第4話 四女・橙子
——「母さんーー!!あたしダメぇ!もう無理ぃーー!!」うわーー、と入ってくるやいなや橙子は泣き出した。「おうおう……どうしたんじゃ?」麻璃亜が至って冷静に応える。「高校準備の課題があることを今思い出したの!やばいって!さっき葵に言われるまで気づかなかったの!」ええ……そんなことあり得る?普通、もっと早くに……「は?うざ。アンタには聞いてないんだけど。」ひぃ……スミマセン……。橙子が冷たすぎる目をこちらに向けた。「あーもー、どーしよー……。」橙子がしゃがんだ。「まあまあ、そう急がなくても。まだ二月じゃろ?時間はたーっぷりあるんじゃ。今からゆっくり事を進めればよい。」「うう……そーかな……。」「そうだよ!わたしも手伝うから。」「え!いいの!?ありがとー!桃花!全部あたしの代わりにやってくれるってことだよね!」「もー、違うよー橙子ちゃん。一緒に、だよ!」「えー、あたしもやんのー?ちぇー。」あはは……麻璃亜、桃花の次って橙子……だよね。「ああ、そうじゃ。四女じゃからのう。ナイスタイミングじゃな。橙子の部屋に行けるよう、鎌をかけてみるか。……橙子、ちとお願いがあるんじゃが、よいか?」「ん、お願い?なに?」「今、こやつと姉妹巡りをしとるんじゃ。」「姉妹巡り?なにそれ」えっと、十つ子達に上から順番に会いに行ってるんだ。「ふーん、上からね……。じゃ、次はあたしってこと?」「そうじゃ。こやつを部屋まで案内してやってくれんか?」「えー、あたし、ほぼ初対面のやつを部屋に入れたくないんだけど。」うっ……そ、そうなんだ……。「えー、だめか?橙子。お願いじゃ、お願い。」「えー?もー、仕方ないあ。わかったわかった!あたしの部屋に行かせてあげる。だけど、一つ条件がある。」じょ、条件?「あたし、ポテトとハンバーガーがだーいすきなんだよねー。だ、か、らー、奢って♡」え、ええーー!?自分、一銭も持ってないんだけど!「はー?そんなわけないでしょ?アンタ、隠してんのー?」本当だって!「橙子、こやつは遠い異郷の地からきたようじゃ。だから金は持っておらん。わしが保証するぞ。」「なにそれ、まじ?」「ま、今回はわしが払うぞ。お主、貸一つじゃからな?」麻璃亜がウインクした。「やったー!!早く行こーよ!」橙子はいかにも待ちきれない様子だった。……この姉妹、子供っぽい子が多いな……。「あ、わたしはいいよ!オリヴィアと遊んでるねー!」桃花は意外と大人っぽいんだよな……。「わかった。そんじゃ〜出発〜。」
——「ふーんふふーん♪楽しみ楽しみー。」「ふふ、ご機嫌じゃな、橙子。」「楽しみに決まってるじゃーん!なんか久しぶりなんだよねー。」「そうじゃの〜わしもじゃ。」そうなんだ。何を頼もうかな……。「やっぱコーラは外せないっしょー!」「うむ。リンゴジュースもじゃ。」「あはは、ほんっと母さんってリンゴ好きだねー。」「お、見えてきたぞ。」「ふぅーーー!!上がるぅ!」橙子が走り出した。あ、ちょっと待って!自分も走り出そうとした次の瞬間、後ろに居たはずの麻璃亜が一瞬で目の前に現れた。ぶつかるギリギリで自分は急ブレーキをかけた。そしてかなり前に居た橙子の首根っこを掴んでいる。この一瞬で橙子を引き寄せたのか!?「ぐえ、ちょっと、母さん!?」え、なに?「しっ、何か様子がおかしい。」驚いた。麻璃亜の声が少し緊迫した声色になった。「え、おかしいって……何が?」「静かすぎる。」麻璃亜はそれだけ答えた。それって、どういう……?麻璃亜は橙子を下ろし、何か集中し出した。今気づいたことだが、初めて会った時、麻璃亜の耳はエルフの様に尖っていた。そして、今は丸い。これが何を意味するのかはわからなかった。だが、手や体に光……魔法の様なものを纏った瞬間、耳が尖った。そしてしばらくすると、麻璃亜はこう告げた。「中に強盗がおる。」――自分と麻璃亜、橙子は茂みに隠れた。ど、どういうこと?強盗って……。「ふーん、やっぱそうか……。なるほどね……。」橙子はわかるの?「……まったくわからんっっ!!」「ふふ、素直でよろしい。わしの魔法で中を覗いてみたんじゃ。するとな……武装集団が中を独占しておる。客諸々な。」「はあ?なんで!?」「それはわしにもわからん。じゃが、かなりの手練れじゃ。警察が簡単に勝てる相手ではない。必ず死者が出る。」うそ……じゃ、じゃあ、どうすれば……。「簡単じゃ。奴らを倒せばよい。」ええ!?どうやって!?「わしが単騎で乗り込む。」……はああああ!?!?と、自分と橙子が叫んだ。「もう〜お主ら、しっ、って言ったじゃろ?」いやいやいや、麻璃亜がいくら強くったって無理でしょ!自分も行くよ!「そうそう!母さん、バカになったの!?母さんが行くならあたしも行く!」「お主ら……わしを舐めておるじゃろ?わしはまだまだ現役じゃ。このくらい、大したことないわい。」だめだめ!無理だよ!「んもう……。はあ……お主らは優しいのう。良い子じゃ。」よしよし、と麻璃亜が自分と橙子の頭を撫でた。「大切なお主らを失いたくないんじゃ。わしはもう……。」え……?麻璃亜が俯いた。だがそれは、一瞬のことだった。「わかるか?危険じゃ。わし一人で行く方がよい。わしを信じてくれ。」麻璃亜……。「……わかった。でもさ、前衛がいた方がよくない?」橙子がニヤッとした。「こいつには教えたくなかったんだけどさ、あたしの能力、使っちゃわない?」橙子の……能力?「……本気か、橙子?」「本気に決まってるじゃん!あたしが嘘つけないの、知ってるでしょ?」「それもそうじゃな。」うん、と麻璃亜が頷いた。「じゃ、いっちょ教えたるかー!あたしの能力。」教えてくれるの?「母さんが否定しないならアンタに教えてもいいってことよ!」「ふふ、流石じゃ橙子。勘がいいのう。」「へへっ、勉強はできないけどねー。あたし、ちょー強くなる能力持ってんだ。」ちょー強くなる能力?「そ。その名も、運動神経が向上する能力!」運動神経……?「えー?アンタ、運動神経の意味もわかんないの?」いや、それはわかるけど……。「まー、やってみた方が早いか。アンタ、手、出して。」え……はい。ギュッ!!!……いててて!!!橙子と握手した瞬間、とんでもない力で握られた。こんなに腕も足も細いのに、筋骨隆々な大の大人と握手している様だ。「ま、これが本気じゃないけどねー。本気で握ったら骨折れるし。」ひ、ひええ……恐ろしい……。「五十メートル走は……四秒くらいだったかな。」世界記録超えてない!?「超えてるよー、みんな遅すぎ。あー、いつかスカウトもきてたっけ。」十つ子の能力……一体何なのだろうか……。この世界は不思議だな……。「格闘技も習ってるから、大人の相手なんて楽勝でしょ!」そうなんだ……もしかして、十つ子の中でも最強……?「そーに決まってるでしょー!ふん、あたしに勝てる奴なんていないんじゃない?」心強いね……!「んじゃ、橙子、前衛は任せるぞ。わかってるかもしれんが、危なかったらすぐ逃げるんじゃぞ。」「だいじょぶ、だいじょぶー!すぐ終わらせるから!」「お主は警察を呼んでくれ。お主は戦えん……から、安全な場所に隠れていてくれ。」わかった。自分が行ったら足でまといになるもんね。「悪く言えばそうじゃ。じゃが、わしらに何かあったらお主だけが頼りじゃ。よいか?決して戦ってはならん。警察に情報を伝えとくれ。」うん。わかってる……。……と言ったが、内心悔しかった。麻璃亜も橙子も強い。だが、自分は何もできない、弱者だ。自分に力があれば……。だが今はそんなことを気にしている場合ではない。二人に何かあったら自分が警察に伝えなければ……!「それと、お主、ちとこちらへ。」?なに?「視覚の魔法……。」麻璃亜が何かを唱えた。すると、自分の視点が低くなった。いや、低くなったのではない。自分がいるはずの景色と違う。これは……?「今、お主の視覚はわしと共有されておる。これで、中の様子をわしと同じく見ることができる。本当の自分の視覚も切り替えられるぞ。」す、すごい……!「ふふ、照れるのう。」これで、強盗や中のお客さん達の数も警察に教えればいいんだね。「そゆことじゃ。……じゃが、魔法のことはあまり知られたくないからのう……最終手段じゃ。……おっと、音も共有しておくか。」そしてまた、麻璃亜が「音の魔法……。」と、唱えた。「うん、いいはずじゃ。頼んだぞ。」わかった。任せて!「じゃ、時間が無いしそろそろ行きますかー!」橙子が準備運動をし始めた。「そうじゃな。お主、下がっていてくれ。わしらが必ず、事態を収束させる。」うん、頑張って!
——大丈夫かな……二人はああ言っていたけど……。警察でも死人が出る手練れの武装集団って言ってたよね……。麻璃亜も橙子も魔法と拳で戦えるけど丸腰だし……いざとなったら自分が……。いやいや、だめ……!行っても足でまといになるだけだって……わかってるのに……。どうしてだろ……。そんなことを考えているうちに、麻璃亜と橙子が扉の前に近づいたようだ。声が魔法越しに聞こえる。「よいか、橙子。まずは敵の数や配置を確認して……。」麻璃亜が冷静に状況を確認しようとした次の瞬間、「ハローー!!悪人ども!!」え、え、え……えええええ!?!?橙子!?何してるの!?橙子が何のためらいもなく、真正面から扉を開けてしまった!!こ、このアホーー!!!と、遠くから叫んでしまった。「な、何だお前!?」中の強盗も巻き込まれたお客さんも、これには驚きを隠せない……。ま、まあ、そうなりますよね……ってそんなこと言ってる場合じゃない!橙子が危険だ!「こ、この……!」一番近くにいた男が銃を向けた。危ない!……だが男が引き金を引くその前に橙子の拳が男の顔面に直撃した。「ガハッ……!」……わお、痛そう……。つい同情してしまった。男は鼻から血を流して倒れた。一発KO……。橙子が声を張り上げた。「いい?アンタら!あたしが今から一人ずつ倒してやるから覚悟しな!!」強盗達がうろたえた。お客さんは突然の乱入者に驚いていたが、これに乗じてみんな後ろの方へ隠れた。よし、お客さんは大丈夫そう……!「くそ、このガキ……!」今度は奥の男がナイフを手に迫ってきた。「ガキぃ……?」橙子の目がギラついた。「あたし春から高校生なんだけどーー!?」今度は恐ろしいほどの柔軟性と威力の蹴りが男の顎に直撃した。「ぐえっ!!」また男が倒れた。……うわぁ……。完全に強盗達もこのぶっ壊れな強さの少女に動揺を隠せない様だ。その後も橙子は蹴っては殴り、蹴っては殴りを繰り返し、気づけば強盗は一人になった。「アンタで最後?弱かったねー。」かなりの数を相手していたというのに疲れを一切感じていない様だ。か、かっこいい……。だが、最後の一人は少し様子が違った。服装がさっきまでの男達とは違う。なぜか深い赤色と黒のローブを着ている。明らかにリーダーの様だ。そして男は手を叩いた。「素晴らしい。予想以上だ。流石だな。」「は?なに……。」と、橙子が言い終わらないうちに何かが橙子に向かって投げられた。橙子は避けたがギリギリだった様だ。投げられた物は……鋭いナイフだ。「ふむ、避けるか……反射神経も素晴らしい。尊敬に値する。」橙子は少し焦っている。「そりゃどーも。アンタ、何者?」「そうだな……少し話をしよう。まあ座りたまえ。」「悪いけど、今はそんな気分じゃないんだよねー。さっさとアンタをぶっ潰したいんだけど。」橙子が警戒しながら答えた。「私は君達の両親のことを知っている。」橙子が凍りついた。「……は?」と、声を出すのが精一杯の様子だ。そして、なぜか自分はこのままではまずいと思った。橙子なら勝てるかもしれない。だが、今の橙子はかなり動揺している様に見えた。気づけば自分は居ても立っても居られなくて、走り出していた。橙子……!男は続ける。「君達は孤児だろう?しかも同じ日、同じ時間に生まれた十つ子だ。」「……さあ?どうだろうね。アンタに教えるわけないでしょ。」「そうだ、君達の義理の母親も居るんだろう?」間に合え……!「!?何で母さんのこと……!」まずい、橙子に隙が生まれた!自分には見えた、男がナイフを隠しながら取り出した。「ふふ、さようなら。」シュンッ……!橙子ーーー!!!
——なぜか自分は倒れていた。あれ、何で……自分は……。痛っ!!右腕に耐え難い痛みが走った。ナイフが刺さっている。くっ……橙子!目を開けて見ると、自分は橙子の上に覆い被さっている様だった。橙子が驚いた顔をしている。「アンタ……。」ま、間に合って良かった……。「!?邪魔が入ったか……チッ……まあいい、お前も道連れだ!!」またナイフが自分の心臓めがけて飛んできているのが肌でわかった。自分はいい!橙子だけでも……!……あれ、痛く……ない。「よくやった、お主。素晴らしい勇気じゃった。」あ……!振り返ると、麻璃亜が魔法でナイフを空中で止めていた。「!お前は……!」男がさらに驚いた顔をしていた。「よくもわしの大切な家族を傷つけたな……。」麻璃亜がドスの効いた恨みのこもった恐ろしい声で言った。思わず橙子も自分も男も震え上がった。「畜生、お前が……グハッ……!!」男が空中に拘束された。「さ〜あ、どんな魔法で拷問しようかの〜♪叫び声を聞かせてくれるかのう〜。」恐ろしすぎる……。「く、クソババアが……ギャハッ!」「クソババア〜?これはこれは大層なあだ名じゃの〜♪」麻璃亜が魔法を使う時は、必ず白い綺麗な光を纏う。だが今は、黒くておぞましい、闇のような邪気が纏っていた。「磔の呪い。」そう唱えると男は十字架にはりつけられたような姿をとった。そして、「ぎ、ぎゃああああああああああ!!!」と、男は耳をつんざく痛々しい叫び声を上げた。さっきまでの余裕のある態度とは大違いだ。「い、いたいいたいいたいいたい!!!」「このくらいで根を上げるとは……お主はまだまだのようじゃの〜?」ちょ、ちょっと麻璃亜……さすがにやりすぎじゃ……?「ん?」麻璃亜が振り向く。……ま、麻璃亜……?「どうした?」……。「おーい。」麻璃亜、その顔……。なぜ自分が驚いたか。それは、麻璃亜の顔が少しおかしかったからだ。目はいつもより赤く、優しい眉は厳しく、歯がドラキュラの様に尖っている。だ、大丈夫……?「何がじゃ?」……いや、なんでもない……。「と、こ、ろ、で、じゃ。」麻璃亜が男に向き直った。「お主は子供達の両親を知っていると言っていたな?」ぐっ、と顔を近づけて男に迫った。そしてまた恐ろしい声で「教えてもらおうか?」と言った。「わ、わかった、教える……!だ、だから……お、下ろしてくれ……。」男が途切れ途切れに答えた。「うむ、よろしい。」麻璃亜が呪いを解除した。「はっ、はあ、はあ、はあ……。」男は苦しそうだ。「……はー、何とかなったねー。」橙子が立ち上がった。「結局、本当の足でまといはあたしだったってわけね。悔しいけど、母さん一人なら余裕で勝てたかもねー。」と、橙子、怪我はない?「はあー?アンタ、何言ってんの!?」なぜか橙子は怒っている。そして、自分の頬をつまんで引っ張ってまくしたてた。「アンタねー!隠れてろって言われたでしょー!なーんで出てくるのさー!別に、アイツのナイフは普通に避けられたし?別にアンタが来なくても勝てたっつーの!!」え、ええ……。「もう……橙子は素直じゃないのう……。」やれやれ、と麻璃亜も呆れている。なるほど、橙子はいつもこうなのか……。でも、橙子が無事でよかったよ。「なっ……あ、あっそ!」ぷいっ、と後ろを向いてしまった。「それはそうと、お主、腕は大丈夫か?」うん……結構痛いかな。「どれ、見しとくれ。……ふむ、そんなに深くはないようじゃな。わしが手当てをしよう。……治癒の魔法。」麻璃亜が魔法を唱えた。すると、ナイフが抜け、傷口が塞がり、あっという間に元通りの腕になった。痛みもない。ありがとう、麻璃亜。「ふふ、どういたしまして。」ウウウウーー!!と、サイレンが近づいてきた。警察がもうすぐ来る様だ。「そういえば、客がいるのを忘れておった……。おーい、お主ら〜もう大丈夫じゃ。じきに警察が到着する模様じゃ。外に出てくれ。」「……。」お客さんは誰も答えない。みんな顔面蒼白だ。「ん〜?どうした、お主ら?」「す、すみません、あの……。」やっと、子供を連れた母親の様な女性が声を出した。「その人……死んでます……。」えっ……?橙子も麻璃亜も自分も、男の方を見た。すると、男は首から血を流していた。手に血まみれのナイフを持って。……う、うそ……。「まじ……?」「……逃げおったな。」麻璃亜が顔をしかめた。こ、これじゃあ十つ子の両親のことを聞けないじゃないか……。「そうじゃな。してやられたのう……。」麻璃亜が殺気立った。「……とにかく、客を連れて警察に会おう。話はそれからじゃ。」
——無事、警察が到着し、事情聴取が始まった。麻璃亜は魔法のことは隠し、橙子と麻璃亜が協力して事を収めた……と素直に話した。自分は警察には見えないからだ。「ダメじゃないか、君達!」警察は当たり前だが麻璃亜達を叱った。頑張って、二人とも……。「君達子供だろう?これは遊びじゃないんだ。今回は運が良かっただけだよ。取り押さえた奴らの素性はまだわからないが、ナイフや銃を何個も持っていた。」「うっさいなー、オッサン!アンタ達じゃ無理だからあたし達が相手してやったんだよ、感謝しな!」「君がほとんど倒したんだってね。いくら君が強くても怪我をするかもしれない、死んでいたかもしれない。リスクを常に考えるんだ!わかった?」「はー、うざ……。」「まあまあ、そう言わなくても。奴らを倒すと言い出したのはわしじゃ。叱るならわしを叱っとくれ。」「……君、何歳?親御さんは?」「女性に歳を聞くのはデリカシーがないぞ、坊や。わしに親はおらん。」「あたしも。」「……そ、そうか。」警察は少し動揺している。「まだ聞くことが山ほどあるから、付き合ってもらうよ。」うう、長くなりそう……。その後は夕方まで延々と事情聴取が行われた。橙子は途中で寝ていたが……。警察の話によると、強盗……武装集団は今警察が追っている重大な組織の者たちだった様だ。自分も疑問がある。なぜ、あのリーダーと思われる男は十つ子の両親のことを知っていたのか。それが気になる。両親のことは麻璃亜も知らない。麻璃亜も知りたがっていたのに……。謎は深まるばかりだ。「あーー、ねむーいーー。」やっと事情聴取から解放されて、橙子と麻璃亜と共に孤児院へ帰っていた。「そうじゃの〜。わしも早くベッドに飛び込みたいぞ……。」お腹も空いたね……。「あーあ、ハンバーガー食べたかったなー。結局、アンタからしてみればあたしの部屋に行きたかったんでしょ?今日はもう無理そうだねー。」そうだね、またの機会でもいい?「まーね。あたしの気が向いたらね。暇だったら案内するよ。」ありがとう。へへっ、と橙子が夕日と同じ様に眩しい笑顔で笑った。「橙子の部屋はほぼジムみたいなもんじゃろ?こやつはひょろひょろじゃから、いっちょ鍛えてやってもいいかもな。」ええー、筋トレはちょっと……。「ふふ、冗談じゃ。」そんな他愛もない会話をしていたら、あっという間に孤児院に着いた。「じゃ、あたし眠いからもう風呂入って寝るわー。」今日は大変だったからね、おやすみ。「あ、そうだ、アンタ。」?なに?「今日は……ありがと。……じゃなくて、またいつか、ハンバーガー奢ってよ!じゃね!」バタンッ!と扉が閉まった。……?何だったんだろう……。って、麻璃亜、何ニヤニヤしてるの!?「ふふふ、なるほどな〜。いや、何でもないぞ。」えー、気になるじゃん……。でも、ちょっと心の距離が縮まった、かな。「そうじゃな。ぐっとな……ふふ。」もう、麻璃亜ー!「教えてや〜らん♪」ええ!待ってよー!「ほれ、帰るぞ〜。」麻璃亜が逃げたので後を追いかけた。まだ会ったばかりだが、十つ子達と少し仲良くなれた気がする。今は四人目、あと六人……先は長いな……。次はどんな子なんだろう……?少し……少しだけ楽しみだ。自分がどこから来たかもわからないが、この世界に順応していくことも大切だろう。自分のことを知っていそうな麻璃亜の近くにいれば、いつかは自分の正体がわかるかもしれない。今は、この日々を楽しもう。暗いことを考えていてもいい方向にはいかない……。前向きに考えよう!麻璃亜、今日の晩ご飯はどうする?「ん〜……今日は和食にしてみるか?」いいね!「わしの料理の腕がなるのう〜。今日も任せておけ。」明日はどんな人に会えるんだろう……。明日を楽しみにしながら今日の夜も眠りについた……。




