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第3話 三女・桃花

——グルルルルルルルル……。ん?何の音……?というか、まだ眠い……。グルルルルルルルル……。うーん、うるさい……。グルルルルルルルル……。あと五分だけ……。グルルルルルルルル……。もううるさい!何!?……え。ガバッと起き上がり、自分の真正面を見た。グルルルルルルルル……という音の正体は……なんと……ライオンだった。猛獣の王……何でそんな動物がここに!?ていうか、食べられる!?……ヒィ……。という情け無い声しか出なかった。グルルルルルルルル……。まだライオンは唸り声しか出していないようだ。えっと、こういう時ってどうすればいいの!?逃げる?いや、逆効果?後退り……いや、ベッドだからできないし!ライオンがその大きすぎる口を開けた。やばい!だ、誰か助けて!!「ワイルドー?どーこーだー!」すると、女の子の声がした。「ここかなー?うーん……こっちー?えーっとー。」ガチャッ……。寝室のドアが開いた。そして、桃色の髪をした女の子が入ってきた。「あ!いたー!……って、何してるの!?」た、助けてー……!「ちょっとちょっと!ワイルドー!」女の子が呼びかけると、ライオンはハッ!っと口を閉じ、人懐っこい猫のように女の子の体に擦り寄った。……大きさは完全に違うけど。「ごめんね、あなた!ワイルドがちょっとからかっちゃったみたい。」ワイルド、と呼ばれたライオンは唸り声ではなく、ゴロゴロと甘えるような声を出した。いや、大丈夫……ちょっと怖かった……けど。「もぉーワイルドー?今日のおやつ抜きにしちゃうよー。」そう言われると、ワイルドはクゥーンと悲しい声を出した。え、犬?ライオンってネコ科……。って待て待て。意思疎通できてる!?えっと、この子は……確か……そうだ。桃花(ももか)……だよね。「わたし?そうだよ!桃花!十つ子の上から三番目!こっちはワイルド!男の子だよー。ちょっといたずら好きなんだー。」へ、へぇー。あれ?麻璃亜(まりあ)は?「お母さん?もう起きてるよ?」桃花がワイルドを撫でながら言った。「朝ご飯作ってるから、キッチンにいると思うよ!一緒に行こうか!」ありがとう。……はぁ……怖かった……。

 ——「お母さーん!この人連れてきたよー!」「おお〜、おはよう。朝から災難だったようじゃな。」げっ、なんで知ってるの?「わしが起きた時にはワイルドがいたからの〜。ちと、面白いことになりそうじゃったからそのままにしておいた。」ちょっと麻璃亜!ひどいよ!「ふふ、悪かったのう。」絶対反省してないでしょ……。「すまんすまん。ほい、今日の朝ご飯はパンケーキじゃ。」そう言うと、麻璃亜はフライパンをひょいっと上に上げてパンケーキを裏返した。わあ、分厚くてふわふわで……美味しそうなパンケーキ……。「ねえねえお母さん、私も今日はここで食べてもいいかな?」桃花が申し出た。「ああ、いいぞい。みんなで食べるご飯は美味しいからな。」「やったー!ワイルドも一緒に食べよ!」ゴロゴロ……。このワイルドとかいうライオン……自分には唸り声しか出さなかったくせに、桃花にはそうやって甘えて……。くっ……。言葉に言い表せない屈辱を味わっていると、麻璃亜がお皿にパンケーキを盛り付けてくれた。三段重ねの分厚いパンケーキに、一切れのバター。そして極め付けにメイプルシロップをたっぷりかけたら……。「よし、完成じゃ。少し多めに作っておいて正解じゃったな。ほれ、ワイルドには野菜があるぞい。」えっ、ライオンって野菜食べるんだっけ!?「うーん、野生のライオンはお肉を食べるけど、うちの肉食動物のみんなは野菜を食べてもらってるの。共食いしちゃうからね。」へぇ……そんなことができるんだ……。これが桃花の能力?「!……うーん、能力っていうか……。」桃花がちらっと麻璃亜の方を見た。教えてもいいのか聞いているんだろう。すると、それに気づいた麻璃亜は助け船を出した。「ああ、いいんじゃぞ。こやつには教えても大丈夫じゃ。」「そうなんだ、んーと、じゃあ教えるね。」何気に、紫苑(しおん)、葵(あおい)の能力を教えてもらった時のように少しわくわくする。……というか、ほぼ見当はついているが。「わたしの能力はね、動物のみんなや人の考えていること……心を読むことができるんだ。」なるほど、だからワイルドと意思疎通ができるのか。「そうなの。だから、あなたが今考えていることもわかるよ!当ててあげようか?」うん、お願い。……まだちょっと眠いな……。「ふふ、わかったよ!まだ少し眠いって思ってたでしょー。」すごい!当たり!「えっへん!これくらい、朝飯前だよ!一度に何人かの人の心も読めるんだ!聖徳太子みたいでしょー!」結構強い能力だよね。桃花はしないだろうけど、悪用もできちゃうね……。「うーん、そうだね……。あと、あまり人に言っちゃうとわたしがしなくても悪用する人が居ると思うから、わたしだけじゃなくて、十つ子みんな、能力のことは隠してるんだー。」あ、そうか。そうだよね。だからみんな、能力を教えたがらないんだ。「んー、でも何だろ?お母さんがあなたを信じてる理由。」え?……それは……。ぐうううううう〜〜〜。突然、大きな音が鳴った。音の発生源を見ると……麻璃亜だった。「いや〜お話し中すまんのう〜。わしの腹の虫が鳴っておって……。」なんだ、麻璃亜か。びっくりさせないでよ。「あ、長い間喋っちゃったね。食べようか!」そうだね。自分もお腹ぺこぺこ……。「そんじゃ、いただきまーす。」「いただきます!」いただきまーす!はむっ……う〜ん、美味しい!ふわふわで、甘くて、あったかくて……。美味しいよ、麻璃亜!「そうか?ふふ、嬉しいのう〜。あむっ……。」「はむはむ……ん〜!やっぱりお母さんのご飯は格別だね!」「褒めても何も出んぞ〜?じゃが、ありがとな。」ふふ、と麻璃亜が笑った。麻璃亜って料理も上手なんだね。色々できてすごいよ。「まあ、そうじゃな〜。やはり、これも年の功かのう。経験を積めば、お主らもいずれ、大成できるぞ。」「うーん、そうだねー。わたしも今はいっぱい遊んでいっぱい勉強して、いつかお母さんに楽させてあげるんだー!」「桃花……。うん、ありがとな。今もじゅーぶん楽じゃがな。お主の未来が楽しみじゃ。」そう言って麻璃亜は桃花の頭を撫でた。「えへへー。」桃花も嬉しそうだ。麻璃亜って、すごく愛情深い性格だよね。みんなのお母さんっていうか……自分にも気を遣ってくれるし……。「?そうか?……言われてみればそうかもな。わし、相手が誰であろうとおせっかいを焼いてしまうんじゃ。それがいいのか悪いのか……それは相手次第じゃがな。」自分はすごく嬉しいよ。自分はこの世界には身内はいないみたいだから、家族みたいに関わってくれると嬉しいんだ。「そっかー。わたしもだよ!お母さん!小さい頃、眠れないって泣いてるわたしたちにお母さんがどれだけ疲れていても、必ずみんなが寝れるまで絵本を読んでくれたよね!わたし、覚えてるよ。お母さん、いつもありがとう!」そんな秘話が!?それは母親の鑑すぎるよ、麻璃亜!「ああ〜。覚えていてくれたのか?いや〜、昨日のことのように思い出せるぞ。お主らがまだおねしょしてた時な。疲れてるというか、わしは魔法で色々ぱぱっとやってしまうからそんなに苦じゃなかったぞ。大丈夫じゃ。」麻璃亜って、魔法使う境界線が曖昧だよね……。寝癖は直さないし。「ん〜そうか?そうかもしれんな……。魔法は、頭でイメージできないと使えんから、案外難しいんじゃぞ?ま、わしにかかればイチコロじゃがな〜。」頭でイメージ……確かに、難しいね。「ひょいっと使えれば楽なんじゃが……それも世のことわりというわけじゃな。この世に楽なことなど一つもないのかもしれん。」そうだね……。自分たちが当たり前にできてる歩くことも、最初はみんな、難しかったもんね……。「そゆことじゃ。」「はむはむ……お母さん、そういえば、今日って予定ある?」「予定?……うむ……こやつと十つ子巡りをしておるんじゃ。次は……おお、偶然にも桃花だったな。」「そうなの?じゃあ、私の部屋に来ない?」お、行きたい!紫苑、葵に引き続き、桃花の部屋にお邪魔できるようだ。「いいのか?ありがとう。んじゃ〜食べ終わったら向かうか。」食器を片付け、昨日と同じく麻璃亜の孤児院に向かった。

 ——その途中で、気になることを聞いてみた。麻璃亜、孤児院って結構小さいけど、何人くらい子供がいるの?「ん?ざっと三十人くらいかのう。十つ子を除けばな。」結構いるね……大体、どういう子が入るの?「親を亡くした子が大半じゃな。今はあまりおらんが……戦争があった時期は満員じゃったぞ。」へえ、戦争……戦争!?いやいやいや、スルーするところだった。戦争って、だいぶ前に終わってるよね!?「ん〜?ああ、もうそんな経つのか。そうじゃな〜……ま、そんな物騒なことが終わったからわしの孤児院に居る子供も減ったわけじゃ。今の子達には、あまり悲しい思いをさせたくない。愛してくれる人は居てなんぼじゃ。」「ふふ、そうだね。あーあ、わたしも本当のお母さんに会ってみたかったなー。……あ、お母さんが嫌なわけじゃないよ!勘違いさせちゃったらごめんね!」「だーいじょうぶじゃ〜。わしも、会ってみたかったのう。」麻璃亜は会ったことないんだ。「うむ。そうじゃ。一度に十人産んだ光景を見てみたかったの〜。」それはすごいよね。どんな感じだったんだろ。双子でも大変なのにね……。「なんにせよ、この世から孤児院を必要とする子供がいなくなればいい話じゃがな。」それが一番だね。「あっ、着いたよ!わたしたちの実家〜!」「おお、着いたか。むっ、最近、あまり他の子に構っていなかったかもしれん。」「?そうかなー?わたしは、いつもお母さんはみんなに平等だと思うよ。」「そうか?そう言ってくれるとありがたいんじゃが……。お主ら、先に桃花の部屋に行っといてくれ。わしはちびっ子達が悪さをしていないか確かめんとな〜。」「はーい!じゃ、行こっか!」「ごゆっくり〜。」

 ——「ここがわたしのお部屋だよ!ちょっと汚くてごめんね。」お、お邪魔します……。全然汚くなくて綺麗だよ。桃花の部屋を一言で表すと……ピンク。とにかくピンク。そして、かわいい。レースのカーテンに、たくさんのクマのぬいぐるみ。花柄のロッキングチェアに花が生けてあるハートの机……。女子っ!!!女子度百二十パーセント!桃花の服装もピンクとフリルとレースがいっぱいだ。「えへへ、わたしのお部屋、かわいいでしょー?」あ、バレてるんだった……。うん、すごくかわいい。「ふふ、わたし、名前の通りピンク色が好きなんだー。だから、この名前はすごく気に入ってるの。あと……。」そう言って桃花はキョロキョロと辺りを見回した。「今日はみんないないみたいだね。ちょっと残念。ファミがいればもふもふできたのに……。」ふぁ……ファミ?誰?「?……ああ、ファミは猫だよー。あとシャップもいればよかったんだけど……あ、シャップも猫だよ。」桃花が心を読んで説明してくれた。「よくお客さんを呼ぶ時は、もふもふしてもいいよーっていう動物のみんなに来てもらってなでなでしながらお話しするんだー。すごく癒されるよ!」動物……ああ、ワイルドとか?「そう!わたしは心が読めるから、動物のみんなと仲良くできるんだー。」そうか、だからあんなにライオンと至近距離でいられたわけだ。うーん、できれば自分ももふもふしたい……。「そう?うーん、どうしようかな……。」すると、体に違和感を感じた。ん?何かツルツルしたものが足に……。そして、シャーーーーーッッと、音がした。……あ、なんかデジャヴ……さっきもこんなことあったような……。下を向くと、二メートルはありそうな大蛇が、牙をぎらつかせながらこちらに迫ってきていた。うわわっ!っと、今度は思わず声を出してしまった。「えっ?なになに?」桃花が心配してこちらに来てくれた。「ああ〜!もー、オリヴィアー?」よかった。この蛇も桃花の友達だったようだ。「ごめんねー、オリヴィアが隠れてたみたい。もー、オリヴィアったらー!そんな悪い子にはお仕置きしちゃうぞー?」桃花がオリヴィアと呼ばれた蛇をくすぐった。心は読めなくても、オリヴィアが嬉しがっているのはわかった。これがほんとの動物タラシ……。「あ、オリヴィア、この人に撫でられてもいい?……うん、ありがとう。良いって!」あ、ありがとう……?蛇を撫でるの……初めてかも。「怖くないよー!わたしがついてるから!んー、甘噛みはだめ?」ダメ!「あはは、冗談だよー?」桃花がいたずらっ子のような笑みを浮かべた。「じゃ、オリヴィア、優しくしてあげてね?」スルスル……と音を立てながらオリヴィアが膝の上に乗った。あ、なんかかわいいかも。ツルツルしてる……。でも、猫がよかったな……。「あー……ごめんね?」はっ、そうか、桃花は心が読めるんだった。いやいや、全然大丈夫!こっちこそごめん!「えへへ、でも……そうだね。わたし、心が読めるから人間関係が上手くいってるように見えるけど……。」え……?「えっと……うーん、やっぱいいや!ごめんね。」えー、気になる……。「それより、あなたのことが知りたいなー。」自分のこと?「そう!あなた、どこからきたの?」それは……。言い淀んでしまった。自分はどこから来たのだろう。麻璃亜は別の世界って言ってたけど……。よく……わからない……。「……そっか、そうだよね。ごめんね?」あ、全部筒抜けだったんだ。ううん、こっちこそ!こんな時に暗い話をするのはよくないよね。「あ、そうだ、紫苑お姉ちゃんと葵お姉ちゃんにはもう会ってきたんだっけ?」桃花が話題を変えてくれた。ああー、あの二人……。「ふふ、二人ともタイプが全然違ったでしょー。わたしもそうだけど……。」そうだね、紫苑はとても暗い感じで……葵は……えっと……なんか……。「上から目線?」あ、そう……。ってまた心読んでる!「あはは、つい出ちゃうの。もう癖になっちゃったかなー?」もー……。「葵お姉ちゃんはね、わたしに少し似てるの。」えっ?そうかな……。「うん……。」どんなところが?「……えへへ、子供舌なところかな!葵お姉ちゃんはハンバーグが好きなの。」へ、へえ……。今何か、桃花が話そうとしたような……。いや、余計な詮索はよそう。「わたし、ショートケーキが好きなんだー!お気に入りのケーキ屋さんがあるの。今度教えてあげるね!」うん、ありがとう。自分も甘いものは嫌いじゃないよ。「ほんと?んー、そんな話をしてたらお腹空いてきちゃったなー!」すると、ガチャッと部屋のドアが開いた。「遅くなってすまんのう〜。」と、麻璃亜が部屋に入ってきた。そして、何やら手に箱を持っている。ん?麻璃亜、なにそれ?「ん〜?これか?これはな、すぐそこのケーキ屋で買ってきたショートケーキじゃぞ。桃花はこれが大好きじゃからの〜。」「ほんと!?やったー!お母さんありがとう!」「三人分買ってきたから、ティータイムといこうではないか。」自分もいいの?「ああ、もちろんじゃ。ほい、どーぞ。」ありがとう!「ほれ、桃花も。」「わーい!ありがと!」「そんじゃ〜本日二回目の……いただきま〜す。」「いただきますっ!」いただきます!

 ——ふぅ……お腹いっぱい……。ケーキって結構お腹にたまるね。「そうだよー、ひとピースがちょうど良いんだー!」「う〜ん、美味かったのう……。わしはアップルパイが一番好きじゃ。」「お母さん、リンゴ好きだもんね!シナモンがちょっと大人っぽいけど、それもまたいいの!」自分は……ミルフィーユかな。何層にも重なった生地の食感がよくて……。「わかるよー!はあ、なんで甘いものってこんなに美味しいんだろ……。」「罪じゃのう……。」三人で余韻に浸っていると、どこからか「かーあさああーーん!!!」という元気だけど……なんだか泣きそうな声が聞こえてきた。その声はだんだん近づいていき、ドアの前で止まった。「かーーーあさーーーんーー!!!」と、誰かがドアをドンドンと叩いた。えっ、だ、誰!?自分は困惑したが、麻璃亜と桃花は冷静だ。「ああー、まただね……。」「そうじゃな。またいつもの……。」え、ちょっと誰なの?教えてよ!「わかった。おーい、入っていいぞ〜。」そして、葵の時とは比べ物にならない程の勢いでドアが開いた。「かあさんーーーー!!!!」と、目に涙を溜めて部屋に入ってきたのは……。オレンジ色のサイドテール、曇りのない黄緑色の瞳をした少女。個性豊かな十つ子の見た感じムードメーカーの橙子(とうこ)だった。

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