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第1話 長女・紫苑

——チュンチュン……。ん……もう朝?とても暖かくて心地良い……もっと寝ていたい……。でも起きないと……。目を開けると木で造られた天井が見えた。スンスン……この匂いは……ラベンダー?すごく安心できる匂いだ。「起きたか?おはよう。新しい世界での最初の目覚めはどうじゃ?」ひょこっと黒髪の女性が視界にうつった。確か……この人は……そうだ、麻璃亜(まりあ)だ。体を起こして伸びをした。体の疲れが全くない。きっとこのラベンダーの匂いとふわふわのマットレスのおかげだろう。こちらもおはよう、と挨拶をすると「見知らぬ場所でぐっすり眠れるとは……お主、かなり神経が図太いようじゃな。」くすくす、と麻璃亜が笑った。麻璃亜……昨日はローブを着ていたが今は白いネグリジェを着ている。きっとパジャマだろう。そして髪は……な、長い……。ローブに隠れて髪が見えなかったが、なんと足の真ん中くらいまである……。手入れが大変そうだな……。しかも、寝癖なのかぴょんぴょんと髪がはねている。寝癖を指摘してみると「ああ〜。いつもこうじゃぞ。めんどいんじゃ〜、寝癖を直すのは。もうそのままにしておる。」魔法を使えばいいんじゃ……という言葉を飲み込んだ。「お主、手伝ってくれ。昨日の片付けがまだ残っとるんじゃ。」わかった。

 ——ジャー……。洗い物をしながら、昨日の寝るまでの時間、何をしていたのか聞いてみた。「みんなで残りのご飯を食べた後、デザートのケーキを食べたぞ。ロウソクの数が足りんかったが……。」あ、あはは……歳を取るとだんだん増えるもんね……。「その後、もう遅いからあの子達は帰ったぞ。片付けをしようと思ったが、お主が眠たそうだったからな〜。片付けは明日にして、空きベッドでお主はぐっすり。って感じじゃな。」そうなんだ。自分はほとんど覚えていないが……。あと、プレゼントが無くてごめん、と伝えた。「いーんじゃよ〜。お主、初めましてじゃからな。初めての相手に誕生日プレゼントを渡すか?」それもそうだね。片付けを終えると、朝食の時間くらいになった。「ごはんごはん……昨日の残りは無いから……冷蔵庫の中から好きに選ぶといい。」ありがとう。なになに……うーん、フルーツとヨーグルトにしようかな……。「お、健康志向じゃな。わしはいつもリンゴじゃ。あとは……サラダにしようかの〜。」麻璃亜もかなり健康志向なメニューだ。二人で食事を終えると、「よし、今日は何をする?せっかくじゃからあの子達に会いに行かんか?」そうか、まだ十つ子達のことはあまり良くわからない。この世界のことも。見聞を広めてみるのもいいかもしれない。外に出ると、太陽が眩しかった。いい朝だ……。自然と元気が出てくる。「う〜ん、気持ちの良い朝じゃの〜。」麻璃亜が自分と同じようなことを口にした。「さて、と。行くか。」うん、行こう。

 ——やってきたのは麻璃亜が運営している孤児院だ。自分は周りに認識されないので、気を付けて歩く必要がある。子供達はあまり多くないが、みんな元気そうだ。ぬいぐるみを持った花も居た。麻璃亜はみんなに挨拶をしながら奥の方に向かっていった。子供達が近寄らない部屋があった。麻璃亜は誰も居ないか確認すると、「ここじゃぞ。紫苑(しおん)の部屋じゃ。」紫苑……ああ、あのゲームばかりやっていた子か。確か、眼鏡をかけた紫色の子だ。この十つ子……姉妹達はみんな、髪の色が名前に入っている。いつか、十つ子達の親に会ってみたいな……。でも、そうか。みんな孤児だから親がいない可能性もあるのか。なんだか、悲しいな……。自分には親がちゃんといたのだろうか。思い出せない……。考え事をしていたら、「ほれ、入るぞ〜。」と、麻璃亜が促した。……コンコン「しーおん、いるか〜?入るぞ〜?」……ガチャ……。うわ、暗い!窓がカーテンで塞がれている。よっぽど日光が嫌いなんだな……。そういえば、紫苑はかなり色白だった気がする。しかも、暗いのに電気をつけていない。うーん、これじゃ完全に目が悪くなるな……。周りには、なんとゴミが散乱していた。カップ麺、カロリーメイト、ティッシュ、お菓子……。そ、掃除をしていないな……。「も〜、まーた散らかしとるな〜。この前片付けたばかりじゃろ〜?」麻璃亜がやれやれ、と首を振った。……あれ、肝心の紫苑はどこに……?暗すぎてよく見えない……。……ん?なにか音が聞こえる……。カタタタタタ……。何の音だ……?「聞こえてないな〜?も〜。」麻璃亜は呆れているようだが、昨日と同じく、なんだか楽しそうだ。本当に子供達が好きなんだな……。微笑ましい。麻璃亜がゴミを避けながら歩き出した。自分も気をつけながらついていくと、奥の方になにやらパソコンやテレビ、ゲーム機、それとどう使うかわからない機械が山ほど積まれていた。その山の前に、紫苑は居た。いや、詳しくはゲーミングチェアに座ってパソコンを見ていた。カタタタタタ……。そうか、タイピングの音か。すごい速さだ……。「紫苑、おはよ〜。」「……。」「あれ、おーい。」紫苑はヘッドホンをしている。麻璃亜が顔の前で手を振るまで紫苑は気づかなかった。「……なに?」ぶっきらぼうに紫苑が応えた。「ふふ、紫苑、おはよう。調子はどうじゃ?」「別に……。」「そうかそうか。あ、今日はこやつを連れてきたぞい。」お、おはよう……。「……どうも。」な、なにしてるの……?「はぁ、なんでもよくない?」ひっ、すみません……。こ、怖い……邪魔するなオーラがすごい……。「これ、紫苑。睨むでない。こやつに悪意はないぞ。」「……そう。」またヘッドホンをして作業に戻ってしまった。「うーむ、どうすれば……そうじゃ。」麻璃亜が何かを取り出した。「紫苑、じゃーん、ポテチの新作じゃ〜。」ピタッ……。紫苑の手が止まった。ヘッドホンを外し、こちらを見た。「……何味なの?」さっきと同じ態度だが、興味はあるようだ。「今度の新作はチリゆずスパイス味じゃ。いや〜、これ、わしも食べたが、かなーり辛くて止まらないんじゃ〜。紫苑、辛いの好きじゃろ?」「……まあ、そうだけど。」「いや~?でもいいんじゃぞ〜?これ、わし好きだから持って帰っても。」「……食べる。」お、食いついた。なるほど、紫苑はポテトチップスが好きなのか。「ふふ、もちろん、あげるぞ。ちょっとからかってみただけじゃ。」紫苑が麻璃亜からポテトチップスを受け取った。「……また買ってきて。」「もちのろんじゃ。いつだって買いに行っちゃうぞ。」紫苑が作業に戻ろうとした……が。「紫苑、もうちょっと良いか?」「……別にいいけど。手短にお願い。」ポテトチップスを貰って機嫌がよくなったようだ。「こやつにア(・)レ(・)を教えてやっても良いか?」「アレって……ああ。私は別にいいけど。お母さんは……いいと思うの?」「う~ん、こやつならよいと思うぞ。なんだか他のやつとは違う気がしてな。」……?アレって……なんだろう。「お主、実はな……。」

 ——「お主、落ち着いて聞いとくれ。わしの娘達……十つ子達は、皆、能力を持っておるのじゃ。」……の、能力?急に話が……。「ま、わしが魔女、と言ってるからな驚かないかもしれんが……。」いや、驚くよ。能力……?本でしか見たことないよ。「わしもなぜ娘達が能力を手にしたかわからんのじゃ。このことは、くれぐれも他のやつらには言わんでくれ。」麻璃亜が珍しく真面目な顔をした。わかった。言わないよ。じゃあ、紫苑はどんな能力を持っているの?「私……?私は……機械を操る能力……だけど。」す、すごい。どういう効果なの?「別に、特にすごいってわけじゃないけど……。はあ、パソコンやゲームとかを速く操作できたり、機械の構造とかが……よく、わかる……って感じ。見ればわかるわ。」すると、紫苑がゲームの電源を入れた。これは……格闘ゲームだ。「紫苑は格闘ゲームが得意なんじゃ。速すぎるから、よ~く見とくんじゃぞ。」すると……ポチポチポチポチポチカタタタタタ……は、速い。とにかく速い。しかも、紫苑のキャラクターはダメージを一ミリも負っていない。敵の攻撃をギリギリで避け、頭上を飛び越えて背後に回る。そして、すかさず急所を攻撃。凄すぎる。すると、まだ三十秒も経っていないのにゲームが終わった。「……まあ、こんなもんね。」ふぅ、と紫苑が息を吐いた。おおー!すごい、と褒めると「別に。」と言われてしまった。「ふふ、そうだ、紫苑とお主、一戦まじえてみてくれ。」ええ!?紫苑と!?「なぁ〜に、ゲームじゃぞ。楽しんだもん勝ちじゃ。気楽に行けばよいぞ。」ええー。そ、そうか。じゃあ、対戦よろしくお願いします……?「まあ、手加減はしないから。」ひぃ……。「……流石に、ハンデはつけましょ。私は飛び道具禁止。あと、弱いキャラを使う。……そうね、一撃でも私に入ればあなたの勝ちでいいわ。」え!いいの?よし、さっき見た動きを予想して……なんとか作戦を考えなきゃ……。「頑張れ〜。」麻璃亜がどちらを応援しているかわからない声をあげた。「じゃ、ゲームスタートね。」き、緊張してきた……。ピコーン……スリー、ツー、ワン……ゴー!!始まった……!って、ええ!?離れていたはずなのに一瞬で距離を詰められた!?早速自分にダメージが入った。……すかさず攻撃をしたがかわされた。こ、これは……まずい、とにかく、攻撃をかわし続けよう。そして、隙を見て攻撃だ。だが、かわしたその後を予測され、攻撃が入り続けてしまった。ああ、どうしよう!「はあ、つまらないわね……もう終わりでいいわ。」はっ、まさか、今、紫苑のキャラクターの必殺技が溜まった。ここで撃って終わらせる気だ。なるほど、だんだん読めてきた!今じゃない、次、いや、ここ!!「!?……」「おお、紫苑の必殺技を避けたぞ〜。よくやった、お主〜。」「……もういいわ、終わらせましょう。」あ……!ゲームセット!!攻撃をかわした次を狙われて、ダメージを入れられてしまった……。自分の負けだ。……うう、悔しい……。「……。」「すごいではないか、紫苑の必殺技を避けるなんて。お主にはゲームの才能があるようじゃな。」麻璃亜が自分の頭を撫でてくれた。えへへ、ありがとう。……だが、紫苑は黙ったままだ。どうしたのかな。自分に必殺技を避けられて悔しいのかな。嬉しいけど、なんだか申し訳ない気持ちだ。「……はあ、まさか避けられるとは思っていなかったわ。初めての動きじゃなかったし。本当に才能があるのかもね。」……え、あ、ありがとう。素直に褒めてくれた。紫苑は負け惜しみをするタイプではないのかもしれない。「じゃあ、別のゲームもやってみましょう。」え、また!?いいけど……。というか、ずいぶんと乗り気だな……。麻璃亜の方を見ると笑顔で見守ってくれていた。「ふふ、紫苑が楽しそうで何よりじゃ。」「別に、楽しいわけじゃ……。」と、否定はしきれないようだ。紫苑にも案外かわいいところがあるじゃないか。「よ~し、わしも加わってみようかの〜。」「え、お母さんも?……魔法はナシね。」「わかっとるわい。次はレーシングゲームがやりたいぞ〜。」あはは、なんだか楽しいね。「……そうね、ソロでやるゲームもいいけど……たまにはマルチでやるのも案外……いいのかも。」麻璃亜が嬉しそうに笑った。「ほらほら、キャラを選ぼうではないか、わし、この太っちょで。」「……お母さんいつも、インパクトあるキャラを選ぶわね……。」自分はこのキメラにしようかな!「あんたもじゃない……。まともなのは私だけ……。」そう言っておどろおどろしいドクロを選んだ。「紫苑もではないか〜。」紫苑もじゃないか!と、麻璃亜と自分がシンクロして、二人で笑った。「……ふふ。」……え、今、笑った?「……別に。」一瞬、紫苑が笑ったような気がした。……気のせいか。

 ——カア……カア……カア……。紫苑の部屋で、結局朝から夕方までゲームをしてしまった。画面の見過ぎで頭が痛い……。「う~ん……楽しかったのう〜。さて、今日は帰るか。」そうだね、紫苑、ありがとう。「……こちらこそ。」紫苑は相変わらずそっけないが、少し、仲が深まった気がする……気がするだけだけど。「あ~そうだ、紫苑。お主、最近食べとらんじゃろ。痩せとるのを感じるぞ。食べたいものがあったら、す〜ぐわしに言うんじゃぞ。」「はいはい、わかった……それじゃ、ね。」バタン……。うっ……眩しい……。紫苑の部屋が暗すぎたせいで外がすごく明るく感じる……。「うう、眩しいのう……。もう夕方か……。わし、お腹ペコペコじゃ~。」すると、花が駆け寄ってきた。「ママ〜!紫苑お姉ちゃんの部屋で何してたの?」「ん〜?ゲームじゃぞ。ちと、盛り上がってしまってな。」「ふぅ~ん……今度は私もやりたーい!」「そうじゃな。また、な。」「うん!」花と別れて麻璃亜の家へと戻ろうとしたが……突然、ドカーン!!!と爆発音が聞こえた。え……ええ!?な、何事!?「ふむ……ああ、心配するでない。きっとあの子じゃ。」あの子……?あの子って……。すると、隣の部屋の扉が勢いよく開いた。「ゲホッゲホッ……ああ、まさか爆発するとは……私としたことが……。」あ、なるほど、そういうことか。今爆発音と共に現れた水色の髪に黄色の瞳をした小柄な少女……葵(あおい)だ。

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