第0.5話 不思議な出会い
——いつから眠っていたのだろう。目が覚めた時に目に入ったのは草と木だった。森の中だろうか、青々とした草の匂いが心地良い。まだぼーっとする頭を無理やり起こして周りを見ると辺りは思ったより暗かった。木々の葉の隙間から月が見える。すると、「大丈夫か〜?お主?」と、木の陰から小柄な女性がひょいと顔を出した。フードを被っていてよく見えないが少しはねた黒髪に、血のように赤い瞳。背丈は自分よりもかなり低く、子供のようだ。それにしても、なぜ子供がこんな真夜中に森にいるのか。そして、なぜずっと見ていたかのように木の陰にいたのか。この少女が不審で仕方がなかった。だが、「気を失っていたようだが……起きれるか?」と、心配してくれていたようだった。そしてなぜか、老婆のような口調だ。子供ではないのかもしれない。とにかく、女性が手を貸してくれたので起き上がると、女性の背は思ったより低かった。ここはどこか聞くと「お主、もしかして覚えていないのか?」と、驚かれた。「空を飛んでいたら急に地響きのような音がしてのう。何やら上空に切れ目が現れて、そしてお主が降ってきたんじゃ。」と、状況を説明してくれた。……というか、ツッコミどころがあるセリフだったが、自分は空から落ちてきたのかと、信じられないが状況を飲み込むことにした。「いや〜不思議じゃの〜、お主、まさか……。」そこまで女性が言ったが、「……いや、やめておこう。」そう言って、言葉を飲み込んでしまった。少し気になったが女性が真面目な顔をしたので聞かないことにした。すると、「おっと、自己紹介をしていなかったのう。」と、女性が言った。「わしの名前は麻璃亜。見ての通り、魔女じゃ。それ以上でもそれ以下でもない。」魔女?と、気になったが、今になって麻璃亜の耳が尖っていることに気づいた。エルフや妖精の耳が尖っているのは本で見たことがあったが、魔女もなのかと関心してしまった。麻璃亜の服装をよく見ると、深緑色の質素なワンピースに灰色で薄ピンク色のリボンがついたローブを着ている。確かに、言われてみれば魔女に見えなくもない。というか、麻璃亜自体、魔女に見えない。身長のせいもあって、ハロウィンで仮装をしている子供のようだ。……喋り方を除けば。しかし、当たり前だが、自分はどうすればいいのか。何故か、自分はどこから来たのかがわからない。記憶が無い訳では無いが、そこだけすっぽりと抜け落ちてしまっているようだ。行くあてがない……と考えていると、「お主、これからどうするんじゃ?」と、察してくれたようだ。「もし良かったらわしの家に来ないか?もう夜中じゃし、冷えるじゃろ。」良かった。今日はどうにかなりそうだ。怪しいかもしれないが、麻璃亜について行くことにした。
——家に向かう道中で麻璃亜と色々話した。この世界については麻璃亜もよくわからないらしい。「人間の科学がすごいんじゃ〜。」と言っただけだった。スマホやパソコンなどのことを言っているのはわかった。それは知っている。自分の世界にもあったかもしれない。「おっと、家に行く前に寄りたいとこがあるんじゃが……よいか?」……寄りたいとこ……?どこだろうか。森をぬけて街へ出た。森から少し離れた場所に小さな孤児院があった。どうやらそこが目的地らしい。麻璃亜は門の前に立つとこう言った。「よいか、子供達が寝ておるからしーっじゃぞ?」……しーっすることにした。「ガチャ……キィィ……」麻璃亜が静かに門を開けた。中に入ると、小さいながらにしては掃除が行き届いていて、とても清潔な場所だった。「コツ……コツ……コツ……」自分と麻璃亜の足音だけが響く。そして、部屋が沢山並ぶ廊下に出た。麻璃亜は一つずつ部屋を確認していった。子供達が寝ているかを見ているのか……と、納得した。というか、麻璃亜はなぜこんなことを……?と、思った矢先、「あ!ママ〜!」と、声がした。どうやら起きていた子供がいたらしい。ぬいぐるみを持った女の子だ。「も〜、なんで起きとるんじゃ?花〜?」と、麻璃亜が応えた。花、と呼ばれた女の子はとても嬉しそうだ。麻璃亜は花を抱き上げ、頬にキスをした。すると、「え、ママ?」「ふぁ〜……ママ!」と、次々に子供達が起きてしまった。「おうおう……皆んな、寝なきゃダメじゃろ?」麻璃亜も嬉しそうだ。どうやら麻璃亜はこの孤児院を運営しているようだ。ママ、と慕われている。だが、おかしい点が一つあった。知らない人であるはずの自分に誰も触れていない。……まさか、見えていないのか……?麻璃亜に目で訴えた。子供の相手をしていた麻璃亜だったが、自分のアイコンタクトに気づいてくれた。「そうそう、お主らに紹介したい者がおる。」と、そこまで言ったが、「?……誰もいないよ?」と、花が答えた。自分と麻璃亜が凍りついた。やはり、見えていなかったのだ。「……そうじゃな。誰もおらんが、幽霊がいるかもしれんぞ〜?早く寝ないと攫われてしまうぞ?」すると、子供達が「ヤダー!」と、次々にベットに戻った。子供の扱いが上手い。麻璃亜がどういう人間か少しわかった気がする。……魔女は人間として分類していいのか……?……まあ、いいか。「そんじゃ、おやすみ〜。」と言って麻璃亜はドアを閉めた。「ふむ、ちと厄介なことになったのう。」歩きながら麻璃亜は言った。自分のことがよくわからなくなった。空から落ちてきて、麻璃亜以外の人間には認識されない……。元の世界のこともわからない。不思議なことばかり起きている。麻璃亜も何かを考えているようだ。「う〜む、もしかすると……でもな……。」だが、自分とは違ってなにかに気づいているような口振りだ。それを教えて欲しいが何故か聞いてはいけないような気がした。お互い考え事をしていたら、全部の部屋を回り終わったようだった。「よし、じゃ、わしの家に行くとするか。また森に戻るが近いから安心してよいぞ。」また再び、麻璃亜と歩き出した。すると、何やら麻璃亜が気になることを口にした。「”あの子達”が居なかったのう。まーた家で何かやっとるな〜。」”あの子達”……?また謎が増えた。麻璃亜に聞くと、「ああ、十つ子のことか?」……?十つ子?子供が十人?……しかも、双子のように同時に生まれた……?「まあ、普通みんな驚くから慣れたもんじゃ。そうじゃぞ、同時に十人生まれたんじゃ。」そんなことが有り得るのか……?「ほんとじゃぞ〜、だけど、ぜんっぜん似てないから初見じゃわからないと思うぞ。でも、わしは見てないから何とも言えんが……。」誰がそんな十人も産んだのか、気になったので聞いてみると、麻璃亜はなぜか表情を曇らせた。だが、それは一瞬ですぐ表情を戻した。「あれじゃよ、孤児じゃから親がわからないんじゃ。そういう事情の子は山ほどおる。」なるほど、孤児院だから当然か。そう言っているうちに森へ戻ってきた。しばらく森を歩いていくと、急に麻璃亜が立ち止まった。何か木を撫で確認しているようだ。「よし、ここじゃな。ちと待っといてくれ、今、目隠しの魔法を解くからな。」どうやら魔法を使うようだ。興味本位で見ていたが、麻璃亜は人差し指を立て、ひとふりしただけだった。だが、麻璃亜の指先から光の線が現れ、一瞬にして光に包まれた。すると、目の前に小さな古びた家が現れた。魔法は初めて見たがとても美しかった。すると、麻璃亜が「ふふ、どうじゃ、すごいじゃろ〜。こんなもんじゃないぞ、伊達に何年魔女やっとると思っとるんじゃ?」と言うと、また光に包まれ、綺麗な花束が現れた。おお、これはすごい。魔法は何でもできるのかと聞くと、「ま〜、大抵はな〜。出来ないこともあるが、わしにかかれば火や水を操ったり天候を変えることだってできるんじゃぞ。あ、その花はワスレナグサじゃ。可愛いじゃろ〜。わし、花には詳しいんじゃぞ〜。」と、ウインクした。……おちゃめだ。ワスレナグサ……確かに、可憐な青い色だ。もらってもいいかと聞くと、「全然よいぞ〜、ちなみに、枯れない魔法がかかっとるから飾るなり押し花にするなり、好きにするとよい。」ありがとう、とお礼を言い、大切にすることにした。この世界でもらった初めてのものだ。と、突然くしゃみしてしまった。少し寒い……。「おっと、長話ししてしもうた。そろそろ中に入るか。多分あの子達がいるが……まあ、よいか。」そうだった。自分は他の人には認識されないんだった。なるべく大人しくしていよう。「ただいま〜。」と、麻璃亜がドアを開けた次の瞬間、「パーン!!」と、大きな音がした。何事か、と身構えてしまったが、突然、「誕生日おめでとうーー!!」という何人かの女の子の声が聞こえた。麻璃亜の後ろから覗くと桃色、オレンジ色、赤色の髪の三人の女の子がクラッカーを手に麻璃亜を出迎えていた。その女の子達はとても背が低かった。麻璃亜に初めて会った時かなり背が低いと思ったがこの子達はさらに低い。百三十センチ程だ。そして、今わかった。麻璃亜が言っていた”あの子達”はこの子達だ、と。「いやいやー遅すぎだってー母さん。」と、オレンジ色の髪の女の子が言った。「そうだよ!今日はお母さんの誕生日だから、みんなで準備したのー!」今度は桃色の子だ。「そーそー。そのためにー、紫苑おねえちゃんも葵おねえちゃんも呼んだんだよー。ママ、誕生日おめでとー!」赤色の髪の子だ。「ちょっと、紅緒、抜け駆けすんなよー。いい子ちゃんアピールバレてんぞ。」またオレンジ色の子が言った。「えー?別にー?べに、ママが大好きだからお祝いしたんだよー?」赤色の子だ。……この流れは……喧嘩?「は?そーゆーの、ウザイんですけど。」赤色の子とオレンジの子が喧嘩をしている……。「まあまあ、二人とも落ち着いてー!ほら、今日はお母さんの誕生日だし、ね?お母さんが困っちゃうよ?」桃色の子がなだめてくれた。だが、二人は睨み合ったままだ。仲が悪いのか……この二人は。「はあ……頭にキンキン響くんですけど……ほんと迷惑。」と、何やら後ろにも女の子がいたようだ。話によると、十人いるらしい……が。今、迷惑そうにしたのは紫色の髪をした子だ。ゲーム機を持ってゲームをしている。桃色の子、オレンジ色の子、赤色の子、紫色の子……今前に出てきたのは四人……後ろにあと六人いるのか……。四人だけでもかなり個性的だ……。麻璃亜に助け船を出してもらおうと麻璃亜を見ると……なぜか不思議そうな顔をしていた。なぜだろう、誕生日おめでとう、と言われたのにピンと来ていないようだ。すると、「はて……今日、わしの誕生日だったか?」と、言った。まさか、誕生日を忘れているのか……?この人は謎が多いな……。「なーに言ってんの!二月十三日!母さんの誕生日でしょ!」と、オレンジ色の子が言ってくれた。「わしの誕生日……あ〜、確かにそうかもしれんな〜。すまんすまん、すっかり忘れておったわ。この飾りつけはお主らがやってくれたのか?ありがとうな〜。」何とか思い出したようで、また柔らかい表情に戻った。「ほらほら、中入ってー!」桃色の子が促してくれた。麻璃亜がこっそり手招きをしてくれたので慌てて中に入った。
——家の中はかなり小ぢんまりしていて見かけどうり古かった。が、孤児院と同じように掃除や手入れが行き届いていた。なんだかとても暖かくて懐かしい感じがした。本棚が沢山あり、何やら色々な本があった。中にはどこの国かわからない字の本も山ほどあった。そんな家の中は「Happy birthday!!」の風船や色とりどりの飾りつけがされていた。そして大きな木のテーブルの上には美味しそうなご馳走やかなり大きなケーキがあった。どれも売り物のような出来栄えだ。手作りなのだろうか?麻璃亜も含めて十一人だからどれも大きい。そして、残りの六人も対面することが出来た。難しそうな本を読んでいる水色の子。無表情で虚ろな目をして座っている黄色の子。ダーツをしている黄緑色の子……どれも真ん中に刺さっている。木刀の手入れをしている藍色の子……木刀?二度見してしまった。机に伏して眠っている蓬色の子。藍色の子の近くで隠れている白色の子。さっきの子も含めると丁度十人。自分の見立て通り、かなり個性的だ。周りを見渡していると視線を感じた気がした。白色の子を見ると、一瞬、目が合った気がした。だが、鬼の速さで逸らされてしまったので本当に目が合ったかはわからなかった。すると、「母様、誕生日おめでとうございます。この料理はみんなで作ったんです。白愛が色々教えてくれて……。ね、白愛。」と、藍色の子が白愛、と呼ばれた白色の子を見た。「えっと……でも、皆さんが……手際良くやってくれたので……私はあんまり……。」と、もじもじしながら応えた。「そうか、ありがとな白愛。人に教える、というのもなかなかできることじゃないからな。」と言って麻璃亜は白色の子の頭をくしゃっと撫でた。「みんなも、わしのためにそこまでしてくれてありがとな。わし、嬉しいぞ。」「白愛おねえちゃんばっかりずるーい、ママ、べにも撫でてー!」と麻璃亜に赤色の子が擦り寄った。「はいはい、べにはあまえんぼさんじゃの〜。」麻璃亜が赤色の子の頭も撫でた。オレンジ色の子を見ると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。やはりこの二人は仲が悪いのか……。「さて……と、じゃあ、冷めないうちに頂こうか。」この声は初めて聞いた。水色の子だ。本を閉じ、立ち上がった。「はー?葵は手伝わなかったくせにー?」オレンジ色の子が異議をとなえた。「私は時間を無駄にはしたくないのだよ。君達とは違ってね。料理なんてものはするもんじゃない。カロリーメイトやサプリメントで十分だ。そんな非効率的なことをなぜ私がしなくてはいけない?」「ぐぬぬ……。」オレンジ色の子は言い返せないようだ。「……私も葵と同感。料理ってほんとだるい……。」紫色の子が言った。「はぁー。この二人、説得できる気がしねー。ねー碧ー?この二人説得してー?」オレンジの子が黄緑色の子に話しかけた。「僕に振るのかい……?」ダーツの手を止めてその子が応えた。「まぁ、どちらとも一理ある。カロリーメイトだけだとタンパク質や食物繊維があまり摂れない。かといって料理でバランスよく食べても食費がかさむし手間がかかる。僕だって時間がないんだ。でも、時間が特にない日はカロリーメイトに置き換えて、その他はなるべく調理済みのバランスがいいものを厳選して食べるようにしてる……けど。というか、人間はしっかり料理を食べないと不健康だよ。」と、タメになることを教えてくれた。「おー、さっすが相棒!頼りになるー!まあでも?お菓子はちゃーんと毎日食べるんだもんねー。」「なっ!?なんでそれを……!?」「えー?みんな気づいてるけどー?どれだけ忙しくても、おやつタイムだけは欠かさないって!」黄緑色の子の顔が赤くなった。「バレてないと思ってたのに……。」と、帽子で顔を隠してしまった。なるほど、この二人は仲がいいのか。このカオスな現状を見て少し混乱してしまったが、麻璃亜の表情を見る限りこれが普通なのだろう。個性的な十つ子や孤児院の子供の相手を難なくこなす……。とても愛情深い性格なのだろう。麻璃亜はやはり只者ではないな。「じゃー、葵の言った通り食べるとするか。わし、お腹ぺこぺこじゃ〜。」いいな……自分も食べたいが……姿が見えないのに食べたらどうなるのだろう。少しくらいつまみ食いをしてもいいだろうか。自分もお腹と背中がくっつきそうだ。だが、次の瞬間、これまでで一番驚くことになった。「と、こ、ろ、でー、母さん、そいつ誰?」
——……え「……へ?な、何がじゃ?」「とぼけないでよねー、さっきからずっと一緒にいるそいつ!」「そうそう、べにも気になってたー。誰なの、ママ?」「あ〜、え〜と……。」「お客様でしょうか?」「お母さんが誰か連れてくるってあんまりなかったよねー!こんばんは!」……こ、こんばんは……お邪魔します……。えっと、状況を整理すると……さっきの孤児院の子供達には見えていなかった自分がこの子達には認識されている……?ど、どういうことだ……?「どうしてここがわかった?母さんについてきたのか?答えろ!」……ふぎゃ!?突然、鼻に痛みが走った。なんと、ダーツの矢が鼻に刺さっている。あの黄緑色の子が投げたのか?すごい命中率だ……って、感心している場合じゃない!「答えないと、次はナイフだ。」いつの間にか黄緑色の子の手にナイフが握られている。ひえー!これはまずい……。麻璃亜、助け……「ふふっ……。」なぜ笑っている!?「ふーん、逃げないんだー。やっぱり不審者?じゃあ……殺っていいってことだよね!」オレンジ色の子が指をポキポキと鳴らして戦闘態勢になった。今度は拳でいかれる!?「なっ、不審者なのですか!?白愛、隠れてください!ここは私が!」藍色の子が木刀を鞘から抜いた。顔つきも険しくなってしまった……。あれ、これって殺られる!?弁解しないと……!ち、違います!不審者じゃないです!麻璃亜が助けてくれて……。「母さんの名前を知っているってことは相当の手練だな。橙子、藍沙、いつもの陣形で。」「りょーかいっ!」「わかりました!」いやいや、だから、違うんだってー!「言い訳無用!!」オレンジ色の子が一瞬で跳躍し、目の前に迫ってきた。だめだ、殺される……!!死を覚悟して目をつぶった次の瞬間……「はいはい、ストップ〜。」と、麻璃亜の声がした。「おるぁ!!……ってあれ?」いたっ……くない?恐る恐る目を開けるとオレンジ色の子が目の前で浮いていた。拳は顔の数センチ前で止まっている。麻璃亜が助けてくれたのだ。麻璃亜が魔女だということを忘れていた。麻璃亜、ありがとう……。ほっとして座り込んでしまった。「ちょっ、なんで邪魔するわけ!?母さん!」オレンジ色の子は浮いたままじたばたしている。「お主ら、ちと好戦的すぎるぞ?ちょっとは状況を見て判断しないと命取りになるぞ〜。こやつは、わしの連れじゃ。」「むっ……そうなのか?……ごめん、やりすぎた。」黄緑色の子が謝ってくれた。帽子でまた顔を隠してしまった。恥ずかしいのだろう。「わ、私こそ、何たる無礼を!申し訳ありませんでした!以後、このようなことがないようつとめます!」藍色の子も謝ってくれた。この子は素直で真面目そうだ。オレンジ色の子は……降ろしてもらったようだがむすっとしている。「あたしらが悪いわけ……?事情話さなかったそっちが……。」と、何やらぶつぶつ言っている。こっちは殺されそうになったので少しは謝ってほしい……。「これ、橙子。謝らんか?」「……ごめん。……はい、言ったー!もうこれで終わりー!」……この子はなんだか……生意気だ。「いやー、うちは野蛮人が多いねー。早くそいつも入れて食べないか?私は時間がないんだが。」水色の子が嬉しいことを言ってくれた。「そうだね!あなたも、一緒にたべよ!」桃色の子も優しい……ありがたい。「主役のお母さんはここに座って……あなたはここどうぞ!」ピンクの子が空いている椅子を指さした。椅子に座ると、料理の美味しそうな匂いが漂ってきた。……ごくり。そういえば、この料理は白愛という子が指示して作った……と言っていた。確か……白色の子だ。その子とはさっき目が合った……そうか、自分が元々見えていたから目が合ったのか。食器を配ってくれているようだ。自分にも渡してくれた。ありがとう、とお礼を言うと、「……その花……ワスレナグサ……ですよね。」と、細々とした声で言った。なぜ知っているのか、と聞くと「……えっと……その……す、すみませんっ。」と言って藍色の子の元に戻ってしまった。人見知りなのだろう……相当の。向かいの席を見ると蓬色の子がまだ寝ていた。すると、「ほらほら、蓬ちゃん起きてーごはんだよー。」桃色の子がゆさゆさ、とその子を揺さぶった。「ん〜……ふわぁ……あらぁ?わたし、寝てたのかしら〜?あらま、おかーさん、誕生日おめでとう〜♡」「蓬は寝ておったのか?ふふ、いつも通りじゃな。ありがとう。」「うふふ♡みんなプレゼントを用意したからぁ〜後で渡すわねぇ〜。」「お、そうなのか?いやぁ〜悪いのう〜。」蓬色の子の隣にはさっきと全く同じ体勢で座っている子がいる。黄色の子だ。瞬きはするが、誰とも話さず表情も変えず、ただ前を見ている。じっとみていたら、「おやおや、黄菜に興味があるのかい?こいつはいつもこうなのさ。ロボットみたいなものだ。私もこいつが不思議で仕方がない。どうしてこうなったのかもわからないからな。」と、水色の子が説明してくれた。どうやら、生まれつきらしい。麻璃亜より、この子の方がずっと不思議だ。と、桃色の子が「はいはーい!みんなー、乾杯するよー!」と言った。みんなが席につき、飲み物が入ったグラス……ではないがコップを持った。「それじゃー、お母さんの誕生日を祝して!かんぱーい!!」かんぱーい!!という合図が響き、麻璃亜の誕生日パーティーが始まった。
——やっと食べられる……!と思ったが、まだこの十人のことはよくわからない。さっきの会話で何となくわかる子もいるが、自己紹介をしてもらえないだろうか……?と、麻璃亜に聞くと、「あ〜、そうじゃな。お主は全く知らんよな。じゃ、みんな自己紹介をしとくれ。……年順に行くか。じゃ〜、紫苑から。」「私……?はあ、めんどくさ。」と、まずは紫色の子のようだ。無気力な子だな……。「紫苑……。一応長女……だけど。」と紫色の子……紫苑が答えた。深い紫色の髪を下めの二つ結びにして、右目は前髪で隠れている。黒縁の眼鏡をかけていて、その奥の虚ろな瞳は真っ黒だ。気づけばさっきまでゲーム機を持っていたが、今度はスマホで動画を見ている。そりゃ目が悪くなるな……。というか行儀が悪くないか?麻璃亜は気にしていないようだが。これが普通なのか……。やはりこのカオスな状況にはついていけそうにない。「……おや、次は私か。それでは素晴らしいこの私の自己紹介をしよう。」と、水色の子が立ち上がった。おお、凄い自信だ。「この十つ子の次女をつとめる天才発明家、葵だ。世界で一番賢いと謳われる逸材だ。」水色の子……葵が語った。水色の髪を少し雑なツインテールにしていて、作業服のような服を着ている。瞳は黄色で聡明そうな雰囲気だ。「君も、何かわからない事があったらなんでも私に聞くといい。この私にかかれば世界のどんな難題もこなして見せよう。」と言ったが、オレンジ色の子がふん、と鼻を鳴らした。葵はかなり相性を選ぶタイプなのかもしれない。……オレンジ色の子も。「ぱちぱちぱちー、次はわたしだね!えっと、わたしの名前は桃花!上から三番目、三女だよー!よろしくね!」と、桃色の子、改め桃花がウインクをしてくれた。桃色のロングヘアに水色の瞳。服装は髪と同じ、桃色を基調とされたフリルが多い服を着ている。活発な性格ながら人当たりが柔らかで話していてとても癒される子だ。この子は他の子とも関係が良さそうだ。「じゃ、次、橙子〜。」と、麻璃亜が促した。視線の先は……肉にがっついているオレンジ色の子だ。「んが?あたし?……ごくっ、えーと、四女やってまーす、橙子ー。」と、橙子が雑に自己紹介をした。オレンジ色の髪を右のサイドテールにして、前髪は流してピンで止めている。黄緑色の鮮やかな目をしていて、服装はとても動きやすそうだ。桃花と同じく活発そうだが、雰囲気が全然違う。橙子の方が少し強気な感じがする。というか、橙子にはさっき殺されかけたんだった……。彼女の瞬発力はかなり恐ろしかった。運動が得意そうだが、詳しくはまだ聞かないことにした。「で、こっちが五女の黄菜。こいつは……まあ、特に気にする事はないよ。喋らないし。」そうだ、濃いメンツにもたれて忘れていた。この子……黄菜が謎だった。今は向かいで食事をしている。食べるスピードが全然落ちなくて不思議だ。「ふふ、黄菜は出される限り、全てたべるんじゃぞ。底なし胃袋と言っても過言ではないのう。おかげでうちでは残飯は出ないんじゃ。」と、麻璃亜が説明してくれた。底なし胃袋か……その割には痩せている……う、羨ましい……。どうやったらそんな体質になるのか……。「次、僕の名前は碧。六女だ。よろしく。あと、さっきはすまなかった。」と、次は黄緑色の子……碧が挨拶と謝罪をしてくれた。少し気難しそうな子だが謝罪は忘れない、しっかりとした子のようだ。碧は黄緑色の髪でかなり長い三つ編みにしている。茶色の瞳は少し曇っているようだが今日会ったばかりなのでよくわからない。それにしても、碧は自分のことを「僕」と呼ぶのかと聞いてみると「それは……特に意味は無い。」と答えた。そうか、自分なりの呼び方があるのか、と納得した。女性だからといってみんながみんな「私」と呼ぶ訳ではないしな。……こういうのは差別、と呼ぶのかもしれない。自分も気をつけよう。と、藍色の子が「えっと、次は私ですね。七女、藍沙と申します。先程は大変失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした……。深くお詫び申し上げます。」と、わざわざ立ち上がってぺこりとお辞儀をしてくれた。藍色の髪をポニーテールにしていて、赤紫色の瞳をしている。そして、日本の伝統的な和服を着ている。……日本?なぜ、自分は日本を知っているのだろうか。というより、ここの国も日本なのでは……?麻璃亜に聞くと、「ん?ここの国?日本っていう国じゃが?」と返した。日本……自分も日本人だったのだろうか……。日本語を話しているような気もするし……。頭が痛くなってきた。すると、「?……大丈夫ですか?」と、藍沙が気遣ってくれた。近くに来て、額に手を当てた。「……うん、熱はないようですね。少し温かいお茶を飲んでください。良くなるはずです。」ありがとう……と、お茶をいただいた。うん、少し落ち着いた。藍沙が席に戻った。と、隣にいた白色の子が心配そうにこちらを見ていた。すぐに逸らされてしまったがその子も心配してくれていたのだろう。「ちょっと蓬ー!起きなよ、あんたの番!」と、橙子が蓬色の子を揺すった。あの子、さっき起こされたはずでは……?また寝たのか。「んん〜あと2日……。」「ちょ、は?起きろって!」ゆさゆさ、ゆさゆさ、とかなり強めに揺すっていたが結局三分程して蓬色の子が起きた。「ふぁ〜、ん〜……あら?みんな、おはよぉ〜♡」「おはよぉ〜……じゃない!ほら、次あんた!」「?次ってぇ?」「はぁー。」橙子がこれ以上ない程のため息をついた。いつもこんな調子なのか……。「蓬ー、こやつに自己紹介してやってくれ。」「自己紹介〜?あらぁ、とても素敵なお方♡いいわよ〜、わたしの名前は蓬〜。八女よ〜よろしくねぇ♡」な……なんだか今まで以上にキャラが濃い……。よ、よろしく……。「うふふ、どぉしたの〜?顔が赤いわよ〜。あなたも一緒に……寝る?」いえいえ、遠慮しときます……!ゆ……誘惑?恐ろしい……。あ、忘れていた。髪色は蓬色、下めの何個かのお団子ヘアーだ。少し不思議な髪型だ。瞳は灰色でなんだか引き込まれそうな感じがする。服装は白いネグリジェのようなワンピースだ。初めて会った時からほとんど寝ているが……起きていたとしても眠たそうだ。「ふわぁ〜……もう寝てもいいかしら?」「はぁーーーー。いーよ。」橙子がまたこれ以上ない程のため息をついた。「んー、じゃあみんな、おやすみ♡」と言って机に伏した。すると三秒も経たないうちに寝息が聞こえてきた。え……ええ……。なんだか、恐ろしい子だ……。「ふふ、次は白愛じゃぞ。」と麻璃亜が促した。「ひゃっ。」と、声が聞こえたと思ったら白色の子が机の下に隠れてしまった。「……は、はい。」「白愛、大丈夫ですよ。」藍沙が優しい声をかけた。すると、ひょこっと頭を出した。彼女にとってそれが精一杯なのだろう。「わ……私の名前は……は、白愛……です。きゅ、九女……です。」と、また細々とした声で答えてくれた。そうか、よろしくね、と言ったが「はい……。」としか答えてくれなかった。綺麗な白髪に薄ピンク色の瞳。髪は丁寧なハーフアップにしていて性格が伺える。服も桃花と同じような系統だが、少し質素で主張が激しくない。やはり、控えめな性格なのだろう。「きゃははっ!白愛おねえちゃんってば、おもしろー。」と、赤色の子が軽くディスった。「最後べにー!べにの名前は紅緒!べにって呼んでー。十女だよんー。」と、十女、紅緒……いや、べにが自己紹介をした。赤色のショートヘアに紫色の瞳。服装はなんだかオシャレだ……自分はオシャレには疎いが。なんとなくわかる……気がする。というか、言動がかなりあざとい……きっと学校などでは一軍なのだろう。紫苑、葵、桃花、橙子、黄菜、碧、藍沙、蓬、白愛、紅緒……。丁度十人。かなり濃いメンツだった……。……ん?紫……葵……?桃……あ!「お?気づいたか?そうじゃ、みんな色の名前になっとるんじゃ。こやつらの母親が決めたらしいぞい。」やはり、髪色とリンクしているのか。いい名前だね、と言うとまた麻璃亜が遠い目をしてしまった。ん?十つ子の母親となにか関係しているのか?……だが、自分が聞いても教えてくれそうにない。いつかわかるといいな……と、あまり考えないことにした。「じゃ、食べるか。いただきま〜す。」と言って麻璃亜がパイをほうばった。「う〜ん、美味いのう。さすがは白愛じゃ。」「いえ、そんなことは……。」あはは、自分も食べよう。……うん、美味しい。見た目も味も完璧だ。この世界で初めてご飯を食べたが、元の世界と同じような感じな気がする。自分も含め十二人だからみんな喋るとかなり賑やかだ。そして、一時間程してテーブルの食事もかなり減ったころ、「それじゃーみんな!プレゼントターイム!」と、桃花が宣言した。そうか、忘れていたがこれは麻璃亜の誕生日パーティーだった。すると、みんなテーブルの下から紙袋やラッピングされたプレゼントを出した。あれ、これは……まずい、自分は麻璃亜にあげるプレゼントがない!というかさっき麻璃亜から貰ってしまった……。ご飯を食べておいてプレゼント無しは流石に申し訳なさすぎる……。ど、どうしよう……。「わーい、わし、嬉しいぞ〜。」麻璃亜が待ってましたと手を叩いた。「まずべにねー。はいママ、誕生日おめでと!」「おお、ありがとう。開けてもよいか?」「うん!もちろん♪」「どれどれ……お、ハンドクリームか。」「そう!これ、結構いいブランドのやつでー、ママの好きなお花の香り!」「最近乾燥するからのう〜。ありがとうな、べに。」「紅緒ってば一番乗りしやがって……。ま、プレゼントはいいやつが喜ばれるとは限らないし?」「えー、橙子おねえちゃんってば言い訳ー?負け惜しみー?」「は!?違うし!?」「まあまあ、落ち着いて〜。次は橙子ちゃんじゃない?」「はー。わかった。せっかくの母さんの誕生日に喧嘩する訳にはいかないしね。んじゃ、あたしね。はい、母さんたんおめ〜。」「ありがとう。……お?これは……粉?怪しい粉か?」「怪しい粉〜!?」と、数名が叫んだ。「ちょ、橙子ちゃん、それはダメだよ!」「橙子姉様が……!?」「きゃははっ!まじー?おもろー。」「本物だとしたら笑ってる場合じゃないでしょ、紅緒。お母さん、よく見てみて。どうせプロテインとかでしょ。」「あったりー!どう?びっくりしたー?」「ふふ、透明な袋に入ってたからそっちかと思ってしまったわい。面白いのう〜。わしもトレーニングとかしてみようかの〜?ありがとう、橙子。」……自分も怪しい粉かと思った……。本物じゃなくて良かった……。とんだサプライズだ。「次、私からだ。母さん、誕生日おめでとう。」と、葵が麻璃亜にプレゼントを渡した。「ありがとう。さてさて、中身は……お、これは本か。かなり分厚いのう。読み応えがありそうじゃ。」「私が最近ハマってる外国文学だよ。英語のままだが私と母さんにはわかるはずだ。」「確かに、英語じゃな〜。久しぶりじゃな。」こんな厚い本を読むのか……。自分には到底読めそうにない。「うむ、人生は所詮暇つぶし。また暇な時に読むか。ありがとう、葵。」「……次、僕いっていいか?……コホン、母さん、誕生日おめでとう。僕なりに母さんに合うものを選んだつもりなんだが……気に入ってくれると嬉しい。」と、碧が少し不安そうにプレゼントを渡した。「なんでも大丈夫じゃぞ、碧。有難く頂戴するぞ。中身は……げっ。」え?麻璃亜の動きが止まった。「ど……どうかな……母さん。」「これは……なんじゃ?」なになに……。箱の中を覗いてみると、えっ、と声を出してしまった。なんとそれは……食虫植物のぬいぐるみだった。「え、どうしたの?」と、みんな(黄菜と蓬を除く)が箱の中を覗くと「えーーーーー!?」と、約数名を除いてみんなが叫んだ。デジャヴ……。「ぷぷー!やっぱ碧のセンスってば最っ高!まじ笑えるわー。」「ちょ、橙子……。」「きゃははははっ!やばすぎー!キモイー、写真撮ってもいい?」「べ、紅緒……やめ、撮らないで……っ。」ずっと難しい顔をしていて強気な態度だった碧だが、顔を赤くして縮こまってしまった。あの優しい桃花でさえも苦笑いをしている。「母さん、植物が好きだからきっとこれも……いや、ごめんっ。」センスがあるのかないのか……。「……ぷ、くく、ふはははは!」遂には麻璃亜まで笑い出してしまった。「ふふふ、いや、嬉しいぞい。じゃが、これは……ふふ……。」「ごっごめん母さん。選び直すよ。」「いや、大丈夫じゃ。ほら、よく見れば愛嬌のある顔をしておる。」桃花が近づいてきた。小声で、「あなた、ラッキーだね。こんなに笑うお母さんはそんなに見られないよ。よく笑うけど、大笑いはあんまりしないの。」そうなのか……。確かに、麻璃亜は見かけによらず聡明で達観している。年はいくつなのだろう。……女性に年齢を聞くのは失礼か。聞かないことにしよう。麻璃亜は今も食虫植物のぬいぐるみをしげしげとながめて笑いをこらえている。「うう……あんまり見ないで……。」と、碧は恥ずかしそうだ。「では……次は私がいかせてもらえますか?」藍沙が申し出た。「おお、藍沙か。楽しみじゃ〜。」「はい、こちらです。母様、お誕生日おめでとうございます。」「ありがとう。中は……むむ、これは?」「えっと、かんざしです。私は普段、菊の花のかんざしをしています。なんとなく、花のかんざしが好きなので、白愛と一緒に選びました。」「そうなのか、二人で選んでくれたんじゃな。ありがとう、ふむ……この花はリンドウ?」リンドウ……?自分は花はあまり良くわからない。「はい、さすが母様です。花言葉は勝利、正義、誠実……。長寿を願う花とも言われています。」「ふふ、長寿、か……。ありがとな。」……なんだか麻璃亜が悲しそうな顔をした。麻璃亜のことに関してはまだわからないことの方が多い。能天気そうに見えるが底知れない……。だめだ、考えてもわからない。これからもっと麻璃亜のことを知らなければ。「ほう……わしも和服、着てみたいのう〜。藍沙、今度貸しとくれ。」「はい!もちろんです。」藍沙は嬉しそうだ。「じゃあ、わたし、いいかな?」「いーんじゃない?後はコミュ障達だから。」「はあ……あんたね……。」紫苑がめんどくさそうに頭を押さえた。「はーい、お母さん、お誕生日おめでとう!わたしも頑張って選んだよ!気に入ってもらえると嬉しいな。」「ありがとな〜。中身は……おお?これまた面白いのう。」「えへへ、びっくりしたー?ヘビのトラスカちゃんの抜け殻だよー!ヘビの抜け殻って、縁起がいいんだって!」へ、ヘビの抜け殻!?「ふむ、興味深い。ヘビの抜け殻は金運アップの効果があるそうだ。財布に入れておくといい。」……そ、そうなのか。葵は物知りだな……。「あー!葵お姉ちゃん、それ、わたしが言おうとしてたのにー!うーん、でも、その通りだよ!」「ふふ、……縁起がいいのか。ありがとう、桃花。財布に入れてみるぞ。」自分もちょっと欲しいかも……。麻璃亜ってお金とかはどうしてるんだろう?お金に困ってはいなさそうだけど。「後は誰渡してないー?」と、桃花。「紫苑おねえちゃんと、黄菜おねえちゃんとー、蓬おねえちゃんと白愛おねえちゃんだねー。」「お?じゃー、長女らしくビシッと決めてやってくださいよー、紫苑さん?さぞ良いものをご準備なさっているんですよねー?」「ちょっと、挑発しないでもらえる?橙子。……はぁ。」……あはは、次は紫苑らしい。「別に良いものじゃないけど……はい、お母さん。誕生日……おめでとう。」「ありがとう、紫苑。わしは何でも嬉しいぞ。中は……おお、ゲームではないか。なになにー?悪夢の人狼ゲーム……?」人狼ゲーム?「それ、最近発売されたやつ。主人公がある屋敷に閉じ込められて、他の人達と命を懸けた人狼ゲームをするっていうゲーム。因みに作者は……。」と、紫苑の饒舌すぎる解説が延々と続いた。「……あー、はいはい、わかったわかった。すごいんだねー。はいはい。」という、橙子のストップがなければ本当に永遠と続いていたかもしれない。オタク特有の早口だ……。あれ、なんでオタクって知っているんだ?……まあ、いいか。「はい、じゃー、これ以上紫苑が暴走する前に……白愛、よろ!」「ひゃい!?」ガタン、と音がした。音の方を見るとなんと白愛が椅子ごと後ろに倒れていた。「はっ……白愛!?大丈夫ですか!?」藍沙がすかさず駆け寄った。「い……いたい……です……。」「頭を打ちませんでしたか!?ど、どうしよう……。」「……ふ、はは……あはははは!!」「きゃはは!白愛おねえちゃんやばー、笑えるわー。」橙子と紅緒が笑い出した。ほんとに空気読まないな、この二人……。すると、碧が二人を軽く叩いた。「二人共、少しは白愛を心配しろ。」「あー、ごめんごめん。まじおもろくってさー。」「悪口じゃないよー。ちょーっとかわいそうだなーって。きゃは!」「はあ……この二人、ほんとストレス……。」やはり紫苑は迷惑そうだ。「これこれ、喧嘩をするでない。ほれ、白愛、おいで。」白愛が藍沙に連れられて麻璃亜の方に行った。麻璃亜が白愛の頭を触った時、かすかにまた魔法のような光が見えた。「ふむ、ちと痛むじゃろう。安心せい、大事ではない。……よっと。」白愛の頭が光の線を纏った。さっきから見えるこの光は……魔法?とても綺麗だがなんだか奥が深いというか……底知れない……麻璃亜の様だ。今は……白愛の頭を治療したようだ。「うう……ありがとうございます……。」白愛が麻璃亜にお礼を言った。「えと、プレゼント……こ、これです……お誕生日おめでとうございます……。」「ありがとう。なになに……おお、立派な押し花ではないか。ふむ……この花は……さっき藍沙から貰ったリンドウの花じゃな。やはり皆、わしのことを気にかけてくれているのか。わしはまだまだぴちぴちじゃぞ〜?あと数千年は生きられそうじゃ。」麻璃亜が言うと……かなり複雑な気持ちだ。冗談なのか本気なのか……。「えっと、補足すると白愛が育てていたリンドウなんです。元気がなくてしおれるだけの寿命が短い子を押し花にした……というわけです。」藍沙が補足をしてくれた。「だ……大事にしてあげてください……。頑張って生きていたかわいい子なので……。」白愛は花を育てているのか。かわいい趣味だ。「もちろん、大事に使わせてもらうぞ。ありがとう、白愛。」「じゃ……はい、蓬起こしまーす。よ、も、ぎーーー!起きろーーー!」ゆさゆさ、ゆさゆさ……。「ん〜……なぁに〜橙子おねーさん?もう朝なのかしらぁ〜?」「まあ、夜だけど……。」「あら……じゃあ、おやすみ〜。」「ちょ、おい、今は母さんの誕生日パーティーだっつーの!何度寝れば気が済むんだよ!次あんたの番!プレゼント渡せ!」「うーん、むにゃ……ふぁ~。あら、みんな、おは……。」「はい、おはよー。さっさと渡せ!」なんだか……橙子が取り立て屋みたいだ……。怖い……。「ん~?あぁ~プレゼントねぇ〜。あるわよ〜……はい、おかーさん、お誕生日おめでとうございま〜す。」蓬がやっとプレゼントの袋を出した。「寝てるとこ、失礼したのう、ありがとう。中は……お、これはアロマディフューザーではないか。色々入っておるな……ラベンダーに、オレンジに……ミントまで。これは面白い。」おお、おしゃれだ。「うふふ♡これで匂いをたいて寝ると、よく眠れるのよねぇ〜。」「あんたはいつでもどこでも寝れるだろ……。」橙子がすかさず突っ込んだ。確かに……。「わしも最近あまり眠れてなくてな……これでゆっくり寝るとするか。ありがとう、蓬。」「うんうん、みんないいプレゼントだね!じゃー、最後だよ!黄菜ちゃん!」がつがつ……がつがつ……。「桃花、こいつがプレゼントを用意していると思うかい?」むしゃむしゃ……むしゃむしゃ……。黄菜はまだ食べたままだ。「……ん?黄菜、これは何だ?」碧が何かを見つけたようだ。「何……?これ。」紫苑も不思議そうにしている。「これ……ぬいぐるみみたいだね、黒うさぎの。」「黒うさぎのぬいぐるみ……?」麻璃亜が反応した。「それは……首にピンクのリボンが付いた……?」「?……よくわかったね!そうだよ!」「!?」……ま、麻璃亜?「……。」麻璃亜がこれ以上ないくらい目を見開いて固まっている。こんな麻璃亜は初めて見た。いや、さっき知り合ったが……。「……はっ!よ、よく見しとくれ。」麻璃亜が駆け寄った。麻璃亜はぬいぐるみを受け取って穴が空くほど見つめた。全体を確認すると、何やらぶつぶつ呟いた。「ま……まさか……いや、でもこのほつれ具合……。少し年季が入っておるが……。」「母さん?どうした?」何か言える空気ではなかったが碧が切り出してくれた。「い、いや、何でもない。」深呼吸をすると、いつもの穏やかな顔に戻った。「すまんすまん、あまりにかわいいから見とれてしまったわい。碧からの食虫植物と一緒に飾っておくぞい。黄菜、ありがとう。」「かっ母さん……。」碧はまた恥ずかしそうだ。よかった、また暖かい空気に戻った。だが、みんな気づいていないようだが麻璃亜が静かにぬいぐるみを抱きしめた。――その後はみんなで夜遅くまで麻璃亜の誕生日パーティーを続けた。だが、自分はなぜかどっと疲れが出てどうやってベッドにありついたか覚えていない。ただ、とても暖かい寝心地だったのは覚えている。




