第7話 七女・藍沙
——おはよう、麻璃亜。「ふあ〜おはよう。」眠りから目覚め、麻璃亜に挨拶をした。麻璃亜は今日もひどい寝癖だ。一緒に暮らし始めて数日、段々と麻璃亜のことがわかってきた。だが年齢不詳な上、隠し事をする性格のようで、まだわからないことの方が圧倒的に多い。とりあえず、寝癖は面倒だからと言って直さない癖に料理は自分でやるなどあべこべなところもも沢山あるようだ。要するに、気まぐれなのだ。しかし、本当に子供が好きでいつもおせっかいを焼いている。……子供以外にも世話を焼くが。とにかく、それほど不思議な人だ。自分も最初は麻璃亜に対して警戒するところもあったが、今は麻璃亜のことを信頼している。今日は誰に会うんだっけ?「七人目の子じゃな。朝食を食べて出かけるとするか。」了解。そして、麻璃亜が手際よくフレンチトーストを作ってくれた。食べてみると、ほっぺたが落ちそうなほど柔らかくて甘かった。卵とバニラの風味がほどよい。流石は麻璃亜だね。美味しいよ。「ふふ、ありがとな。わし、お菓子作りも好きなんじゃ。大抵のレシピは頭に入っとるから、即興で作れるぞ。」へぇ……!昨日の碧からもらったミルクティーは甘すぎて歯が溶けそうだったよ。「そうじゃな。あれはかなり好みが分かれるのう。」いや、好みがどうとかいう問題じゃないと思うけど……。でも、このフレンチトーストは丁度いい甘さだよ。「そうか?わしも腹ペコじゃ〜。いただきまーす。」二人で朝食を楽しんだ。そして身支度を整えて、七人目の子に会いに出かけた。
——いつ来ても思うんだけど、この孤児院って綺麗だよね。掃除はどうしてるの?「掃除か?子供達が交代で毎日掃除しておるぞ。」子供達が掃除してるんだ。「時々わしが秘密でちょちょっと片付ける時もあるが……子供達の自主性を重んじているんじゃ。」なるほどね。それはいい案かも。あとは孤児院のルールとかはある?「うーむ……おやつは一日百五十円までとか、テレビやゲームは譲り合って使うとか……あとは時々レクリエーションをやっておるぞ。」レクリエーション?「うむ。今でこそ孤児は少なくなってきたが、心に傷を負った子は決して少なくないわけじゃ。そんな子達に少しでも楽しい思いをしてほしくて、みんなでサッカーをしたり、ボードゲームで遊んだりしとるのじゃ。あとは新入りの子もみんなと仲良くしてほしいしな。」そんなことまで考えてたんだ……!やっぱり麻璃亜は優しいね。いつも撫でられているから、お返しに麻璃亜の頭を撫でた。「なんじゃ?仕返しか?……ふふ、じゃが、嬉しいぞ。子供達はこんな気持ちなのか……悪くない。」うんうん、と頷いた。「それじゃあ、中に入るぞ。」ガチャ……。コツ、コツ、コツ、コツ……。まだ孤児院の中は静かだ。みんな起きてないのかな?麻璃亜も思ったようで、「ちと早すぎたか?……まあ、あの子なら起きてるか。」そう言った。そして奥の方の扉をノックした。コンコンコン……。「おーい、わしじゃ、麻璃亜じゃ〜。起きとるか?」……。あれ?返事がない。起きていないのかな。コンコンコン!「ふむ……あ、そゆことか。入るぞ〜。」え、寝てるかもしれないよ?勝手に入っていいの?「ああ。きっと瞑想をしているだけじゃ。」瞑想?瞑想がどうかしたの?「ものは試し、入ってみるぞ。」ガチャ……!麻璃亜が何の躊躇いもなく扉を開けた。扉を開けると、畳のいい匂いがした。そう、和室だ。今の時代で和室は珍しい。そしてほのかな緑茶の香り……。ザ、日本、という感じだ。そしてその和室の中央に、女の子が姿勢良く正座していた。目を閉じて一ミリも動かず何をしているんだろう……?ん……さっき麻璃亜が言ってた。もしかして、瞑想……?「あーいさ〜。遊びに来たぞ〜。」麻璃亜が空気を読まず、部屋に上がった。いやいやいや、麻璃亜、邪魔しちゃダメでしょ?……って、麻璃亜は聞く耳を持たないようだ。もう、この人は……!「……。」だが、女の子は無反応だ。すごい集中力……。そして、麻璃亜が女の子を揺さぶると、女の子はやっと目を開けた。なんかごめん……。「……あれ、母様……?」「藍沙、おはよう。」「おはようございます……って、もしかして私、気づきませんでした!?ごめんなさいっ!」謝らなくていいんだよ。そう、この子が十つ子の七女、藍沙だ。藍色の髪をポニーテールにして、かんざしをさしている。そして赤紫色の綺麗な目をしている。……今気付いたが、十つ子はみんな髪と目の色が違うんだ。顔つきもみんな似ていない。本当に十つ子なのか?怪しくなってきた。「えっと……こちらにいるのが……。」わしの連れじゃ。「そうですよね、母様の誕生日会の時にいらした方ですよね。改めて、月守藍沙と申します。」月守……?「わしらの苗字じゃぞ?」ええ!?初耳だよ!?「ありゃ……。」「言ってなかったのですか?母様?」「そうじゃな。悪い悪い。」色々すっ飛ばしすぎだよ、麻璃亜……。「じゃあ、あなたも月守ですね。」えっ……どうして?「ふふ、そうじゃぞ。藍沙はもうこやつを家族と認めてくれているのか?」「はい。私よく、警戒心がないと言われるのですが……何だかこの方は大丈夫な気がします。」……ありがとう。「それと、家族は多い方が楽しいですしね。」「そうじゃそうじゃ。」二人共……。こんなに優しくされたの、いつぶりだろう。嬉しい……。「あ、そうでした。お二人はどうして朝から私の部屋に……?」えっと、自分と麻璃亜で姉妹巡りをしているんだ。「姉妹巡り……?」まあ、その反応だよね。「姉妹巡りとは何ですか?」「十つ子を上から順番に会いに行っとるのじゃ。こやつはこの世界に来て間もないからな。」「そうなのですか。かなり姉様達に会ってきたのですね。私で七人目……ですよね。よろしくお願い致します!」お、おお……よろしく……。礼儀正しすぎて戸惑うな。十つ子達は個性が強すぎて、温度差で風邪をひきそうだ。個性的なことはいいことだけど……これ程とは……。「……そうは言ったものの、私の何を教えればいいのでしょうか?」お、みんな飲み込みが早い。それなんだけど……。「藍沙の能力を教えてくれないか?」いつも通りど直球で麻璃亜が言った。「はい、もちろん……ええ!?」あー警戒心なく言っちゃった。「ど、どど、どういうことですか!母様!?この方に教えてもいいのですか!?」「いいんじゃぞ〜。」「確かに、さっき家族、と言いましたがこれは姉妹以外には秘密のはずです!」「やっぱりお主も同じ反応をしたのう。」えっと……信じてくれるかな。「わしはこやつには普通のものではない何かを感じておる。だから、お主も信じてくれ。わしとこやつをな。」「……わかりました。母様のことです。何かあるのは間違いありません。」……いつも思うけど、麻璃亜って人望が厚いね。子供達からもすごく尊敬されてて。「ふふ、そうじゃろ?ちとわしのカリスマ性が溢れ出てしまっておるのう。」麻璃亜が調子に乗った。麻璃亜を褒めるといつもこうなる。お調子者……って言うのかな。でも大人ならではの落ち着きもあってそこは微妙だ。「それでは、私の能力についてお話し致しますね。私の能力は時間を操る能力です。」何だか強そう……。「いえ、それほどではないのです。少し説明が難しくて……。お時間は大丈夫ですか?」大丈夫だよ。「そうじゃ。わしらには時間はいくらでもある。」「そうなのですね。わかりました。私の能力の説明を致しますね。時間を操る能力……正しく言えば時空を歪める能力です。」時空?急に難しくなった……。「時空とは全て一定に進むものではなく、縮めたり伸ばしたりすることができます。」つまり、藍沙は時空を操ることができるんだ。「はい、その通りです。時空を操って過去に行ったり、逆に未来に行ったりすることができるのです。」なにそれ、最強じゃん!「紫苑風に言うならチートじゃな。」「お褒めいただき、大変嬉しいです。ですが、そう甘くなくて……。私の力不足で、過去や未来に行ったとしても事実を捻じ曲げることはできません。」事実?「もう既に起こってしまったこと、起こることが決まっていたことはいくら時空を操っても変えることはできないのです。」どういうこと?「過去に戻ってテストの点を変えようとしても、なんらかの力が働いてテストの点は変わらないってことじゃ。藍沙の能力では、過去や未来を体験することしかできんのじゃ。」なるほど、そういうことか。でも、楽しかったことをまた楽しめるんだよね?「そうですね。そこはこの能力の良い所なのかもしれません。」「あとは戦いにも応用ができるぞ。」そうなの?「母様の言う通りです。私は剣術を極めていて、普通の方々と戦う時は使わないようにしておりますが、悪しき方々と戦う時だけ能力を使います。」そうか、能力があるってバレちゃうもんね。悪しき方々……?橙子の時みたいな人かな。「そうじゃな。あやつらみたいな人間は山ほどいるからな。」「……そうでした、琥珀姉様から聞きました。橙子姉様とお二人で武装集団を倒されたのですよね。素晴らしいです!」い、いや、それほどでも……。倒したのはほとんど橙子だったし……。自分は迷惑をかけただけで……。「いえ、貴方は橙子姉様を体を張って助けたと聞きました。賞賛に値する勇気です。そんな素晴らしいお方と出会えたこと、実に光栄に思います!」そ、そうかな……?えへへ、ありがとう。嬉しいよ。「あ、話が逸れてしまいましたね。えっと……私の能力についてはお話ししましたよね。では、戦いへの応用を説明致します。基本は相手の時間の流れを遅くして木刀で斬り込みます。本当は真正面から正々堂々と戦いたいのですが、相手を決して侮らず確実に戦っていくのが私のやり方です。」「藍沙は試合の挨拶も忘れないんじゃぞ。相手のことも考えておるからな。」藍沙はいい子だね。「いい子……ですか。いえ、私なんて全然……。」そういえば、碧が団子を藍沙に、だって。そう言って団子を取り出した。「わ、本当ですか!ありがとうございます!今、お茶を淹れますね。」喜んでくれたようだ。流石は碧だ。姉妹の好物をよく知っている。でも、本当は一人で食べる予定だったんだな……。絶対反論するだろうけど。「母様も貴方も暖かいお茶でよろしいですか?」「ああ。今日は冷えるしな。」そうだね。暖かいのがいいな。「わかりました。今蒸らしているので少しお待ちください。」団子の入った袋を開けると、三色団子、みたらし団子、あんこの団子がそれぞれ三つずつ入っていた。美味しそう……!というか、九本あるのに碧はこれ全部……!?いや、またこんなことを言うと怒られる……。「お、丁度いいのう。それぞれ一つずつ食べれるぞ。まあ、さっき朝ごはんを食べたばかりじゃがな。」「……よし、お茶が入りましたよ。熱いのでお気をつけてください。」藍沙が湯呑みにお茶を注いでくれた。わあ、いい香り……。「では、頂きましょうか。……いただきます。」「いただきまーす。」いただきます!
——「んんー!もちもちで美味しいですねー!」満面の笑みで藍沙が言った。今日一番で嬉しそうだ。藍沙は団子が大好きなんだね。「はい!もちろんです。私、洋食より和食や和菓子が好きで……。大福とかも好きですよ。和っていいですよね……。」藍沙が饒舌に語った。「……はっ、ごめんなさい!私ばかり喋ってしまって……。」いや、いいよ。自分も和食は好きだよ。「本当ですか!お仲間ですね。」少し藍沙は興奮気味だ。人間は、自分の好きなことに関しては積極的になるものなのだろう。「……ふむ。」?麻璃亜……?「いや、なんでもない。」またそれ……。麻璃亜は何を思ったのだろうか……?相変わらず肝心なことはわからず仕舞いだ。だが、麻璃亜のことだ。何か重大なことについて勘付いたのかもしれない。……とまあ、自分でも考えてみるか。うーん、和食?仲間?それとも……。……ああー、わからない!どうして麻璃亜はいつも結論にありつけるんだ?頭の回転の速度が違いすぎる……。自分もフル回転させてるのに!「ふふ、お主もまだまだ童じゃな。」童て……はあ……。「どうされました?眉間にしわを寄せて。」なんでもないよ。ただ、麻璃亜が自分を試しているみたいで。「ああ、母様の教育方針ですね。私も考えることが苦手なのでいつも苦戦を強いられています。ですが、強くなるためには自分で考えることも大切です。」だよね。考えることを誰かにずっと任せていたら、成長できないもんね。「そういうことじゃ。可愛い子には旅をさせよ、と言うじゃろ?」今それ持ってくるか……。「そうだ、藍沙。剣の修行は最近どうじゃ?」剣の修行……?「はい、順調です。」そういえば……!初めて会った時刀みたいなの持ってたよね。その修行?「そうです。私は剣術を習っている……わけではないのですが、剣術の流派を編み出しました。」剣の流派?「説明致しますと……日本刀で戦う剣術にそれぞれの理念を組み込み、己の力を磨き戦います。それが剣術の流派です。」おお……そうなんだ。「私の流派は華花冥楼流派です。」かはな……めいろう……?「実は、白愛につけてもらいました。私ではなかなか決まらなくて。」白愛、というのは十つ子の九番目の子だ。まだ姉妹巡りの対象になっていない。素敵な名前だね。「はい!そうなんです。とても気に入っています!」そして麻璃亜が、「藍沙、こやつに剣術を見せてやってくれんか?」と言った。いいね、見たい見たい!「かしこまりました。練習の成果、見せられるよう精進致します。」そう言って、奥の方から木でできた刀を取り出した。それって……。「これは木刀です。真剣ではありません。少し持ってみますか?」うん。……重っ!うっかり落としそうになってしまった。木でできてるから軽いかと思ったけど……結構重量あるね。「そうですね。これはかなり重さがあります。ですが、違う木刀なら軽いですよ。」と言って、別の木刀を持たせてくれた。あ、こっちは……ちょっと重い。「……そう、ですか。普段運動はされますか?」うーん、覚えてないんだよね。多分やってなかったと思う。「なるほど……貴方の体格を見る限り、筋肉はあまりついていないようですね。それに脂肪も少ない。もしかすると、食生活に問題があるのかも……。」え、ええ……急にどうしたの?「母様、この方は普段しっかりと食べておりますか?」「そうじゃな〜バランスは悪くないが量が足りとらんかもしれんな。」「ふむ……今度から、私が貴方の食事管理をしましょう。」ええー!!なんで!?「え、なんで……とは……健康な食生活を送るには、バランス、量、運動が大切です。毎日彩のあるビタミン、力をつけるタンパク質、元気の源となる炭水化物などをバランスよく摂ります。しっかりと食べる量を管理し、更に運動をして消化……。この三つが健康、長生きの秘訣です!」藍沙の目が輝いている……。麻璃亜、助けて……って。麻璃亜は完全に他人のようにお茶を飲んでいる。「わしは知らんぞ〜お主、頑張れ。」とでも言いたげな顔だ。もー、本当に面倒くさがりなんだから……。とにかく、今はこの藍沙の押しに打ち勝つしかない!藍沙、気持ちは嬉しいけど……やっぱり自分は……。「嬉しい?よかったです!では早速今日のお昼から始めましょう!」うそ!話聞いてよー!「まずは食材を買いに行きますよ!料理は任せてください!」あーもう、ちょっとーー!!この興奮モードの藍沙を止めるのには苦労した……。
——「大変申し訳ございません!!」藍沙が勢いよく土下座した。ああ、いいっていいって……。「申し訳ないです……。私、いつも突っ走ってしまって……。」しゅん……と、落ち込んでしまったようだ。大丈夫だよ。「うう……。」「ふふ、わしは何もせず見ておっただけじゃが、今回もすごかったのう〜。」いつもこうなの?「そうじゃな……。藍沙は健康管理をするのが大好きじゃからな。姉妹の中でも、藍沙に健康管理をされておる子もいる。」大変そう……。「じゃが、そうでもないぞ。」どうして、そんなに健康に気を使うの?「……きっかけは妹の体調が良くなかったことでした。」そう言って、藍沙が話し出した。「私の妹の中に、いつも体調が悪かった子がいて……。その子は少食で、食べる量が少なくて、いつも心配だったんです。」うん……。「そしてある時、その子が倒れてしまって、お医者様に聞くと、栄養失調だと言われたんです。」「そんなこともあったのう……あの時は大変じゃった……。」「運動もしていないから、このままだと衰弱するって……。その時、決めたのです。もう誰も栄養失調にならないよう、皆様のことを気にかけようって。そして私は勉強しました。人間の体のこと、栄養素のこと……。その知識が、私の周りの方を救えるように……。」そんなことが……。「でも、おかしいですよね。その私の知識、気にかける心が皆様のご迷惑になってしまうなんて……。」あ……ごめん。「いえ、そんな……全部私のお節介だったようです。」藍沙が落ち込んでしまった。周りを気にかけることが、周りの迷惑になる……そんなことがあっていいのだろうか。……いや、違う!藍沙はきっと……!「やっぱり、今日はこれで……。」藍沙、ちょっと待って!「え!?は、はい……。」お節介なんかじゃないよ。「……え。」自分はさっき確かにちょっと押しが強いな……とは思った。だけど!その気にかける心が……そのお節介が、人を救うことだってあるんだよ!「人を……救う……?」そうだよ。お節介だから何!?藍沙はいっぱい勉強したんでしょ!人並み以上に努力したんでしょ!その心が邪魔なものなはずないんだ!「……。」その妹……えーと、誰かわからない……けど!その子だってきっと嬉しいと思ってる。いや、絶対嬉しいと思ってる!だから……ね!藍沙の手を取り、握りしめた。もっと自信を持って。君は、月守藍沙は、人を救えるいい剣士なんだよ。「……!!」……あ、ごめん!急いで手を離した。いきなり手を握ってごめんね、びっくりしたでしょ……って、ええ!?なんと、藍沙がぽろぽろと涙をこぼしていた。あああ、ごめん!ほんっとうにごめん!そんなつもりじゃ……。「ふふ、やーい、女の子泣かせた〜。」ちょっと麻璃亜、冷やかさないでよ!「うっ……ううう……。」ど、どうしよう……。ごめんね、落ち着いて……!「がと……ます……。」え?「あり……ござ……。」な、なんて?「うう……ありがとうございます……!!」な、なんで!?「あの、私、いつも、うう……。」ゆ、ゆっくり話して?「ひとに、め……わく、かけ、てば……かりで……。」うん。「あのこ……たすけら……れなくて、ず、と……ううう……。」うんうん。「す、ごく、うれ……ぢ……いです……!」そっか……ずっと辛かったんだね。もう大丈夫だよ。「ううう……えーーーん!」やはりずっとこの想いを抱えてきたのか。これで少しは救われたといいんだけど……。「……ありがとうな、お主。本当に。」え?麻璃亜……?「なんでもなーいぞ。」ええ……またそれ……。その後、藍沙が落ち着くまで待った。「ずびぃ……。だいぶ落ち着きました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」迷惑じゃないよ。大丈夫。「じゃが、藍沙がここまで泣くのは久しぶりじゃのう。赤子だった頃を思い出すぞ。」「母様……お見苦しいところをお見せしてしまってごめんなさい……。」「いいんじゃぞ。子供は泣くのが仕事じゃ。」「ふふ、そうですね。」藍沙は子供じゃない……と言おうとしたが十つ子は春から高校生だ。大人と子供の間くらいか。「……で、話がだいぶ逸れてしまったな。」「そうでした!確か……私の剣術をお見せする、という話でしたね。では、お見せ致しますね。」楽しみ……。「今からお見せ致しますのは華花冥楼流の舞です。少し離れていてください。……いきます!」そう言って藍沙は舞を踊り始めた。まずはなんと、木刀を上へ投げた。天井はさほど高くない。ぶつかる!……と思いきや藍沙の緻密な計算により天井すれすれで降りてきた。藍沙の木刀は重い。落下して下敷きになれば怪我を負うはずだ。だが、そんな心配をよそに木刀を華麗にキャッチし、回転させながら振り回した。その動きは素早く、確実、優雅なものだった。美しさを感じさせるほどに。す、すごい……。つい息を呑んでしまう。目を離せられない……。そして、三分ほど踊り、最後は木刀を鞘に納めてお辞儀をした。わああ!すごかった!「ふぅ……ありがとうございます。久しぶりに踊ったので少し疲れました。」そんなことを言っているが、藍沙は汗ひとつかいていない。この姉妹は肉体派が多いな……。かと思えば秀才もいるし。引きこもりもいるし……。あと三人、どんな個性を持った子なのか楽しみだ。「いや〜流石じゃ。また上手くなったのう。」ぱちぱち、と麻璃亜が手を叩いた。「ふふ、ありがとうございます。褒めて頂けるとやる気に繋がります。」藍沙が丁寧にお辞儀をした。……ところで、藍沙はこの剣術を誰から習ったの?「それは……実はこれは自分で編み出した流派なのです。」へぇ〜自分で……ええっ!?「いえ、それほど凄いわけでは御座いません。一度、別の流派の方に弟子入りしようとも考えたのですが……。自分には合わなくて。」それで華花冥楼流派を作ったの?「はい。動きも信念も自己流なので、やはり邪道だったのかもしれませんね。」驚いた。藍沙はこの華麗な剣術をたった一人で極めたのだ。邪道なんかじゃない。だが、藍沙は謙虚な性格のせいで自分がすごいことを成し遂げていることに気づいていないようだ。すると、麻璃亜が助け船を出した。「わしも毎回思うが、並大抵の覚悟では流派を編み出し、極めることは出来ないと思うぞ。それに、藍沙には心に留めている信条があるんじゃろ?」信条?「ええ、私の流派は真剣は使わず、木刀のみで戦います。」木刀だけで……どうして?「これが私の信条なのですが、人を疎かに傷つけず、誰かを守るための抜刀をする……というものです。」誰かを、守るため……。「そうです。私は、大切な人を守るために剣を握りました。それは今までも……これからも、変わりません。」……藍沙……。うん、応援してるよ。「わしもじゃ。じゃが、根を詰めすぎないようにな。」「はい!ありがとうございます!……あ、お茶、冷めてしまいましたね。また暖かいのを淹れ直しますね。」三人でお喋りをしながらお茶を嗜んだ……。
——「本日はありがとうございました。母様も、貴方も。またいらしてください。」こちらこそ、ありがとうね。「またな、藍沙。体に気をつけるんじゃぞ。」「はい!それでは。」ガチャン……。……うう、団子、食べ過ぎたかも……。「わしもじゃあ……こりゃ、昼ご飯は要らんな。」ほんとそう……。えっと、次は誰?「藍沙が七女じゃから、次は八女じゃ。」一人一人会いに行くのも大変だね。それに、孤児院の子供もたくさんいるわけだし。琥珀が手伝ってくれてるんだっけ?「そうじゃ。じゃが、琥珀も琥珀で仕事があるからのう。子供を支援する仕事じゃから似てはいるが……かなり大変そうじゃ。姉妹巡りが終わったら、わしも色々やらねばならん。」そっか……十つ子に全員会ったら、自分はどうすればいいんだろう?「とにかく、お主がどこから来たのかを突き止めなければならんな。お主が望むなら、帰り方も探さねば。」帰る……か。正直、帰りたいとはあまり思わない。そもそも、元の世界の記憶が無いせいで、家族や友人など、大切なものが思い出せないからだ。なら、こちらの世界で大切なものを作って幸せを感じられたらいい。それだけだ。……だけど、完全には吹っ切れたわけでは無い。元の世界の家族は今、どうしているのだろか。そう考えると、少し寂しくなる。「……わしはお主の気持ちは正直わからん。じゃがな、わかりたいと思っているぞ。何か困ったことや心配なことはなんでも、わしに相談するんじゃぞ。わしは少なくとも、お主の先輩じゃからな。」うん。ありがとう。そう言ってくれると嬉しい。「じゃあ、早速次の子の部屋へ行くぞ。あの子は絶対に部屋に居るから安心せい。」なんでわかるの?「ふふ、後のお楽しみじゃ。ほれ、行くぞ。」また隠し事……。じらさないでよ、気になるじゃん!「早くしないと置いていくぞ〜。」自分は麻璃亜の手のひらの上で踊らされながら麻璃亜を追った。




