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第11話 十つ子の夜明け

——麻璃亜(まりあ)、これでいい?「うむ。よいぞ。ちょうど十二人分あるな。後はこれを注いで……。」とくとくとく……。麻璃亜がコップにお茶を注いだ。この大きな部屋を用意して何をするのかというと、十つ子達と自分の名前を決める会をするのだ。十つ子というのは向かいにいるこの少女……に見えるが実は魔女の麻璃亜の娘達のことだ。一度に十人も生まれたなんて、世に知れ渡ったらさぞ驚かれることだろう。それと、なぜか自分は自分の名前がわからない。麻璃亜曰く、自分は別の世界から来たらしく、一部記憶喪失だ。家族のことや身の回りのことなど、わからないことが多い。自分の名前も、どこかに置いてきてしまったのだろう。麻璃亜の采配で自分は十つ子が春から通う高校に入れてもらえるらしく、名前が無いと大変だろう……ということだ。「さて……誰が一番最初に来るか……当てっこするか。わしは……紫苑(しおん)じゃな。」どうして?「紫苑の部屋はこの先だからじゃ。すぐ来るぞ。」んー、自分は……桃花(ももか)かな。「お、いいチョイスじゃ。」コンコン……。ノックが聞こえた。「入ってもよいぞ〜。」ガチャ……。最初に来たのは……?「お邪魔します。」藍色のポニーテール、赤紫色の瞳。和服を着ている……。この子は……藍沙(あいさ)!「お、おお、お邪魔……します……。」その後ろから白髪のハーフアップ、薄ピンク色の瞳。大人しめな服を着た、白愛(はくあ)だ。ということで、お互いハズレだ。「二人共、来てくれてありがとうな。好きな場所に座っとくれ。」「はい、わかりました。白愛、端っこがいいですか?」「は、はい……。」そそくさと二人がテーブルの端に座った。「私達が一番ですか?」「そのようじゃ。忙しいところ、悪いな。」「いえ、そんなことはないですよ。私もちょうど、休憩したいと思っていたので。」「わ、私……もです。」藍沙は相変わらず礼儀正しく、白愛は人見知りだ。そして、次はノックせずにドアが開いた。「モルモットに名前をつけるという愚かな会の会場はここかい?」「はあ……今日、太陽が眩しすぎ……。」この特徴的な呼び方とダルさは!モルモット、と呼んだのは水色のツインテールに黄色の瞳。深緑色の作業着を着た、葵(あおい)だ。そして、ゲーム機でゲームをしているのは紫色のおさげツインテール、黒色の瞳。メガネと黒いパーカーの紫苑だ。「早かったのう。お主らも来てくれるとはな。ありがとう。」「まあ、手短に、だがな。」「同意。」二人も端の方に座った。次はドアが壊れると思うほど勢いよく開いた。「ハロー!!いやー、勉強とかマジだるかったから最高だわー!これでゆーっくり休めるー!」「橙子(とうこ)が手伝って欲しいって言うから協力したのに……。そんなこと言うならもう手伝わないよ?」「あー、ごめんごめーん。次は真面目にやるってー。」謝ったのがオレンジ色のサイドテール、黄緑色の瞳の橙子。呆れているのは黄緑色の長い三つ編みで茶色の瞳の碧(みどり)だ。ていうか、橙子、この前も勉強やばいって言ってたのに……。手伝ってもらいながらだるかったって……碧が可哀想だ。「む、姉さん達も来ているのか。遅くなってすまない。橙子が……。」「だから、ごめんって!まー、お土産にポテト買ってきたから許してー。」「!ポテト……。橙子、私にも頂戴。」「ハハッ!さっすが紫苑!そう言うと思ってチリソースも貰ってきてあるよー。」「最高。橙子もやる時はやるのね。」「あたしをなんだと思ってんのー?」橙子からポテトを受け取って紫苑は嬉しそうだ。そういえば、ポテトチップスが好きだったね。これも好きなんだ。「そう。辛ければ辛いほどいいのよ。」早速つまんでいる。今度はしっかりとノックがあった。「はーい。」麻璃亜が促した。「お邪魔しまーす!あれっ?みんな来てるの?ごめんなさいっ!遅れちゃったかな?」そんなことないよ。みんな今来たところ。「そっか!よかった。」人当たりのいいこの子は桃色の髪、水色の瞳。フリフリの可愛い服を着ている、桃花だ。そして、「やほー、おねえちゃん達ー。ちょーっと遅くなっちゃったー。」と、ストバのフラッペを片手に赤色のショートヘア、紫色の瞳、自称流行りの服を着たこの十つ子の末っ子、紅緒(べにお)だ。……飲み物を買っている時点で急いでいなかったことは明白だ。桃花はいつも通り優しい。……でも、なぜこの二人が一緒に……?「動物のみんなと挨拶とかしてたらべにちゃんがストバにいるってメッセージが来たの。せっかくだから奢っちゃった♪」「ありがとねー。桃花おねえちゃん♪このフラッペ飲みたかったんだー。」しれっと桃花が心を読んだ。紅緒はやはり街に居たのか。桃花が優しいからって奢らせて……はあ……。二人は真ん中に座った。「あと来ていないのは誰だい?」碧が問いかけた。「なんとなく見当がついてるでしょ。あの二人が遅れるのは想定内だわ。」紫苑がゲームをしながら答えた。椅子に足を乗せてマナーが悪い。「まあまあ、気長に待とうよ!まだお昼だし、二人もしっかり連絡がついたんだから。」桃花が場を和ませてくれた。「はー……。あいつら、本当に来るかなー。まあでも、あたしは勉強しなくて済んでラッキー……。」ぐきっ!碧が素早く橙子の腕を捻った。「ちょちょちょちょちょ!!ストップストップ!その捻りはキツいって!!」「橙子……僕があんなに辛抱強く教えてやったというのに……。」「わーた!わーた!わかったって!ごめんごめん!今度はちゃんと聞くから!」「……はあ……その言葉に何度騙されたことか……。」碧が手を離した。碧も苦労しているんだな……。コン、コン、コン……。!今、ノックがしなかった?「お、二人が来たのかもな。どうぞ入っとくれ。」ガチャ……。「ふああ〜……お邪魔しま〜す♡あら?わたし達が最後かしら〜?ごめんなさいね〜少し遅れちゃったみたい。」「……。」のんびりと現れたのは蓬色のおだんごツインヘア、灰色の瞳、ネグリジェのような服を着た蓬(よもぎ)だ。そしてその後ろには、黄色のボブヘアに赤色の瞳をした黄菜(きいな)が無言で立っていた。「やっと来たか……。」「うふふ、すこ〜し二度寝をしてしまって……♡でも、急いで来たのよ?ね、黄菜おねーさん?」「……。」黄菜は喋らない。だが、これが通常運転だ。「これで全員揃ったな。二人共、座っとくれ。」「はあ〜い。」二人が席についた。「では、これよりこやつの名前決め大会を開催する。はい、拍手〜。」……パチパチパチパチ。桃花と藍沙と白愛が拍手をした。「なにそのダサい名前……。やる気無くなってきた……。」「紫苑姉さんに同意だ。だが、母さんのことだ。この会がのちに重要な意味を持つだろう。」「なにそれ……葵がそう言うと気持ち悪いんですけど。」「はいはい、喧嘩しない!大丈夫だよ。きっと楽しい会になるから!」桃花が話を戻してくれた。「それで、お主らにはこやつの名前を決めてもらいたい。」「確かに、まだこの方のお名前を聞いていませんでしたね。名前を思い出せないのは大変です。流石母様ですね!」「そゆわけじゃ。こやつも春からお主らと同じ学び舎に行く。名前が無いとつまらんからのう。てことで。」パチンッ!麻璃亜が指を鳴らすとホワイトボードとペンが全員分出てきた。おお、すごい。「これに書いてみんなで意見を出し合おうではないか。どうじゃ?楽しそうじゃろ?」「うん!すごく!」「めんど……。」賛否両論が聞こえた。「では、スタート〜。」「私から行かせてもらおう。」えっ、葵から!?やる気無さそうだったのに。「お前は一言多いな……。では、発表しよう。こいつの名前は……。」サラサラ……葵が素早くペンを走らせた。そしてホワイトボードをみんなに見せた。「モルモットだ。」……は?この場にいるほとんどが口を開けて放心した。そして、「ぷっ……ふふ、あははははは!!」橙子が空気を読まず爆笑した。「きゃはははは!」紅緒も空気を読まない。口を開けて固まっていたが、桃花が正気を取り戻した。「あ、葵お姉ちゃん……。モルモットって……。」はあ……と頭を抱えた。「マジで草生えるわ……。」紫苑も珍しくニヤニヤしている。ひ、酷いって葵!なんでいつもモルモットって呼ぶの!?「簡潔な名前だろう?」そんなことない!「ふふ、葵からの提案はモルモットじゃな。」麻璃亜までくすくす笑いながらメモをした。「お主ら、言い忘れていたが苗字は月守で固定じゃからな。つまり葵は月守モルモット、というわけじゃ。」絶対いや!!「あの、私書けました。見ていただけますか?」藍沙が手を上げた。藍沙ならいい名前つけてくれそう……!「よいぞ。」「では、この方のお名前は……月守向日葵(ひまわり)……です。」向日葵……!うん、すごくいい!「ほ、本当ですか!よかった……。」どうやら緊張していたようだ。「うんうん!素敵だと思う!流石藍沙ちゃんだね!」桃花が褒めた。「て、照れますね……。」藍沙は嬉しそうに微笑んだ。「どんどん行くよ〜!次はわたし!」桃花が自信満々に名乗り上げた。「ふふふ、すーっごく可愛い名前を思いついたんだ!いくよ〜。あなたの名前は……月守クリス!」カタカナ!?外人みたい。「おお、なかなかセンスがいいのう〜。」麻璃亜も褒めた。確かに、これもいい名前だ。「メモメモっと……。」その後は、紫苑は月守叉潭(サタン)。橙子は月守星(ほし)。碧は月守瑠夏(るか)。蓬は月守夢(ゆめ)。白愛は月守桜(さくら)だった。……って、叉潭ってなに!?「ゲームのキャラの名前よ。元はカタカナだけど。」当て字はやめてよ……。年上二人はネーミングセンスが酷すぎる。「はいはーい。最後はべにだねー。」紅緒か。どんな名前をつけてくれるんだろう。紅緒の性格からして、あまりいい名前をつけなさそうだ。「おねえちゃん達、みんなセンス悪すぎだねー。笑えるー。」「はあ!?紅緒、アンタね……!」早速いつもの二人が喧嘩をしている。仲裁役の桃花も呆れ顔だ。麻璃亜はいつも笑っている。「うるさい……。ゲームに集中できないんだけど。」珍しく紫苑が間に入った。……ゲームのためだけど。「……そ、そうそう!ほらべにちゃん、発表して?」遅れて桃花が促した。「はーい。んじゃ、いくよー。こいつの名前は……月守花火(はなび)ー。」は、花火……?すごい、普通にいい名前!「なにそれー?べにのこと、見下してないー?」いや、別に……。紅緒がムスッとした。「あらぁ〜、すーっごくいいお名前じゃないかしら〜。わたしは好きよ♡」ずっと眠そうにしていた蓬が紅緒を持ち上げた。「ふふ、当たり前でしょー?」紅緒もご機嫌になった。「ふむ、花火か……。」麻璃亜が少し考えた。ん、どうしたの?「いや、何でもない。花火……っと。」みんな、終わった?「もう全員言ったんじゃない?」「と、橙子お姉さん……き、黄菜お姉さんが……まだ……です。」黙っていた白愛がおずおずと手を上げた。「あ、忘れてた。黄菜はいーんじゃない?どうせ書かないっしょ。」橙子が言った後に、キュキュキュ……とペンを走らせる音が聞こえた。全員が振り向くと、黄菜がホワイトボードをこちらに見せていた。そのホワイトボードに書いてあった名前は……ハル。黄菜の突然の行動に、全員があっけにとられた。そして、最初に言葉を放ったのは葵だった。「黄菜、お前……。」葵も驚いている。「……なるほどな。いい名前じゃな。では、黄菜は月守ハルっと……。これで全員分揃ったな。投票に移ろう。」麻璃亜の言葉で元のムードに戻った。「今出てきた名前でお主が一番良いと思った名前を発表しとくれ。シンキングタイムは設けるか?」ううん、大丈夫。もう決まった。「ふふ、よいな。では、運命の結果発表といこうではないか。ゆくぞ、お主が一番よいと思ったのは……?」ごくり。緊張が走った。みんなが自分を見ている。聞いた瞬間から決めていた。この世界で生きていくための名前……!自分が一番良いと思ったのは……!

 ——月守……。「……。」口を開こうとした次の瞬間、「……あーーー!!ムズムズするーー!!!早く言って!!」橙子が沈黙をぶち壊した。「と、橙子……。静かにしてろって!いまこいつが言おうとしていたじゃないか。」「え、うそ。もしかして、あたし……。」「戦犯……ね。」「あはは……。」みんな苦笑いだ。「ごめんごめん、続き言っていいよー。」ああ、うん。じゃあいくよ、自分が選んだのは……。ぐうううううう〜〜。……え?い、今のなに!?かなり大きい地響きのような音がした。「敵襲か!?二人共!」碧がどこから出てきたかわからない長い武器を取り出した。「オッケー、戦闘準備ね!!」指をポキポキと鳴らして橙子が構えた。「承知いたしました!でも、私の近くで鳴ったような……?」藍沙も木刀を構えたが、気になることを言った。だが、いくら待ってもなにも起こらなかった。「……なにも起こらないぞ?母さん、敵の気配は?」葵が口を開いた。「ふむ……ちと待て。」麻璃亜が目を閉じて魔法を使った。まばゆい光が麻璃亜の周りに漂い始めた。少しした後、目を開けた。「特になにも感じられん。安心せい。」え、じゃ、じゃあ今の音は……?「わ……です。」か細い声が聞こえた。今、誰かなにか言った?「たし……です。」また聞こえた。いや、待て。この弱々しい声は……。白愛?「ひゃいい……!」ガタンッ!ドタドタ……。自分が名前を呼んだ瞬間、白愛がイスから転げ落ちた。「は、白愛……!?」隣にいた藍沙が駆け寄った。「ふ、ふふふ……。」「ぷくくく……。」橙子と紅緒が笑い出しそうになったが、碧が二人の頭を押さえて睨んだ。「大丈夫ですか!?落ち着いてください、ゆっくりでいいですから。」「は、はい……ごめんなさい。」白愛……なにか言わなかった?「えっと、えと……はい……音、私……です。」音が私って……?「……私の、お腹の音……です。」……え?「……さ、さっきの音、私のお腹が鳴った音……なんです。」えっと、それってどういう……。「白愛ちゃん、お腹が空いちゃったみたい。さっきのは白愛ちゃんのお腹の音だよ。」でもあんな……。はっ……。気がつけば白愛がとても恥ずかしそうに縮こまっている。「きゃはっ!白愛おねえちゃんかわいそー。こいつの物分かりが悪いせいで公開処刑だねー。」あ、ご、ごめんね、白愛!お、お腹が空いてたんだね。「い、いえ……。」フォローしたつもりが、更に凹んでしまったようだ。なんだか申し訳ない。「ハプニングはあったが、まだ名前を発表しとらんぞ?お主、教えとくれ。今度は大丈夫なはずじゃ。」そっか、橙子にも邪魔されたっけ。じゃあみんないい?いくよ、自分の名前は……。

 ——黄菜が提案してくれた、ハル!「は!?マジ?」「いいね!」「それは無いと思ったわ。」賛否両論あったがみんな意外そうにしていた。「なぜ選んだか聞いてもよいか?」えっとね、自分、四季の中では春が一番好きなんだ。花粉症じゃないし。あと、春から高校に通えるし新しい世界での新しい名前にピッタリだなって思って。「あらぁ〜素敵じゃない?ハル……優しいあなたに相応しいんじゃないかしらぁ?」「げっ、蓬……アンタ、いつから起きてたの?」「少し前よ〜なんだか起きた方がいい気がして。」「最初から起きてろよ……。」橙子がため息をついた。「ハルさんか……うんうん、呼びやすくていいね!あなたも晴れてわたし達家族の仲間入りだね!」「うむ。お主も月守……わしの子供じゃ。」……!……うん。とても嬉しかった。家族と呼べる人間はこの世界には居ない。だが、血が繋がっていなくても家族と呼んでくれる人がいる。そう、麻璃亜達だ。今は我が子のように自分を気にかけ、面倒を見てくれる麻璃亜のそばに居たい。元の世界に帰るその日まで、少しでも幸せな時間を過ごしたい。そう思った。「よし、こやつの名前も決まったことじゃ。今日はわしの奢り……お昼ご飯を食べに行くぞ〜。」「やったーー!!ハンバーガー!」「橙子、そんなものばかり食べていたら不健康だよ?ちゃんと野菜は摂っているかい?」「ハンバーガーに野菜は入ってるもん。ほら行くよ、碧!」橙子と碧が一番に出て行った。「桃花おねえちゃん、また一緒に街に行こー。今度はべにが奢ってあげるー♪」「いいの?べにちゃん?じゃあわたしは新しいイヤリング買ってあげるよ!お揃いで!」「マジ?嬉しー!じゃ、決まりねー。」桃花が紅緒を甘やかしながら去って行った。「ふあぁ……まだ眠いわぁ……。黄菜おねーさんはあまり眠らないわよねぇ。」「……。」「睡眠不足は体に良くないわよ?今度わたしの部屋で一緒に眠らないかしら?」「……。」会話しているのか怪しいラインで蓬と黄菜がマイペースに部屋を出た。「私は会食しているほど暇ではないんだ。ああ、論文や今ハマっている小説を持ってくればよかった……。私の時間が勿体無い……。」「同感ね。葵が完璧人間ぶりたいのはわからないけど。」「紫苑姉さんこそ、ゲーマーぶりたいのを隠しきれていないぞ。姉さんはただつまらないゲームで時間を浪費しているだけだろう?」「……はあ……うざ。」頭が良い同士少し喧嘩をしながらみんなの後を追っていった。「お腹、空きました……。」「白愛、もう少し我慢できますか?今から母様がお食事に連れて行ってくれるそうです。」「は、はい……我慢できます。藍沙お姉さん……後で、日課のランニングに……行きましょう。」「はい。もちろんです。では、行きましょうか。」最後に藍沙が白愛を連れて部屋の外へと去っていった。「……さ、わしらもゆくぞ、ハ(・)ル(・)。」そうだね。これから忙しくなるね。「ふふ、じゃが、楽しみじゃろ?」もちろん!スキップ混じりに麻璃亜達の後を追った。

 ——ジリリリリリリリリ!!!……すぅ……すぅ……ん、あれ、朝?目覚まし時計が鳴っている。眠いけど、止めなきゃ。カチッ。清潔でいい匂いのする寝室……自分はここで二ヶ月ほど寝泊まりさせてもらっている。そうだ、今日は大事な日だった。早く支度をしないと。麻璃亜は……居ない。もう起きて朝ご飯を作ってくれている頃だろう。洗面台で顔を洗い、リビングに向かった。……ガチャ。おはよう、麻璃亜。「おはよう、ハル。朝ご飯はもうできとるぞ。食べるといい。」ありがとう。いただきます。手早く食事と歯磨きを終わらせ、クローゼットの中に入った。今日の服はいつもと違う。真新しいシャツ、グレーのネクタイ。黒、白、グレーのチェックのズボン、麻璃亜からもらった水色のパーカー。そして肌身離さずつけている赤い雫形の石がついたチョーカー。鏡で見ると……かなり様になっていた。うん、いいじゃん。……エセだけど。たくさんの本をカバンに詰め、リビングを介して玄関に向かった。「うむ。かなりよいな。誰にも悟られんはずじゃ。忘れ物はないか?忘れても届けてやらんからな。」わかってるよ。こう言っても麻璃亜はお節介だ。「じゃ、気をつけてな。いってらっしゃい。」「……行ってきます。」ドアを開けると、朝の眩しい光が木々の間に差し込んでいた。桜の花びらがひらりはらりと宙を舞っている。そして少し先には、十人の少女が自分を待っていた。みんなそれぞれ色とりどりのネクタイやリボンを結んでいた。おはよう、みんな。「おはよう!ハルさん!」「遅いっつーの!」「なんだか新鮮ですね。」桃花、橙子、藍沙は相変わらずだ。「四分遅刻だぞ。」「お、おお……おはよう、ございます……。」「学校なんて、ほとんど行ったことないのに……。」碧も白愛も紫苑も元気そうだ。「むにゃむにゃ……。」「今日チョーシでないー。マジだるー。」「時間が押しているぞ。なるべく早く出発しなければ。」蓬、紅緒、葵もいつも通り。「……。」黄菜も、おはよう。元気?「……。」あはは、なんて、話さないんだっけ。ごめんごめん。すると、黄菜が腕を少し上げ、親指でグッドマークを作った。お、おう……元気なんだ。よかった。「黄菜ちゃんが反応した……!すごいね、ハルさん!」そ、そうかな……えへへ。「はいはーい、学校行くよー。」そう、自分含め十つ子達は今日から高校生なのだ。少し不安だが、みんなが居る。大丈夫だ。「おっし、学校まで競走ねー!」え。橙子が一番に走り出した。「あ、ちょっと……橙子待て!」碧も追いかける。「嘘でしょ……あの体力バカ……。」「走らなくても間に合うというのに……愚かだ。」紫苑と葵は走る気はないようだ。「む、無理ですぅ……!」「大丈夫です、白愛。私が背負います!」藍沙が白愛を背負い、尋常じゃないスピードで駆け出した。「みんな行ってるよ!ほら、べにちゃんも!」桃花が紅緒の手を引いた。「べに、そんな気分じゃないー。」仕方なく紅緒が後に続いた。「わたし達も行きましょうか〜。黄菜おねーさん、ハルさん♡」走るのは得意じゃないんだけどな……。もたもたしているうちに黄菜がスタスタと歩いていってしまった。「わたしも運動は苦手だけれど〜たまにはいいんじゃないかしら?ほら、行きましょ。」蓬が手を引いてくれた。……そうだね。真新しい制服が心を躍らせる。希望を胸に、新しい世界での新しい日々に向けて一歩を踏み出した。

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