第5話 五女・黄菜
——準備できたよ、麻璃亜。「うむ。それでは行くか。」ガチャ……。朝日が眩しい……今日もいい天気だ。少し寒いが、やはり森の中は心地いい。自然っていいね。「ふふ、そうじゃろう。わしの故郷はもっと自然豊かじゃぞ。」そうなんだ……ていうか、麻璃亜はこの国の人じゃないの?「そうじゃな。ちと昔にこの国に来たが、遠い国の出身じゃ。」遠い国……。「うーむ、お主ほどではないかもしれんがな。……どうじゃ?何か思い出したことはあるか?」わからない……けど、この世界にも慣れてきたから、案外同じような世界だったのかもね。「わしもどうにか帰る方法を探しているんじゃが……あまり手掛かりは掴めておらん。」そっか……。「まあ、少しの間のひと休みと思ってゆっくりするとよい。時間はたっぷりあるからのう。」それもそうだね。「……で、じゃが。次の子がどこに居るか探さないとな。」孤児院じゃないの?「それがな……普段はあまり孤児院にはおらんのじゃ。静かな廃墟にいる時もあれば、騒がしい街中にいることもあるんじゃ。だからどこにいるか、さっぱりわからん。」そ、そうなの……?麻璃亜でもわからないなんて……。「じゃが、動かなければ話は進まん。とりあえず、居そうな場所を手当たり次第探してみるしかないのう。」りょ、了解……。
——ね、ねえ……そろそろ、休憩しない……?途切れ途切れに自分は呟いた。「ん?どうした?」先を歩いていた麻璃亜が振り返る。いや、だって……ずっと……。「ああ〜、もう三時間経ったのか。そうじゃな、休憩しよう。」ありがとう……はあ……。「すまんのう、気付けずに。握り飯を作ってきたから食べるか。腹も減っているじゃろ。」うん……お腹空いた。二人で公園のベンチに腰掛け、昼ご飯を食べた。「それにしても、どこにもいないのう……。いつもはちと意外な形で見つかるんじゃが……。」うう、そろそろ限界……。「んもう、忍耐力がないぞ、お主。早く橙子と筋トレしてみたらどうじゃ?」疲れるのは、ちょっと……。「ガリガリ過ぎるのもよくないからな。沢山食べ、沢山寝て、沢山運動するのが長生きの秘訣じゃぞ?」麻璃亜はよくこんな発言をするが、年齢を聞くと「秘密じゃ♪」と言ったり「まだぴちぴちじゃぞ〜。」と言ったりする。本当はいくつなんだろう……見た目は子供だけど……ちびっこ……。「むっ、お主、今すごーく失礼なことを考えていないか?」いやいや、そんなわけないじゃん。別に何も……。「いやー、今日は見つからんかもしれんのう。また日を改めるか?」うう、それもそうだね。今日は……。そんなことを話していたら誰かが公園に入ってきた。誰だろう?黒い髪を短めの三つ編みにして、大きな丸眼鏡をかけた女性。瞳の色は燃える様な赤色だ。あれ、麻璃亜も同じ色だったような……。その女性は自分達に気付いて、駆け寄ってきた。「あ、いた〜!お母さ〜ん!」ええ、誰!?麻璃亜の知り合いかな。いや、お母さんって言った!?孤児院の子……?「おお、琥珀ではないか。元気か?」「元気ですよ〜♪って、そうじゃなくて!」琥珀、と呼ばれた女性はカバンから花束を取り出した。「ごめんなさい、この前誕生日でしたよね!おめでとうございますのプレゼントです!受け取ってください〜!」「いいのか?ありがとう。」麻璃亜が花束を受け取った。「えっと、最近忙しくて、お母さんの誕生日を忘れちゃってたんです……当日に祝いたかったけど……。」琥珀が素直に忘れていた、と発言した。かなり正直で嘘はつかない性格の様だ。「大丈夫じゃ〜。わしも自分の誕生日を忘れておったからのう。」「ふふ、そうなんですね。お母さんらしいです。……ところで……あなたは?」え、自分のことが見えるの!?「?……はい、はっきりと。」「なるほどな。琥珀にも見えるか。そんな気はしていたがのう。」麻璃亜、それってどういう……。「いや、何でもない。」隠さないでよ、もう……。「ふふ、二人はもう仲良しのようですね。……でも、この前会った時はこのお方とは一緒にいませんでしたよね。いつ頃から知り合ったんですか?」いや、つい最近だよ。麻璃亜の誕生日に出会ったんだ。「そうなんですね!私の名前は琥珀です。ぜひ仲良くしていただきたいです♪」うん、よろしくね。……ところでさ、二人は家族……?「え?そうですけど……。」あ、えっとそうじゃなくて、本当の血の繋がった家族かってこと。二人とも、髪の色も瞳の色も一緒だから、もしかして……。「いや、違うぞ。わしらは本当の家族ではない。ちと長い間一緒にいるだけじゃ。」やはりそうか。でも二人はよく似ている。もしかすると、別の繋がりがあるかもしれない。それ自体がわからないが……。あれこれ考えていたら、「そうじゃ、琥珀。」「何ですか〜?」「黄菜を知らないか?」「黄菜ちゃん……あ!さっき会いましたよ〜!」本当!?やった、大きな手掛かりだ!「んじゃあ、案内を頼んでもよいか?」「はい!もちろん♪」
——「この辺りだったと思います〜。」琥珀に連れられて静かな森の中へ来た。……森といっても麻璃亜が住んでいる森とは少し違うが。ここは木々が重なってとても暗いが、麻璃亜が住む森は森の中だということを忘れるくらい光が入っていて明るい。そして空気がみずみずしくて美味しいが、ここの森は空気がどんよりとして重苦しい。なんとなく、そう感じた。本当に、ここに人がいるのだろうか。五人目の姉妹、黄菜は謎多き存在だと麻璃亜から聞いている。一言も喋らず、意思疎通をする時はジェスチャーで意思を伝えるらしい。そしてよく食べる……くらいしかわからないのだ。「あ、いましたよ〜!黄菜ちゃん〜!」案外あっさり見つかった。「黄菜〜遊びに来たぞ。」「……。」黄菜は喋らない。ど、どうも……。「……。」黄菜はやる気のない目をしていて、少し不機嫌なような雰囲気さえも感じる。イコール、怖いのだ。「黄菜ちゃん、何してたんですか〜?」琥珀が全く気にせず話しかける。「……。」「ふむふむ……。」え、わかるの!?「いいえ、わかりません♪ですが、わかることが重要な訳ではありません。わかろうとすることが重要なんです。」そ、そうなの……。「たぶん……ただ独りでぼーっとしてただけだと思いますよ〜。黄菜ちゃんはぼーっとすることが好きなので!」な、なるほど……?「ふふ、黄菜は今日も相変わらずじゃな。」でも、黄菜が喋らないんじゃ、姉妹巡りにならなくない?「それなら、私が黄菜ちゃんの通訳になりますよ〜!」通訳……?「それは名案じゃな。琥珀に任せるとよい。琥珀は黄菜の通訳には慣れておる。」それじゃあ……お願い。すると、黄菜がこっちを見た。ひぃ……そんな目で見られると怖いんだけど……。「……。」えっと……じゃあ、好きな食べ物はなに?「……。」「……うんうん、大抵何でも好きだよ、ですって!」ああそうか、この前も野菜でも肉でも何でも食べてたもんね……。次は……趣味はなに?「……。」「……ぼーっとすること!」飽きない?「……。」「……独りでゆーっくりするのも悪くないでしょ?らしいです♪」そっか……いい趣味だね。コクリ。黄菜が頷いた。あ、そうなんだ。あとは……姉妹のことは好き?「……。」コクリ。おっ、琥珀が通訳する前に反応した。「ふふ、やはり黄菜は優しいのう。家族思いなよい子じゃ。」よしよし、と麻璃亜が黄菜を撫でた。話したことないのにわかるの?「ああ、わかるとも。魔法でなくとも、な。」そっか……。ふふ、と思わず笑ってしまった。麻璃亜達は微笑ましいよ。「そうか?そう言われると嬉しいのう〜。」「そうですね、私も仕事の同僚によく言われます〜。琥珀ちゃんのところの孤児院、良いよね〜って。」「えへへ、照れるのう。わしもどうやったら子供達が幸せに暮らせるか……そう考える時さえ楽しいからのう。」面倒見がいいよね。そういう人じゃないと務まらないよ。「そうですね〜。血は繋がってないけど、私、お母さんの娘でよかったです♪」「お主らどうした〜?褒めても何も出んぞ?……嬉しいがな。」すると、ずっと話を聞いていたであろう黄菜が動いた。「ん?どうした、黄菜。」黄菜は麻璃亜に近づき、そしてその小さな体で麻璃亜に抱きついた。き、黄菜?どうしたの!?「はわわ……!めちゃかわですぅ〜♡写真撮ってもいいですか!?」琥珀が興奮しだした。いやだめでしょ。「おうおう……今日の黄菜は甘えんぼさんじゃな。よしよし。」喋らないし真顔だけど……きっと麻璃亜のことが好きなんだろう……。麻璃亜は子供達を愛し、そして子供達にも愛されているんだろう。自分には家族がいたのかな……?いや、自分が存在している時点で両親はいるのか。思い出せないけど、いつかまた会いたいな。少ししんみりしてしまった。それを察したのか、「だいしょぶじゃ〜。お主ももう、わしらの家族じゃ。」と麻璃亜が救いの手のようなことを言ってくれた。家族……ありがとう、嬉しいよ。「ふふ、悲しかったら無理に隠さなくてもいいんじゃ。泣いたっていいんじゃよ。止まぬ雨などないからな。」「名言ですね、お母さん!」「そうか?わしは歩く名言集じゃからな。」麻璃亜が胸を張った。黄菜はまだ麻璃亜に抱きついたままだ。すると、麻璃亜がひょいっと軽々黄菜を抱き上げた。「抱っこも久々じゃのう。小さかった頃はみんなおねだりしてきたから大変じゃったんだぞ?」十人いればね……そりゃ……。「大きくなったのう……ついこの間までハイハイしておったのに……。」「そうですね。小さいみんなも可愛かったです♪」えっと、ちなみに琥珀は何歳?「十八歳ですよ〜。学校は全部卒業したので、今は社会人として働いてます。」へえ、社会人……ええ!?「どうされました?」十八歳ってまだ高校生か大学生くらいの年齢じゃない……?なんでもう働いてるの!?「琥珀はな、世界的ハイレベルな学校を飛び級で卒業したんじゃ。」飛び級!?へ、へえ……自分には縁のない単語だ……。「いえいえ、大したことじゃないですよ〜。それよりすごいのはお母さんです!」麻璃亜が?「はい。やっぱり、外国の学校は学費が高かったんです。でもお母さんは私のために、学費を全て出してくれたんです。私も当時はお金がなかったから……。」……まって。「はい?」麻璃亜、魔法でお金を作ることってできる?「ああ。おちゃのこさいさいじゃ。」やっぱり!全然すごいことじゃないじゃん!「ふふ、確かにそうかもしれません。ですが、私はお母さんがそこまでしてくれたことがとても嬉しいんです。」……それもそうだね。「うむ。……さて、これからどうする?琥珀と黄菜は昼ご飯は食べたか?」「あっ、私食べてなかったです!黄菜ちゃんは……。」「……。」「食べていないみたいです。」ほ、本当?自分と麻璃亜は食べた……けどちょっと物足りないね。「そうじゃのう。握り飯しか食べておらんからのう。じゃ、四人でおしゃんなカフェにでも行くか?」カフェ!いいね。ガッツリよりかはケーキひとピースとかコーヒーとかの方がいいかもね。コクッコクッ。黄菜が強く反応した。「やはり黄菜は食べることが好きじゃのう。」こうして見ると、黄菜は感情がないわけではないんだな、と感じた。無表情で話さないだけで、ちゃんとした人間だ。少し勘違いをしていたかもしれない。黄菜、楽しみ?……コクッ。……ははっそっか。「お二人とも、楽しそうですね♪それでは、善は急げ、カフェに行きましょう!」
——「いらっしゃいませ!何名様ですか?」「三人じゃ。」「はい!それではこちらのお席にどうぞ!」明るい店員さんが案内してくれた。補足を入れると、自分は麻璃亜、十つ子、琥珀以外には認識されない。……少し慣れてきたが。「今日は私が奢りますよ〜!丁度この前、給料日だったので!なんでも頼んで大丈夫ですよ♪」「いいのか?ありがとう。うーむ、どれにしようか……。」自分は……このカフェラテにしようかな。「わし、アップルパイ〜。」「いいですね♪私は……うーん、お腹空いているのでサンドイッチにします。黄菜ちゃんはどうしますか?」「……。」ぴっ……。黄菜がピザを指差した。そして次々にサラダ、パスタ、スープ、カレー……。えええ!?どんだけ食べるの!?「ふふ、大丈夫ですよ。黄菜ちゃんは普段もっと食べます。私のお金は気にしなくていいですよ〜。」そういう問題……?なんで痩せてるんだ……黄菜は……。「お主も割と痩せてると思うが……まあ、よいか。」店員さんをよ呼び、注文をした。三人で食べる量ではなかったので店員さんは驚いていた。……ほぼ黄菜のせいだが……。「ご注文は以上でよろしいですか?」「はい〜!」「では、ごゆっくりどうぞ!失礼致します。」店員さんが離れていった。それにしても、ここのお店、おしゃれだね。麻璃亜が言っていた通りだ。「そうじゃろ?ここら辺では一番のカフェじゃ。うちの孤児院の子供達もよく通っておる。」「ですよね〜!私もよく、作業しに来ますよ〜。ここは実はコーヒーが美味しいんです♪」「確かにそうじゃったな。お主、カフェラテの感想頼むぞ。」へえ、楽しみ!任せて。料理が届くまでの間、雑談に花を咲かせた。琥珀ってOLなんだ。「そうなんです〜。楽しくお仕事させてもらってます♪」でも、飛び級したならもっと収入が良いところに就職すればよかったんじゃ……?「それは少しそうなんですけど、私はやりたいことがあったんです。」やりたいこと?「はい。私は両親がいない孤児でした。そんな私を引き取ってくださった麻璃亜お母さんに恩返しがしたくて、早く働きたかったんです。」うんうん。「それで、私も親がいなくて困っている子供達を助けたくて、子供支援をしている会社に入ったんです。」え、偉い……!そんな理由があったんだね。「はい!実際、各地の孤児院に訪問して子供達と交流したり、イベントを開催したりしてます♪」そうなんだ……やりたいことをやれる仕事っていいね。楽しいなら尚更だよ。「じゃな。琥珀が立派になってわし、嬉しいぞ。」麻璃亜が自分より背が高い琥珀の頭を、手を伸ばして撫でた。麻璃亜は癖なのか、よく子供達をこうやって撫でる。「ふふ、ありがとうございます、お母さん。」そんな話をしていたが、黄菜はまた自分のことを見ていた。うっ……視線が痛い……。なぜか黄菜に見られていると、気になって落ち着かない。見ないで、と言うのも違うと思って何も言えないが……。気にしないでおこう……。うん、気にしない気にしない……。「お待たせしましたー!」あ、きた!気を紛らわすことができそうだ。よかった……。カフェラテのいい香りがした。とても美味しそうだ。麻璃亜のアップルパイ、琥珀のサンドイッチ、黄菜の諸々……。黄菜の料理は机いっぱいに置くしかなかった。かなりキツキツだ……。本当に全部食べれるのか?これ。やっぱり店員さんも少し引いていた。ですよねー。こんな細い子が全部食べるなんて……。「で、ではごゆっくり!」「うまそうじゃの〜。」「ですね!ここ、コーヒーだけじゃなくて料理も美味しいんですよ♪」「……。」いただきます。「いただきまーす。」「いただきますっ♪」「……。」みんなで手を合わせて食べ始めた。黄菜もちゃんと手を合わせた。そこは律儀だ。カフェラテを一口……うん、美味しい。コーヒーの苦味とミルクの甘さ、濃厚さがちょうどいい割合で混ざっている。そして鼻を抜ける風味も極上だ。外は寒かったので暖かいカフェラテは嬉しい。「う〜ん、リンゴがシャキシャキで甘くて、シナモンもちゃんと効いておる。流石のお味じゃな。」「このサンドイッチもとっても美味しいですぅ〜!お野菜もですが、挟んである大きなベーコンも肉厚で……!タレも甘辛でしつこくないです♪」「……。」ムシャムシャ……。麻璃亜と琥珀と自分が感想を述べる中、黄菜は淡々と食べ続けている。ま、まあそうですよね……。「黄菜、そのパスタ、ちともらえるか?」……コクッ。え、いいんだ。黄菜がパスタを器用に巻いて、麻璃亜に食べさせた。「うんうん……これはバジルのパスタじゃな。肉が入ってなくて嬉しいわい。」麻璃亜は肉が嫌いだからね。「ああ。硬くてパサパサしていて……長い間生きてきたが、食べたのはほんの数回じゃ。」「実は、私もお肉は少し苦手で……。お母さんほどではないんですが、食感や舌触りがあまり好きではないんです。」琥珀も?「はい。完全に食べれないわけではないんですけど……。あ、黄菜ちゃんは好き嫌いはないようです。なんでも食べれる人はそういないみたいですね。」うーん、自分も癖の強い食べ物は苦手かな。「ふふ、そうじゃろ?みんな違ってみんな良い、じゃ。」そっか。そうだね。さすが麻璃亜、大人びてるね。「そうか?……まあ、よく言われるかもな。」「ふふふ、お母さんは本当に大人びていますよね〜。みなさん、見かけは子供だと思った、とおっしゃる方が多いんですが、だんだん話していくにつれ、おばあちゃんと話しているみたい……と考えを改める方も多いです♪」おばあちゃん……は失礼じゃない?「いいんじゃよ〜。……悪気がなければな。」ああー、昨日、悪意のこもったクソババアが炸裂してたからね……。「あれは酷かったのう〜。まあ、相手はもうこの世にはいないがのう。」「?どういうことですか……?」えっと、昨日ね……。琥珀に昨日あったことを包み隠さず打ち明けた。琥珀も、何か知っているかもしれない。「そんなことが……。その……お亡くなりになった方が、十つ子ちゃん達の親御さんのことを知っていたんですね……。不思議です。」琥珀は何かわかった?「いえ、特には……。ですが、少しおかしい点がありました。」え、どういうこと?「どうして、それだけの情報、力を持った方々が一般的な街のファストフード店を襲ったのでしょう?」
——つ、つまり……武装勢力があの店を襲ったのは何か理由があったってこと?「そうです。そしてお客さんを人質にとらなかったのも疑問点です。」な、なるほど……確かに……。「やはり琥珀も気づいたか。あやつらは金目当てに店を襲ったわけではない。重大な理由があって襲ったのじゃ。リーダーの男に聞きたいところじゃが……自刃したからのう……警察に取り押さえられた仲間に聞いてみた方がいいかもしれん。」「そうですね……ちゃんと話してくれればいいんですが……。」「簡単には口を開かなそうな相手じゃったからのう。じゃが、仲間を警察が上手く尋問してくれている頃かもな。」そう願いたいね。……って、黄菜、もう全部食べたの!?黄菜がデザートに巨大なパンケーキを食べていた。「ありゃ。料理がほとんどなくなっておるのう。」「黄菜ちゃんは大食いで早食いなんです♪」そうっぽいね……。琥珀……本当にお金、大丈夫……?「大丈夫ですよ〜。来月はちょっと節約しますから!」「金に困ったらわしに相談するんじゃぞ?」「わかってますよ〜!でも、自分で働いたお金で美味しいご飯をみんなで食べる……。それがとっても楽しいんです♪」「うむ。よい心がけじゃ。ちゃーんと自立しておって、わし、感激じゃ〜。」麻璃亜が琥珀をぎゅーっと抱きしめた。「お母さん〜、私はもう子供じゃないですよ〜。」そんなことを言ったが、琥珀はこれ以上ないくらいに嬉しそうだ。すると、パンケーキを食べていた黄菜の手が止まった。どうしたの……?「……ああ!私も、ってことですね♪」そうなの?「ふふ、黄菜、おいで。」黄菜がフォークを置いて、麻璃亜と琥珀に勢いよく抱きついた。「ひゃっ!」「おお。そんなに羨ましかったのか?お主もまだまだ子供じゃのう。……じゃが、いつまでも子供でもよいぞ?かわいいからな。」あはは、よくあるよね。親が子供にずっと子供のままでもいいって思うこと。「そうじゃな。親にとって、子は世界中のどの宝石よりも大切な存在じゃ。当たり前と言えば当たり前じゃな。」「目に入れても痛くないってことですね♪」「そゆことじゃ。」……子供を愛さない親っているのかな。場が凍りついた。……あっ、ごめん……。「いや、大丈夫じゃ。……そうじゃな……いないと言ったら嘘になるな。」やっぱりそうだよね……。「うーん、毒親っていう言葉もありますもんね。」毒親……。うーむ、とみんなで考え込んでしまった。うう、なんだかすごく申し訳ない……。さっきまで楽しい雰囲気だったのに空気がどんよりとした。「で、でも、この世には幸せなお宅がたくさんありますからね!親御さんが少し悪くても幸せになれないわけではないと思います!」琥珀が切り出した。「そうじゃそうじゃ。幸せは自分で掴むものじゃからな。」うん。きっとそうだよね。黄菜も食べる手を止めて、頷いた。この話はもうやめようか。「ですね♪もう少し楽しい話をしましょう!」……そういえば、黄菜達は春から高校生なんだよね?「ああ、そうじゃな。いやー、時の流れは早いのう〜。」「確かにそうでしたね♪私も何かお祝いしないと!うーん、何がいいかな……?」みんなでどこか出かける……とか?「いいですね〜!ご飯でも旅行でも!」楽しそうだよね。「じゃが、孤児院の子供達全員は連れていけないな〜。十つ子以外は留守を頼まんとな。」「あ、そっか……んー、難しいですね〜。」あれ、孤児院にはたくさん子供がいるんだよね。いつもはご飯とかどうしてるの?「琥珀とわしで日替わりで作っとるぞ。お主が来てからはほぼ琥珀に任せていたが……そろそろ子供達も寂しがっている頃じゃな。今日の夕飯はわしが作るぞ。」「了解です♪じゃあ、今日は私は家でゆっくりしますね。」麻璃亜のご飯っておいしいよね。琥珀も得意?「私はあんまり……。お母さんほどは上手く作れないんです。」麻璃亜が上手すぎるっていう説もあるね……。「そうそう!本当にそうなんですよ!お母さんの料理は魔法がかかっているような不思議な味がするんです♪」ね!麻璃亜、料理の秘訣とかってある?「そうじゃな……強いていうなら、愛じゃな。」愛……?琥珀と自分が息ぴったりに答えた。「愛さえあれば、世界中のいかなる料理でも美味しく作れるんじゃ。」ほ、ほんとに?「ああ。魔法ではないぞ。美味しく食べてほしい、ちゃんと食べて育ってほしい……。そんな想いを込めれば誰の料理だって一流のシェフの味じゃ。」へえ……。いやでもそれってゴリ押し……「なるほど♪ありがとうございます、お母さん!私これから、レシピを見ずに心を込めて作ります♪」こ、琥珀……レシピは見ようね……。
——四人で……いや、三人か……カフェで話していたらあっという間に夕方になってしまった。だが、すごく楽しかった……。すると会計を済ませた琥珀が、「じゃあ、私はこれで失礼しますね。」と言った。え、孤児院に戻らないの?「そうしたいんですけど……他にやることがあって……。ごめんなさい。」そっか、なら仕方ないね。今日はありがとう。「いえいえ、こちらこそ!それでは〜♪」琥珀が去っていった。「さて、と。わしらはどうする?孤児院に戻るか?」そうだね。そうしよう。黄菜は?「……。」あー、通訳がいなくなっちゃった……。えっと、それじゃ、……黄菜、自分達と一緒に孤児院に戻る?……フルフル。黄菜が首を振った。じゃ、じゃあさっきの森に戻ろうか。……コクッ。「おお〜お主、黄菜とよく意思疎通できたのう。初対面の人はほぼできんぞ。」そうなの?ちょっと嬉しいかも……?……テクテク……。黄菜が歩き出した。あっ、ちょっと待って!……行っちゃった……。「まあな。黄菜の行動は読めんから、慣れていくしかないぞ。」あはは、そうなんだ。でも、少しだけ、黄菜のことが知れた……かも。「おお、進歩じゃな。んじゃあ、わしらも孤児院に戻るぞ。」太陽が沈む夕方って、やっぱり好きだ。名残惜しく、赤、オレンジ、黄色が空を染める中、容赦なくやってくる藍色。そしていずれ空は黒に染まっていく……。少し悲しいが、それでもまた訪れる朝もとても魅力的だ。でも、時々思う。この世界はとても……懐かしい……。




