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第6話 六女・碧

——「ただいま〜。ふぅ〜疲れたのう……。」だね……。でもあそこのカフェラテ、すごく美味しかった。「じゃろう?また行こうな。じゃ、わしは夕飯の買い出しに行くから、ちと待っていてくれ。」わかった。「冷蔵庫に麦茶が入っておるから、喉が渇いたら飲むとよいぞ。いってきま〜す。」麻璃亜(まりあ)が買い物に出かけた。いってらっしゃい。……冷蔵庫……開けてもいいのかな……?いや、さっき飲んでいいって言ってたから……いいのか。えっと……キッチンキッチン……あ。孤児院のキッチンの奥に人影があった。自分は麻璃亜、十つ子、琥珀以外には姿が認識されない。つまり、透明人間のようなものだ。なので、街を歩く時などは人にぶつからないように注意する必要がある。実際、麻璃亜と出会った日、孤児院の子供達には自分は見えていなかった。だが……誰だろう?小さい子みたいだけど……。少し覗いてみると、髪の毛が見えた。綺麗な黄緑色の髪だ。そして三つ編みにしてある。その髪はとても長い。……あれ、見たことあるかも……一応、声をかけてみよう。あ、あの……。人影に向かって話しかけてみると、「もぎゅぃ!?」という変な返事が返ってきた。もしゃもしゃもしゃ……という少し汚い咀嚼音(そしゃくおん)も聞こえてきた。「だゃ、だゃへだ!?」もがもがもが……。誰だ?って言ったのかな?えっと、自分……ですけど……。にゃむにゃむにゃむにゃむ……ごっくん!「な、なんだ、君か……。」やっと落ち着いた声が返ってきた。そしてその声の主が姿を現した。地面すれすれの長い黄緑色のおさげ。聡明そうな茶色の瞳。軍服のようなかしこまった黒色の制服。そして何より、厳格な威厳のある表情……のはずが今は少し崩れている。そう、この子が十つ子の六女、碧(みどり)だ。

 ——え、えっと……碧……なにしてたの……?「……べ、別に……何も。」そんなことを言っているが、クッキーと思わしき粉とチョコレートが口の周りに付いている。お菓子を食べてるの?「……いや、違う。」碧の声が小さい。え?なんて?「違う!」わ!びっくりした……。いきなり大きな声出さないでよ……。「ぼ、僕は……お菓子を食べていたんじゃない。これは……パンだ。」パンダ?「パン!ちゃんと聞き取ってくれ!」はあ……と、碧は疲れたようだ。自分からしたら勝手に、だが……。で、なんでコソコソお菓子を食べてたの?「だからお菓子は食べてない!コソコソもしていない!」碧は完全に怒ってしまったようだ。ここは大人として、碧の機嫌をとる方が良さそうだ。で、お菓子じゃなくて、なんでこっそりパンを食べてたの?「ちがっ……あっ、違くないか……。えっと、小腹が空いたから……だけど。」今、麻璃亜が晩ご飯の食材を買いに行ってるけど……。「そ、そうなのか……。僕はさっき運動をしていたからね。腹は減るものだよ。」運動?橙子(とうこ)と同じだね。仲良いの?「よくわかったじゃないか。姉妹の中で僕が一番信頼しているのは橙子だよ。」え!?橙子を信頼!?「ん?なんだい、その反応は。橙子はいいやつだぞ。……頭は残念だけど。」それはそうだけど……。「僕の相棒を侮辱するつもりなら、痛い目を見ることになるよ。」相棒……。いやでも、橙子って……。そこまで言ったが、次の瞬間、碧が言ったことが現実となった。それはどういうことかというと、目の前にいたはずの碧が自分を飛び越えて背後に回り、テーブルに置いてあったフォークを自分の首筋に当てた。「動くな。」あまりに一瞬のことだったので、声を出すことすら出来なかった。だが幸運か碧の慈悲か、すぐにフォークを下ろしてくれた。ごっ、ごめん!人のことを悪く言うのは良くないよね。しかも信頼してるっていう人を……。「いや、僕も悪かった。何でも力で解決していいわけじゃない。」そ、そう……?じゃあ、今回はお互い様ってことで……。「そうだね。……あと、僕がこっそりおか……パンを食べていたことは口外しないように。」……わ、わかった。ふぅ、よかった。今後は碧を怒らせないようにしないと。それにしても、橙子は運動神経が上がる能力を持っていて、碧はなんだろう……?同じ能力……とは考えづらいかも?うーん……。「何をそんなに考えているんだい?」いや、碧の能力は何かなって……あ。まずい、口に出してしまった……。「……。」ああ、どうしよう……また殺されかけるかも……!だ、誰か助けて……!できれば麻璃亜!!すると、「碧お姉ちゃーん。」と小さな女の子の声がした。こ、この声は……。「……花?どうした?」そうだ、花だ。麻璃亜ではないが、救世主だ!「碧お姉ちゃん、お腹すいたー。」「もうすぐ晩ご飯だよ。我慢しないと、ご飯が食べられないよ。」「えー、待てないー。」あれ、晩ご飯を待ちきれずにお菓子を食べていた人がいますが……?しかもコソコソと一人で……。「あれー?碧お姉ちゃんのお口に何かついてるよ?」あ、気付いた。「えっと……こ、これは……。」「それにあまーい匂いがするよ?」ぎくっ!「ねー、碧お姉ちゃんー。また一人でお菓子食べてるのー?ずるいー、わたしも食べたいー!」また!?いつも食べてるのか……。「いや、違うんだ、花……。ぱ、パンを食べていたんだ!」「パン?じゃあわたしも食べるー。」「えっ?そ、それは……。」ああー、やっぱり……。潔く認めたら?「うう……。」碧がうめき声を上げた。「碧お姉ちゃんー。嘘はよくないよ。」「ぐっ、うう……。」花の正論パンチにさらに苦しそうなうめき声を上げた碧であった……。「わ、わかった!認める!認めるから、もう誰にも言わないでくれっ……。」「どうして?恥ずかしいの?」花がまた問い詰めた。花……以外と頭が良さそうな雰囲気だ。完全に年上の賢そうな碧を追い詰めている。「ねえお姉ちゃん……逃げちゃダメだよ。」ひっ、ちょっと怖い……。こんなに小さな子なのに……。「たっだいま〜じゃ。」あ、麻璃亜が帰ってきた。「今日の晩ご飯はハンバーグ〜わしは食べんが……って、どうした?」麻璃亜が驚いた。それもそのはず。恥ずかしさでうずくまる碧、ぬいぐるみを持ったまま冷静に立つ花、そしてそのやりとりをただ見ていた自分……。麻璃亜のようにいうならば……なんのこっちゃ?という感じだろう。「あ、わかったぞ。まーた碧が一人でお菓子を食べていたのか。懲りんのう……。」鉄板ネタなの!?「うう、だってぇ……。みんなの前では食べれないから……。」「お菓子を食べるのは恥ずかしいことじゃないよ。みーんな食べてるんだから。」「……はい。」碧が説教されてる……!「あと一人で食べないこと!みんなで分け合って食べようね!」「はい。わかりました……。」「うむ、よろしい。」花が腕組みをして、ふん、と鼻を鳴らした。「ふふ、やっぱり花はしっかり者じゃのう。」「ママおかえりー!ご飯作るの手伝うよー!」「ありがとな。じゃが、大丈夫じゃ。部屋でみんなと遊んでいるとよいぞ。」そっか、花がいると自分は喋れないんだった。それを見越して麻璃亜は花に部屋に行くよう言った。「うん、わかった!」たったったっ……。花が離れていった。「よし、行ったな……。ふう、やはりお主は花達には認識されんな。」そうみたいだね。「碧、調子はどうじゃ?」「……最悪……だよ。」「ふふ、バレなかったことは一度もなかったんじゃないか?」……やっぱりいつも食べてるんだ……。「み、認めるって言ったじゃないか!だからこの話はもう終わり!!」ぷいっと拗ねてしまった。「わかったわかった。……やはりなんだかみんなタイミングがいいのう。」「タイミング?」「今、こやつと姉妹巡りをしておるんじゃよ。」「……なんだい?それ。」「わしの子供達に一人ずつ会いに行っとるんじゃよ。」「へえ。そうなんだ。」碧がまた威厳のある顔に戻りつつあった。「で、色々教えとるんじゃが……。」「僕の能力も?」「……おお、話が早いのう。そうじゃ。よくわかったのう。」「さっきこいつが口を滑らせたからね。」「あう……そうだったのか。」ごめん、麻璃亜……。「そゆことで、碧、教えてやっとくれ。」「……本当にこいつでいいのかい?母さん。」「ああ。いいんじゃぞ。こやつは信頼できる。」嬉しいけど、何を根拠に……。「勘じゃ。」麻璃亜はそれだけ言った。「……わかった。母さんを信じる。」やっぱりみんな教えたがらないんだね。桃花が言ってた。「そうじゃぞ。内緒じゃ。」「それじゃあ教えてあげるよ。僕の能力は武器を操る能力だ。」武器……?「……地味だろう?」碧が少し残念そうに言った。いやいや、そんなことないよ!能力ってだけでもすごいじゃん!普通の人は持っていない特別な力だよ。「そうか……?」そうだよ。自分は特別な能力を持っていないから、何かに秀でている人ってすごく尊敬できるよ。「……。」だけど、何かに秀でていなくても、努力できる人も尊敬できるよ。「……え?」努力って難しいからさ……。「い、いま、なんて言ったの……?」え、努力って難しい……。「その前!なんて言った!?」碧が強く反応した。えっと……なんだっけ?「何かに秀でていなくても、努力できる人は尊敬できる……と言っておったぞ。」麻璃亜が助け船を出した。「そう!それだ!」きゅ、急にどうしたの?「努力できる人は尊敬……。」ぶつぶつと、何かを呟いている。お、おーい、碧ー?……しばらく碧の意識は戻ってこなかった。前にもこんなことあったな……。やはり姉妹だから似ているのか。「ふふふ、わしはわかるが、お主は理解できんかもしれんな。」どういうこと?「碧にはな、言ってくれると最高に喜ぶワードがあるんじゃ。」最高に喜ぶワード……?自分、なんて言ったんだっけ……。「それは内緒じゃ。」「ええー、麻璃亜ー……。」麻璃亜はいつでも大事なことを教えてくれない。完全にわかっていない自分を面白がって遊んでいるようだ。く、悔しい……。教えてくれてもいいのに……!「それじゃあお主が成長せんぞ?自分で考えるのも大切じゃ。」はあ……それもそうだね。麻璃亜は気まぐれだ。それに順応するしかない。自分で考えてみよう……。碧は何に反応したのか……?尊敬?秀でている?……うーん……。「ありゃ、二人共考え込んでしもうた。ちと意地悪すぎたかのう?」「……はっ!僕は一体何を……。」あ、碧が帰ってきた。「おお、おかえり。考え込む癖は葵(あおい)にそっくりじゃのー。」「葵姉さんと一緒にしないでもらえる?」……仲悪いの?「悪いわけじゃないけど……あまり合わないんだ。」そうなんだ……気持ちはわかるかも……?上から目線というか……。「合わないだけで、悪口を言えとは言っていないよ。さっきと同じ運命になりたいのかい?」あっ……そっか、ごめん……。「ふふ、すっかり仲良しになったようじゃのう。」「ち、違う!勝手に決めないでよ、母さん。僕は、別に……。」もごもごと碧は言い淀んだ。もしかして、自分と仲良くしたいって思ってくれてる?「……違う違うちがーう!!だから違うんだって!」もうさっきまでの威厳はどこかにいってしまった。本当はこういう子なのかも……?どうしてツンケンしていたんだろう……。強がらなくてもいいのに。「ほら、こやつが碧の温度差でパンクしておるぞ。」麻璃亜がケタケタ笑いながら言った。「もう、母さん……笑わないでくれ……。」麻璃亜の誕生日パーティーでもみんなからからかわれていたような……そういうキャラなのかな。というか、碧の食虫植物のぬいぐるみはどうなったんだろう……?なかなかのセンスだよね……。「そうそう、それと、碧は秘密組織の総統なのじゃ。」え、秘密……組織?麻璃亜がポロッとこぼした瞬間、碧が麻璃亜に飛びかかった。「かーあーさーんー!?!?それだけは言っちゃダメだと何回言ったか!!この存在が知れ渡ったらどうなるかわかって言っているのかい!?」麻璃亜のほっぺたをつまんでぐりぐりと引っ張った。「いたたたた、すまんすまん碧〜。ついうっかり……。」「うっかりで、はい、許しますよ、と言える内容じゃないんだ!!」碧はすごい剣幕でまくしたてた。み、碧……ちょっとやり過ぎじゃ……?「やり過ぎ!?そんなわけがあるか!?」ええ……。「碧〜離しとくれ〜もう降参じゃあ〜。」「ダメだ!百年、いや三百年忘れないからね!?」そんなに……!?でも麻璃亜も悪意があったわけじゃないし、謝ってるよ。許してあげたら?「うっ……それはそうだが……。」碧の手が止まった。碧も、麻璃亜のことを尊敬してるんでしょ?その麻璃亜が信頼してるっていう自分……えっと、自分でもどうしてかわからないけど……。その自分に対してなら、っていう何か考えがあるんじゃない?「た……確かに……。」お、丸め込めたかも?「でも何で君なんだ?何の変哲もない人間に見えるが……。僕達と似た何かがあるのか……?」それは自分もわからないんだよね。麻璃亜に聞いても教えてくれないし……。「ふふ、そうじゃぞ。」もう……意地悪……。「母さんは大切なことは自分で考えろっていう方針だからね。」そうだよね……自分は子供じゃないから教えてほしいけど……。「ん〜?お主はもうわしらの家族と言ったはずじゃぞ?」あ、確かに。そう言われたね。「こいつと家族か……。」ええ!?何で嫌そうなの!?「嫌じゃないけど……急に現れた君を受け入れきれないだけだ。」そうなの……?まあ、普通そうかもね……。「碧は警戒心が強いタイプじゃからのう。最初は戸惑うかもしれんがゆっくり慣れていけばいいんじゃぞ。お互いにな。」「そうだね。僕も努力するよ。」「……で、まだ碧の能力の紹介の途中じゃったな。」「そうか。そうだったね。じゃあ詳細を教えてあげよう。……理屈は簡単だから、すぐわかると思うけどね。」うん。どんな感じなの?「さっきも言った通り、武器の扱いが上手くなる能力だ。ナイフ、銃、ナタ、ムチ……武器なら何でも上手く扱えるよ。」ふむふむ……んん?どの辺りまで扱えるの?「いい質問だね。凶器となるもの全てだよ。」つまり?「砲丸投げの砲丸も、ダーツの矢もね。」理屈は簡単って言ってたけど、意外と基準が難しいね。「僕の感覚でいうと、殺傷能力が高い武器ほど上手く扱えるんだ。だから、いつもはナイフと銃を使ってる。」そうなんだ……。「……でも、そんな能力に頼ってはいけないんだ。バレてしまったから言うが、僕は秘密組織の総統だ。だから、誰よりも強くいなくちゃいけない。だから日々、訓練は怠っていないよ。」そうなの?偉いね。「……ほ、褒められても……嬉しくないぞ。」碧が帽子で顔を隠してしまった。だが、嬉しそうだ。すると、麻璃亜が自分に耳打ちした。「碧はツンデレなんじゃ。今は素直じゃないが喜んどるから安心せい。」ツンデレ……かわいいところもあるんだね。二人でニヤニヤしていると、「なんだい?何がおかしい?」と、睨まれてしまった。「いや〜、碧は努力家じゃのう〜……と話しておっただけじゃ。」「努力家……。」碧がまた嬉しそうな顔をした。だが、すぐに表情を戻した。「コホン……で、他に聞きたいことはないかい?」えーと、じゃあ、碧と橙子、どっちの方が強いの?「……難しい質問だね。そうだね……強いて言えば、肉弾戦は橙子、武器を用いての戦いは僕、かな。」それぞれ得意分野が違うんだ。「そうだよ。僕は体術はそれほど得意じゃないんだ。逆に橙子は銃やナイフは上手く扱えない。」へえ……じゃあ、一緒に戦えばお互いの弱点を補え合える……ってことだね。「そうだ。話が早いね。」あれ、もう一人、刀を持った子がいたけど……?「ん、藍沙(あいさ)のことかい?」藍沙とは、藍色の髪のポニーテールに和服を着た礼儀正しい女の子だ。「藍沙は剣道が得意なんだ。僕みたいに色々扱えるわけじゃないが、剣道だけは僕より秀でているよ。」思い出した、自分が初めて十つ子に会った時、攻撃して来ようとしてたのがその三人だよね。「えっと……その節は悪かった。」いやいや、全然……。それにしても、バランスがいいね。橙子は体術、碧はナイフや銃、藍沙は刀……。「ふむ、確かにそうだね。僕ら三人が集まれば、向かう所敵なしだからね。」味方につくと頼もしいね。敵になるとかなり苦戦しそうだ。「む、苦戦どころじゃ済ませないよ。一人二秒で片付けてみせる。」あはは、流石だね。そんな会話を碧としていたら、麻璃亜が笑顔で見守っていた。「お主ら、やはり仲がいいみたいじゃのう。」「もう、母さん!何回も言わせないでよ……。」碧は自分と仲がいいと認めたくないようだ。……秘密組織の総統だから舐められたくないのかな?多分そうだ。「さ、お主ら、晩ご飯の手伝いをしとくれ。」「わかった。包丁を使う時は呼んで。」包丁も使えるの?「何を言っているんだい、包丁とナイフは同じだろう?」ああ、そっか。料理をする時にも発動するんだね、碧の能力。「みたいだね。あまり試したことはないんだけど。」「じゃあ、碧は玉ねぎを切って、お主は調味料を合わせとくれ。」了解!

 ——トトトトトトトトトトト……。はっ、早っ!碧が玉ねぎをみじん切りにしてくれているが、動きが早過ぎて目で追えない……!「ふふん、これくらい余裕だよ。」本当に包丁も上手く扱えるんだね。「早くて正確じゃな。碧がやってくれると助かるわい。」肉をこねながら麻璃亜が口にした。「碧の能力は人を傷つける力じゃが、こうやってたわいもないことに使うのもいいかもしれんのう。」「母さんは平和主義者だからね。本当は僕に秘密組織の総統をやめてほしいって思っているんだろう?」「まあな。じゃが、碧の好きにするとよいぞ。自分の人生を変えられるのは自分しかおらんからな。」でた、麻璃亜の名言。「ん?また出てしまったか?」麻璃亜が茶目っ気たっぷりにウインクをした。「母さんは僕らより長い時間を生きている、人生の先輩だからね。僕はいつも学ばせてもらっているよ。」でも麻璃亜って、普通の年寄りより大人びているな……っていつも思うよ。「まあな。そこらのあまちゃんよりかは少しばかり大人かもしれんな。じゃが、わしの実年齢を教えるつもりはないぞ。」それは聞かないよ。乙女に年を聞くのは失礼だからね。「乙女か……ふふ……。」麻璃亜が何故か笑った。一緒にいるといつも思う。この人は一体何歳なんだ……。千歳、と言われても納得できる気がする。「ほれ、手が止まっとるぞ。わしは料理には厳しいからな。ビシバシいくぞ。」は、はーい。そして、麻璃亜が言うほどビシバシではなかったが、無事、ハンバーグが完成した。「うん、上手くできておる。お主らのおかげじゃな。」そう言って自分と碧の頭を撫でた。「母さんはやっぱり料理が上手いね。今日の味も楽しみだ。」「ふふ、そうじゃな。じゃあ碧、兄弟たちを呼んできてくれ。お主は……向こうの部屋で食べるか。」そうだね。ハンバーグが浮いてる……ってならないためにね。自分の分をよそって向かいの部屋で食べることにした。「呼んできたよ、母さん。」「わーい!ハンバーグだー!」「ねむーい……。」「ママ、見て見て!」次々に子供達が押し寄せてきた。わっ、危ない危ない……。「わー、ごはんー!!」男の子が突進してきた。まずい、避けれない!ぐいっ!……わわっ!男の子とぶつかると思いきや、碧が手を引いて避けさせてくれた。危なかった……碧、ありがとう。「別に……君が心配だったわけじゃないから……。」えっ、それってツンデレの定型文じゃ……?「違う!何回言ったらわかるんだ!」ああ、ごめん……。「もう……。」「お姉ちゃん何一人で喋ってるの?」「え?ああ、何でもない。ほら、食堂でご飯食べてきな。」「はーい!」男の子が子供達の輪の中に帰っていった。「……はあ、もう君は引っ込んでいてくれ。」はい、ごめんなさい……。本気で謝ってしまった。「うう、そこまでとは言っていない……。」碧の優しい面が出ているのか、バツが悪そうだ。「ほれ、お主ら〜ご飯にするぞ〜。」「わかった……母さんはみんなと食べていてくれ。」え?「ん?……ああ〜わかったぞ。了解じゃ。ごゆっくり〜。」ど、どういうこと?「ほら、行くよ。お皿持って。」う、うん……。なんだかおかしいことになった。碧はみんなと一緒に食べないのか?……まさか……。えっと……碧?「なんだい?」碧が振り返った。もしかして……一緒に食べてくれるの……?「……そのつもりだけど?」え、ええーー!?「何をそんなに驚いているんだい。そっちがその気じゃないなら僕はみんなと食べるよ?」いやいやいや、ちょっとびっくりしただけで……ありがとう。「……どういたしまして。」あれ、顔が赤いよ?「……うるさい!もう……!本当に一言多いな、君は!」あはは、じゃあ二人で食べようか。まさか碧が一緒に夕飯を食べてくれるとは思わなかった。しかも碧自身から言い出すとは……。最初はやっぱり警戒されていたみたいだけど、なんだかんだで心を開いてくれたみたいだ。……ほんの少しだけ。あと、麻璃亜が言っていた通り、ツンデレだ。……ツンデレの定義はよくわからないが。「そうだ、ミルクティーは飲むかい?」ミルクティー?あるなら飲みたいけど……。「わかった。持ってくる。」部屋にご飯を置き、碧がキッチンに戻った。しばらくして、碧がマグカップを二つ持ってきた。「はい、ミルクティー。ホットでいいかい?」うん。ありがとう。寒かったから嬉しい。でも、何でミルクティー?「白愛(はくあ)の好物なんだ。」白愛って……白髪で引っ込み思案な子?「そうだよ。よく茶葉から淹れて作っているから、たまに分けてもらっているんだ。……まあ、僕が飲みたかったってのもあるけど。」え、なに?「何でもないっ!さあ、冷めないうちに食べよう。……いただきます。」いただきます。ミルクティーを一口……うん?……あまっ!!うう、ガムシロップを飲んでるみたい……!「はあ……落ち着く味だ……。」何で碧は平気なの!?「ほう……?さては甘すぎると思っているんだろう?僕と白愛と桃花(ももか)姉さん以外はみんなそう言う。」じゃあ何で持ってきたの!?自分じゃ飲めないよ……。「む、それもそうだね。悪かった。僕が代わりに飲むよ。」いいんだ……。でも……口つけちゃったよ?「え、ああ……そうだね……間接キス……。ま、まあ気にしないでおこう。」結局、この激甘ミルクティーは碧が飲み干した。ん、このハンバーグ、柔らかくて美味しい!「母さんのレシピを見る限り、肉半分、豆腐とつなぎ半分、という感じだね。」豆腐が入ってるのか。ヘルシーだし柔らかいし、いい案だね。「肉は高いから、豆腐で費用も抑えている。流石母さんだ。」なるほど!それはすごい。ふと、碧の皿を見ると、とあることに気づいた。付け合わせのにんじんがよけられている。……碧、にんじん嫌いなの?ギクッ……。あっと、これは……。「ち、違う……あとで食べようと思っていただけだ。」そうなの……?嘘だ。これは完全ににんじんが嫌いだからよけているんだな。もう、素直じゃないな……。でも、また一言多いと言われそうなので黙っておくことにした。

 ——「ごちそうさまでした。」ごちそうさまー。ふぅ……お腹いっぱい。「ほら、お皿を片付けてくるからちょうだい。」いいの?ありがとう。「……うん。君が行くと色々面倒だから。」ああ、はい……。でもなんだかんだで優しいな碧は。本当はいい子なんだろう。やっぱり総統として、威厳を保とうとしているだけなのかもしれない。やはりいつも、十つ子達を知っていくにつれてみんな意外な面が見えてくる。人は表面だけじゃわからないんだ。そう改めて思った。「何を考えているんだい?ほら、みんな食べ終わったから片付けをするよ。」あ、うん。碧とキッチンへ戻ると、麻璃亜が子供達の相手をしていた。「ママ最近居ないねー。忙しいの?」「そうじゃ。ごめんな。またお主らが好きなお菓子買ってくるからな。」「ほんと!?じゃあ待ってるねー!」子供達が去っていった。「お主ら、デ……食事は終わったか?」何言いかけたの……。「兄弟はみんな行ったかい?」「ああ。みんな部屋に戻ったぞ。お主も出てきて大丈夫じゃ。」よかった。碧がすごく甘いミルクティーを持ってきて大変だったんだよ……。「白愛のミルクティーか。そうじゃな。あれは甘すぎるのう〜。」ほら、麻璃亜も言ってるよ!「作ったのは白愛だよ。僕に言わないでくれ。」そっか、早く白愛に会って文句言わないと。「……白愛は傷つきやすいんだ。あまりいじめてやるなよ。」そう……?わかった。「じゃあ、わしらは帰るぞ。」「もう帰るのかい?そうだ、これを。」ん?何これ。「団子だよ。明日会う姉妹に渡してやってくれ。……本当は僕が食べたかったけど。」まだ食べる気!?「だから、あげるって言ってるだろ?ほら、行くなら早く行ってくれ。」「わかった。ありがとな。んじゃあ、またな、碧。」またね。今日はありがとう。「ああ。おやすみ。」「……さーて、今日はご飯も食べたし、あとは寝るだけじゃな。」外ももう暗いね。「気をつけて帰らんとな〜。夜の森は危険じゃから、しっかりついてくるんじゃぞ?」わかったよ。……それにしても、冷えるな……。「寒いのか?」麻璃亜がそう言うと、暗い夜道に光が灯った。麻璃亜の魔法だ。すると、ふわっと体が暖かくなった。何が起こったのか確認すると、自分が水色のパーカーを着ていた。なにこれ、暖かい!「お主は薄着一枚じゃろ?プレゼントじゃ。暑さと寒さを感じにくい魔法がかかっておるから、オールシーズンで着られるぞ。」ありがとう……!大切にする!「うむ。帰ったら風呂じゃ〜。入浴剤、何を入れようかの〜。」ラベンダーがいいな。「お、いいのう。」そんな話をしながら、麻璃亜の家のある森へ帰った……。

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