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第10話 十女・紅緒

——ガヤガヤ……ガヤガヤ……。「お主、体調は戻ってきたか?」うん……少しだけ……。うう……。「無理はするでない。もう少し休憩するぞ。」ありがとう……。自分と麻璃亜は人気の少ない路地裏に来ていた。元はというと、十つ子の末っ子、紅緒(べにお)を探しに来ていた。だが、街の人の多さにすっかり自分が酔ってしまい、今は落ち着くまで休憩中だ。ごめん、時間を使わせちゃって。早く探さないといけないのに……。「いいんじゃぞ。どうやらお主は人間が多い場所が苦手なようじゃな。今度からあまり行かないようにすればいい。」そうだね。……はあ……。もう十七時になる。外はもう暗くなりつつあり、街灯がつき始めている。だが、まだ人は多い。……逆に遅い時間なら人が少ないのでは?いや、ダメか。紅緒が孤児院に戻ってしまうかもしれない。それかいっそのこと、孤児院で待つとか?でもせっかく来たし……うーん……。「そろそろ出発できるか?」あ、うん。だいぶ良くなったよ。「んじゃ〜出発〜。」麻璃亜が歩き出した。何回も言うが、自分は周りから認識されないので気をつけなければならない。そうやって歩くのも一苦労だ。今は麻璃亜の後ろにぴったりくっついて歩いている。歩きづらいが仕方ない。「おっ?」麻璃亜が何かを見つけたようだ。紅緒、いた?「ストバの新作、アップルパイフラペチーノじゃ〜。わし、あれ飲みたいぞ。」ええ……。麻璃亜が勝手にスタスタと歩いて行ってしまった。あっ、ちょっと待って!自分も急いで追いかけた。はぁ……はぁ……待ってよ……!麻璃亜は意外と足が速い。ぼーっとしているとすぐに置いていかれる。そして麻璃亜は外からぴたっと顔を押しつけて、中を羨ましそうに眺めていた。「ほぉ……みんな飲んでおる。きっと美味いんじゃろうな〜。買ってきてもよいか?」まあ、いいけど……。自分は外で待ってるね。「やった〜。る〜んるる〜ん♪」鼻歌を歌いながら店の中へと入って行った。何だか子供みたい……。能天気な人だな……。さて、自分は何しようかな。人にぶつからないようにしないと。自分も何か飲めばよかったかな。……さっき色々食べて飲んでたから今日はもういいかな。紅緒に会って晩ご飯を食べたらまた暖かいベッドで……ん?さっき休んでいた人気のない路地裏に顔を隠した黒と深い赤色の素朴な服を着た男達がこちらを見ていた。そして自分が視線を向けると姿を消した。……怪しい。だ、誰なんだ?何だか見たことあるような……。自分は愚かにも、ふらふらと見に行ってしまった。……確かこの辺……。辺りを探したが、さっきの男達はどこにも居なかった。逃げたのかな?どうしてこの場所にいたんだろ?……怖いな。麻璃亜に報告しよ……わっ!!ドサッ!何かに足を引っ張られ、思いっきり転んでしまった。いたた……もう、誰……。振り向くと後ろにはかなりの人数の男達……そう、黒と深い赤色の服を着た男達がこちらを見ていた。

 ——や、やばい……これはかなりやばいのでは?こいつら、どこかで見たことがあると思ったら、ファストフード店にいたやつら!ていうか、なんで自分が見えてるの!?ああ、今はそんなことどうでもいい、逃げなきゃ!起き上がろうとしたが足は掴まれたままだ。逃げようがない。自分の足を掴んでいた男がマスク越しに恐ろしい笑みを浮かべ、後ろの男にナイフを渡すよう言った。ま、まずいまずいまずい!どうにか逃げようと男に蹴りを入れた。……当たったが怯まない。そしてギラリと銀色に光るナイフが見えた。助けて、麻璃亜!!きっと今麻璃亜はアップルパイフラペチーノを堪能している頃だろう。自分のピンチに気づかずに……。今はそんな麻璃亜が羨ましい。男がナイフを振り上げた。流石に死を覚悟した。さよなら、麻璃亜。今までありがとう。元の世界にも帰れないまま……終わるのか。目をつぶって最期の時を待った。「あっれれー?何してるのー?」え?女の子の声が聞こえた。目を開け、声のした方を見た。すると、スマホを前に向けた赤い髪、紫色の目をした女の子が立っていた。そしてとても小さい。あれ、この子って……!「おじさん、もしかして持ってるのナイフー?その人殺そーとしてんの?きゃは!おもろー。でもー、動画撮ってるよー。今拡散しちゃおっかなー。けーむしょ行きだねー☆」「なっ……クソッ、行くぞ!」女の子がそう言うと、男達は動揺しながら去って行った。「きゃはは!結局人殺す覚悟がなかったってことだねー。」は、はああああああ〜〜……。ぺたんっ……。力が抜けてしまった。命の危機に遭うの、何回目だろ……。あ、ありがとう、君……は、紅緒?「えー、何でべにの名前知ってんのー?キモー。てか、紅緒じゃなくてべ(・)に(・)って呼んでー。」え、あ、はい……。すると、「お主〜?何やっとるんじゃ?探したぞ。」麻璃亜がひょっこり顔を出した。「あっ!ママー!それ、アップルパイフラペチーノでしょー。べにもこの前飲んだんだー。おいしーよね、映えるし。」「うむ、美味いのう。そうそう、べにを探しておったんじゃ。こやつとな。……で、こやつはなぜ地面にぺしゃんと座っておるんじゃ?」それは……。麻璃亜に事情を説明した。「ふむ、そんなことがあったのか。お主、べに、怪我はないか?」自分は大丈夫。「べにも何もされてないよー。もし何かしたらタダじゃ済ませないし?徹底的にネットに吊し上げるからねー。」怖っ……。「すまんな、わしが目を離してしまったせいじゃ。」全然、気にしないで。ズーーー。「うーん、美味いのう。」……気にして。「しかしまた一つ謎が増えたのう。帰ったらまた研究じゃな。」根を詰めすぎないようにね。嬉しいけど。「ふーん……最近ママを見かけないと思ってたら、こいつと一緒にいたんだー。ずるー。」「ふふ、べには甘えんぼさんじゃのう。また二人でケーキでも食べに行こう。」「やったー!べに、ママ大好きー!」ぎゅっ。紅緒が麻璃亜の腕に抱きついた。麻璃亜はやはり子供達に好かれている。……と、とりあえず、ここから離れない?またあいつらが戻ってくるかもだし。「そうじゃな。ひとまず、ストバの中にでも行くか。安全じゃからな。」「行こ行こー!なに飲もっかなー。」麻璃亜と紅緒とストバの中……安全地帯へ向かった。――はあ……今度こそ終わりかと思った……。「災難じゃったのう。不幸体質ってやつじゃな。」「情けなくてちょーおもろかったけどねー。さっきの動画、拡散してもいいー?」だめだめ、やめて!「きゃは!冗談冗談ー。」外は魔法のパーカーを着ていても少し肌寒かったので、温かいコーヒーを頼んだ。麻璃亜は気に入ったのかアップルパイフラペチーノのおかわり。紅緒はスムージーを飲んでいるが、さっきから自撮りばかりしている。紅緒……べにはさっきから何してるの?「見てわかんないー?ネットにあげる用の自撮り撮ってんのー。ここ、ちょーおしゃれだから今のうちに撮っとかないと。」へ、へえ……。パシャ……パシャパシャ……。何枚撮るつもりなのだろうか。「べに、ここら辺ではけっこー有名なインフルエンサーだから。べにの投稿に喜んでくれる人、たくさんいるんだー。」インフルエンサー……?「あ、もしかして知らないのー?きゃはは!時代遅れだねー☆チックタックとかやってないでしょー?」いや、自分は……。「べにには言っていなかったな。こやつは別の世界から来たんじゃ。もちろん、チックタックはやっとらんぞ。」「え!まじ!?」紅緒が大いに驚いた。そんなに驚く!?「やばいやばいやばい……!」何かぶつぶつ呟いている。この姉妹は一人で呟く癖があるのか……?ええっと……べに?「やばいやばい!あんた、異世界人!?」周りの人がこちらを見た。しーっ!大きな声で言わないで!「あーごめんごめん。めっちゃ興奮しちゃってー。え、ねーねー、一緒に写真撮ってよー!」な、なんで!?自分、写真とか撮ったことないよ!「えーだってー、異世界人と写真撮ったらバズること間違いなしじゃん!どんなタグつけよっかなー。」え、ええ……。紅緒がカメラを向けた。「はーい、べーに☆」パシャ!おどおどした顔で撮られてしまった。ていうか、何そのかけ声……。「べにのオリジナルのかけ声だよーん。べ(・)に(・)って言うと、笑顔で撮れるでしょー?これが一番盛れるんだよねー。加工しよー。」は、恥ずかしい……この情けない顔がネットに載るのか……。「む、ちょい待ちじゃ、べに。」「なにー?」「こやつが異世界人ということは伏せて投稿してくれんか?変に注目を集めてはならんからな。」「えーーー。……わかったー。せっかくバズると思ったのにー。」紅緒がほっぺを膨らませた。「すまんな。まあ、わしが魔女だということも隠してもらっているしな。我慢じゃ、我慢。」「りょー。ほいっ、送信。」速っ!紅緒が加工を終わらせ、投稿をした。ピロン。「あ、早速いいねついたよー。この人いつも見てくれてる人だー。コメントもー、なになに……?べにちゃん今日もかわいい♡隣の人もなかなか美形……だってー。」あ、ちょっと嬉しいかも。「よかったねー。ま、べにのフォロワーさんはみんな優しいからねー。」「わしも若く見られて嬉しかったのう〜。」「ママはべにと同じくらいかわいいからねー。ママはまだまだ若いよ!」「ふふ、ありがとう、べに。」紅緒の頭を撫でた。「えへへー。」紅緒は自分と麻璃亜とでは態度が違う。ま、まあ、いいか。気にしないようにしよう。べに、その服かわいいね。もしかして今流行ってたりするの?「この服?そーそー、最新のファッションだよー。今はこーゆーのが流行ってんの。まあ、べにの好きな服着れば、それが流行になるんだけどねー。」ファッションリーダー……ってやつ?「まー、そんな感じかなー。……あっやば、スマホの充電無くなりそー。家かーえろ。」か、帰るの!?「うん。あっ、ママも一緒に帰ろーよー。」「いいぞ。もう暗いしな。さっきのような奴らがいたら大変じゃ。しばらくお主はわしが護衛しないとな。」ありがとうございます……。「うむ。あとは……。」麻璃亜が自分に耳打ちした。「べにの能力のことも教えんといかんからな。」オッケー。「ふーんふふーん♪スムージーは飲みながらかーえろ。じゃあ、行こっ!ママ!」「そうじゃな。」自分は……?少し不本意だったが家路につくことにした。

 ——「……でさー……が、……でー。」前で二人が話をしている。間には入れないので黙ってついて行っているが……。さっきの男達は一体何者だったのだろうか。黒と深い赤色の服……。ファストフード店を襲った犯人達と同じに見えた。あの時自害したリーダーらしき男は十つ子の本当の両親のことを知っていた。麻璃亜のことも……。あまり多くは聞き出せなかったが、あれから数日経った。あの組織の男達の尋問で何か成果が得られればいいが……。今度警察に聞いてみようか。……教えてくれるかはわからないが。あれこれ考えていると、紅緒が振り返った。「ママとあんた、べに達十つ子に会いに行ってたんでしょー?べにが末っ子だから最後だねー。」そうそう。五日くらいかかったかな。「ふーん……順番通りいったんだねー。で、今ママと話したんだけどべにの能力を教えればいいんでしょ?」うん。そうなんだけど、いいかな?「別にいいけど。まー、手短にねー。」なぜか、紅緒は自分に冷たい。あまり心を開いてはくれていないようだ。「べにの能力はー、テレポートをする能力ー!例えば……。」紅緒が自分の目の前に立った。そして次の瞬間、紅緒は回転をすると目の前から消えた。えっ!?いなくなった!すると後ろからつんつん、と背中を叩かれた。振り返ると、紅緒がニマニマしながらこちらを見上げていた。「どおー?すごいでしょー。べにに触ってる他の誰かも一緒にテレポートできるんだー。」「そうなんじゃ。機動性に優れておるな。」「酔う人もいるから注意しなきゃだけどねー。」じゃあ、家までテレポートをして帰ろうよ!「えー、むりー。長い距離を飛ぶと疲れるんだよねー。あんまべにに頼らないでくれるー?」ああ、ごめん……。「これ、べに。あまり厳しい言い方をするでない。」「そお?ごめーん。」全く反省していないような言い方だ。もう気にしても意味がないのかもしれない……。でも、いつかは仲良くなれるといいな。願望だけど。「最大で十キロは飛べるかなー。ちょー疲れるんだけどねー。」そ、そうなんだ……。言葉を選びながら返事をした。「でさー……。」また紅緒が麻璃亜と話をし始めた。うう、会話に入れない……。紅緒以外の十つ子には好印象を持ってくれたみたいだけど紅緒には少し悪い印象を持たれているみたいだ。これから名誉挽回しないと……!そんなことを思っているうちに孤児院に辿り着いた。「ついたついたー。はー、今日はもうお風呂入って寝よー。あ、やば、ニキビできてるー。スキンケア念入りにやんないと。」「うむ。べには何をしてもかわいいぞ。」麻璃亜が紅緒の頭を撫でた。「えへへ、当たり前でしょー?じゃね!」あ、またね……。紅緒が自分には目もくれずスキップしながら帰っていった。「お主、べにには好かれておらんと思っとるじゃろ?」そうみたい……。「うーむ、べには心を開く相手を選ぶ子じゃからな。まだ多少は刺々しいかもしれんな。まあ、気長に待つことじゃ。」麻璃亜にはずっとあんな感じ?「ふむ、そうじゃな……。わしはあの子達が赤子の頃から知っておる。生後二ヶ月程度だったと思うぞ。それからは琥珀(こはく)にも手伝ってもらいながら育児をした。赤子の子守りをするのはとても楽しかったな。いい匂いのするぷにぷにの頬を触るのは格別じゃった。」大変じゃなかった?「そんなことはないぞ。わしは慣れておるからな。今までも何回か子守りをしたことはあった。余裕のよっちゃんじゃ。」麻璃亜がウインクをした。子守りもしたことあるって……いや、深く考えちゃだめだ……。「さて、と……そんじゃあ帰る……前に。」?……帰る前に?「お客さんが二名ほどいらっしゃっておるな。そっちがその気ならわしもひと暴れしようかのう。」え、お客さんって……。麻璃亜が目にも止まらないほど素早く振り返り、衝撃波を放った。すると後ろから、「うああああああ!!」「ぎゃああああああ!!!」という叫び声が聞こえた。振り返ってみると深い赤色と黒色の服を着た男が二人、倒れていた。こ、こいつら……!後からつけてきてたの!?「そのようじゃ。全く、人気のないところなら何をしてもいいわけじゃないぞ?わしが教えてやろう。」麻璃亜の両手からあのおどろおどろしい黒い闇が蠢いた。「うああ、やめてくれ!!」「チッ……に、逃げるぞ!!」麻璃亜が好戦的な態度をとると、男二人は転びながら逃げていった。「おやおや、度胸がないのう〜。」麻璃亜がくすくすと笑った。ありがとう……自分も少し怖かったが。あの二人がつけてきているっていつ気づいたの?「最初からじゃ。じゃが、べにがいると巻き込んでしまうかもしれんかった。向こうが攻撃してこない限り、人がいない場所、かつ、べにが帰った後……つまり今、戦ったわけじゃ。」なるほどね。流石だ。「じゃが、これからはより一層あやつらを警戒せねばならん。わしも少し調べてみる必要があるようじゃな。とにかく、帰ろう。」うん。疲れた……。「ふふ、帰ったらお風呂であたたまろう。」……あいつらは一体……。嫌な予感がしていたが、ひとまず家に帰ることにした。

 ——はああああーー……。ベッドに倒れ込んだ。全身が痛い……。歩き疲れたのと命の危機にあったので体中が筋肉痛だ。麻璃亜はというと、自分より先にお風呂に入って書斎に篭りっきりで出てこない。確か、男達のことを調べてるって言ってたかな。麻璃亜も疲れているだろうに……。自分は寝ていいと言われたけど。もう少し起きていようかな。ちょっとベッドの上でゴロゴロして……。ドタドタドタ……ん?何の音?……バタンッ!!え!?な、なに!?「お主、大変じゃあ〜〜。」麻璃亜がネグリジェのまま勢いよく部屋に入ってきた。どうしたの……?「これを見よ。」こ、これ?ただの古い紙切れに見えるけど……。「開けてみい。」うん……。!……これは……なに?「……わからんか?この言葉は……って、日本語じゃなかったのう。すまんすまん。これはわしの故郷の言葉でな。」麻璃亜は日本人じゃないの?「うむ。わしはアイルランド生まれじゃ。」アイルランド……どこ?「イギリスの隣じゃ。悲しいが、あまり知られている国ではないのかもな。しくしく……。」麻璃亜が日本人じゃないことに驚きだ。こんなに日本語が流暢なのに。「お主はどこで生まれたのか……いつか知れるといいな。」……そうだね。早く知りたいよ。「いや、それを言いたかったわけではないのじゃ。重要なのはこの中身……。魔法薬の作り方じゃ。ふむ……難しそうじゃが、この文字列は見覚えが……。ともかく、作ってみるぞ。今日はもう寝ていてくれ。」う、うん……わかった。「こういう魔法薬は作っていると楽しいんじゃ。徹夜じゃな〜。」なぜかスキップしながら戻っていった。よくわからない人だ。疲れて倒れそうなので、自分は言葉に甘えて眠りにつくことにした。

 ——「……ぬし……おぬーし……お主……。」……ん?何か呼ばれている気が……。「おーぬーしー、起きるんじゃあ〜。」目を開けた瞬間、麻璃亜が超至近距離に居た。わっ!!な、なに!?「やっと起きたか……。かれこれ十五分じゃぞ?でもまあ、疲れていたのか。お主に、いい知らせじゃぞ?」いい知らせ?「うむ。ついに、お主が周りに視認される魔法薬ができたのじゃ。」自分が……視認?「もう、何をとぼけておるんじゃ?お主は十つ子、琥珀、そしてわし以外には認識されないではないか。それでは高校にも通えない。じゃが、これを飲めば他の人間にも見えるはずじゃ。」ああ、そうだったね。ごめんごめん。……でもどうやって?「昨日のメモのお陰じゃ。わし一人では作ることができなかったかもしれん。いやー、しかし……なぜこんなものがわしの書斎に……?」と、とにかく、飲めばいいの?「そうじゃ。……味は保証せんが。」……だ、大丈夫だと思う……。麻璃亜からビンを受け取った。どうやら液体のようだ。色はおどろおどろしい紫色。匂いはしなかった。得体の知れないものはあまり飲みたくないが、仕方がない。これも高校に通うため……!意を決して一気に飲み込んだ。ごくっ……ごくっ……。「……どうじゃ?何か変わったか?」……ううん。何も。味はそれほど不味くはなかった。ただ……。少し、心臓の鼓動が速くなった気がする。それが何の意味を持つのかはわからないが。「早速孤児院に行って、効果を試してみるか?」そうだね。子供達に見えるといいね。――「さーてお待ちかね、実験結果のお時間じゃ〜。」何でそんな楽しそうなの……?「お主は楽しみではないのか?お主も街で買い物もできるんじゃぞ?」うーん……。「ここに突っ立っていてもらちがあかん。中に入るぞ。」……ガチャ……。入った瞬間、何人かの子供達が待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってきた。「ママ〜〜!!おかえり〜!」見覚えのある子……花が麻璃亜に飛びついた。「おおっ、どうどう……落ち着け。みんな、おはよう。」「おはよ!今日は遊んでくれるー?」「うむ。よいぞ。しばらくはわしは暇じゃ。」「やったー!」「ねえねえママ!」「絵本読んで〜。」「これ見て!」麻璃亜の周りは子供達に囲まれてしまった。やはり麻璃亜は本当の親ではないが子供達から慕われているな。子供達の屈託ない笑顔がそれを物語っている。しばらく子供達の相手をしていたが、本題に入るようだ。「それでな、みんな、わしの後ろを見とくれ。」……うう、緊張する!大丈夫かな……。「うしろー?」子供達が自分の方を見た。子供達の反応は……?「……ママ、この人だあれー?」!気づいてくれた!「ほっ……。こやつはな……ん?お主、名前は何だったか……?」え?……あ。えっと、自分は……自分の、名前は……?「もしかして、怪しい人ー?」いやいや、違うよ!自分は……。み、みんなと同じ、月守だよ!「ふーん……じゃあぼく達の兄弟だね!」な、なんとか信じてもらえたみたい。毎日が慌ただしすぎて気づいていなかった。……自分の名前は何だろう……?「お主ら、朝ご飯は食べたか?」「琥珀お姉ちゃんが作ってくれたよ!」「うむ。じゃあ、みんなで遊んでいてくれ。わしも後で遊んでやるからな。」「わーい!!」子供達が去っていった。……よ、よかった……!上手くいったみたいだね。「じゃな。流石わし、魔法薬作りもまだまだいけるな。」今回は麻璃亜のお手柄だね。「む、今日は、とはなんじゃ?わしはいつでもMVPじゃ。」あはは、そうだね。……そういえば、朝ご飯食べてなかったかも?「確かに、じゃな。まだ琥珀がいるはずじゃ。食べに行こう。」自分と麻璃亜は食堂へ向かった。……みんな朝ご飯を食べ終えたのか食堂は人気が少なかった。そしてキッチンには琥珀が居た。「あ!おはようございます〜♪お二人も朝ご飯を食べますか?」「おはよう。頼んでもよいか?」「了解です!すぐ作りますね♪座っていてください。」ありがとう。しばらくして、琥珀が料理を持ってきてくれた。「昨日の残りもあるのでぜひどうぞ〜。」わ、美味しそう……。「ありがとな。いただきまーす。」いただきます。お腹が空いていたのでベーコンエッグにかぶりついた。そして一仕事終えた琥珀が向かいに座った。「お二人は今日のご予定は何かありますか?」「それがな、実験結果を試しに来たのじゃ。」「実験結果……?」まあ、そうなるよね。麻璃亜が自分が周りに認識されるようになる薬を作ってくれたんだ。「まあ!すごいですね……!それで結果は……?」「成功じゃ。これでこやつも学校に通えるぞ。」「おめでとうございます!流石はお母さんですね♪姿が見えないと不便でしょうし……。よかったです。」姿が見えない方がいいこともあるけどね……。でも、嬉しいよ。「ふふ、結果オーライじゃ。」「……では、この後はどうされますか?」「む、考えていなかったわい。どうするか……。」あの、一つ提案が。「ん?なんじゃ?」さっき気づいたことなんだけど……自分の名前がわからない……んだよね。二人が固まった。しばらくの沈黙の後、琥珀が切り出した。「そういえば、私もお名前をお伺いしていなかったような……。」「お主、自分の名前がわからなかったのか?」うん、そうみたい……。「あらま……。」「ありゃ。」いや、適当に呼んでもらって構わないんだけど、学校に通うとなると……決めた方がいいかも。「……では、十つ子巡りの締めくくりとして、十つ子ちゃん達みんなでこの方のお名前を決める……というのはどうでしょう?」「おお、いいな。名案じゃ。じゃが、みんなが集まってくれるのか……。」そこが問題だよね。「とにかく、みんなに連絡してみるぞ。」「片付けは私がやっておくのでお二人はゆっくりしていてください♪」ありがとう。「助かる。べにはすぐ既読がつくがな……黄菜(きいな)はどうか……。」連絡がつかなかったら探すしかないね。「そうじゃな……。ちょいと待っていてくれ。すぐメッセージを送るからな。」ピロン……。「よし、グループメールに送ったぞ。……お、べにから連絡が来たな。」はやっ!「どれどれ……。出かけていたみたいだが、すぐ帰ってくるらしい。」また街に行ってるのかな……。「お、紫苑(しおん)からも連絡が来たぞ。」お、紫苑?意外と早いね。「部屋に居るからいつでも呼べ……とな。」やっぱり部屋に居るんだ。……その後も続々と連絡が来た。研究が丁度歯切れ良く終わった葵(あおい)。動物の世話をしていた桃花(ももか)。勉強に飽きた橙子(とうこ)。その勉強を教えていた碧(みどり)。剣の鍛錬中だったがすぐ向かうという藍沙(あいさ)。タイミングよく起きていた蓬(よもぎ)。文面も礼儀正しい白愛(はくあ)。そして……OKのスタンプだけ送られてきた黄菜(きいな)。「黄菜はスタンプだけなんじゃ。」そこも無口なの!?でも、みんな連絡がついてよかったね。「じゃな。集合は相談室にしてある。わしらも向かおう。」わかった。……十つ子巡りが終わり、次はみんなで自分の名前を決めてくれるという。この世界は謎だらけだが、これから順応していければいいな、と思う。麻璃亜が作ってくれた魔法薬のお陰で学校にも通える。楽しみだな……!元の世界に帰るその日まで、この世界を楽しもう。……ん?元の世界……?元の世界って……なんだっけ……。

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