第32話「ヴァルノクスの夜の謁見」
第32話
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畔で角魔族ヴァルノクスと対面したその夜――
僕は王宮の自室で、深く息を吐いていた。
(……まさか、あそこまで反応されるとは)
ガルドが魂の波動を感じ取り、
リュシアンナとエヴァンジェリナが跪いた光景が、まだ頭に残っている。
ヴァルノクス――
古代より“波動”を読み取る能力を持つ、知と影の魔族。
角は魔力器官で、色や輝きは血統と能力を示す。
探知・隠密・結界・情報収集に長け、戦闘よりも知略を重んじる一族。
かつては龍魔王ヴィオデスに忠誠を誓い、「武の七公爵」と対を成す“知の守護者”だった。
260年前の大戦後に姿を消し、秘境で静かに暮らしていた――
その彼らが、龍魔王の魂の波動とゴシファーの訪問を受けて再び動き出した。
(そんな一族が……僕の中の魂を探りに来たんだ)
胸ポケットの中で、小さな気配が動いた。
「マサヴェイ、考えすぎだ。余は問題ないと言っただろう」
黒く艶のある小さなトカゲ――ヴィオデスが顔を出す。
「……お前が問題ないって言っても、僕の心臓には悪いんだよ」
「ふむ。ならば余が代わりに心臓を持とうか?」
「いや、遠慮する」
そんなやり取りをしていると、扉がノックされた。
「マサヴェイ様、準備が整いました」
ゴシファーの声だ。
僕は外套のフードを深くかぶり、
変装を整えて部屋を出た。
・・・・・・・・・・
王宮の裏門から外へ出ると、
夜のアイーズは昼とは違う静けさに包まれていた。
山々の稜線は月明かりに照らされ、
街の灯りは宝石のように瞬いている。
背後には、いつもの3人。
すでにアツレク次兄の監視の目には対応済みのようだ。
監視者の気配を感じない。
「マサヴェイ君、そんなに緊張しなくていいのよ~」
ゴモンが扇子をパタパタさせる。
「マサヴェイ様、深呼吸を」
ゴシファーは落ち着いた声で言う。
「大丈夫ですよ~。ヴィオデス様もいますし」
シスモが微笑む。
「余がついているのだ。堂々としていればよい」
ヴィオデスが胸を張る。
「……その姿で言われても説得力がないんだけど」
「む。余は今、可愛いのだぞ?」
「それは認めるけど……」
そんな軽口を交わしながら、
僕たちは高台に建つ宿屋へ向かった。
・・・・・・・・・・
夜風に揺れるランプの光に照らされ、
宿屋はまるで貴族の館のような荘厳さを放っていた。
最上階――
ヴァルノクスの3人が泊まるスイートルームは、
宿屋の中でも“王族級”と呼ばれる特別室だ。
「……本当に、ここに泊まってるのか? 目立ちすぎないか?」
「はい。私が手配しました」
ゴシファーが淡々と答える。
「マサヴェイ君、変装バッチリよ~♡」
ゴモンが僕のフードを整える。
「……褒められてる気がしない」
そんなやり取りをしながら、
僕たちは最上階へ向かった。
・・・・・・・・・・
扉が開いた瞬間、僕は思わず息を呑んだ。
玄関ホールだけでも十畳ほどあり、
そこから続くリビングは大人が10人いても余裕で歩ける広さ。
全体で百平方メートルは優に超えている。
壁は白大理石に金の装飾が施され、
天井には繊細な彫刻と大きなシャンデリア。
壁には山岳の油絵や歴代王の肖像画が飾られ、
床には厚い絨毯が敷かれている。
中央には深い木目の丸テーブル。
その周囲には身体が沈み込むほど柔らかな緑のソファーが並び、
テーブルの上にはバラの絵柄が描かれた精巧なティーセットが置かれていた。
「……すごい部屋だな」
「ヴァルノクスの御三方ですから」
ゴシファーが静かに言う。
「マサヴェイ君、このソファ沈むわよ~♡」
ゴモンがすでに沈み込んでいる。
「シスモ、はしゃぐなよ」
「はしゃいでませんよ~。ちょっと沈んでるだけです~」
僕は苦笑しながら、
部屋の中央へと歩みを進めた。
・・・・・・・・・・
その時――
奥の部屋から、3つの気配が近づいてきた。
ガルド・ホルヴァルガ・ヴァルノクス。
リュシアンナ・ネレアーク・ヴァルノクス。
エヴァンジェリナ・ノクティカーナ・ヴァルノクス。
昼間の湖畔で会った三人だ。
ガルドは僕を見るなり、静かに膝をついた。
「……お待ちしておりました、マサヴェイ殿下」
リュシアンナとエヴァンジェリナも続く。
「殿下……」
「本日は、お越しいただき光栄です……」
その視線は、僕の胸元――
ヴィオデスへ向けられていた。
ヴィオデスが胸ポケットからゆっくりと顔を出す。
「久しいな、ガルド。
そしてリュシアンナ、エヴァンジェリナ。
昼間はよく見抜いたな」
3人の表情が一気に強張った。
「……っ……!
やはり……ヴィオデス様……!」
ガルドは深く頭を垂れた。
リュシアンナとエヴァンジェリナも慌てて跪く。
「マサヴェイ、そろそろよいだろう。
余らの関係を、正式に話す時だ」
(……そうだな)
僕は静かに息を吸い、
丸テーブルの前へと歩いた。
「それじゃあ……始めようか。
ヴァルノクスとの正式な会談を」
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