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グレイ  作者: 家端独
第三章
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第三十八話 領主会議


「そうなんだよ、敵の情報を得ていた俺は前の晩のうちに作戦を立案し、当日、見事に完遂!どうやったか知りたい?」


「はい!是非教えてください!」


「わ、私も知りたいぞ」


「俺も」


 俺は自室のベッドの上に立ち、床に座るシャーロットちゃん、護衛のクリス、そしてアルヴィにユリウスとその後のダリルとの戦いの詳細を少し盛って話していた。


「いいだろう!敵将ダリル、あれは恐ろしく強かった。雨あられのように迸る雷光は直撃すれば必死は必至!見ろこの腹を!あれから随分経つというのに未だに癒えない。俺でなければこの一撃だけでダウンしていただろう」


 俺は未だに赤くただれる腹部を見せて説明する。


「視界も意識も明滅するが、奴の攻撃は降り続ける。俺はなんとかそれを躱し続けて魔術で応戦。しかしどれも有効打にはなり得なかった。攻撃力防御力共に奴の方が数段も上だったのだ。そんな状況の中でも俺は生き延びた。なぜか、それは奴が俺を敵と見做さず遊び気分だったからだ。本来ならば屈辱この上ない状況だったろうが、俺にとっては都合がよかったのだ。そう!俺の目的は初めからダリル撃破ではなく時間稼ぎだったからだ!」


 おおっ、と声があがる。

 うむ、中々いい反応をしてくれる。

 シャーロットちゃんなんか目を輝かせて聞いてくれている。

 嬉しいもんだね。


「俺は最初から止めはアリアの大魔術と決めていた。そうだろアルヴィ?そうしてダリルの遊び相手として防戦一方を強いられていた俺だが、ついに行動に出た!アリアの大魔術の魔力を気取られないために俺は奴の弱みをつついたんだ。ダリル、あいつはあいつで苛酷な人生を歩んできたんだろう。誰からも、身内からも見下され虐げられて。奴はそんな過去を汚点とし、それを知る者を次々に粛清していった。コンプレックスを指摘された奴は激昂し、怒りに任せて俺に向かってきたんだ。その攻撃は苛烈を極めた。満身創痍になった俺に止めを刺そうと奴が剣を振り下ろしたその瞬間、俺の聖樹結界(グレイト・ツリー)が発動!ダリルは身動きが取れなくなった。すると奴は俺にこう問うてきた。『お前は誰だ』ってね。だから俺はこう答えてやった。『俺か?そうだな、グレイ、そう呼ぶといい』ってな!」


 おおっ!と感嘆の反応に満足していると部屋の扉が開かれた。

 部屋の前で額に手を当てて話すクロウはどこか疲れている様子だった。


「はぁ、やはりお前だったかトーマ。今ちょうど入ってきた情報だが、グレイと名乗る魔術師の首に懸賞金が懸けられたそうだ。先日の領主会議の議題に挙がった話だからな、今頃は全国に広まっているだろうよ」


「えぇ‥‥‥」



ーーー



 時は少し遡り。

 オルグス帝国帝都、その中央にそびえ立つ巨大な城。

 その高層の一室にて円卓を囲うように鎮座する七人の竜騎士。


 彼らを招集した宰相家当主リット・クランゼルカは下座の一席で呼吸を整えていた。

 普段は招集に応じないような騎士も今回ばかりはそうもいっていられなかったのだろう。現竜騎士が勢揃いしていた。

 その圧力の凄まじさ、空気のヒリつきは普段相手にしている貴族の比ではない。

 額に流れる汗を拭きとり、ずれる眼鏡をクイッと押し上げる。


「本日はお集り頂き感謝申し上げま───」


「あ~、そういう口上みたいなのはいいから。本題だけお願い~」


 リットの言葉を遮ったのは竜騎士の中で最古参である、死霊の騎士トートピエールだった。

 ぼさぼさの紫紺の髪、歴史ある円卓に足を乗せる、嗅いだことも無いような変なタバコをふかす。竜騎士の中で一番だらしない人物。

 しかし誰も注意しない。

 なぜか。

 彼が年長者だからか?違う。

 彼がこの中でも屈指の実力者だからだ。

 帝国は力持つ者を尊重する。

 だからこそ、彼は認められているのだ。


「は、承知いたしました。

 では。皆様すでにご存じかと思いますが、先日、(いかずち)の騎士ダリル様が治めるラトガトに巨大な光の柱が降り注ぎ、それによりダリル様は命を落とされました」


「あれはすごかったねぇ。ウチん所でも話題になったよ」


 青の長髪を流す女性、大海の騎士もすかさず話を遮る。


 ちっ、人の話は最後まで聞けよ!これだからこいつらの相手はしたくないんだよ‥‥‥。


「は、はぁ。そ、それでですね、ラトガトでの───」


「しかし、疑問だな。あ奴は確かに人を見下し侮るきらいがあったが、それほどまでの大魔術だ、事前に

気付くことくらいは出来たろうに。気付くことができないほど何かに集中していたか、対応できない状況にあったか‥‥‥。リット殿、そこらへんはどうなのだ?」


 茶髪の筋骨隆々の大男、大地の騎士が問いかけた。


「はい、それはですね───」


「ていうか、さっきから気になってたんだけどガイアちゃんさ、その腕の包帯どうしたの?」


 トートピエールが大地の騎士に言う。


「お恥ずかしい話ではありますが、ついこの前、イザノバ・アーディンに奇襲され、腕ごと吹き飛ばされまして。たまたま近くに腕のいい術師がおりましてな。これでもなんとか繋がっているという状態なんです」


 ガハハハハと大きく笑うガイア。


 何笑ってんだ。腕を飛ばされたんだぞ。

 やはりこいつら竜騎士の思考回路は理解できない。

 リットはギリっと奥歯を噛みしめる。


「ガイアの腕のことよりダリルのことだよ。アリアに続いて二人目だよ、竜騎士がやられるの。まぁ、アリアは行方不明ってことだけど。そういえばリット君さ、腹心をラトガトに派遣してたよね。あの子がいながらダリルが倒されるのってちょっと腑に落ちないんだけど」


「ヒューメレイもそう思うのね。あの黒剣もそうだけど、扱う当人の実力もまた卓越している。性格も真面目だし、寝ていて気が付きませんでした、なんてことないわよね?」


 豪嵐の騎士ヒューメレイに同調する氷銀の騎士エウリアはリットに視線を向ける。


「‥‥‥ええ。報告によると、ダリル様の宮殿前にて警護に務めていたところ、突如現れた一人の魔術師と交戦し、敗北。あの光の柱が落ちてくる直前まで気を失っていたそうです」


 リットは目をふせて、それでいて淡々と事実を報告した。


「「「は?」」」


 大海、豪嵐、氷銀の騎士は衝撃に声をもらし、他の竜騎士らは興味深そうな表情をする。


「ま、負けた!?あの男が?ダリルがくたばったことより驚きだわ」


「この前、魔術師団の副団長に圧勝してたよな?団長クラスの野良術師か‥‥‥」


「で、その魔術師の特徴は?ていうか、なんで戦った本人がここにいないわけ?」


 三者三様の反応だが、共通して興味深そうに笑みを浮かべている。


「ユリウスは現在、治療中でして‥‥‥」


 嘘だ。

 確かにユリウスの傷は深かったがラトガトから帝都までの道中で継続した治療を受けていたため到着する頃には全快していた。

 こいつらの前に出さないのは、早くこの会議を終えたいからだ。


「‥‥‥そう言うことなら仕方ない。で、その術師について聞いているんだろう?詳細を」


「はい。といいましても戦闘自体、短時間で決着したため判明していることは多くありません。現在分かっているのは、術師は槍も扱うことと特定の属性のみを使用するわけではないこと──つまり、おそらくあらゆる属性が使用可能だということ。槍術の練度は低いですが、その代わりに強化込みだとしても超人的な膂力を有しているようです。魔術に関しても基本的には無詠唱で、比較的発動速度の速い低級魔術を連発してきたそうです」


「ふむ‥‥‥人相などは?」


「魔術で隠蔽されていたようです。ただ、その術師は自らのことを『グレイ』と名乗ったとのこと」


「グレイねぇ‥‥‥でも聞いた感じだと、そいつじゃあダリルは殺せないね。どれだけ手を抜いていたのかは知らないけど、あいつが命に届きうる攻撃にまで付き合ってあげるとは思えない。それこそ、さっきガイア様が仰ったような対応できない状況にあったとしか思えないね」


 大海の騎士は顎に触れながら思案する。


「その術師は今、生きているのか死んでいるのか」


 円卓における上座に鎮座する帝国最強の男──(ほむら)の騎士がようやく口を開いた。

 決して大きく張られた声ではなかったのにも関わらず、がやがやと騒がしかった空間は一気に静まり返った。


「それは、本日皆様をお呼びした二つ目の話になります。単刀直入に申しますと、聖女アリア様が裏切りました」


「ほぅ」


「先程申しましたが、我が騎士ユリウスは光の柱が墜ちる直前に目を覚ましました。酷い手傷を負ったユリウスは従者に回復薬を取りに行かせ、自身は街の被害状況の確認に努めていました。そのとき、光の柱がダリル様の宮殿へと降り注ぐと同時に、黒い穴のようなものの中から死に体のグレイが出てきたというのです。倒れ伏すグレイを捕まえようとしたとき、聖女様がそれを妨害、そしてグレイを連れて闇に消えていったと」


「なるほど‥‥‥それで、裏切りの聖女がその術師を癒したと」


 炎の騎士は納得いったかのようにふぅと一息つくと、


「トートピエール、奴らだ」


「俺もそう思った。あの辺りにはあいつらしかもういないしもんな」


 死霊の騎士もそれに呼応する。


「あいつら、とは?」


 氷銀の騎士の問いにトートピエールはにやりと笑って、


「スレイズだよ」


 そう言った。

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