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第1話 「アンネローゼ! キサマとは婚約破棄だ!」


「アンネローゼ! キサマとは婚約破棄だ!」


貴族学院で、年に数度行われている生徒間交流会という名のパーティ。

そんなパーティで叫んだのは王太子殿下。

金髪青目の偉そうな男。


その王太子の腕にまとわりついているのは侯爵令嬢。

キツい目つきと豊かな胸。その上豪奢な赤いドレスを着ているとあってはまるで物語の悪役のようだ。


婚約破棄されたのは平民上がりの聖女……アンネローゼ。

水色のふわふわした髪、折れそうな細い腰、ぺったんこな胸。

華奢で、細くて、小さくて。

動物でたとえるのならハムスター。もちろん可憐な美少女だ。


「聖女だからといって、何故! 平民上がりの女を! この俺様の婚約者にしないといけないのか! しかももう! まともな聖力も持たない女を!」


そんな『婚約破棄場面』を見ながら、わたしは「……国王陛下のご命令だからでしょ」と心の中でツッコミを入れる。


わたしの近くにいたご令嬢や令息たちが、ぎょっとした顔でわたしを見た。心の中ではなく、声に出していたようだ。うっかりだな、わたし。


気にせず、王太子が繰り広げている愚かな『婚約破棄場面』を見続ける。


べらべらと怒鳴りまくる王太子殿下。

その腕に胸を押し当てるようにして、勝ち誇った顔の侯爵令嬢。


まあ、二人はどうでもいい。

王太子と侯爵令嬢という高い地位にあろうと、『物語』では、しょせん「ざまぁ」される小者でしかないのだから。


そんな二人よりも、もっと私が嫌いなのは……。


柱の陰で、自分の出番を今か今かと待っている第二王子だ。


そう、やっぱり『原作』のライトノベル『婚約破棄された平民聖女は第二王子の愛に溺れる』通りの展開になったのね……。


上下巻のライトノベル、文字数にして二十万文字超えのストーリーだけど、端折って説明すると……。


平民だった娘、アンが、ある日突然聖女としての力を発揮する。

馬車に轢かれた弟の、その怪我を治してしまうのだ。

その馬車に乗って、アンの弟を轢いたのが、わたしの父であるオールステット男爵。


聖女の力を発揮して、弟の怪我を治したばかりのアンを、無理やりにオールステット男爵家まで連れてきて、養女にする。

我が父ながら酷い。


そうして、教会から聖女認定を受けさせ、アンを貴族らしいアンネローゼという名前に改名させ、ベルマン伯爵家に養子に出したのだ。


もちろんその際には莫大な金をベルマン伯爵から受け取っている。

どのくらいかと言えば、男爵家の三年分の税収に相当する金である。

我が父はウハウハと喜んだ。

拾っただけの平民の小娘が大金に変わったのだからねえ。

ちなみにわたしも金貨を十枚、分け前としてもらったが。

お父様、ケチだな。もう少し寄越せ……って、まあ、くれただけマシか。それはともかく。


ベルマン伯爵は、アンネローゼをいったん自分の養女とはしたが、すぐに高値で侯爵家に売りつけた。つまり転売。


聖女。しかも侯爵家の養女。

当時のアンネローゼの聖女としての力はかなりなもので。

歴代の大聖女にも匹敵するのでは……と、神殿からも注目を浴びていた。


それを知った国王陛下は、当時まだ十二歳だった王太子殿下の婚約者に、アンネローゼを無理やり挿げ替えた。


もちろん、王太子殿下には元々の婚約者がいた。

それが、今、王太子殿下の横に立ち、その腕に胸を押し当てている侯爵令嬢だ。


平民聖女に王太子の婚約者の地位を奪われても、二人は愛を育んできた……、というよりも、王太子殿下は聖女であろうと元は平民であるアンネローゼを初めから嫌っていたし、侯爵令嬢も、王太子殿下への愛ではなく、王太子の婚約者という地位に執着をしていた。


そんな王太子と侯爵令嬢は、アンネローゼを虐め抜く。


で、第二王子は虐められるアンネローゼを不憫に思っていた。

虐められても、健気に耐えているアンネローゼはなんと健気でかわいらしいのだろうか……と。


そうして、卒業パーティで婚約破棄されたアンネローゼを『救う』のだ。


「兄上! たとえ聖女の力を失っても、第二王子である私は、アンネローゼを愛している!」


はーい、婚約破棄されたかわいそうなドアマットヒロインを助けに、どこからともなく現れるスーパーダーリンの登場!


こんな流れの『原作』で、平民聖女はスパダリ第二王子殿下に溺愛されてしあわせになりました……なんだけど。


けっ! 馬鹿馬鹿しい! 気持ちが悪い! 何がスパダリだ!


たとえば他国の皇子様とかで、婚約破棄場面で初めてかわいそうな令嬢に一目惚れ、助けてあげる……っていうのなら、百歩譲って、まあ、許そう。

精神的にも肉体的にも痛めつけられているドアマットヒロインを助けようがないからな!


でも、第二王子。てめーは駄目だ。


今まで王太子に虐められて、貶されてきたアンネローゼを、見てきただけで、なーんの助けもしてこなかったんでしょ?

放置して、ただ、愛しのアンネローゼが、自分の手の中に入って来るのを待っていただけでしょ?


見てないで、助けろ。

苦境に陥っているヒロインを、陰から見ているだけのストーカー行為を反省しろ。

黙って見ていただけなのに、婚約破棄されたそのときにいきなりしゃしゃり出てくんな!

卒業パーティなんか待たずにさっさとヒロインの手を取れよ!


わたしはこの手の似非スパダリは大っ嫌いだあああああああ!


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