第9話 九女・白愛
——まさか、ね……。重い沈黙の後、自分が切り出した。「じゃな。わしもすっかり忘れておったわ。」麻璃亜も同意した。今、自分と麻璃亜はリビングの大きなテーブルで向かい合って座っていた。なぜこんなにも空気が重いかというと……話せば長くなる。自分は麻璃亜、十つ子、琥珀以外の人間からは認識されない。麻璃亜曰く、自分はこことは違う別の世界から来たらしい。だからなのかは定かではないが。そのことを忘れて麻璃亜は自分の高校入学の手続きを進めてしまった……というわけだ。どうしよう、麻璃亜には申し訳ないけど、高校入学はなかったことに……。「実を言うとな、もう申請をしてしまったのじゃ。今更変えられん。」そ、そうなの?まずいね……。「お主らが本を読んでいる間にスマホでささっと。」え、麻璃亜スマホ使えるの!?「わしをなんだと思っとるんじゃ?ちゃーんと電子機器を使うぞ。人間のれっきとした文明じゃからな。使わない手は無いぞ。」いや、アナログ人間かと思ったから……。「むむ、聞き捨てならんな。わしは現代っ子じゃぞ。」今更感すごいな……。「ふむ……それにしても……。」なに?「いや、ちとわしも調べてみるか。お主が他の人間に認識される方法をな。」……本当?「本当じゃぞ?わしはよく魔法の研究をしておるからな。その一環で探してみるぞ。」ありがとう。「そろそろ晩ご飯の時間じゃな〜。今日も腕がなるわい。」麻璃亜のご飯、美味しいよね。料理人とかやったことあるの?「ん〜興味はあったが本格的にはやったことはないぞ。長い間、子供達の為に作ってきたからかもしれんな。」少し含みのある言い方だったがスルーすることにした。で、メニューはなに?「ふふふ、今日はお野菜たっぷりのキッシュじゃ。肉は入っとらん。」麻璃亜は謎に肉嫌いだ。「お主、野菜は嫌いか?」ううん、食べれるよ。「そうか。子供の好き嫌いは激しくてな。わしが作るキッシュは野菜を細かく刻んで小さい子でも食べれるようにするんじゃ。」そうなんだ。相変わらず、子供思いな人だ。野菜の大きさは好きにしていいよ。「了解じゃ。細かくするぞ。」……なんで?自分は麻璃亜より身長が高いのに、いつも子供扱いしてくる。まあ、歳が違うのか。自分は果たして何歳なのだろうか。
——ごちそうさまでした。「ごちそうさま〜じゃ。お主、先に寝てていいぞ。」え、片付けは?「わしがやっておくからな。あと、今日は夜更かししようと思う。」……ああ、自分が周りから認識されるための?「そうじゃ。かなり難しい魔法を突き詰めなければならんかもしれんからな。」魔法って難しいの?「難しいぞ。魔法は生まれつきじゃからな。後は実験で授かるくらいしか方法がない。」実験……?「……あう。」なに、実験って……。「……スゥー……。」麻璃亜?「……。」麻璃亜が無言のまま逃げようとした。ちょ、ちょっと待って!「すまんな……さらばじゃ。」光と共に麻璃亜が姿を消した。ああー!逃げた!……はあ……あの人は……。逃げてしまったものは仕方ない。一応片付けをしておいて歯磨きをして、眠りにつくことにした。だが、麻璃亜が言い残した一言が気になってあまり眠れなかった。
——はあ……。寝起き早々ため息をついてしまった。気持ちのいい寝起きではなく、モヤモヤした目覚めだった……。ん?何をモヤモヤしていたんだっけ……?まあ、いいか。おはよう麻璃亜。「……。」あれ、麻璃亜?「すぴ〜……。」ね、寝てる……。いつも麻璃亜の方が早く起きていたのに、まだ寝ている。もう十一時になるのに。そういえば、夜更かしするって言ってたっけ。そのせいか。確か、自分が周りから視認されるための研究だっけ。後で感謝しないと。よし、麻璃亜が起きる前に自分で朝ご飯を作ろう!朝ご飯くらいなら自分でも作れそうだ。ふーんふふーん♪鼻歌まじりにキッチンへと向かった。……やばい……。キッチンには焦げ臭い匂いが充満していた。その匂いの発生源は手元のフライパンからだ。ベーコンエッグを作ろうとしたが、目を離した隙に黒焦げになってしまった。……まずいぞ、バレたら絶対に怒られる……。麻璃亜が来る前に片付けなきゃ!片付けようとしどろもどろしていたら、リビングのドアが開いた。「ふわぁ〜……眠いのう。お主、もう起きて……ん?」ぎくっ!「なんじゃ?この焦げ臭い匂いは……。」え、ええっと……。「おお、お主だったか。何しとるんじゃ?」さっ……。麻璃亜に見られる前に体で隠した。「お、料理をしておるのか。どれどれ、見してみい。」む、無理無理!ちょっとあっち行ってて!「なんじゃ、見せられないものなのか?どれどれ……。」ばさっ……。「何で隠すんじゃ〜?もう、こうなったら奥の手じゃ。……それ。」こちょこちょこちょ……!麻璃亜が自分をくすぐった。あ、あはははは!ちょっと、やめてよ!「ふふ、やめんぞ〜ほれ。」こちょこちょ……。あはは、ふふ……。フライパンを隠せなくなってしまった。そして、「よし、今のうちじゃ〜。」チラッ……。!……見られてしまった……。「これは……なんじゃ?食べ物か?それにしては真っ黒すぎるが……。」えっと……ごめん。実は朝食を作ろうとしたんだけど……失敗しちゃって。「失敗……。原型を留めておらんな。何をどうしたらこうなるのか……。」うう、ごめん……。「まあ、大丈夫じゃ。人間は誰しも得意不得意がある。気にすることはない。」意外だ。怒られるかと思った。「わしはこんなことでは怒らんぞ?心の広い魔女じゃからな。」自分で言うんだ……。「で、何を作ろうとしたんじゃ?」……ベーコンエッグ。「……料理の序の口で失敗するとは……。まあよい、ちと見ておれ。」そう言って麻璃亜はフライパンに向き直った。そして何かの仕草をすると光……麻璃亜の魔法がかかった。すると、黒焦げのベーコンエッグはたちまち油がジュージューと音を立ててはねる美味しそうなベーコンエッグに早変わりした。わあ!すごい!どうやったの?「ふふ、わしにかかればおちゃのこさいさいじゃ。捨ててしまうのは勿体ないからな。少し手を加えて生まれ変わらせただけじゃ。」そんなこともできるんだね。流石だ。「じゃが、今度はわしに任せるといいぞ。向上心があるのはいいことじゃが、わしにだって出来ないことはある。そういう時は周りに協力してもらうのも一つの手じゃ。」うん、わかった。麻璃亜は大人びている。時には見習わないと。……ん?麻璃亜に出来ないことってなに?「ん〜そうじゃな……魔法で色々片付けてしまうからあまり考えたことはないのう。」じゃあ何でああ言ったの……。「強いて言えば……鉄が苦手じゃ。」鉄?どうして?「触っていると、なんだか不吉な感じがするんじゃ……。あれは絶対この世にあってはならないものじゃ。」そこまで言う!?ていうか、出来ないことじゃなくない?……まあ、いいか。大人びているが不思議な人だ。「あとの料理はわしに任せろ。手早く済ませておくからな。」……ありがとう。麻璃亜に任せて自分は待つことにした。
——ごちそうさま。「はーいごちそうさん。さて、片付けをして出かけるか。」了解。今日は……九人目?「そうじゃ。どこに居るかは検討がつく。さ、洗い物するぞ〜。」洗い物を済ませ、検討がつくと言う麻璃亜について行った。……天気は快晴。少し肌寒いが麻璃亜がくれたパーカーのおかげで過ごしやすい。このパーカーをもらってからというもの、毎日肌身離さず身につけている。色も自分の好きな色だ。……なぜわかったのだろうか。「ふあぁ……。」まだ眠いの?「いや、大丈夫じゃ。そろそろ目が醒めてくる頃じゃからな。」お疲れ様。今日は早く寝よう。「そうじゃな。今日で十つ子巡りが終わるといいが……。」あと二人か。このペースでいけばいいね。「よし、気合い入れていくぞ〜。」たったったっ……。ああ、走らないで!……「我が家に着いたぞ〜。さーて、探すか。あてはあるから気が楽じゃ。」はあ、麻璃亜が小走りだったからちょっと疲れたよ。「朝から疲れてどうするんじゃ〜?体が鈍っておる。そろそろ運動しないと、歳をとった時に後悔するぞ?」それはそうかもだけど……。やっぱり運動はできる限りしたくないな……。「やれやれ……まあ、無理強いはしないが。」麻璃亜は諦めたようだ。「話は戻るが、九人目……白愛は庭にいると思うぞ。」庭?植物でも育てているの?「お、ほぼ当たりじゃ。わしの誕生日パーティーの時に押し花をもらったじゃろ?あの子は花を愛でておるんじゃ。」園芸か……いい趣味だね。「それは本人に言ってやっとくれ。きっと喜ぶからな。」確か、すごくもじもじした子だった気がするんだけど、自分が会って大丈夫かな?「そうじゃな……。ほぼ初対面のお主はちとハードルが高いかもしれん。」そうだよね。うーん、でも会ってみないとわからないし……。「わしがフォローするから安心せい。お主も、なるべくソフトに接してやってくれ。」わかった。「えーと、確かこの辺に花壇が……お、いたぞ。」年季が入っているが綺麗に手入れされた庭の奥に、花と向き合って座っている女の子がいた。自分は視力は悪くない方なので目を細めて見ると、優しい笑顔を浮かべ、何かを喋っているようだ。……え、一人で?だが、周りを見ても誰もいない。だが、確かに会話をしている。なぜだ?「ふふ、お主、今白愛がなぜ一人で喋っているのか?と、思ったじゃろ?」え、うん、そうだけど……。「この際じゃから包み隠さずはっきり言う。白愛は花と会話するんじゃ。」……?「戸惑っておるな。じゃが、簡単なことじゃ。白愛は人と話すのが大の苦手じゃ。姉妹相手でも緊張してしまうほどにな。」そ、そうなんだ。人と話せない分、花と話してるってこと?「そうじゃ。花相手なら普通に、饒舌に話すことができるんじゃ。」そっか……。「その現場を目撃されるのを恥ずかしがる子じゃから、今見たことは内密にな。」うん。「あ、あの……。」か細い控えめな声が聞こえた。!?だっ、誰!?「ひいっ……。」そして次は小動物のような悲鳴だ。そして、「おお、白愛。おはよう。」と、麻璃亜が何者かに挨拶をした。「お、おはようございます……。」そしてそれに応えた。どこにいるの?「……え、ええっと……し、下……です。」下?目線を下げると、縮こまっている女の子……白愛がいた。綺麗な白色の髪、薄ピンク色の可憐な瞳、髪型はおしとやかにハーフアップだ。えっと……君が白愛?「は、はい……。」おろおろ、という効果音がふさわしいような佇まいだ。そういえば、人と話すのが苦手って麻璃亜が言ってたっけ。本当にガラス細工のように繊細だ。これからよろしくね。なるべく優しい声と笑顔でそう言った。「……はい……。」ん?さっきから目が合わないな。合わせようとしても、白愛がすぐ逸らしてしまう。……そうか、目を合わせて話せないのか。人見知りな人は人と目を合わせられない、と聞いたことがある。白愛が恐らくそうだろう。なら、自分もなるべく白愛と目を合わせなければいい。そうした方が、白愛にとって苦ではない……と思う。「で、白愛。何をしておったんじゃ?」え、花とかい……。「しっ。」あ、そっか……ごめん。「何してた……ええっと……お花のお世話を……してました。」「お、冬の花を育ててたんじゃな。今の季節は……椿か?」「はい、とっても綺麗に咲いたので……あなたも見ますか……?」え、いいの?花の話になったら、少し饒舌になった。「ぜひ、見ていただきたいです……。冬の寒さに負けず、咲いているお花達はとてもかわいいので……。」うん、見たい!――庭の奥には、幾つもの花が咲いていた。……自分はあまり花の名前は知らないが、見たことがある花もあった。「こっちがアネモネで、こちらはスイセンです。」しっかりと手入れされていて綺麗だ。これとこれ、大きさは違うけど似てるね。「それはパンジーとビオラですね。パンジーはビオラよりも大きいです。」へぇ……。白愛、楽しそうだ。本当に花が好きなんだな。花と会話するのは……ちょっと大胆だけど。「いや〜花は癒されるのう。いつまでも見ていられるな。」「はい、本当に……はっ!」白愛が悲鳴をあげた。きゅ、急にどうしたの?「ごめんなさいっ!私ったら、またお二人を置いてぺらぺらと……。」いいよいいよ、気にしないで!白愛が楽しそうで自分も嬉しかったよ。「ほ、ほんとですか……?つ、次からは気をつけますっ……。」また縮こまった白愛に戻ってしまった。「白愛、気にしなくていいんじゃぞ?それも優しいお主の味じゃ。」「うう……ごめんなさい……。」「やれやれ、じゃな。」麻璃亜が言葉に反してふふ、と笑った。麻璃亜は絶対に人を見放さない優しい人だ。この性格が子供達から尊敬される理由の一つだろう。自分もこんな余裕たっぷりになりたいな……。歳をとればいずれなるものなのか……?うーん……。「白愛、これからお主の部屋に行ってもいいか?」「私の部屋……ですか。は、はい……大丈夫、です……。」嫌だったらいいからね……!「いえ、少し散らかっていますが……それでもよろしければ……。」「よぉし、お邪魔するぞ〜。」麻璃亜が勢いよく歩き出した。「ああ、お母さん……まだ汚いのでお掃除させてください……!」……!わかった。麻璃亜が白愛に対してグイグイくる理由が。白愛は控えめで会話が不得意。だからこそ、麻璃亜が話の流れを作り、押し流すことでスムーズに会話の流れを進めることができる……。そういうことだと思う。やはり侮れない……あの人……。あれ?いつの間にか二人がいなくなっていた。置いてかれた!?待ってー!
——「……お待たせしました。ど、どうぞ……。」白愛が部屋の掃除を終えて中に入れてくれた。部屋の中は……あまり物が置いてなかった。机、椅子、ベッド、本棚……そのくらいしかなかった。かなり無機質な空間だったが、無駄な掃除の手間が省けて実用的なのかもしれない。実際、掃除を待っていた時間はそう長くはなかった。「ごめんなさい、あまりお客さんを呼んだことがなくて……ここに座ってください……。」白愛がクッションを用意してくれた。「えと、何か飲みますか……?」「お、お願いしたいのう。」うん、なんでもいいよ。「はい……では、ミルクティーを淹れますね。」ミルクティー!嬉しい!……ん、ミルクティー?最近どこかで……。ま、まあいいか。甘いいい香りがした。みんなの部屋を周っているから、いつも食べて飲んでるね。「そうじゃの〜。わし、ダイエットしないとかも……。」麻璃亜、自分には運動しろって言うくせに麻璃亜自身、運動ちゃんとしてるの?「してるぞ〜……たまに。」え、何か言った?「さて、どうじゃろうな〜?」もぉ……。「……お二人、とても仲良しに見えます……。」そ、そう?最近よく言われるかも。「ふふ、たまたま意気投合しただけじゃよ。」「私も……で、できれば……あなたとも仲良くしたい……です。」本当?嬉しいよ。「……ああ、でもやっぱり、こんな私じゃ……!」そう卑屈にならないで!「お、白愛が誰かにアプローチするのはあまりないぞ。貴重じゃな。」麻璃亜が笑った。「お、お母さん……。」そんな話をしていたら、白愛がコップを三つ持ってきた。「ど、どうぞ……ひゃっ!」白愛が何も無いところでつまずいた。ひゅ〜……。熱々のミルクティーが入ったコップが宙を舞う。かかったら完全にやけどコースだ。そして運悪く、自分の真上にミルクティーが迫ってきているのがわかった。麻璃亜にかからないだけいいが、非力な自分にはどうしようもない。こ、ここまでか……。諦めて目を瞑った。……ん?遅いな。そろそろかかってもいい頃なのに。怖かったが目を開けると、コップとミルクティーらしき液体が空中で止まっていた。そして白い光を纏っている。これは……麻璃亜の魔法!「ふぅ……危なかったのう。」麻璃亜が全く焦っていない声色で言った。そうか、前にもこんなことあったな……。確か、橙子の時だ。敵のナイフを空中で止めてくれてたんだっけ。また麻璃亜に借りができた。「お主、怪我はないか?」うん。どこも熱くないよ。「白愛も、大丈夫か?」「は、はい……おかげさまで……。」え、白愛?振り向くと地面ギリギリで宙に浮いている白愛がいた。ミルクティーだけでなく、白愛まで止めたのか……。異次元すぎる。「ほいっと。」指先をくるくる回すとあっという間にミルクティーがコップの中に戻り、白愛が地面に戻ってきた。「ご、ごごご、ごめんなさいっっ……!!」白愛が土下座した。ああ、土下座しないで!事故だったんだよ!だから大丈夫。ねっ。「私ったらいつも失敗ばかりで……。」「ふふ、気にすることはない。またお主が転んだらわしがフォローするからな。」白愛がやっと立ち上がった。ほら、冷めないうちに飲んじゃおう。「そうじゃな。ほれ、かんぱーい。」乾杯ー。「いただきます……。」ごくっ……あっっっまっっっ!!何これ、甘すぎ!しかもどこかで飲んだことあるような……。そうだ、碧が言ってた!白愛からもらったミルクティーだって……。なんで気づかなかったんだ〜!「……一人で何やっとるんじゃ?」「あ、あま、すぎる……?ご、ごめんなさい……。」白愛がしゅんとしてしまった。あ、いやいやいや、こっちこそごめん。出してもらったものにケチつけるのはよくないよね。ちゃんと飲むから安心して。「えと、お菓子もありますよ……食べますか?」食べたい!「わしもじゃ〜。」机の引き出しから白愛がクッキーを持ってきた。「ど、どうぞ……。」大きな箱に色々な味が入ったクッキーだ。これを一人で食べているのだろうか。それにしては多すぎな気が……。「これはよく妹さんや弟さんと食べています……。お菓子は一日一個までなので……。」……お菓子は一日一個まで……。まさか、藍沙?「は、はい……。藍沙お姉さんが私の食事を管理してくださっています。」藍沙……。あの藍沙の徹底した食事管理の被害者がいるとは……。「わし、チョコチップ〜。」あ、ずるい!自分はバターかな。「好きなだけ食べていただいて大丈夫です……。最近、スカートのウエストが……。」……聞かなかったことにしよう。白愛はガーデニング以外に好きなことってあるの?「えっと……そ、そうですね……小説とか……書きます。」小説……すごいね。「あとは……絵を描いたり詩を作ったり、ヴァイオリンを弾いたり……本を読んだりお菓子作り、編み物、バレエ、ヨガ、裁縫……。」ええっと、ちょっと待って。多すぎて頭が混乱してきた……。「ま、また置いてきぼりに……!」ああ、待って待って!謝らないで〜!「ふふ、お主には人と親睦を深める才能があるようじゃな。」そ、そう?自分ではよくわからないや。「……あなたとお話ししていると……とても、楽しいです……。」ありがとう。にこにこ……。麻璃亜、なに笑ってるの?「仮でも母親として、子供の成長は喜ばしいことじゃ。友達を作ってくれるのも嬉しいのじゃ。」「と、友達……?」あ、嫌だった……?「いえ、そんな……で、できれば……お友達に……なりたいです。」うん!なろう!「……!」白愛が嬉しそうに笑った。少し顔を赤らめて、恥ずかしそうだ。「友達……お友達……。」ぶつぶつ呟いている。そんなに嬉しかったのかな?もしかしたら白愛の性格上、あまり友達ができなかったのかもしれない。なにより、白愛が笑ってくれてよかった。自分も、なんだか暖かい気持ちになった。「そうでした、葵お姉さんにコーヒーをいただいていたんです。そちらの方が甘くないですし、クッキーにも合うと思います。」「おお、コーヒーか。わし、飲みたいぞ〜。」自分も。お願いできる?「はい、丁度二つありました。今淹れますね。」この超甘いミルクティーって誰が飲むの?虫歯になりそうな甘さだけど……。「私と桃花お姉さんと碧お姉さんです……。桃花お姉さんが甘いお菓子に合う甘い紅茶を……ということで作ってくださいました。」甘いお菓子には苦い飲み物でしょ……。「三人は甘党なんじゃ。うちは偏食家が多くてな。ちなみに紫苑は辛党じゃぞ。」ああ、チリゆずスパイス味のポテトチップスをあげてたもんね。「……確か、葵お姉さんは甘いものがお好きではない、とか……。」「そうじゃな。頑なに嫌っておるな。」食生活も個性的なんだね……。「そうじゃな〜子供の好き嫌いは激しいのう。」……肉嫌いの人が何か言ってる……。
——「美味かったのう〜。」クッキーやミルクティーを食べ終えた。今日は朝遅かったので、もうおやつ時になってしまった。……おやつは今食べたが。「白愛、今日はありがとうな。そろそろおいとまさせていただくか。」「あ、ちょ、ちょっとお待ちください……!」?どうしたの?「えっと……すみません……私のヴァイオリン……聴いていただけませんか……?」いいの!?聴きたいよ!「あ、ありがとう、ございます……!」「お、わしも久々に聴きたいぞ。」「で、では、チューニングをするので少しお待ちを……。」白愛がケースから綺麗なヴァイオリンと弓を取り出し、チューニングし始めた。なんと、耳で音程を合わせているようだ。も、もしかして、絶対音感持ってる!?「えっ?い、いえ……絶対音感は桃花お姉さんが持っています……。私は教えていただけただけです……。」にしてもすごいね。「あ、えっと……いえ……。」白愛が照れ笑いを浮かべた。「お、終わりました。……何の曲がいいでしょうか……?」曲……なんでもいいよ。「じゃあ……白愛が今弾ける曲で一番難しい曲、じゃな。」ま、麻璃亜……。それじゃ白愛が困るでしょ?「難しい曲……わかりました。やってみます……。」白愛がヴァイオリンを構えた。おお、結構様になる。そして、演奏が始まった。「♪♪〜〜」はっきり言って白愛の演奏は……異次元だった。上手いとかのレベルではない。コンクールで賞をとれるレベルだ。いや、全国にさえも届くだろう。……自分はそもそも音楽はわからないが。だが、そんな素人の自分でもどれほど才があるかはわかる。ビブラートのかけ方、力の抜き方、スピード……。その全てが一流だ。息を呑んでしまって演奏が終わるまで我を忘れていた。「♪〜〜〜」「あ、ありがとうございましたっ……!」パチパチパチパチ……!す、すごい!すごいよ!感動した!語彙力がどこかに行ってしまった。「いや〜素晴らしいのう〜。流石じゃな。」「ありがとうございます……!練習頑張ってよかった……。」さっき才があると言ったが、白愛の努力も大きいだろう。白愛は頑張り屋さんのようだ。「うむ。これからもマイペースに、楽しく、頑張るんじゃぞ。」麻璃亜が白愛の頭を撫でた。「は、はい……!お母さん目指して頑張ります。」……麻璃亜はヴァイオリン弾けるの?「もちろん。……魔法を使って、じゃがな。」あー!反則!「ふふ、な〜んてな。」「引き留めてしまってごめんなさい。次はべにさんのところですよね。べにさんは今出かけているようなので、街に行って探してみてください……。」「りょーかいじゃ。ありがとう、白愛。また来るぞ〜。」バイバイ、白愛。楽しかったよ。「こちらこそ……!それでは……。」……パタン。「おや、もう三時か。ペースを上げないと間に合わないぞ〜。行くか。」あ、ちょっと待って。白愛が言ってたべにさんって誰のこと?「べにか?ああ、十つ子の末っ子、紅緒のことじゃぞ。」なるほど、愛称か。いよいよ最後だね。長かった……。「そうじゃな。ほれ、街に行くぞ〜。」自分と麻璃亜は紅緒がいると思われる街へ向かった……。




