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グレイ  作者: 家端独
第三章
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第四十五話 牢、再会

 武器工房から指定された素材を採集しに鉱山に向かったトーマは、当たり前のように入口の警備に止められた。


「ちょっとちょっと、お兄さん身分証は?一応ここ、国有地だから身分を証明できない人を入れるわけにはいけないのよ。銀貨を差し出してきたって入れないからね。冒険者登録するか役所で身分証作ってからまた来てね」



ーーー



「はぁ〜、どこ行っても身分証身分証。嫌になるぜ」


 どうしたものか。


 大通り脇のちょっとした花壇の縁に腰掛けて天を仰ぐ。


 う〜ん。


 冒険者って登録の際に、複数登録を防ぐために自分の血を魔道具に垂らす必要があるんだよな。

 で、俺って教会領で騎士見習いやる前に小遣い稼ぎのため一度登録してるんだよな。

 で、騎士団から脱走して粛清対象になって確か指名手配されてたはず。


 今の竜人(ドラゴニュート)の血と人間だったときの血が完全に一致するとは思えないけど、もしバレたときに過去を遡られたら今後の活動にも影響出るだろうしな〜。


 あ〜、ラトガトでユリウスに徽章返すんじゃなかった。あれ便利だったな〜。


 そういえば、クロウさんやイザノバさんって全国で指名手配されてるのにどうやって街に侵入してるんだろ?


 今度会ったときに聞いてみよ。


 それより、素材調達のことだな。


 ……あの警備だったら魔術で姿を隠せば通り抜けられるかな?


 トーマは先程の鉱山入口での記憶を遡る。

 

 警備兵は二人。

 入口両脇にいた。

 装備は一般兵と同等で薄く防御面積は少なめ。上等なものではない。


 あくまで出入管理のみを目的としてるのか?

 兵士以外には‥‥‥そうだ、何人か冒険者がいた。荷物運び(ポーター)は二人。変なT字の道具にフラメアを人数分、それに大袋を複数。おそらく採掘した鉱石を運び出すため。


 ふむ、こんなものか。

 冒険者云々はどうでもいいとして、あの警備なら姿さえ隠せば余裕だな。

 直接話してみて強者のような雰囲気は感じなかった。


 ──よしっ。


ーーー


 俺は再度鉱石入口へ向かった。


 物陰で、


「『ミラージュ』」


 と、ラトガトに滞在時にアリアに教えてもらった不可視化の魔術を自分にかけるとトーマは気配を殺しながら警備兵の横を通しすぎようとした。


 その時だった。


「おい、ちょっと待ちなよ兄さん」


 何者かが不可視のはずの肩を掴んだ。


「兵士さん、ここに不法に入山しようとする輩がいるぜ」


「本当か!?」


 俺がギギギと軋む金属のようにゆっくり振り向くと、犬系の獣人と目が合った。

 向こうは合わせてるつもりはないだろうがとにかく合ったのだ。


 兵士は確かめるように腕を伸ばす。

 触れて存在を確認すると急いでトーマの手首に手錠をかけた。


 途端、不可視化の魔術が強制的に解除された。


「魔封具かよ‥‥‥」


 俺の呟きに兵士は睨みつけながら言う。


「逃げられると思うなよ」

「クズ野郎がっ!」


 兵士は獣人に向き直ると敬礼をする。


「あなたのおかげでこの不埒者を捕まえることができました。ご協力感謝します。私はこの男を牢まで連行しますのでこれにて失礼します」


 近くから駆けつけた巡回兵は俺を一発殴りつけてから連行する兵の仕事を引き継いだ。

 まったくのノーダメージなのだが‥‥‥少し野蛮ではないかね?


「行くぞクズ野郎!」


 いつの間にか手錠に結ばれた綱をグイッと引っ張る兵に俺は大人しくついていく。


 大通りを見せ物のように歩かされ、やがて兵舎に到着する。



ーーー



 兵舎に隣接する地下牢にひとまず繋がれる。

 教会領もそうなのだが、オルグスでは地下牢がメジャーなのだろうか?


 陽の光が入らないし風通しも悪いためとっても不衛生。

 ジメジメしていてかび臭い。

 

 唯一の光源である松明は牢を隔てた向こうの廊下にいくつかあるのみ。


 1時間ほど放置されると、入口の方からカツカツと足音が聞こえてくる。

 それもどうやら複数のようだ。


「奥から三番目の牢になります」


「ありがとう。下がってくれ」


 兵士とやりとりする聞き覚えのある声。

 声の主はそのままこちらへと近づいてくると、俺の牢の前で止まった。


「‥‥‥トーマ?」


 俺の名前を呼ぶ声に視線を上げると、そこには黒色兵器(こくしょくへいき)なんて物騒な二つ名を持つ騎士で俺の友人だった男であるユリウス・パラディースがいた。


 漆黒の髪に純白の騎士服に身を包む彼の両隣には、彼と同じ服を纏う女性らが俺を見下ろしていた。


「ユリウス、知り合い?」


 赤の長髪の女性──ミュリエラ・ボーフォルトはユリウスに尋ねる。

 確かユリウスは男爵家の出ではあるが、宰相の側近というかなりの地位にいたはず。

 そんな男を呼び捨てするということはこの女もそれと同格であると想像できる。


「ああ、ラトガトで出会った‥‥‥友人だ。剣も魔術も使える本当に強い男だよ」


「そ、それではこの男の尋問はどうします?」


 金髪褐色肌の1m80cmはあろう大きな女性は困ったように問う。

 直属とは言えないがユリウスは彼女の上司にあたるはず。

 そんな人物の友人に無体な真似をするのは恐ろしいようだった。


 「僕がやろう。‥‥‥トーマ、なぜ不法に鉱山に入ろうとしたんだ?身分証さえあれば誰でも入れるというのに」


 トーマに向き直ったユリウスは理解できないような表情で尋ねる。


「金が無かった」


 俺はそう一言だけ言う。


 確かに金はないのだが、そもそも身分証を発行するのにいくらかかるのか調べたこともないのだが一か八か言ってみた。


「身分証の発行には大銀貨で2枚必要。君には悪いが荷物を調べさせてもらったよ。財布には銅貨が数枚のみ。

 確かにこれでは身分証を作れないが、君ほどの実力があれば他に稼ぎようがあっただろう。冒険者ギルドを活用する手だってあったはずだ」


 上手い言い訳のために頭をフル回転させるトーマ。


「ギルドカードはなくした。あれも再発行には金が必要。身分証もギルドカードもない俺には金を稼ぐ術がなかったんだ」


「だからと言って罪を犯していいわけではない」


 まぁ、そりゃそうだな。


 ユリウスは続ける。


「姿を隠して入山しようとしたんだ。それが悪いことだと理解していたはずだ」


「そうだよ。‥‥‥はぁ、回りくどい。つまり?何が言いたいんだ?」


「僕から君に依頼を出そう。君が持っていたあの大袋の三倍の量のミスリルを採掘して欲しい。その報酬にこの件はなかったことにしよう」


「罪を揉み消すつもりか?」


「自分が何を言ってるか理解しているかしらユリウス?」


 ミュリエラは正気を疑うような目をユリウスに向ける。

 それもそうだろう。

 ユリウスは体制側の人間だ。しかもユリウス自身も法に反することを嫌う性分。

 そんな男が思いもよらないことを言いだしたのだから驚くのも無理はない。


「理解しているよ。別に情をかけたわけでは無いし、ましてや罪のもみ消しなんてもってのほかだ。

 これは取り引きだよ。僕たちには今大量のミスリルが必要だ。そして彼はそれを成すだけの実力がある。帝国でも罪の告白をすれば減刑するという減免制度がある。

 おかしな話ではないだろう?」


 大量のミスリルが必要とかいう気になる話題もあるが、ここは赤女が食い下がる前に話をつけるべきだな。


「分かった。その話、受けるよ。それで期限は?」


「そうだな、一週間以内にしよう。

 彼を解放してあげて」


 ユリウスが金髪の女に指示すると、彼女は牢に入り俺の手首と足首を繋いでいた錠を解いた。


 立ち上がった俺は高い湿度により不快に濡れた服の水気を風魔術で吹き飛ばした。


「無詠唱‥‥‥」


 ミュリエラが驚いている隣でユリウスは俺に何かを投げ渡す。

 

「それは身分証代わりだ。無くさないように」


 俺はそれをポケットにしまうと地上への階段へ向かう。

 彼らの隣を通り過ぎようとしたとき、ユリウスに呼び止められる。


「トーマ、最後に一ついいかな?」


「なんだ?」


「君はなぜこの街にいる?」


 トーマにはその問いの意味が分からなかった。

 なぜ、そう問われたのならイザノバらへの援助に来た、ということになるがそんなことを正直に答えれば十中八九捕まる。

 ゆえにトーマは表向きの理由としては武器を新調するために訪れたということにしているのだが、ユリウスの問いの意味はそういうことではない。

 

 トーマは知らないが、現在この街は一時的に隔絶された状況にある。

 北の道は獣人の国との交渉中につき封鎖され、運悪く時を同じくして西の航路に強大な魔物が出現しており現在も騎士団が戦闘中。

 つまり、東の山を越えるか南の大森林を抜けるしかないのだ。

 しかしそんな真似は常人には不可能。


「俺は──」


「いや、何でもない。依頼、頼んだよ」


 ユリウスはトーマの答えに言葉を被せた。


 ユリウスにとってこの質問に意味はないのだ。

 トーマなら多分どちらも可能だと思ったから。


 トーマは意味のわからないような顔で「そうか?」とだけ言い残してその場から離れた。


 残された三人は互いに顔を見合わせる。

 ミュリエラが口を開く。


「あなたねぇ、あの量のミスリルを一人でなんて何を考えてるの?」


「私も流石に無茶だと思います」


 金髪の女もミュリエラに同調する。

 そもそもミスリル鉱石はとても貴重な鉱物だ。年間を通しても採掘量は他の鉱石と比べても少量であり、採掘できるポイントも解明されていない。

 採れるかどうかは完全に運なのだ。

 加えて鉱山内部は危険な魔物で溢れている。

 だから人々はミスリルに大金を払うし、商人は大枚をはたいて冒険者を雇う。

 

「いや、彼ならできるよ。そんなに疑うならついていくといい。幸い、理由ならいくらでもある。監視なんかいい大義名分じゃないか」


「‥‥‥はぁ、わかったわよ。好きにしなさい」


「私はあの男の監視をさせていただきます。この街の騎士としてあの男の力量は把握しておきたいので」


 ユリウスの評価を信用するミュリエラに対し金髪の女はかなり懐疑的な反応だ。


 金髪の女はトーマが強ければ警戒すればよく、弱いのなら鉱山内部でくたばるだけだと予想する。


「ならば、早く追いかけるといい。おそらく、もう鉱山に向かってると思う」


「はっ!では失礼します」


 金髪女は急いでトーマの元へと駆けた。


 

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