第四十六話 坑道で行動
地下牢を出て鉱山へと向かう。
途中に寄った雑貨屋で鉱石を入れる大袋を購入した。
計四つ
うち三つは騎士団に差し出す分で残りの一つは自分用だ。
地下牢で見かけた金髪のデカ姉ちゃんは、いつの間にか俺の後ろを歩いていた。
彼女が物陰へとアイコンタクトのようなものを送ると、受け取った隠れた連中は動き出した。
俺はそれに気が付きながらも、あえて気にせず放置することにした。
だって、どうこうする理由がないもの。
そうして視界の端でこそこそする連中を捉えつつ、なぜか俺を睨みつける姉さんと共に再び鉱山入口へと戻ってきた。
「あ!また来やがったぞ!」
「どの面下げて!」
「今度はお仕事だよ」
頭の悪い輩のようなセリフで俺たちを出迎える警備兵にユリウスから渡された徽章を見せる。
「ふん、偉そうに」
小さく吐き捨てる金髪女。
こいつ‥‥‥。
ちっ、と舌打ちすると警備が激昂する。
「お前今舌打ちしたな!相手が誰だか分かってんのか!?」
「あ?」
有名人なのだろうか?
「この方はな、弱冠19歳でBランクにまで上り詰めた凄腕の冒険者であり、その上、その才をこの街の領主であり竜騎士でもあるガイア様に認められ直々に騎士へと勧誘されたお方なのだぞ!
この街で『大斧』のエステラを知らない奴はいない!」
「へー」
19歳でBランクになったというのは凄いことだと思う。
確かアルヴィBランクだったはず。
あいつレベルとなると油断も出来ないだろうとは思うけど、騎士連中はどれも油断ならない相手だからなぁ。
特別興味がそそられるわけじゃないんだ。
「へー、ってお前、俺の話を聞いて──」
「それよりもこっちが先だ。通っていいのか、いけないのか?」
「‥‥‥許可する。ほれ、これを持っていけ」
兵士はトーマにT字の道具と鉱山内の地図を渡した。
「これは?」
気になったのはT字の道具の方だ。
木製の取っ手と垂直に太く大きい釘のようなものが取り付けられている。
馴染みのない道具だ。
「それはツルハシって言って、鉱石を採掘するときに使うもんだ。何を採る気なのかは知らんが鉱石ってのは大抵、ほんの少しだけ顔を出してるもんだから見えてる部分ではなく中に隠れてるもんを掘り起こすつもりで採掘しな」
「教えてくれるのか?」
俺は素直に感心した。
彼らが俺に向ける感情は決していいものではない。
それは俺に理由があり、俺もその事自体はしょうがないと思っている。
それにも関わらずコツを伝授してくれるのは偏に彼らの心の在り方が良いからだろう。
「資源は有限。一つも無駄にできないからに決まってんだろ。さっさと行けや」
どうやら違ったようだ。
そういうわけで俺達は鉱山内へと入っていった。
ーーー
俺は貰った地図を広げながら進んでいく。
「アリの巣みたいだな。ところで、ミスリル鉱石ってどこで採れるの?」
「‥‥‥正確なポイントは見つかっていない。が、今までに採掘された多くは坑道の奥深くで採れたものだ」
広げる地図にエステラは指を指した。
そのポイントは横長の地図の上端にあるつきあたりだった。
この地図はかなりの精度のもので、すべてではないだろうがルートが網羅的に記されている。
当然、その中には多くの行き止まりがあるのだが、エステラが指さすそれは他よりも一際大きく、そして不自然なほど綺麗な円の形をしていた。
「ここでまだ採れるのか?」
「それは、どういう意味だ?」
エステラは尋ね返した。
「こんなにも目立つ場所にミスリルが眠っているなんてことを他の奴らが知れば飛びついてくるだろ。まだ残ってるのか、という意味だよ」
それにこの女、正確なポイントは分かっていないと言っておきながらこのポイントを示した。
矛盾している。
考えられるのは、そこにあるのは判明しているが何か理由があって採れない場合か、どういう理由かは知らんが俺をそこへ誘導したい場合。
まぁ、他にあてがあるわけでもないし行くけど。
「ああ、大量に眠っているはず」
「そうか。ならいいんだ」
ーーー
「キシェェァァァアアア!!ギャン!」
コウモリの魔物を高速の火弾で次々と撃ち落として進む。
肉の焼ける匂いが立ち込めるが二人は気にしない。
「‥‥‥なるほど、あのユリウス殿が認めるわけだ。私の助力は必要ないようだ」
エステラは静かに感心する。
「『大斧』なんて異名の癖に肝心の斧が見当たらないんだけど」
「こんな閉所では振り回すことなどできまい。それにこの程度なら拳だけで十分だ」
「‥‥‥そうか」
それから目的地までの数時間、コウモリやトカゲ、ヘビなどの魔物や好戦的なゴブリンを蹴散らしながら進んでいく。
ラトガトでは、争うことを知らない農民みたいな生活をしているゴブリンを見ていたからか、やけに殺すときに心が傷んだ。
成仏してくれよ。
その時だった。
進む坑道の奥に銀色に輝く大型の何かを発見した。
瞬間的にそいつが目的の魔物だということを理解する。
「メタルリザード!!」
地面を蹴る脚に瞬間的に大量の魔力を送り込むことで爆発的な速度を生み出す。
俺は逃げるトカゲの尻尾を掴むと、右手に魔術で棍棒を生成しトカゲの頭に容赦なく振り下ろした。
パンッ!という破裂音とともに血飛沫が四方に飛ぶ。
「よっし!素材ゲットォ!」
これは鍛冶屋のおっさんに言われた新しい槍の素材なのだ。
槍一本にこの巨大な甲羅、メタルシェルが必要なのだとか。
これは当然袋には入りきらない。
「どうしようか」
「印をつけておけば、ここに置いておいても取られることはない」
ゆっくり歩いてきたエステラは淡々と言う。
「そうなのか?」
「持ちきれない素材に印をつけて置いておくというのは、ダンジョンなどではよく見る。
ここに入ってくる奴は大抵冒険者だからな。そこのところはちゃんと弁えてる」
「へぇ」
俺は剥ぎ取った甲羅の端の方に㋣と刻んだ。
「これでよし。じゃあ、先に進もうか」
ツルハシを担いで俺は先を進む。
記憶と今の視界から地図上での位置を特定する。
「もうすぐだな」
すでに四分の三以上は進んでいる。
このあたりまでくると流石に気がつく。
何かいる。
「エステラ、この気配の主はなんだ?」
「古代から今に至るまで生き続ける数少ない亜竜、その一体であるヒュドラの欠片だ」
「欠片?」
「お前、竜騎士ガリア様の伝説を知らないのか?」
「知らん」
「はぁ‥‥‥今から300年前、中央大陸から一体の亜竜がこの東大陸に上陸した。その亜竜はそのまま南の大森林を北上してこのダラズミルまでやってきたんだが、街の手前でガリア様が亜竜ことヒュドラを食い止め、三日三晩の死闘を経て討ち取ることに成功した。この先にいるやつはその戦いの最中に切り離された九つある頭の一つだ」
「なんでそんな化物を放って置くんだよ。早く倒せよ」
「出来たらとうにやっている。欠片と言えど伝説の魔物だ。アレの出す毒や瘴気に耐えられるだけの耐性や結界を持つ者がいないんだ。
ほら、アイツだ」
エステラは声を潜ませて寝そべりながら静かに指をさした。
そこは大きくヘコんだクレーター状の地形となっており、その中央に巨大な頭の魔物がいた。頭の大きさに対して体はかなり小さくバランスの悪い形をしていた。
坑道からはかなりの高さがあり、一度落ちれば普通には登ってくることは不可能だろう。
「ちっ、もうこんなに回復しているのか」
エステラは忌々しげに舌打ちする。
「‥‥‥ねぇ、なんでこんなところに連れてきたの?」
その時だ。
「うん?あっ‥‥‥」
一瞬の浮遊感からの落下。
振り向くと透明化した俺を警備に突き出した獣人と他数名がいた。
エステラはひどく冷めた視線で落下する俺を見下ろし、
「イザノバさんを狙った報いだ」
と言い残してさっさと帰っていった。
俺、その人の仲間なんですけど!!
「クソが!!」
そうして俺は伝説と対峙することになった。




