第2話 次女・葵
——爆発音と共に現れたのは麻璃亜の十つ子の娘、次女の葵だ。深緑色の作業着を着ているが、爆発のせいかすすで真っ黒だ。というか、何をしたら爆発が起こるんだ!?「うーむ、本体の回線が……いや、電圧を変えてみたら……。」何やら難しそうなことをぶつぶつと言っている。そして、やっとこちらに気づいたようだ。「ん……?母さんじゃないか。それに……モルモット。」も、モルモット!?なにそれ、自分のこと!?「いいかい、私はいちいち君達の名前を覚えてはいられないのだよ。私にはもっと覚えなくてはならない数式が山ほどある。よって、君はモルモットと呼ばせてもらう。」は……はあ。そうですか……。「ふふ、葵は姉妹とわし以外はモルモット扱いなんじゃぞ。」ひ、酷くない?「何を言う。この私とほぼ対等な立場で話せていることが光栄なことなのだよ。感謝をしたまえ。」葵っていつもこうなの……?すごく上から目線……。「まあな、感情表現が苦手な子じゃから許してやってくれ。」……うん、わかった。……ところで、さっきの爆発は何?「爆発?……ああ、私の実験の事故だ。」実験?「葵は発明家でな。色々ごっつい機械やらお役立ち道具やら作っているんじゃ。」へえ!すごい……。「ふっ、もっと褒めてもいいんだぞ。」……褒める気失せた。「ところで。君達はなぜここに居る?母さんはわかるが……モルモットまで。」「こやつと今、姉妹巡りをしとるんじゃ。さっき紫苑とゲームをしていてな、遅くなってしもうたから帰ろうと思ったんじゃ。そこでばったり。」「なるほど……紫苑姉さんに続き、私の所に来たわけだ。偶然だな。」お、おお……把握が早くて助かる。「さて、どうする?せっかくなら私の発明品を見るか?」お!見たい!「ふっ、ついてくるといい。」こうして、正直空腹ではあったが葵の部屋へ入ることとなった……。
——……えっとー……これは何?「これか?これはな……自動ハグ機だ。」ハグ?ハグって……ギュッってする?「そうだ。」な、なんで……?「わからないか?人間は愛を求めているだろう?ハグをするとストレス解消になる。そういう統計があるんだ。だから、時々この機械にハグしてもらうんだ。」いる!?それ!?「こっちはパンプレス機だ。」……パンプレス?「文字通り、パンを押しつぶす発明品だ。パンを押しつぶすとゼロキロカロリーになる、という変な理屈があるだろう?」葵がそれ言う!?「だから、私の厳選した物質で押しつぶすことで本当にゼロキロカロリーになる。」あ、それは欲しいかも。というか、なんだか……変な機械ばっか作っているんだね……。「変?そんなことはない。」そんなことあるよ……。「ふふっ、そうじゃな。少し変かもしれんが、葵は姉妹達のリクエストの発明品も作っているんじゃ。」「ああ。そうだ。パンプレス機はべにのリクエストだ。」べに……あ、末っ子か。そうなんだ。優しいんだね。「ふん、そうだ。いちいち人の発明品に変とケチをつける君とは違って。」……。「さて、発明品を見たとこで、葵、研究室へ案内してやってくれ。」「ああ、勿論だ。ついてきたまえ。」お、ちょっと興味ある。
——え、ここを降りるの!?葵の研究室は、なんと地下にあるようだ。ハッチのような扉を開けると地下へと続くハシゴがあった。「ここを降りるんだ。まさか、怖いなんて思っていないだろうな?怖がりなモルモットはこっちから願い下げだ。」うっ……だ、大丈夫……。正直言うと少し怖かったが、葵の前で怖がるとまた馬鹿にされそうなので我慢した。そしてそのハシゴを降りると……。うわー、すごい……なにこれ……!葵の研究室には所狭しとありとあらゆる機械が置かれていた。そして部屋の真ん中に今現在作っているであろうなんとも大がかりな機械があった。……機械機械と言っているが、自分の脳みそでは理解しきれない程の装置ばかりなので、ここではひとくくりに機械、と呼んでいる。……いや別に、自分の頭が悪い訳じゃ……ない……よ。わからないだけ……うん。「おお〜久しぶりに入ったがまた発明品が増えたのう。わし、機械とかよくわからんからの〜尊敬尊敬。」そうだね、すご……。いと言いそうになったが、葵がニマニマとしだしたのでここは言わないでおいた。でも、よくよく考えてみると少し高慢だと思った葵だが、本当は自分が思っている以上にすごい人間なのかもしれない。さっきは少し頭にきたが……なんだか……かっこよく思えてきた。自分には絶対葵のようになれる才能は無い。だから……葵ってすごいね。素直に褒めてしまった……だが葵は、「……?当たり前だろう?」と、言いながらも胸を張って嬉しそうだ。言動は自分が正しい、というような態度だが、少しあどけなさが残る笑顔を見せてくれた。その葵の笑顔を見て、やはりまだ幼い少女なんだな、と思った。……ん?葵達、十つ子って小さいけど、何歳なんだろう?聞いてみよう。ねえ、麻璃亜、十つ子達って何歳?「ん〜?ああ、今は十四歳じゃぞ。」え。「もうすぐ十五歳、高校一年生になる。」えええ!?小学生じゃないの!?「何を言う。私達は身長こそ低いが今年の春、高校へ進学するんだ。」いや、なんかみんな大人っぽいなとは思ってたけど……高校生!?「はあ……何度それを言われたことか……。もう聞き飽きたよ。」「そうなんじゃ。この子達はなぜーか身長が低いんじゃ。わしも色々原因を突き止めようとしたが、失敗に終わった……って訳じゃ。」そうなんだ……身長が低いと大変だよね……。「さてと、お主、さっきわしが言ったことを覚えとるか?」え?何だっけ?「実は十つ子達には能力がある、とな。」ああ、確かに。「!?母さん、迂闊に言うんじゃない!それは極秘のはずだ!……いや、母さんなら……なるほど、何か裏があるな。」瞬時に状況を理解した……流石葵だ。「母さん、モルモットには何があるんだ?」え?何もないけど……。「そうじゃそうじゃ、何もないぞい。わしはただこやつを信頼しておるだけじゃ。」「そうか……わかった。母さんが言うなら間違いないな。……で、私の能力をモルモットに紹介してやればいいんだな。ふむ、いいだろう。」ありがとう、話が早くて助かる。「私の能力……薄々気づいているだろう?私は天才になることができる能力を持っているんだ。まあ、モルモットの為に簡単に言うとだな。」天才……?「発動条件はあるがな。私は見聞きしたこと、全てを覚えている。難しいと言われる言葉も、数式も……会話の内容も私の脳にはしっかりと刻み込まれる。本を読むと、その内容、全てを理解することができるのさ。」無敵じゃない!?それ!「そうだ、無敵だ。ふん、もっと褒め称えるがいい。」……一言余計なんだよなー。「よって、わからないことがあれば何でも私に聞くといい。私が全て解決させて見せよう。」おお、頼もしい。じゃあ、わからないことがあったら葵に聞くね。「ああ、そうしたまえ。」葵が胸を叩いた。葵、嬉しそう。えっと、それじゃ……「お、これなんじゃ?ちと気になるな。ほれ。」ポチッ。「あ。」え?……ビーーー!!!ビーーー!!!ビーーー!!!えええ!?ま、麻璃亜、何したの!?「あう……な、何もしとらんぞ?」いや、明らかに変なボタン押したでしょ!「テン……ナイン……エイト……」か、カウントダウンが始まった……!「母さん!モルモットの言う通りだ!はっ、ま、まさか破壊光線の防犯ブザーか!?まずい、あれは山一つは消し去ることができる威力がある!」えええー!!何でそんなものここにあるの!?「改良中だったんだ!仕方ないだろ!ああ、まずい、早く避難しないと!」「セブン……シックス……ファイブ……フォー……」葵!先にハシゴ上がって!麻璃亜も!「ああ……まて、この私の子供達を置いて行けと!?」今はそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ!命と発明品、比べるまでもないって!「それもそうだな……すまない、私の子供達……。」はいはいさよなら!って、どうしよう、逃げても山一つ分消すならこの孤児院も危ないんじゃ……。「いや、私の研究室はある程度の衝撃には耐えられる。さっきもそうだっただろう?だから、研究室の外に出て扉を閉めれば……!」「スリー……」もう時間がない!葵と麻璃亜だけでも早く……!「なーに焦ってるんじゃ?ゆっくりでいいじゃろ〜?」え!?ま、麻璃亜、何でそんなに落ち着いてるの!?「いや〜年の功かのう?」そうなんだ〜……じゃない!「お主ら、何か見落としてないか?」「み、見落としている……?」「葵もわからんか〜?重要なことを。」「ツー……」「ま、いっちょ若僧に教えてやるかの……。」麻璃亜が人差し指を立てた。その瞬間、美しい光が麻璃亜の指に絡んだ。そこで自分は思い出した。そう、麻璃亜は魔女なのだと。瞬く間に、麻璃亜の体が光に包まれた。破壊光線の機械に向き直り、人差し指を向ける。ま、眩しい……。麻璃亜の周りの光がどんどん強くなる。「ひょえ……。」葵は情け無い声を出して自分の後ろに隠れた。バサバサと髪や服が揺れる……!「ワン……」「爆破の魔法!!」シュンッ……!ゴォォォォォォォ……!それは一瞬だった。次に目を開けた時に見たのは山を消すことなく自分が消された破壊光線の機械と「お主ら、怪我はないか?」と、一人だけ余裕な表情の麻璃亜だった。は……はあああああ……葵も自分も安心してへなへなと座り込んでしまった。「ふふ、どうやらお主ら、怖かったようじゃな〜?」「べ、別に、私は……。」葵、自分の後ろに隠れてたね。「むっ……モルモットこそ、それはそれは大変な焦りようだったな?」……まあ、今回はお互い様だね。麻璃亜、ありがとう。「礼ならいいぞい。わしは大切なお主らを守りたかっただけじゃ。……ま、お主らの焦り具合は面白かったがのう。」「ふう、これで一安心……ん?待て待て待て……。」葵が何かに気づいたようだ。「ああああああああああ!!!!」え!?今度はなに!?「わ、私の可愛い可愛い子供が!!嘘だ嘘だ嘘だ!!」葵は破壊光線の機械に駆け寄った。「ああ、中の回路は……なんてことだ、部品の欠片しか落ちていない……。母さん、もっと優しく壊してくれないか!!」「ええ〜そんなこと言われても……もう壊してしもうたし……。」麻璃亜の言う通りだよ、今回は諦めよう。事故だったんだし。それに、また作ればいいよ。「また作ればいい!?モルモット、この子供を生み出すのにどれほどの時間がかかったと思うか!?」え……まあ、それもそうだけど……命にはかえられないでしょ?「うっ……そんなぁ〜。」さっきと同じように、葵は地面にうずくまってしまった。そして、また何やらぶつぶつ呟いている。えっと……もしもーし、葵ー?「無駄じゃぞ、お主。葵はこうなるとしばらくは現実に戻ってこん。」ああ、そうなんだ……。葵の意識が戻ってくるまで自分は麻璃亜と破壊光線機の片付けをした。その間、麻璃亜の魔法について話した。魔法ってすごいね。「そうか?そう言ってくれると嬉しいのう。」魔法ってどうすれば使えるようになるの?「ん〜それはわからんのう。わしは生まれつき、魔法が使えたからのう。」そう言うものなの?「はて……案外、そう言うものなのかもしれん。魔法とは、美しいが時に残酷なものじゃ。肉体的にも、精神的にも。」へ、へえー。何だか麻璃亜が悲しそうな顔をした。「じゃあ、自分は魔法とかいいや。」すると、「そうか?うむ、そうじゃな。ま、わしはぴっちぴちじゃからのう〜。まだまだヘタれることはないぞい。」また茶目っけたっぷりの笑顔になった。そして急に「わかったぞ!!!」と、指でL字を作った葵の声が響いた。「お、戻ってきたのう。」「今度は破壊光線ではなく、破壊熱波にすればいいんだ!!そうすれば、コストも時間も抑えて作ることができる!よし、そうと決まれば早速作業を始めようじゃないか!」そう言うと、葵は手袋をはめて準備を始めた。「ん?ああ、母さんとモルモットは帰るといい。邪魔……と言えば邪魔だが、もう夕飯の時間だ。」「おっと、そうじゃな。もうそんな時間になっておったか。」うわ、もう七時……。どうりでお腹が空いている訳だ。早く夜ご飯を食べたい……麻璃亜が作ってくれるのかな。買うにせよ、作るにせよ、楽しみだ。「んじゃ〜わしらは帰るぞ〜、葵、またな〜。」「ああ、また。……あ、夕飯は彼女が届けてくれるのかい?」彼女?「ああ、その予定じゃ。」「了解。モルモットも、また。」またね、ありがとう。って、彼女って誰?「ん?まあ……いずれわかるぞ。」ええ〜……またそうやってすぐ隠す……。自分と麻璃亜はハシゴを登り、葵の部屋の外へ出た。うう、お腹すいた……今日のご飯はどうするの?「わしもじゃ〜。ご飯か?んん〜外で食べてもいいが……お主はほとんどの人間からは認識されんからな〜。」ああ、そっか。そうだったね。「まあ、それでも良いが……わし、肉が苦手なんじゃ。食べるにせよ、サラダしか食わん。」え、お肉苦手なの!?あんなに美味しいのに?「人によって好き嫌いがあるからの〜。仕方ない。」それもそうだね。麻璃亜って、どこか抜けてるけど、本当はしっかりしてるんだね。「ふふ、そうか?そう言われると照れるのう〜。ありがとな。」嬉しそうに微笑んでくれた。ていうか、彼女って誰なの?気になるから教えてよ!「うえ……?ん〜まあ、教えないのも苦か……。彼女はな……わしの娘じゃ。」え!?本当の?「いや、違うぞ。わしの孤児院に居る子供はみーんなわしの娘、息子じゃぞ。」ああ、そういう定義……。でも、愛があっていいね。「彼女……その子は、もう十八歳になってひとり立ちしておる。んで、育てたり学費を払ったりしてくれた恩返しに、わしの手伝いをしてくれているんじゃ。」へえー、優しいね。きっと、しっかりした人なんだね。「ああ。しっかりしておる。おまけに頭も良くて、飛び級もしておったな。……じゃが、ちと、抜けとってな。そこもかわいいんじゃ。」麻璃亜のこういう発言が、子供達にもしっかり影響されてるんだな……。なんだかんだいって、みんな優しくていい子達だ。自分にも親は居たんだろうな……思い出せないけど。もしかしたら、自分にも子供が居たのかも……。なんて、まだ思い出せないから考えても無駄か。麻璃亜のように、前向きに行こう!うん。「そうそう、その子はチェスがすーごく強くてな。集中することが得意じゃから、コツを掴むのが上手いんじゃ。」へぇ……どんな人か、ますます気になってきた……。「いやー、わしもルールを見よう見まねで覚えて、自作でチェスを作ったものじゃ。あの子もやりたいと言ったから教えてやったが……ふふ、まだわしに勝てたことはない。」え!?そうなの!?麻璃亜の方がすごくない!?「わしの方が年上じゃから当たり前じゃろ?……あ、魔法は無しじゃからな?正々堂々、戦ったからのう。」こ、この人、どんどんすごい人に見えてきた……。「さ、帰るぞ〜。ん〜、悩んだが、今日は家で食べるか。」そうだね、それが無難かも。
——ごちそうさまでした!ふー、美味しかった!「はい、おそまつさま〜。」あの後は森の麻璃亜の家へ戻り、麻璃亜が作ってくれたシチュー(肉無し)を平らげた。朝ご飯から何も食べていなかったので、すごい勢いで食べてしまった。「ふふ、そんなに気持ちよく食べてくれると嬉しいのう〜。」うん、すごくまろやかで美味しかった!「そんじゃ、お風呂に入って寝るかの〜。」――お風呂に入って、歯磨きをして、パジャマを着て、寝る態勢に入った。「ふぁぁぁ〜眠いのう〜。」そうだねー、自分も……。ふぁ……。「んじゃ〜おやすみ〜。」麻璃亜がランプの灯りを消した。やはり、ゲームやアクシデントの疲れでどっと眠気がきた。そして目をつぶってスッと眠りに身を委ねた。だが、まだこの時は気づいていなかった。というか、気づけなかった。朝、自分がどうなってしまうのかを……。




