第8話 八女・蓬
——はあ、はあ……や、やっと追いついた……。「遅いぞ〜たるんでおる。わしが稽古をつけてやろうか?」何回も言わせないで、運動は苦手なんだよ……。なぜ自分はこんなにも息切れしているかというと、この目の前にいる人物……麻璃亜を追っていたからである。この人は別世界から来た自分を家族にしてくれた恩人だ。故に感謝している。が、お茶目というか少し意地悪で時々無理難題をふっかけてくる。今がそうだ。自分はあまり運動をしてこなかった人間なので少し走っただけでも息切れしてしまった。自分が全速力で追いかけても、麻璃亜との距離は全く縮まらなかった。フィジカルが強すぎる……見かけによらない。そう、この麻璃亜という人間……魔女は見かけによらず、強い。何回か魔法を使っているところを見たが、涼しい顔で破壊光線を放つ機械を消し去ったこともあった。そして今は、その麻璃亜の義理の娘の姉妹巡りをしている。自分がこの世界に馴染めるように、と。その娘達は十人。しかも同じ日に生まれた。なので数日間かけて会いに行っている。今日はさっき七女の藍沙に会ってきた。そして次は八女。今のところ個性的だったが、次はどんな子だろうか。わくわくしていないと言ったら嘘になる。呼吸も整ったところだし、行こうか。「そうじゃな。じゃあ、開けるぞ〜。」コンコン!「おーい麻璃亜じゃ〜。入ってもよいか〜?」「……。」返事はない。あれ、デジャヴ……。まさか、さっきみたいにいるけど何かやってる……?「お、お主、察しがいいのう。きっとそうじゃ。じゃから、ノックしても無駄じゃ。入るぞ〜?」ガチャ……。部屋を開けた次の瞬間、ラベンダーのいい香りがした。デジャヴ!さっきは畳の香りだったけど。部屋の中は暗かったが、ベッドサイドでランプ光っている。がそして、不思議な部屋だった。床一面にふわふわの白いカーペットが敷いてあって、そこら中にクッションが置いてある。ハンモックもあって部屋の色は白で統一されている。だが、一番は部屋の中央にクイーンサイズより大きそうなベッドが置いてあった。まるで、くつろいだり寝たりするための部屋だ。そして部屋の主は、まさにそのベッドの上に横たわっていた。深緑……いや、蓬色か?どちらかはあまり重要じゃないが……。とにかく、そんな色の髪をしている。それにしても、不思議なのは部屋だけじゃない。髪型もだ。おさげではないが、下めに結んであって、おだんごのように連なっている。なんて説明したらいいかわからないが、そんな髪型だ。「まーた寝ておるな。もお……。」呆れているように見えるが、実際そうでもない。麻璃亜は大の子供好きで世話焼きだ。麻璃亜の性格上、こんなことも楽しんでいるのだろう。本当に、底知れない……。そんな自分の視線にも気づかず、麻璃亜は寝ている子に近づいた。藍沙の時と同じく、女の子は全く起きる気配がない。確か前に会った時、ずっと寝ていたような……。そう簡単には起きなさそうだ。麻璃亜も同じことを思ったのか、すぐには起こそうとしなかった。「お主に伝えなければならないことがある。」急に真顔でそう言った。え?なに……どうしたの?「よいか、落ち着いて聞け。」何やら重大なことのようだ。麻璃亜がこんなに真面目になることはあまりない。……いつもふざけている、というわけではないが。とにかく、続きを聞くのが怖い……。「この子は……。」……ごくり。「ほんっっとに熟睡している時は何をしても起きないんじゃあ〜〜〜。」……え?「まずいぞ……この時間はいつもかなり深い眠りに入っている……。あれをやれば……うーむ、じゃが……。」え、ええー……。な、なんだ、びっくりした。真面目な話じゃなかったのか。やはり麻璃亜はいつもふざけているのかも知れない。はあ……呆れた。「む、何をぼーっとしておる。お主もこの子を起こす手立てを考えてくれんか。」いや、起きないでしょ。「う、それはそうじゃが……どうしたものか……。」もうこの子は後にして、先に九女のところに向かえばいいんじゃない?「うむ、そうじゃな。そうするか。」……本当に寝てる?ちょっと見てみてもいい?「ああ。いいぞ。」寝てる人をジロジロ見るのもあれだけど……。ひょこっと覗いてみた。幸せそうに寝ているな……。やっぱりこうやって見ると、十つ子ってみんな似てない……ん?今、女の子の瞼がピクッと動いたような気がした。気のせい……か?だが、また動いた。ピクッピクッ……。そして「ん〜……。」と女の子が伸びをした。あれっ、起きた!?「んえ?起きたのか?こりゃたまげた。」「ふぁ〜〜〜……んん〜……。」そして女の子が瞳をぱちっと開けた。少し曇りのある灰色の瞳だ。「ん〜眠いわぁ……でもまだ寝れるわね……二度寝……。」あー、ストップストップ!待って寝ないで!「この機をのがすな〜お主〜。」麻璃亜も手伝ってよ……!今寝られたら大変だよ!「あら?おかーさん……と……誰かしら?」あ、起きてくれる?「う〜ん、そうねぇ……やっぱりもう少し寝るわぁ〜。」ええー!?ちょ、ちょっと待って!今日は君に会いにきたんだよ!「わたしに?あらぁ、そうなの〜。嬉しいわぁ〜、うふふ。」あ、うん。それでね……。「すやぁ〜……。」ああー!待って待って待って!まだ寝ないで……!幸い、寝始めたばかりだったのですぐに起こすことができた。「ふあ……どうして起こすのかしら……?」いやいや、もう起きる時間じゃない?「そうねぇ……わたしは、まだ寝ていたい時間だけれど……。」起きようよ……もうお昼になるよ。「ん〜……今日はお休みだから〜一日中寝ている予定だったけれど〜。」一日中!?「やはりな。春休みに入ってから姿を見ないと思っていたら……寝ておったのか。学校が始まったら大変じゃぞ?」「だ〜いじょ〜ぶよ♡学校はせんせーが来るまでにいればいいんでしょ〜?せんせーの動きを藍沙おねーさんに遅らせてもらえば……。」ダメでしょ!能力使ったらいずれバレるって!「そうかしら〜?うふふ♡」もう……。そんなやりとりをしていると、麻璃亜が嬉しそうに見守っていた。どうしたの?麻璃亜。「ふふ、この子が誰かと仲良くしておるところを見られるのはなかなかないからのう。」そうなの?ちょっとマイペースなだけだと思うけど。「そうじゃな。マイペースなだけじゃから仲良くしてやってくれ。」わかった。麻璃亜は本当に子供思いだな……。実の親じゃなくても優しいお母さんだ。「お主、今わしを褒めたじゃろ?」え、なんでわかったの?まさか、桃花みたいに心が読める!?「いや、心は読めんぞ。じゃが、お主の顔に書いてあったからのう。」流石の観察眼だ。えっと、じゃあ話を進めようか。まずはそこの君……名前を教えてくれる?「わたしの名前?いいわよ〜。わたしは蓬っていうの〜。よろしくね♡」う、うん……よろしく。なんか語尾にハートがつきそうな喋り方だ……。というか、ついているのかも……?「今日は、わたしに会いにきたのね〜。ゆっくり寝ずにこんな早くから……うふふ、すごいわねぇ〜。」すごくないよ、蓬が寝過ぎているだけじゃない?「あら、そう?わたし、寝るのがだ〜いすきなの〜。あなたも、今からわたしと……寝る……?」いや、いいよ。遠慮しとく……。な、なぜか誘惑されているようだ。この前もそうだったような……。断らないと、まずいことになりそうだ。「わしも寝る気はないぞ。で、じゃ。」麻璃亜が本題に入るようだ。本題というのは、十つ子の能力に関してである。十つ子はそのことを隠しているようだが、果たして蓬は教えてくれるのだろうか……。「蓬の能力をこやつに教えてやっとくれ。」この麻璃亜のド直球で聞くのも少し悪い気もするが。「わたしの能力……?」ほら、きっと警戒……。「あら、そんなことでいいの〜?いいわよ、教えてあげる♡」……ええ!?全く警戒心がない。藍沙よりもだ。「ありゃ。やはりか……。」麻璃亜が頭を抱えた。やはりって?「蓬は何を考えとるかわからん時がある。いつもふわふわしておるから思考回路がどうなっとるのか……。」麻璃亜でもわからないの?「そうじゃ。他人に言いふらしていないといいが……。」「うふふ♡そんなことはしないわよ〜。だ〜いじょうぶ、ちゃんと秘密にしてるから〜。」本当だ。考えが読めない……。怖いまであるぞ、これ。「じゃあ、わたしの能力を教えてあげるわね〜。わたしの能力は、人を眠らせる能力なの〜。」眠らせる……だから蓬も眠たいの?「それはどうかわからないけれど……わたしは自分で寝たいから寝ているだけよ♡」そうなんだ、代償かと思った。「代償……そうねぇ……そんなものがあるのかはわたしが知ることじゃないわぁ〜。」ああ、そう?そうだよね、代償なんてあるわけ……。麻璃亜をチラッと見た。この人なら何かに気付くと本能がそう言ったからだ。だが、麻璃亜はいつもと変わらず落ち着いた表情をしていた。「大丈夫じゃ。そんなものはないぞ。」どうやら、代償などは無いようだ。よかった。えっと、話は戻るけど人を眠らせる能力ってどんな能力?「ん〜?字の通りよ。どんな人でも眠りに誘うことができる能力なの♡例えば……。」次の瞬間、猛烈な眠気に襲われた。だがその眠気は心地よく、眠りに身を委ねたくなった。ふらふらして立っていられず、後ろに倒れてしまったが麻璃亜が支えてくれた。蓬と麻璃亜が何か話をしていたような気もしたが、自分は耐えきれずに眠ってしまった。
——ん……あれ、ここはどこ?気が付けば自分は蓬の部屋ではなく外に横たわっていた。時間は……夕方だろうか。何か焦げ付くような匂いがした。そして、辺り一面は更地で植物が燃えた後のような痕跡があった。そう、焼け野原だったのだ。それだけならまだ良かったのかも知れない。だが地面には鎧を着た人間が……死体が散乱していた。血を大量に流している者も、体の一部が欠損している者もいた。そのあまりの残酷さに、自分は吐き気をもよおした。……戦争だ。ここで戦があったのだ。あちこちに旗や剣が刺さっており、激しい戦いだったと思われる。だ、誰かいないの……?誰か……!「すん、すん……ひっく……。」はっ……!誰かの声がした。誰かいる!?いるなら返事して!「ひっく……すん、ひっく……。」もしかして……泣いている?誰かが泣いているようだ。生きている……助けなければ……!大丈夫!?誰か……あ……!少し遠くにうずくまっている人影を見つけた。生存者だ!自分は急いで駆け寄った。前にも言ったように、自分は運動は苦手だ。できれば走らず生きていきたい、と思うほどだ。だが、今は体のつらさは感じない。なぜだかはわからないが、とにかく今はあの人を助けるのが優先だ。……見えてきた!後ろ姿を見る限り灰色のローブを着ているようだ。そして小柄な体格だ。「ひっく……ひっく……。」やはり泣いているようだ。そして、やっとこの人のところまで辿り着けた。はあ……。あの、大丈夫?どうして泣いてるの……?「……。」その人は喋らない。泣き声も止まった。……え、あ、あの……。泣いていた人は立ち上がった。やはり小柄な女性のようだ。そして自分が何かを言う前にフードを外し、振り返った。髪は黒く、寝癖が酷い。燃えるような真っ赤な瞳。深緑の古風な衣装。そして頬を伝う大粒の涙……。き、君は……。自分が何かを言う前にその女性は姿を消した。ま、待って……ま……。
——麻璃亜!!ガバッと勢いよく起き上がった。はあ、はあ、と全力疾走の後のように過呼吸になってしまった。眠ったので倒れてしまったが、部屋のクッションを枕にして寝かせてくれていたようだ。「おお、起きたか。随分とうなされておったな。」はあ……はあ……じ、自分は何をしていたんだっけ……。「蓬の能力で寝ておったぞ。大丈夫じゃ。三十分程しか寝ておらん。蓬もちゃーんと起きて……。」うと……うと……。「ああ、寝ようとしておる……起きるんじゃ〜。」麻璃亜が蓬を急いで起こした。「ふわ〜あ……。あら、あなた、起きたのね〜。ごめんなさいね〜急に眠らせてしまって。」いや、いいよ。大丈夫。それより……。「む、お主、起きてから元気がないのう。どうした、悪夢でも見たか?」悪夢……もしかしたらそうかも。「ん〜そうねぇ……。わたしの能力で眠ったら、すごく気持ちよかったでしょう?」あ、うん。「だけれど……わたしの能力は夢がどうにも悪いらしいの〜。みんな、悪夢を見てしまうみたい。」そうなんだ……。すごく悪い悪夢だったかも。「ふむ。ちと気になるな……どんな夢じゃった?」……自分は考えた。この夢は何か意味がある気がする。迂闊に麻璃亜に話していいのか……?麻璃亜のことは信頼しているが、このことを話すことで、麻璃亜の負担になってしまうのではないか。麻璃亜はひょうきんで、お茶目で、明るい。だが、何かを抱えているのは自分でもわかる。一人で考え込み、他人である自分には教えてくれない。何か自分の正体について進展するよりも、麻璃亜に負担をかけない方がいいだろう。大した夢じゃなかったよ。お気に入りの靴下を片方なくす夢を見たんだ。「あらあら〜それは悪夢ねぇ〜。お気に入りをなくすのはとても悲しいもの〜。」「ふむ……そうか。」麻璃亜は疑っているようだが、それ以上は何も言わなかった。「それで、どう?夢は悪いけれど、また気持ちよ〜く眠りたい?」うう、いいよ、もう懲り懲り……。もうこんな悪夢、見たくない。でも、どうしてあの人は泣いていたんだろう……。なんだか麻璃亜にすごく似ていたような……。でも麻璃亜が泣く……?一番涙には縁がなさそうだけど。あとは……何で戦争の跡地にいたんだろ。自分に何か関係があったのかな。戦争に行った記憶はないけれど……。この夢のせいでわからないことが山積みになった。「やはり、夢のことで何かあるじゃろ?何があったか言ってみい。わしなら解決できるかもしれんぞ。」……言わないよ。いつも麻璃亜だって隠し事してるじゃん。「んあ〜……そうじゃったな……すまん。」謝らなくていいけど……。話した方がすっきりするかもしれないが、変な意地を張ってしまった。ていうか、隠し事する自覚あったんだ。「と、とにかく、じゃ。」ぱちん、と手を叩いた。「蓬の能力はこれでわかったな。じゃあ、帰るか。」え、早くない?もう帰るの?「うーむ……蓬は寝たいみたいじゃからな。わしらも次の姉妹に会いに行かねばならんしな。」「あら〜?まだ居てくれてもいいわよ♡わたしも丁度、お茶でも飲みながらまったりしようとしていたの〜。」「おお。そうか。ならもう少し居させてもらおうか。」そうだね。「うふふ♡じゃあハーブティーを淹れるわね。」最近食べて飲んでばかりだね。「痩せておるお主が言っても説得力がないぞ。」麻璃亜だって痩せてるじゃん……。「うふふ、おかーさんとあなたはとーっても仲良しさんなのね。」そ、そうかな……?「ふふ、よく言われるな。こやつと出会ってまだ数日じゃがな。」「あらぁ〜そうなの?てっきりわたし、おかーさんの昔からのお友達かと思ったわぁ〜。」自分と麻璃亜が昔からの友達?そんなわけないと思うけど……。「そうじゃな。わしも長い間生きてきたが、お主のような人間と友達になったことはないな。子供はたくさんいても、友達はあまり作ったことはないぞ。」麻璃亜が言うならそうだね。「そうなのね〜。そんなおかーさんが普通の人間と仲良くしているところを見ると、とても嬉しい気持ちになるわぁ〜。」さっき同じことを麻璃亜が言っていたような……。「さ、ハーブティーが入ったわよ〜。」あ、いい香り……。「はい、どうぞ♡」蓬が手際よく注いでくれた。……いただきます……うん、すっきりしていて飲みやすい。なんだかハーブティーって、懐かしい匂いだよね。「わかるぞ。わしも昔から愛飲しておった。香りや味が落ち着くな。」「うふふ、そうなのね。わたしもハーブティーがだーいすきなの♡寝る前に飲んでリラックスすると、よ〜く眠れるわよ。」そうなんだ。今度どこかで買ってみようかな。「もしかして、気に入ってくれたの?じゃあ、わたしのを分けてあげるわ〜。」いいの?「ええ。お気に入りの茶葉屋さんがあって、よく買い足しているの〜。たくさんあるから少しあげても問題ないわぁ。」じゃあお言葉に甘えて……ありがとう。気になる茶葉を選んで貰うことにした。「今日の夜、さっそく試してみるか。楽しみじゃの〜。」だね。……そういえば、部屋に入った時、ラベンダーの匂いがしたんだよね。あれは?「あれね〜あれはアロマディフューザーよ〜。ラベンダーの匂いを焚いていたの〜。」「ベッドの脇にあるあれか?……ふむ、わしの誕生日にくれたものと同じじゃな。」「当たりよ〜。お揃いにしたくて♡」「そうか。それは嬉しいのう〜。」麻璃亜、よく使ってるよ。「あら♡そうなのね〜。わたしも嬉しいわぁ〜。」……あと、聞きたいことがあるんだけど……この部屋って蓬がゆっくりするためだけの部屋?「そうよ〜。わたし、いつもすぐ寝ちゃうの。中学校の頃の授業も、少し横になっただけでも〜。だから、この部屋はいつでもすぐに寝れるようにって思って家具を置いたの。わたし達の妹や弟達もよくお昼寝しに来るわよ〜♡」そっか、自分のためだけじゃなかったんだね。「ん〜、ほとんど自分のためよ♡」ああー、そう……。でも、寝ちゃう割には本も置いてあるんだね。「そうよ〜。ハーブティーを飲みながら静かに本を読む時間が大好きなの♡誰にも邪魔されたくないわぁ。」もし邪魔したら……?「わたしの能力で……お仕置きよ♡」ひぇ……。この姉妹、怖い!「うふふ♡な〜んて、冗談よ〜。」冗談でも怖いよ!!「あなたは普段、どんな本を読むの〜?」本か……自分は最近は読んでないかも。「分厚い本は読める?」うん。読めるよ。「なら……この小説はどうかしら〜?」本棚から蓬が厚めの本を取ってきた。どれどれ……「違いを超えて」……?「そうよ〜わたしのお気に入り♡ヴァンパイアの男の子と人間の女の子のお話よ〜。種族を超えた愛がとーっても素敵なの♡貸してあげるから、読んでみて〜。」へぇ……ありがとう。読んでみるよ。「うふふ、また感想を聞かせてね。」そういえば、麻璃亜も誕生日に葵からすごく分厚い本をもらってたよね。しかも英語のやつ。「あれか?時々暇を見つけて読んでおるぞ。あれ、内容がすーごく面白かったんじゃ〜。一気に半分までいってしまったわい。」あのサイズを半分!?どんだけ暇……じゃなかった、読むのが速いの?「そうそう、蓬。またわしの書斎に新しい本を買い足したから、気になったら借りてもよいぞ。」「あら、いいの〜?じゃあ、お言葉に甘えて行かせてもらうわね〜。」え、今から?「ええ。そのつもりよ〜。」「お、いいタイミングじゃな。わしらもついて行くか。……よいか、蓬?」「一緒に来てくれるの?わかったわ〜。行きましょ♡」一旦、麻璃亜の家へ帰ることになった……。
——麻璃亜の家へ向かう途中、気になることを聞いてみた。蓬が着てる服……もしかしてネグリジェ?「そうよ〜。いつでもどこでも眠れるようにね〜。」パジャマを普段着にしてる人、初めて見た。「わたしの友達にもいるわよ〜。その子とわたし、よく似てるって言われるわぁ〜。」……きっとマイペースな人なんだね。「ん〜、もしかしたらそうかも〜?でも、とってもいい子よ♡」「ああ、あの子か。確か、高校も同じじゃったな。同じクラスになれるといいな。」「ええ。高校生活、今から楽しみよ♡」遅刻しないようにね……。でも、いいな……高校生、か……。自分は何歳だったのだろうか。年齢も思い出せない。だが、ある程度推測はできる。身長は百六十センチ代のように感じる。銀髪に赤い瞳。筋肉と脂肪があまり無く、骨で体がボコボコしている。……いわゆる痩せ型だ。顔はというと、幸運なことに、シミ一つない。そして、自分の髪に負けない程色白だ。パッと見た感じは十代から二十代のように感じられる。……つまり……。「そうじゃ、お主も高校に通ってみないか?」高校せ……え?「あら、いいわね〜一緒に学校に行きましょ〜。」ええ?「姉妹が通う学校は受験の必要無し。わしの魔法で入れてやることは容易いぞ。」ちょ、え?「制服もかわいいらしいわね〜とっても楽しみ♡」いやいやいや、ちょっと待って!自分が通えるわけ……。「だーいじょうぶじゃよ。お主は見た感じ若い。誰も気づかないはずじゃ。」嬉しいけど……でも……。「何も悩む必要なんてないわぁ〜。あなたも……本当は、行きたい〜って思っているでしょう?」う……それは……。「人生は一度きりなのよ〜?やりたいことをやらなくてどうするの〜?」……。「そうじゃそうじゃ。絶対に大丈夫じゃ。わしを信じとくれ。」……わかった。行くよ。「ほんと〜?嬉しいわぁ〜♡テストでカンニングしたくなったら、いつでもわたしを読んでね。せんせーを眠らせてあげるから〜。」それはダメだよ!「うふふ、冗談よ〜。」でも……嬉しいな。本当は通いたいって思ってたし。蓬、みんなによろしくって言っておいて。「はぁ〜い。うふふ。学校がもーっと楽しみになったわぁ。」「んじゃ、帰ったら手続き諸々やるか。」それからしばらくして森へ到着し、目隠しの魔法を解いて麻璃亜の家へと帰った。「ただいま〜っと。お主ら、手洗いうがいは忘れんようにな。」「はーい♡」わかった。手洗いうがいを済ませ、リビングに戻った。麻璃亜の家はかなり広い。どうやって作ったのかは謎だが、誕生日パーティーのように、一度に何人もの人が入るから広いのだろう。木で作られていて、温もりがある。「わしの書斎はこっちじゃぞ〜。」麻璃亜が案内してくれた。お邪魔します……わぁ!書斎はとても広かった。壁一面に本棚があるだけではなく、図書館のように通路ができている。す、すごい……!本がたくさん……。「ふふ、語彙力がなくなっとるぞ。」「いつ見てもいいわねぇ〜。わたしの部屋も置いてある方だと思っていたけれど……おかーさんのこの量はお手上げね〜。」「じゃあ、わしはお主の高校入学手続きをやっとるから、二人は本でも読んでいてくれ。」うん。ありがと。麻璃亜が部屋から離れた。……たくさんありすぎてどれから読もうか迷うね。「そうねぇ。こっちの棚は外国文学ね。こっちは日本の……ん〜悩むわぁ〜。」二人で悩んだ結果、それぞれ思い思いの小説を読み漁った。こっち、登場人物が魅力的で面白かったよ。「わたしの方はストーリーが具体的でわかりやすかったわ〜。」感想を言い合いながら、時間を忘れて読書を楽しんだ。カァ……カァ……カァ……。はっ、今何時!?……えーと……五時半!?もうそんなに……!途中から何も話さずに読みふけっちゃった。蓬はどこまで進んだ?……って……。「すぴぃ……ひゅー……すぴぃ……。」寝てる!?ここに来た意味ないじゃん……。だが、蓬の傍らには本が積まれていた。あ、割と読んだんだ。あれっ、麻璃亜は……?確か、自分の高校入学の手続きをするって言ってたっけ。リビングに戻ってみよう。ガチャ……。暗い……なんでだろ。居ないのかな?麻璃亜ー、ん?部屋の奥に人影があった。怪しいが、おそらく麻璃亜だろう。何してるんだろ……また何か隠し事……?まだこちらの存在には気づいていないようだ。よし、普段の仕返しに驚かしてやろう!麻璃亜の驚く顔はあまり見たことないし。自分は忍び足で麻璃亜に近づいた。そろーりそろーり……。ていうか、こんなに気づかないものなのかな?麻璃亜らしくない。ついに一メートル後ろまで近づいた。もう、なんで気づかないの?警戒心無さすぎ……。ん?何か見ている?麻璃亜は手のひらに収まるくらいの何かを見つめていた。一体何を見て……え。急に目の前から麻璃亜が消えた。え!?ど、どこ行ったの!?そして後ろから、「お〜ぬ〜し〜?何をしておる〜?」という少々お怒りの声が聞こえた。ぎくっ!い、いえ、何も……。振り返ると腕組みをしてほっぺたを膨らませた麻璃亜が睨んでいた。い、いつから気づいてたの?「お主が部屋に入った時からじゃ。」そんな前から!?じゃあ気づかないフリを?「そうじゃ。わしを驚かせるには千年早いわ。」うう……参りました……。やはり麻璃亜には敵わない。……ん?麻璃亜が何かを手にしていた。銀色の楕円にチェーンがついたペンダントのようなものだ。何それ?思い切って聞いてみた。「……ああ、これか。ただのペンダントじゃぞ。」そう……。何がついてるの?「いや、特に意味はないぞ〜。プライベートじゃ。」麻璃亜があっかんべーをした。ええ……またそうやって……!まあ、いいか。最近、麻璃亜に翻弄されてばかりだ。でも、それも楽しい。「蓬はどうした?」……寝てる。「ありゃ……。」二人で絶望した。
——蓬!起きてー!!「起きるんじゃ〜蓬〜。」二人で全力で蓬を起こした。「んん〜……ふぁ……。」幸いにも、すぐに起きてくれた。「あら、おはよう♡どうしたの〜?」はあ……おはよう。夕方だけど。って、どうしたの?じゃないよ!ここで寝たら来た意味ないでしょ!「ん〜それもそうねぇ。でも静かだったからよ〜く眠れたわ♡」「まったく……やれやれじゃな。」今回ばかりは麻璃亜に同意だ。「そうそう、面白い本が色々あったから、何冊か借りていくわね〜。」「了解じゃ。また借りにくるといい。」「じゃあ、暗くなる前にわたしは帰るわぁ〜。またね♡」うん、また。蓬が眠たそうにふらふらしながら帰っていった。「んん〜なんだか疲れたのう。手続きが色々めんどくてな。」自分のためにありがとう。じゃあ春から自分も高校……ん?……麻璃亜、自分って……。「ん?勉強か?まあ、頑張ればなんとかなるぞ。」いや、違くて……。「場所か?近いから大丈夫じゃ。」じゃなくて!自分って、みんなから認識されないんじゃなかったっけ?「……あ。」




