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第2話 ぜいぜいはあはあ。

ぜいぜいはあはあ。


今度は、もちろん、今度は心の中だけで叫んだので、お近くの令息や令嬢には視線を向けられなかった。


まあ、でも。


心の中とはいえ、盛大に叫んで、気合いも入ったので。


「俺様はアンネローゼなどという聖女の力をなくした平民女との婚約は無くし、愛する侯爵令嬢と婚約を結び直す!」


などと、盛大に叫んでいる王太子殿下の前に、つかつかと進み出る。


「……御前、失礼いたします、王太子殿下並びに侯爵令嬢」


震えて、しゃがみ込んでいるアンネローゼの側で足を止めて、淑女の礼をとる。


「何だ貴様は!」

「オールステット男爵の娘、クリスティーナでございます」


頭を上げずに答える。


「オールステット男爵の娘……?」


ああ、覚えてなんかいないよねえ。


「単なる平民女をオールステット男爵家の養女とし、聖女と認定させ、更に、伯爵家、侯爵家の養女として成り上がらせた、元凶……とも言える、オールステット男爵の娘でございます」

「何と!」


軽く自己紹介をしておく。


王太子殿下や侯爵令嬢だけではなく、パーティに参加している令息や令嬢の皆様も、わたしを凝視してくる。

アンネローゼもだ。


「クリスティーナお嬢様……」


縋るようにわたしを見るアンネローゼ。

そんなアンネローゼにちらと視線を流してから、わたしは王太子の許しもなく勝手に顔を上げた。


「我が父、オールステット男爵がアンネローゼを聖女にしたときは、馬車に轢かれ、死にかけた者を助けるだけの聖女の力を有していたアンネローゼですが。我が男爵家の期待から外れ、昨今はその聖女としての力も少なくなってきたとお聞きしました……」


王太子が頷く。


「そうだ! 今では擦り傷もすぐに治せないほど、力はなくなってきているのだ!」

「はい。まったく期待はずれで……、ですが! 言わせていただきたい!」

「何だ?」

「この役立たずを、王太子殿下の前に立たせてしまったのは、元はと言えば、我が父、オールステット男爵の罪! しかし! アンネローゼを聖女認定した当時は、将来はもしかしたら大聖女様に匹敵する力があるのかもしれないと、聖職者の皆様の期待があったことも事実……」

「うむ」


鷹揚に頷く、王太子。

けっ! と思いつつ、わたしは沈痛な面持ちで語りを続ける。


「期待はずれは、本人にも致し方がないところかもしれませんが……。聖なる力を失うのは、神からの啓示かもしれませんし、また、本人の力量が足りなかったのかもしれませんし……」


言いながら、ちらと王太子や、柱の影の第二王子を見る。

出番をなくしておろおろしている。

けっ! てめーは一生そうやっているがいい!


「この愚か者を男爵家の養女とした時には、今のような未来が訪れるとは、我が父であるオールステット男爵にも予想がつかなかった……。ですが……」


いったん、言葉を切って、わたしは潤んだ目で王太子を見る。胸の前で手を組んで「神様お願いポーズ」だ。


「罪は罪として、王太子殿下の恩情を賜りたいと思うのです」

「は? 温情だと?」

「はい、この愚か者を、我がオールステット男爵家の我が家の奴隷として……、いえ、下級メイドとしてこき使って……、いえ、更生させ……」


奴隷、更生の言葉に、会場の令息や令嬢がぎょっとした顔になる。


「ええと、奴隷……、スカラリーメイドとして厨房で鍋磨き、もしくはランドリーメイドとして冬場の冷たい水で洗濯……など、徹底的にこき使って、いえ、教育のし直しをさせ、一生飼い殺し……、ああ、えっと、一生罪を償わせ……。それをもって、オールステット男爵家の罪の相殺とさせていただければ……と」


スカラリーメイドというのは、厨房で皿や鍋を洗う仕事をするメイドではあるが、キッチンメイドよりも下で、その実、どこの貴族の屋敷でも、かなり冷遇を受けている。

ランドリーメイドは文字通り洗濯女。夏でも冬でも冷たい水で服を洗わないといけないので、重労働だし、手荒れがかなり惨い。


耐え忍んでハウスメイド、レディースメイドと出世できるのならともかく、一生ランドリーメイドとかであれば、かなり大変なのだ。


そんなメイドの実情を知っている者たちは「酷い……」とか「大変……」とか「投獄されたり娼婦になるよりはマシか……」などと勝手なことを言っている。


「……温くないか?」などと顔を顰めているのは、王太子くらいだ。

侯爵令嬢だって、扇で口元を隠している。……まあ、その扇の下ではほくそ笑んでいるのかもしれないけど。


「ですが、娼婦に身を落とさせても、鉱山送りにしても、元聖女の細い体では二年か三年の苦役で死んで……、ええっと! 終わってしまうでしょう? 細々と長く苦しめるのなら、一生下働きがベストです」

「なるほど。一理ある……」

「メイドが温いのであれば、そうですね、我が領では……、動物の解体くらいですか? 猟で倒した獣や家畜を屠殺……食べる部位や素材に使う部位を切り分けるという仕事に従事させますか? 血まみれの重労働ですけど」


屠殺だとか血まみれだとかの言葉に、蒼白になるご令嬢多数。

令息たちも「惨い……」なんてぼそっと言っているし。


でも、王太子は納得顔。


「なるほど、長く苦しめ、オールステット男爵家の罪の相殺とするか……」

「はい、王太子殿下の恩情を賜ることができるのならば、責任をもってこの平民娘を我が男爵家にて、徹底的に更生させましょう!」

「おもしろい! その案や良し!」

「ありがとうございます。王太子殿下と侯爵令嬢のご慈悲は、我がオールステット男爵家、一生忘れません!」


つまり、不要になった平民聖女を引き受けて、尚且つお金も献上しますね……の意味だ。

その意味が通じたようで、王太子も侯爵令嬢もニマニマしている。

ま、テキトーなこと言ってても、金の支払いはお父様だ。わたしの懐は痛まない。


「さ、アンネローゼ。いえ、もう平民に戻るのだからアンに名前も戻すわ! さっさと立って、お目汚しなお前はこの場から去りなさい! 温情として今だけは我が家の馬車に乗せてあげるけど! 男爵家の領地で徹底的にこき使ってあげるわよ! 覚悟することね!」



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― 新着の感想 ―
 ……なんでか知らんが、『けっ』が口癖のこのご令嬢のイメージが、  黒髪おかっぱ、つり目の黒縁メガネな毒舌学級委員長にしか…見えない(;´・ω・)。  ……なんでだ?
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