらゆらと水面を揺らしている。

 

 ……誰も受け取ってくれないんだけど。


 周囲を見渡すとみんなポカンとしている。

 俺、何かやっちゃいました?


「あのな、グレイ。血を分けるってそういう意味じゃないんだよ」


 はぇ?


「フッ、中々面白いじゃないか。小僧、俺が言ったのはな、俺の血族に貴様の優秀な血を入れたいということだ。つまり──」


 つまり。

 

「お、お父様!?」


 そこでようやく気が付いたようだ。

 フォレスタは裏返った大声をあげた。

 そりゃ無理もない。


 し、しかし……。

 あのグラマラスボインの子に俺の血を入れ……。

 悪くないんじゃないかな。うん。


 それはおいといて、


「つまり、何かな?」


 また勘違いだったら嫌だからな、ちゃんとした言葉で聞いておきたい。


「フォレスタと子を成せ。それが我々獣国が貴様らと手を組む条件だ」


 ………うん?

 どゆこと?


「イザノバさん?」


 俺が視線を向けるとイザノバはあからさまに目をそらす。


 こいつ、俺を売りやがった。

 なるほど、妙に俺を庇ってくれていると思ってたが、最初から両者で話はついており、この場は形式的なパフォーマンスとして利用していたわけだ。

 イザノバが俺を紹介し、王はそれを疑う。俺の実力を周囲に見せつけて、王は自分の一派に取り込む。

 まんまと政治に利用されたのか。

 ……まぁいいけど。


 人手不足が厳しいスレイズが獣国と協力関係を結ぶのはいいことだと思う。休みも増えるだろうし。


「それは彼女次第でしょう。強引に、ってのは気が引ける」


 俺は否定せずにフォレスタに判断を委ねた。体のいい逃げだ。


「ほう、紳士だな。で、フォレスタ、お前はどうだ?」


 王は自分の娘を視線をやる。


 断れるわけないよね。

 だって獣国は結果的に帝国との和平を断ったんだし。例えそれが、国の総意でなくとも戦いを選ばざるを得なくなってしまったんだから。


 どうせ戦うのなら協力者はいた方がいいに決まってる。

 その点で言うのならスレイズは協力相手としては完璧に近い。

 何百年と帝国と戦い続けてる実績があるし、シャーロットちゃんが言うには他のレジスタンスより冷静で理性的らしいし。


「くぅぅ……わ、分かりました。で、でもいきなりそうしろというのは困ります。ですので、とりあえず婚約者ということでよろしいですか?」


「わかった」


 と、イザノバが答えた。

 いやあんたが答えるんかい。


 最初から当人の意思など関係ない政略結婚だったのだ。


 こうしてイザノバと王様による公演は幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。