↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ幸福へ至る世界  作者: 耳かき侍
第三章
PR
53/64

第五十二話 都市騒乱 序②

 数日が経った。

 ミスリルに関する依頼書を兵舎に提出し、槍の素材を何とか武器屋に収めた俺は、改めて鉱山都市の観光もとい都市構造の把握に努めていた。


「それでですね、あちらの路地を進みますと不定期に開催されるオークションの会場が見えますよ」


 そう説明するのは犬の獣人のフォレスタだった。

 明るい茶髪で耳はヘナァと垂れている。

 服装は上下ともにかなり余裕のあるサイズを着ており、地味めの薄緑のロングスカートは淑やかさを醸し出している。

 大人しい娘が抜群のプロポーションであることを恥ずかしく思って、あえてオーバーサイズの服で隠してるわけだ。

 ついつい、ゴクリと生唾を飲み込んでしまう。

 ムフ〜、ソソりますぞ。


 フォレスタは敏感に視線を感じ取ると、顔を赤らめて僅かに背中を丸める。

 暴力的に実るたわわなそれを隠そうとしてるのだ。

 その反応もまた良い。

 

「あんたねぇ、もう少し慎みってもんを覚えなよ」


 そう言ってフォレスタへの視線を切るように割り込んだのはエレインだった。

 金髪褐色のかなりガタイのいい女戦士。

 身長で言えば1.85mほどある俺より少し高い。

 メインウェポンを大剣にしているせいか、全身にはがっしりと筋肉がついていて、かなり引き締まった体躯。

 しかし、フォレスタほどではないにしても出るとこは出ている。


 本人にバレない速度で彼女の全身をスキャンした。


 ふむ、なかなかだな。


『ふふ〜、胸と尻ばかり見おって。

 女の敵め〜』


 俺の精神世界に住み着いているクローディアは揶揄うように言葉を弾ませた。


 うるさいぞ。

 多感な時期なんだよ今は。


 心の中で返事をするとクローディアはクスクス笑いながら引っ込んでいった。



 両手に花の状態で街を練り歩く。


 フォレスタにはその案内を、エレインは護衛兼話し相手を務めてもらっていた。

 エステラ・エレイン姉妹は俺へ襲いかかったことへの責任というか謝罪という体で、一定期間、俺の従者となることになったのだ。

 イザノバが決めたことなので彼女たちやその仲間たちは異論を挟まなかった。


 なぜ観光などしているのかと言うと、有事の際、どこにでもすぐ転移できるように街の記憶を脳に焼き付けるためだ。

 実際に見た場所にのみ転移できるという『門』の特性上、必要なことなのだ。


「オークションって、実際どんなものが扱われるの?」


 俺は尋ねた。

 武器屋のドワーフ店主にミスリルを含む武器素材を渡した際、余剰分は買い取ってもらっていたのだ。

 今、俺の財布の中は金貨で溢れている。

 ちなみに、盗まれることを警戒して複数の財布に分け、普段使いの一つを除いてすべて『門』の中に収納している。

 そういう理由から懐が温かい俺は、何か面白いものはないかと刺激を求めているのだ。

 

「色々ですね。

 貴重な素材であったり魔道具だったり、他には武器、防具、奴隷、あとは土地とかですね」


 フォレスタは指で数えながら答えた。


「土地も売ってんのか!?」


「つまらんぜ、あれは。何せ、実際に行われるのはただの権利書(かみ)の争奪戦。地味なことこの上ないぜ」


 エレインはつまらなそうに言った。

 確かに、どうせ見るのなら聖剣魔剣やキラキラしてる宝石だったりしたほうが心躍るというものだ。

 土地なんてあまりにも夢がない。

 現実感が凄すぎる。


「ええ……。じゃあ───」


 言いかけた瞬間だった。

 トーマは言葉を止めたのだ。


 向かって右。

 商館だろうか。

 店前でみすぼらしい服装の奴隷が主人に鞭打たれながら罵声を浴びせられながら荷運びをしていた。

 

 俺は無意識に瞬間的に右目を瞑ってしまった。

 まるで見たくないものから目を背けるようにだ。

 多分、一年前の自分なら金があるのならそれで彼らを買い取ってあげようとしただろう。


 しかし俺は知ってしまった。

 そんなことに意味はないのだと。

 キリがないのだ。

 今、彼らを助けたとしてもあの主人はまた次の奴隷を買うだけ。

 俺はそれをラトガトで理解した。


 だから俺はほんの少し足早になって、あれが視界に入らない場所にまで向かったのだ。


 急に黙って急ぎだした俺のことを二人はどう思うだろうか。

 二人はあの光景をどう捉えてるのだろうか。


 俺はそれがただただ気になった。



ーーー



「どうだった?」


 執務室で書類仕事に励んでいるユリウスの下に一人の痩せぎすの男が参上した。


 彼の名をポートマンという。

 出身は西大陸の紛争国家の一つの小国だった。

 ポートマンは諜報部隊を指揮する立場にいたが、その国の滅亡を受け冒険者へと転身。

 採集を主とする冒険者としてそこそこ名が売れ始めた頃、宰相家当主のリット・クランゼルカにヘッドハンティングされて兼業騎士となった。


 長身痩躯のポートマンは姿勢を正してユリウスへ報告する。


「はい、ユリウス様のご命令通り数日に渡りトーマという男を観察しました結果ですが、ユリウス様の推測は正しいのではないかと」


 その言葉にユリウスだけでなく、同席していたミュリエラ、そして彼女の従者兼連絡係のカリンまでもが仕事の手を止めた。


「ほぅ……。して、その根拠は?」


 ユリウスは問うた。


「この星に生きる生物は皆、大小はあれど魔力をもっており、常に体から微弱な魔力を放出しております。そして魔力は体の表面に沿って陽炎のようにゆらゆらと放出される。

 初め、私は彼の魔力のゆらぎから白だと思いました。通りを歩く一般人のそれとほとんど同じだったためです。

 しかし先刻、彼が商館で働く奴隷の姿を見たとき、彼の魔力が固定されました。僅かなゆらぎも無く、です。

 ありえない。

 魔力のゆらぎは感情の起伏と共に大きく乱れる。

 ……彼は、高度な魔力制御によって魔力のゆらぎすら再現している。

 こんな芸当を真似できる人物は、私は他に知りません」

 

 ポートマンは額に汗して淡々と語った。


 ユリウスはトーマが高度な魔力制御を行っていることは知っていた。

 ラトガトにあった生家での出来事。

 彼の友人を殺めた両親へ向けた激情。

 総毛立ってしまうほどの濃密して膨大な魔力量。

 それを常に気づかせないほど自然なまでに抑え込む技術。

 

「そうか。ヒュドラ撃破はやはり彼だと見て間違いないようだ。

 あのような大業だ、成せる者は限られてくる。他の者らにはアリバイがあったからな、もしやと思っていたのだがまさか本当に」


 ユリウスは複雑そうな表情でため息をつく。


「でも、そのおかげで兵装が充実するのよ。もっと喜びなさいな」


「ミュリエラ、魔物の素材は本来、倒した者の所有物だ。私たちは国のためとはいえそれを無断で横取りしたのだぞ」


「でも取りに来る様子はないのですよね?いらないのでは?」


 女児カリンの言葉にユリウスは言う。


「それは関係ないよ。たとえ、必要ないとされていても人のものは人のものだ」


「むぅ、そういうものですか?」


「そういうものだ」


 ユリウスは妹に言い聞かせるように言った。


「それじゃあどうするのよ?実際、私たちは無断でヒュドラを解体して素材を利用しているのよ。今さら分解してお返ししますって訳にはいかないでしょう。お金でも握らせるつもり?」


「ヒュドラの討伐報酬、どのくらいになると思う?」


 ユリウスは苦笑いでミュリエラに聞き返した。

 一つ首のヒュドラには討伐報酬は設定されていなかった。

 それでもS級といっても差し支えないほどには凶悪な魔物ではあったのだ。


「知らないわよ。……まぁ、あのクラスの魔物の討伐報酬から考えて、金貨15000枚でどうかしら?」


「少し少ないのでは?数年前に討伐された『蛇王』は37000枚だったはずです」


「ポートマン、確かそのときは素材の全てを国に納めていたはず。今回は最も価値のある魔石がない」


 ユリウスたちはその時、魔石の所在の問題を思い出した。


 巨大なはずの魔石が姿形も無く消えた。

 鉱山入り口の警備兵もそれほど大きな物を運び出された記憶はないと言っていたのだ。

 だったらどこに……?

 ……いや、今考えても仕方のないことか。

 

「とにかく、だ。

 トーマへの支払いは決定。額についてはミュリエラの案を採用し私がガイア様に……いや、リット様にお伺いを立てよう。

 カリン、アランに繋げてくれ」


 カリンは頷くと目を瞑り特異能力『感覚共有(シンパシー)を発動する。


 帝都のリットの執務室に待機するカリンの双子の弟であるアランは『感覚共有』の波長をキャッチすると応答した。


 カリンとアランが接続した感覚は聴覚だ。

 カリンが聞いたものはアランも聞くことができ、その逆も然り。

 カリンが聞いたものをアランがそのまま話し、アランが聞いたものをそのままカリンが話すことで長距離での擬似的な会話が成立するのだ。

 

「ユリウスか?どうした?」


 カリンはリットの言葉をそのまま伝える。


「鉱山都市のヒュドラが討伐されました。ガイア様に先んじてその素材を我々が抑えたのですが、急いだために討伐者の許可を得ておりません。口止めを兼ねた報酬の支払いに金貨15000枚を考えているのですがよろしいでしょうか?」


「ま、待て!ヒュドラが倒された!?誰に!?」


 執務室でリットは目を白黒させる。

 カリンからはリットの慌てふためいた様子が聞き取れる。


「トーマという男です」


「……お前の父親を殺したという男か。

 わかった。その程度なら私が出そう。

 ……そのトーマという男、軍に引き込めないか?それほどの力を遊ばせるにはあまりに惜しい」


「……いえ、おそらく無理でしょう。彼は貴族を──いえ、帝国を嫌っておりますので」


「そうか。わかった。

 あの件についてはどうだ?」


「問題ありません。明日、返答を聞きに向かいます」


「順調そうでなによりだ。他に報告することは?」


「ありません」


「ではな、健闘を祈る」


 そうしてカリンとアランの接続は途絶えた。

 ユリウスは引き出しから一枚の紙を取り出すとペンを走らせ、それをポートマンに手渡す。


「ポートマン、これをトーマに渡しておいてくれ。ゴネるようなら兵舎に直接来てもらうように言っておけ。

 ミュリエラは兵たちに出立の準備をするよう指示を。

 明日、出立だ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。